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「イニシェリン島の精霊」言い争いの連鎖がとんでもない結末に、人間の悲しい業が浮き上がっていた!

 

スリー・ビルボード」のマーティン・マクドナー監督作ということで鑑賞。第79回ヴェネチア国際映画祭脚本賞と男優賞受賞作品です。

監督:マーティン・マクドナー撮影:ベン・デイビス美術:マーク・ティルデスリー、衣装:イマー・ニー・バルドウニグ、編集:ミッケル・E・G・ニルソン、音楽:カーター・バーウェル

出演:コリン・ファレルブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン、ゲイリー・ライドン、パット・ショート、ジョン・ケニー、シーラ・フリットン。

物語は

1923アイルランドの小さな孤島イニシェリン島(架空の島)。住民全員が顔見知りのこの島で暮らすパードリック(コリン・ファレル)は、長年の友人コルム(ブレンダン・グリーソン)から絶縁を言い渡されてしまう。理由もわからないまま、妹シボーン(ケリー・コンドン)や風変わりな隣人ドミニック(バリー・コーガン)の力を借りて事態を解決しようとするが、コルムは頑なに彼を拒絶。ついには、これ以上関わろうとするなら自分の指を切り落とすと宣言する。

話が次から次へと繋がって、とんでもない結末になるというストーリー展開の面白さに、人間の持つ業を炙り出すブラックユーモア。そしてその背後にある社会問題に一石を投じる皮肉。冴えまくっていました。暗い話ですがめちゃめちゃに面白い。小難しい人生哲学なんぞ考えないで笑えます。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

イニシェリン島というのは架空の島ですが、アイルランド西部に位置するアラン諸島の中でもっとも大きなイニシュモア島でロケされたとのこと。殺風景で生活環境が厳しそう。ここで生きていくための住民相互の協調性と自分らしい生き方の確執を描く本作には恰好のロケ地、死の予言を感じる風景を見るだけで、作品に引き込まれていきます。

パードリックは独身、妹のシボーンとふたりでわずかな牛と羊の搾乳で生活している。パードリックはPM2時、村人たちが集まるバーでビールを飲みお喋りすることが生活の大切なものになっているシボーンは読書が趣味。嫌われものの老婆マコーミック(シーラ・フリットン)の訪問を受け入れ、この村で生きてゆけるよう兄を援助している。

パードリックがいつものように人里離れた一軒家に住むコルムをバーに誘うが、返事をしない。コルムは楽器フィドル(バイオリン)が弾け、歌を作る趣味を持っている。バーにも一緒に行くことはなくなった。バーで会っても、口を利かない。理由を聞くと「お前が嫌いになった!」と一言。(笑)パトリックは面食らって言葉が出なかった。

パードリックは「こいつが村で一番バカだ」と思っているドミニックとバーに出かけるとコルムがいた。コルムはビールを飲み、話をし、音楽演奏を楽しんでいる。酔っぱらって二階で真っ裸で寝ている。ドミニックが「あんなやつ放っとけ!」という。

ある日、パードリックがバーに出向くとコルムがひとりで飲んでいた。話さない理由を聞くと「歳をとるのが寂しい。残り時間をうまく使いたい。だから曲を書いてフィドルを弾く、余計なお喋りをするな」という。イニシェリン島の風景を見ていると、老後をこう生きるというのも理解できます。「今の生活が続けばいい」というパードリックにはコルムの生き方がバカバカしく思え、バーを出た。

兄からこの話を聞いたシボーンがバーに出かけ「何で友達をやめるの?」と抗議した。コルムに「あいつは退屈だ」と言われた。

港に船が牧師を運んできた。パードリックは顔に傷を負うドミニクに会った。父親で警官のキャニー(ゲイリー・ライドン)に殴られたと言い、今晩泊めてくれと頼まれ受け入れた。

復活祭。パードリックが牧師(デイヴィッド・ピアーズ)にコルムのことを訴えた。コルムが懺悔にきたので、牧師が「なぜ話さない?」と聞くと「それが罪か!男色の趣味はない!」と喧嘩になった。(笑)教会に悪態をつくのがマクドナーの流儀です。

パードリックがバーに顔出すと、コルムの方から近づいてきて「お前が喋ると俺の指を折る。お前がやめるか、指を折るかだ」という。バーの店長に「お前の味方だ」と慰められた。帰りにマコーミック婆さんに出会ったが無視して家に戻った。

夜、ドミニックが泊まりに来た。「コルムが指を切り落として、4本指でもフィルドを弾けるか試してみたらいい、あいつバカだよ」と喋って、シボーンを口説いたが振られ、帰っていった。

次の朝、パードリックが港の牛乳卸店の集金中に、「何かニュースのないの」と言われ、ドミニックが父親に焼かんで殴られたことを喋った。(笑)

パードリックがバーに顔を出すとコルムがいた。ところがいきなり警官のキャニーにぶんなぐられた。パードリックが余計な噂を流した恨みだった。ところが警官嫌いのコルムがパードリックを馬車に乗せて家に戻る途中まで送った。警官嫌いなマクドナーの流儀です。(笑)この行為にパードリックは涙を流して喜んだ。

夜、パードリックがバーに顔出すと、コルムが音楽仲間と派手に騒いで、「俺には3つの嫌いなものがある」とパードリックを罵倒した。パードリックが「なんでこうなった!」と抗議し、ふたりの喧嘩が始まった。マコーミックの知らせでシボーンが兄を迎えにきた。コルムが「音楽をやるのは永久に残るからだ。モーツアルトは今でも知られている、この暇人」と兄を罵っているのを見た。シボーンが「もう関わらないで!」と兄を連れ帰った。

次の日、パードリックがバーに出向いてコルムに「昨夜は酔っていてすまんかった!」と謝り「なぜあいつらとつき合う」と問うた。(笑)コルムは「もう勘弁してくれ」と言い放った。

その夜、パードリックの家にコルムがやってきて一本の指が投げ入れられた!帰りにパードリックが愛しているロバのジェニーに滴る血を嘗めさせて返って行った。

驚いたシボーンが指をコルムに返しにやってきた。この日は激しい本土からの砲撃音が聞こえた。コルムは「退屈な男から逃げたいんだ。人生は死ぬまで退屈だ」いう。シボーンはコルムの言い分に自分もそうだと感じるところがあった。

パードリックとコルムは絶好状態になった。コルムは毎日音楽仲間と笑って暮らしている。コルムのところにやってきた新しい音楽生に出会ったパードリックは彼を脅して追い返した。

夜、パードリックはマコーミックから「月が欠ける前に死者がくるぞ!お前と妹ではないよう伝えに来た」と言われる。バカバカしい糞婆だと思った。

海が見える丘でパードリックはドミニックと酒を呑んでいた。ドミニックが「あんた殺されるよ、新しい人間になれ」と言う。パードリックは「新しい自分か」と考えて、コルムを訪ねることにした。(笑)ドミニックはそこにやってきたシボーンに再度交際を求めたが断られ、去って行った。

パードリックがコルムを訪ねると、血だらけの手でフィルドを抱え精霊の音を弾く。パードリックがその音色を褒め、「パブでどうだ!先に行っている。あの音楽生は帰した」と喋った。(笑)

パードリックは先にバーに来て酒を準備してコルムは来るのを待っていたが、妹のシボーンが「島を出る」というので見送りに出た。

家に戻ると切り落とされたコルムの4本の指が家に投げ込まれ、その一本をロバのジェニーが食って死んでいた。「妹も去ってしまい、ドミニックの死が知らされ、このざまだ」と怒り心頭のパードリックはコルムに「放火時間と犬を外に出しておくこと」を通告して、PM2時に小屋に火を放った。

翌日、放火した小屋を確認にいくと、コルムは海辺にいた。コルムは「この争いはあいこだ!君が考えているあいこではない。ロバのことはすまん!犬を助けてくれてありがとう」と謝った。パードリックは「どうでもいいことだ!」と応えた。コルムが「砲撃音がない!内戦は終わりか?」と聞く。パードリックは「終わりはないよ!」と帰途についた。(笑)

まとめ

アイルランド本島の内戦の砲撃が聞こえるイニシェリン島。この島で長年友人であったふたりが、理由が分からないままに喧嘩になって、喧嘩が喧嘩を呼び、「スルーボード」で描かれたように、その余波が身内・知人・牧師・警官を巻き込み、遂に後に引けない立場に追い込まれ、その結末はパードリックがコルムの小屋に火を放つという結末。

本島の内戦に合わせるように続く争いというのが肝で、100年経った今の世界情勢、人間の持つ業の不変を描いたもの。

自分に話しかけると自分の指を折ると威嚇するコルム、放火時間と犬は外に出しておけと通告して行う放火するパードリック、諍いになってもふたりにはどこか思いやるところがある。なぜパトリックは喋るのを我慢しなかったか。後悔先に立たずというもの争いの原因は「俺は嫌われる人ではない!」という自惚れの強いパトリックだ!(笑)

仰天会話劇でたっぷり楽しませてくれました。地味な物語が、これを名優コリン・ファレルブレンダン・グリーソンが延々とやってくれるから堪らない!甲乙つけがたい!教会、警官嫌いも冴えていた。(笑)

バリー・コーガンのどこか頭がイカレタようで「喧嘩を止めて、自分が変われ」という真っ当な判断が出来る無垢なドミニックの演技、これが素晴らしかった。パードリックはバカにするが、そうではない、パードリックはドミニクの話を聞き入れない、いや、判断を間違えて「俺が強くでないからだ」とのこのことコルムのところに出かける空気の読めない男だった。(笑)

シボーンのどこか迷いがあるが聡明で透明感のある女性の演技、マコーミック役のシーラ・フリットン。イニシェリン島の精霊として、謎めいた空気をしっかり伝わる存在でした。

一回観で全ての面白さを知るのは無理かもしれません。アカデミー賞候補だというので、楽しみにしています!

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