
WOWOW推薦作で若手人気俳優の磯村勇斗、岸井ゆき出演ということで観ることにしました。
理不尽な社会にむしばまれた青年の生き様を描いた作品。家庭環境の悪化と警察の不正に藻掻き苦しむ若者の生き様が描かれ、観て楽しめるような作品ではない。しかし、社会に対する悲痛な監督の叫びを知る作品でした。
監督・原案・脚本:内山拓也、商業長編デビュー作とのこと。撮影:光岡兵庫、編集:平井健一、音楽監督:石川快。
出演者:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大、染谷将太、伊島空、長井短、東龍之介、航輝、尾上寛之、カトウシンスケ、ファビオ・ハラダ、大鷹明良、滝藤賢一、豊原功補。
物語は、
亡くなった父の借金を返済し、難病を患う母の介護をしながら、昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働く風間彩人(磯村勇斗)。父の背を追って始めた総合格闘技の選手となった弟の壮平(福山翔大)も、借金返済と介護を担いながら、練習に明け暮れる日々を送っている。そんな息の詰まるような日常のなかでも、恋人である日向(岸井ゆきの)との小さな幸せを掴みたいという思いが、彩人のかすかな希望だった。しかし、彩人の親友である大和(染谷将太)の結婚を祝う幸せな宴会が開かれた夜、思いもよらない暴力によって、彼らのささやかな日常がもろくも奪われてしまう。
あらすじ&感想:
○難病の母親の介護しながら暮らす彩人と壮平の日常。
朝、母親の麻実のミット打ちの相手をする長男の彩人。彩人の姿が幼いころから青年のものに変化する。麻実は彩人に頼り切っているようです。麻実の介護援助にやってた日向が「ご飯にしようか」とふたりに声を掛ける。次男の壮平が日向に挨拶をしてボクシングのロードワークに出掛ける。

部屋が何年のかけて貯まったゴミの山。これを作った美術担当が凄い!
彩人が「銀行に払い込んでくれ」と銀行通帳を渡す。生活費は彩人が面倒みているようだか督促されての振り込みで、家計は厳しいようです。
麻実の病名は前頭側頭葉変性症。人格変化や行動障害、失語症、認知機能障害、運動障害などが緩徐に進行する神経変性疾患。食事は自分でスプーンを持って食べるが味は分からない、会話はない状態。
彩人は日向と愛し合ったあと工事作業に出掛け、日向は病院に出勤、看護師として働いている。
壮平はボクシングジムでトレーニング。会長から「次の試合はこれまでと違う、アルバイト止めて本腰でやれ」と注意を受ける。
彩人は出勤途中でスーパーに立ち寄り「お願いします」と支払いを済ませた。母親の誕生日のケーキを注文した。
夜、壮平が自宅に戻り麻実に食事させる。麻実は出されたジュースをひっくり返す。麻実は壮平では気に入らないことがあるらしい。
○夜、彩人はカラオケバーで働いての帰り、警官と揉める男の仲裁に介入した。
店を出ると男がふたりの警官と男が揉めていた。警官が男の持物を危ぶんだようだった。男はこれをひどく嫌がって揉めていた。見かねた彩人が仲裁に入った。が、男が興奮いて警官に挑みかかり、これに彩人が巻き込まれ警察署に連行された。警察官の行き過ぎた持物検査によるゴタゴタだった。朝、日向が迎えにきて釈放された。日向は「何があったの?」と聞いても答えなかった。
帰り道で、彩人は頭を拳銃で撃たれた。これは彩人の記憶を描いたもので、拳銃で頭を撃った父親・恭介のことを思い出していた。
家族の記憶を断片的に描きながら物語が進むが、こういう描き方なので分かりずらい!(笑)

カラオケバーは父親亮介が残したものだった。
カラオケバーで働いていて、「パン!」と音がした。バーの外に出てみると何ごともなかった。彩人は子供頃、壮平とピストごっこで遊びながら父母とここに来た記憶を思い出していた。のちに父が警察官を辞めてこの店を買い取りカラオケバーにしたのだった。
○麻実介護の限界を訴える壮平
彩人がバーの仕事を終え、一杯飲んで店を閉めて家に帰ろうとしているところに壮平がやってきた。
壮平が「母が彩人を探している。もう限界だ、誰に頼もう」と言う。彩人が「お前は好きなことをやれた。人に任せたらなにもできないぞ」と答えると、「暴力から(家族を)守ってきた。しばらく家を空ける。真剣に考えたほうがいい。うまい酒を準備しておいてくれ!」と出かけた。

壮平は兄の友人で警官の治虫(伊島空)に出会った。治虫は警官には向いてないが我慢してやっている(笑)、治虫から「彩人は大和の結婚式に参加するか?」と聞かれ、「参加すると思う」と答えた。治虫が「彩人がサッカー部のキャップテンで大和は補欠だったよ」とふたりの関係を話した。
面倒臭い描写だなと思った。(笑)
○大和がカラオケバーに立ち寄り、日向との結婚を薦めた。
大和が「何で日向と結婚しない?」と聞く。彩人は「カラオケバーを始めた亮介を訪ねてきて、障害年金、退職金はどうなった?ふざけるなと怒り狂って叫ぶ麻実の姿、そして亮介がここで自殺した姿を思い出していた。
大和が「店の借金も終わり自分のものになった。壮平も分かっているだろうから、もういいんではないか?」と日向との結婚を薦めた。彩人は「金がない。母があんなになっても看ている」と答えた。
○彩人は奇妙な麻実の行動に疲れ果てる
誰も家にいない昼間、麻実がスーパーに出掛け万引きをして店員に捕まる。そこに警官の治虫が呼ばれ、麻実を優しく決得をする。(笑)
彩人が家に帰ると、麻実が大量の料理を作っている。
部屋はゴミの山になっている。水道は出しっぱなし。彩人はこんな麻実を優しくなだめ寝かした。朝になると、麻実は窓を開けラジオ体操を始める。彩人はカーテンを閉め、部屋を暗くして麻実を落ち着かせ仕事に出掛ける。途中、花屋に寄って母の誕生日の花を届けてくれるよう注文した。
壮平はコーチのところに泊まりトレーニングに専念していた。
壮平の頭には父がコーチとなりボクシングを教えてくれた記憶があった。
彩人は自転車で出勤中、父母が喧嘩して父が出て行く姿を思い出していて、車に追突され罵倒される。又、麻実が隣家の玉ねぎ畑を荒らし、彩人がひたすら隣家の主人に頭を下げる。泥だらけの麻実を家に連れ戻してきれいにしてやる。疲れ果てた彩人が涙を流す。
それでも、やってきた日向に彩人は「大丈夫?」と声を掛ける。日向は「疲れているから」と彩人の言葉に感謝。彩人は「壮平にはひどいことを言った」と日向に聞かせ、後悔した。日向は「壮平の試合が楽しみだ!」と言い、「大和の結婚式、楽しんできて!」と彩人を送りだした。

母親思いの彩人、ここまでやるかというほどに母の面倒をよく見ている。この苦労はやったものでしか分からないと思います。さらに壮平や日向への心使い、これも凄い!
○大和の結婚式を楽しみにしていた彩人がバーの飲み客に殴られ、警官の復讐を受け亡くなった!
余りにも悲しい!この顛末を書きます。警官が憎くなった。キムタク出演のドラマ「教場」を観れば分るように、警官は人を犯罪者としかみない習性がある。このことが悲しい事件を起こしたように思う。
彩人は店を閉めようとしたところに三人の泥酔客が入って来た。
「今日は店を閉めさせてもらいます」と断わるが、相手は承知しなかった。店で彩人の頭を殴り、「他で飲もう」と彩人を外に連れ出し暴行を加えた。
パトカーが駆けつけた。警官は松浦(滝藤賢一)と瀬戸巡査(東龍之介)だった。
ふたりは以前、バーの近くで男と揉め彩人が仲介に入ったときのふたりだった。ふたりは客の暴力を止めて逃がし、瀬戸が彩人の口にタオルを噛ませ、頭をコンクリートブロックに打ち付け、逮捕して連行しようとした。途中で彩人の脈がないことに気付き病院に運び込んだ。
日向が彩人が準備した麻実の誕生日祝いのケーキを食べているとき、この知らせを聞き、麻実を連れて病院に駆け付けた。大和も結婚式を終え、駆けつけた。誰もいなくなった家に花束が届けられた。
松浦巡査長が「呂律が回らないほど飲んでいた。対象となる人物は他に見つからなかった。出会い頭の怪我と通報があって駆け付けた。多量のアルコールが原因だ」と説明した。こんな大嘘を警察はつくんですね!
日向が病室で彩人を看取って、「彩人は死んだ!」と皆に知らせた!切なかった!
○大和が彩人の死因に疑問を持ち、警察署を尋ね、瀬戸から事情を聴いた。
大和は「彩人はあのような酒の飲み方をしない」と詰め寄った。瀬戸の回答は「彩人は有望なサッカー選手だったが、高校生のとき母親が倒れ、それからはうちの署に何度も世話になっていた。この事実を信じるしかない」というものだった。この言い方も警察らしい言い方だと思う。
彩人の葬儀が終り、火葬になったが、立ったまま火葬されるカメラアングルが面白い!監督の怒りが見えるようだった。(笑)
○壮平が「俺には絶対に見せたい景色がある」とボクシングの試合に臨み、勝利した。
壮平は亡くなった父・亮介の位牌に必勝を誓った。亮介は警部で警察を辞職した。理由は誤認逮捕。辞職後に心的外傷ストレスで自死した。新聞記事と拳銃の弾が保存されていた。
壮平はタイのキックボクサー:ファビオ(ファビオ・ハルダ)との試合前の体重測定、記者会見を終え、彩人の墓参りをした。そこで治虫に会い「犯人は見つからないよ、拳銃を持つやつは誰でも引ける」と言われる。壮平は「俺は何もない、けど普通の人にしか出来ないことがある。だからリングに立つ。自分が何がしたいかでなく、誰に何を残したいかを探すために、これが俺の生き方だ」と答えた。

壮平は「彩人に景色を見せてやる、俺には絶対に見せたいものがある」とリングに上がった。1ラウンドは相手が有利でゴングに救われた。2ラウンド、父から教わった「あらゆる暴力から自分を守れ!」を思い出し、劣勢な体制からチャンスを掴み、相手をノックアウトして勝利した。
朝、日向は壮平の勝利に、笑顔の彩人の写真があるテーブルで麻実と食事しながら微笑んでいた。
松浦巡査部長は彩人の頭をコンクリートブラック叩きつけた現場に立っていた。突然頭を拳銃で撃たれた感覚になるが、そのまま去っていった。彼の胸には悪夢の記憶が残ったようだ。
○壮平は右肩を吊り、引退を決めて、彩人が残したカラオケバーを戻ってきた。
壮平は店を清掃し、カウンターに座り、彩人に報告した。
まとめ:
散歩中ラジオで「生きていればいい、それだけで誰かの役に立っている」という歌詞の歌を聞きました。「言い得て妙、そうだ!」と思える歌でした。(笑)この作品もこの歌のような作品でした。
彩人や壮平が何を願い、何を求めたか。
観る人が感じとるものが答えになっています。作品を見ることで俺も頑張ってみようと勇気が貰える作品ではないでしょうか。
彩人の死は本当に惨めでした。
彩人は父が残した店を守り、母親の看病、さらに壮平や日向への心使い、「よくぞ生き切った」と感動しました。介護をやったものでしか分からないと思います。
壮平は「自分の好きなように生きた」と思ったが、そうではなかった。彩人に甘えながら誰に何を残したいかを探すために、自分の生き方を探していたという件、苦しい生活の中でよく考えたと褒めてやりたい。暗い話の中で唯一“と”勝つ“ボクシングシーンがあって救われました。これがボクシンのいいところかもしれませんね。
キャストのみなさん、しっかり演技していました。
磯村勇斗さんの、最初磯村さんと気付かなかったが、落ちぶれ物言わぬ演技。福山翔大さんのボクシング、とてもよかった。岸井ゆきのさん、出番が少なかったが、何故彩人が好きになったかが分かる演技、よかった。
警官に対する見方がとても辛辣な作品でした。監督は警官に何か恨みでもあるのかなと推察しましたが、こういう見方があっていいと思います。
評判はあまりよくないようですが、現代社会に生きる苦しさがリアルに描かれた作品だと思います。
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