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「死刑にいたる病」(2022)「映画史に残る驚愕のラスト」というキャッチコピーは嘘ではなかった!

監督が白石和彌さん。「24人の殺人容疑で逮捕され、そのうち9件が立件・基礎され、すでに第1審で死刑判決が出ている男・榛原大和が、「1件は冤罪だ!」と昔、世話した子・筧雅也(大学生)に冤罪証明させようとするミステリー作品。「どうみてもこの男は死刑だろうに、なぜ冤罪証明が必要なの?」と駆けつけました!(笑)

感想は、

「映画史に残る驚愕のラスト」というキャッチコピーは「嘘ではなかった!」。すばらしい作品に仕上がっていました!

原作はミステリー作家・櫛木理宇さんの同名小説。未読です。この映画を観たら、原作を読みたくなりますね!シリアルキラーの奥深い心理を知りたくなります。脚本が「そこのみにて光輝く」の高田亮さんでこれがまたすばらしい!撮影:池田直矢、編集:加藤ひとみ、音楽:大間々昂

出演者:阿部サダヲ、岡田健史、岩田剛典、宮崎優、鈴木卓爾中山美穂音尾琢真、他。


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あらすじ(ねたばれあり:注意):

絶対にネタを知らないで見るべき作品です。未鑑賞の方は鑑賞後、お読みください!

冒頭、男が花びら?を撒き、水門を開けて流すシーンから物語が始まる。実はこのシーンがこの男の犯罪心理に最期まで絡むという秀逸な物語のスタートです。

雅也(岡田健史)はお祖母ちゃんの葬儀のため実家に戻っていた。葬儀が終ると、大和(阿部サダヲ)から「進学して嬉しかった!頼みたいことがある。会いにきてくれると嬉しい」という手紙が届いた!封筒に差出人の名はなかった。お祖母ちゃんの死で家族は父・和夫(鈴木卓爾)と母・衿子(中山美穂)の3人家族となった。母は父のいいなりの生活だったから、雅也はおばちゃんに育てられた。幼いころはパン屋“ロシェル”を営む大和のところに遊びに行き過ごすのが気休めだった。東京の三流大学に入ったが、父は気にいらないらしい。

大和の殺害に“ある決まり事”があった“ロシェル”にやってきた“若い子”にパンやジュースをそれとなくサーブスして近づき、気にいった子に目をつけ、眠らせて夜間車で自宅に運び燻製小屋でいたぶり、爪を剥がし目をくり抜き、絞め殺して炉で焼き、骨を庭に埋めてそこに木を植える。このシーンがすざましい!「凶悪」(13)を思い出します!でもうまく処理されていますから大丈夫です。(笑)

雅也は大学でも孤独だったが、中学時代によくしてくれたと加納灯理(宮崎優)が近づいてくるようになった。

第1回目の拘置所面談

雅也は大和の優しい文面に誘われるように拘置所に会いに行った。面会室で待っていると大和が入ってきた。弁護士以外の面会では事件について喋ってはいけない!にも拘わらず、大和は「僕の殺し方と違う。この街に別の殺人犯がいる。僕と君しか知らない秘密なんだ。探して欲しい(笑)」と必死に訴えた。大和の必死さとかっての優しい大和の姿を思い出し、この役を引き受けた。

拘置所からの帰り、信号のある交差点で立ち止まり、「面会に来たの?」「決められないんだ!僕はただ会いに来てみた。本気で会いに来たんではないんだ」と話しかける長髪で顔を隠した男に出会った。異様な風体だから記憶に残った。

雅也は大和の弁護士・佐村のアルバイト生にしてもらって、大和の裁判記録を手に入れ、自分のアパートで事件を整理し、事件を理解することにした。いかに大和がうまく高校生を取り込んでいくかが分かるよう、要領よく数件の犯罪を映像で見せてくれます。特にアルバイトの女性をものにする映像に迫力がありました。

雅也は灯理に誘いで居酒屋コンペにいったが、つまらんやつらだったので店を出るとこで酔った男に肩が触れたことで殴られたが、収まった!灯理が追ってきたが無視してアパートに帰った。

雅也は問題の女性・根津かおるの遺体が発見された人里離れた山の中を、発見したおばあちゃんに案内してもらった。おばあちゃんから「最近ここにきて泣いている女の子を見た」という証言を得た。

2回目の拘置所面談

雅也は事件を分析した結果、根津は年齢が26歳の女性で泥の中でいぶられ殺されている、高校生でないことそして爪がついていたことから、誰かにストーカーされていた形跡がある、殺人間隔が通常2カ月ぐらいだがこの事件は前の殺害のほぼ直後に殺していると大和が主張するように「大和のやり方ではない。別に犯人がいる」と報告した。「君は凄い、PLTOだ!(ダイゴ?)(笑)」と感激する(煽てる)大和だった。これが雅也のやる気を取り込んでいった

雅也は大和が犯した田舎の住み家、燻製小屋を訪れた。すでに焼けて廃屋になっていた。案内してくれた農家の年寄りは大和の人柄について「とても犯罪を犯すような人には見えない。匿ってくれと言われたらそうする」と話した。

雅也は根津が務めていた会社に出向いて、出てきた男性に話を聞いた。「何度も警察に聞かれたよ、なんの関係もない!」と素気ない返事だった。そのときつけられている気配を感じた・・・。

雅也はお祖母ちゃんのお別れ会で実家に帰った。そこで母と大和?が一緒に写っている学園の写真を見つけた。学園を知る滝内(音尾琢真)に会ってふたりの関係を聞いた。雅也は持参してきた学園の写真を滝内に見せて、“長髪の男”が大和か?と聞いた。大和だった。

学園は人権活動家・榛原桐江が経営する施設だった。大和は桐江の養子となりここで働いていた。とても子供たちを操るのがうまかった。桐江が亡くなりその資産でロシェルを持った。母は親に虐待され土塀の泥を食べるほどに病んでいたところを桐江に拾われた。妊娠したために施設を追われた。父親はわからない。雅也は本当の父親は大和ではないかと疑った!

映画を観るこちらは、雅也は大和にいたぶられ殺人者に堕ちると震えさせられた

第3回目の拘置所面談

雅也は滝内に聞いた話をもちだし「私の父親か?」と聞いた。大和は「君は父に可愛がられているか。父に殴られ傷つけて店にくる君が愛しかった!」と手を触れてきた。私の拘置所経験では(笑)手を触れることはできませんが、触れるようにうまく撮ってありました!雅也はすっかり大和の優しさに浸った!

雅也は実家に戻り、母に大和との関係を確認した。母は「結婚してくれたお父さんに感謝している。お父さんの子よ」と答えた。

大和の犯行と認められたのは「犯人を見た!」という証言があったからだった。弁護士の佐村に証言者・金山一輝が14歳以上であるにも関わらず、なぜ遮蔽証言を認めたのか?と抗議した。佐村は怒って、雅也を解雇した。国選弁護士でもないのにおかしいですよね!

雅也は一輝が務めていた会社に出向き、相馬(コージ・トクダ)という人に話を聞いた。有馬は顔に痣があってこれを隠すために長髪で化粧していて、会社でいじられ、キレて辞めた。鬱せつした孤独な男で暴発することがあった。父親もその気があった。

雅也は一輝が犯人ではないかと推論した

大学で灯理に会うと、「変わったね!」と声を掛けてきた。無視してスカッシュで汗を流した。

その夜、雨だった。暗い坑道を歩いていて中年男と肩が触れ、相手が謝らないので追っかけ殴り、男のネクタイで首を絞めた。しかし、我に戻り、殺せなかった。そこで灯理に出会った。彼女が怪我をした手を嘗めて介抱してくれた。雅也のアパートでふたりはむすばれた!そのとき相馬からメールで金田の写真が贈られてきた。長髪だった!

 雅也は根津の遺体が埋められた山中に出かけ、ここで泣いていた女性を見たというおばあちゃんに写真を見せた。ビンゴだった。女性は長髪の一輝(岩田剛典)だった。雅也は一輝に殺されると逃げた!ここでのカメラの動きがいい!怖さが伝わるようにぶれていた!

雅也は泥だらけになって、実家に戻り母に会った。ここで母から何を聞き出したか?一輝とはどう決着をつけたか?これを見せない演出がいい

第4回目の拘置所面談

雅也は「犯人が分かった。あなただ!」と伝え、そのカラクリを話した。

大和は幼い一輝に自分の命令で弟に当然のことのように傷つけさせるという、自分のいう通りに行動できるようコントロールしていた。大和は根津を殺す前に、成長した一輝を橋の上に呼び出し、根津を見せて殺せと指示し、トラウマを一輝に植え付けたうえで、自分が雨の日泥の中で根津を訝って殺した。一輝は大和から会いにくるよう手紙を貰って、自分が殺したのではとトラウマに嵌って、根津の遺体現場に謝罪に来ていた。

大和は観念したように「君の父親は自分でない、死産だった」という。雅也は「俺には人は殺せなかった」と言い返した。最後に「母親の爪はきれいだったか?」と聞くと「小さいときは」と呟いて、いつもは饒舌に話す大和が席を立って面接室を出て行った。

雅也と灯里は2人でスカッシュした。その後ふたりは雅也のアパートで抱き合った。雅也が「爪が綺麗だね」と褒めると、「剥がしたくなる?」と聞いてきた。雅也が驚きキスを辞めた。灯里が風呂に入ると立った時彼女のバッグが倒れ、沢山の榛村の手紙が出てきた。灯里は「私は分かるの、好きな人の体の一部を持っていたいの彼も雅也君がなら分かってくれるというの、分かってくれるよね」と聞いてきた!

感想

ちょいちょい顔を見せていた灯理が、実は、大和にマインドコントロールされていたというラスト怖い!怖い!映画そのものが観る人を取り込むような感覚に陥ります!

灯理と一輝がちょいちょい顔を出すが、雅也をつけていたと思うと、“ぎょっと”させられます。もう一度確認したいですね!

大和は逮捕された後もサイコパスとしての殺人計画を持ち楽しんでいた。冒頭の花びらは実は“爪”でした。冒頭で爪というのが分からないところが面白い!

爪を捨て水門を開ける行為は拘置所入りの決断の印。入所後、かって面倒を見てきた若者をコントロールして殺人を楽しむという計画だった。いや、違った方法でもっと沢山殺したかった!大和の死刑執行までにはまだ時間がある、何が起きるか?怖いですね!こんな終わり方をする作品を知りません。見事でした。

大和役阿部サダオさんの人たらしの演技が絶品で、誰もこの人を嫌にならない。そして表情を変えずいぶりながら殺人を楽しむ。この人ならシリアルキラーになれます。(笑)こういうやさしい人には注意が必要ですね!阿部さんはこの役はやりたくなかった?(笑)

これに対する雅也役の岡田健史さん、真面目ですんなりと大和に取り込まれていく。最後に自我を取り戻し、拘置所面接では、決して大和に取り込まれない頑固さ、正義感で真実を追求する演技はすばらしかった。大和は終始拘置所のなかで、動き回るのは雅也。雅也が実質の主演でした。岡田さんはこの作品で大きく成長したように見受けました。

灯理役の宮崎優さん。無色で存在感のない灯理が、ラストで存在感を画面一杯に出す演技で、観る人をどん底に引きずりこんだ!すばらしいですね!

雅也のお母さん役の中山美穂さん。まさかの役でしたが、終始暗くて謎めいた演技、これもよかった。

登場人物全員が大和にコントロールされているように見えてくる。怖い!

小説を超えた面白さがあるのではないでしょうか。難解だと思われる物語が簡潔にしてテンポよく展開する!阿部さんの人を取り込む話術や表情、殺害現場の生々しい映像やホラー演出。白石監督の最高傑作ではないでしょうか!

親の幼児虐待、虐めがシリアルキラーの一因であるという見方。この問題は今の時代に通じる問題で、それだけにこの作品の意義は大きい。

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