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「斬、」(2018)

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「野火」(2015)の塚本晋也監督作品に池松壮亮さん、蒼井優さんが出演、かつ、時代劇だという。どんな池松さん、蒼井さんが観れるかと駆けつけました。
 
テーマをチャンバラで見せるという野心作、これに応えるおふたりの演技がすばらしかったです。
このほかに、中村達也・前田隆成さん、また塚本監督も出演され、迫力の殺陣を見せてくれます。
 
物語は
開国か否かで大きく揺れる江戸時代末期。若い侍・杢之進池松壮亮)は喰うために藩を離れ、農村で農家の手伝いをして糊口を凌いでいた。武士としての本分を果たしたいと思いながらも、隣人のゆう(蒼井優)やその弟・市助(前田隆成)らと穏やかな日々を送る杢之進。
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そんなある日、剣の達人である澤村が村にやって来る。仲間を集めて京都の動乱への参戦を目論む澤村(塚本監督)に腕を見込まれ、一緒に行こうする杢之進だった。しかし、村に現れたならず者の浪人源田(中村達也)らと対峙する澤村の戦い方を見て、杢之進は動乱参加を躊躇し、その結末はという展開。
 
テーマは人はなぜ人を切るのか? このため、チャンバラシーンで物語は紡がれます。血が噴き出し、腕が吹っ飛び、斬った相手に「血が全部流れ切るまで時間がかかる。反省しろ!」と生殺しにする殺害現場を見せてくれます。
正義のための闘い闘いとはいえ、その現場は地獄。それでもあなたは人を斬りますかと問うています。

杢之進の出した結論は、動乱参加を強要する澤村を「斬、」、生きるために斬るでした。「、」はその後の杢之進の生き方を問うています。物語を一度締めて、足音を聞かせてくれ、結末が観る人に任せられています。( ^)o(^ )
 
この作品の登場人物は時代劇ことばでなく現代語を話します。そして、深い森の中のふたりの決闘はフィリピン・レイテ島のジャングル戦での悲劇を描いた「野火」に繋がります。
なぜこの悲劇が起こったかを問うていて、小さな物語ですが、大きなテーマに繋がっていると思います。秀作です!
 
チャンバラシーンがとてもいい。若い人の中にあって岡田准一さんがうまい(「散り椿」)という評判ですが、ここでの池松さんの剣術の形、塚本監督の超スピードの剣さばきがみごとで、カメラの動きと凄惨な現場の描写と相まって、テーマを訴えるすばらしいシーンになっています。
 
池松さん、蒼井さんにとって、これまでにない役で、大きな変換点となるような作品ではなかと思います。蒼井さんのラストの慟哭が、作品の結論となります。とても重要な役を果たしました。( ^)o(^ )
 
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冒頭、高温と鍛錬で鉄鉱石から刀が生まれる過程が描かれ、切れ味の鋭い刀がどう使われるのかというテーマを示しているようです。
次のシーンが、畑仕事の合間に杢之助と市助の木刀による剣の稽古風景。これをひややかに見るゆうは杢之助に想いを募らせている。
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小さな農村を舞台にして、そこに住む杢之進、ゆう、市助のキャラクターはとてもシンプルで、分かり易いストーリー建てになっているのがよい。
 
杢之助は、人を斬ることが本能的に受け入れらず、諍いは話し合いで解決しようとする。しかし、チャンスがあれば侍としての本望を達成したい。市助は百姓生まれで、剣でなんとしても侍になりたい。ゆうは、杢之進が剣で命を落さないようこの村から出て行かないことを願っている。現代社会に通じる設定です。
 
果たし合いがあるというので、見に行き、杢之進は、そこで見た澤村の鮮やかな剣さばきに心奪われ、人を斬るとはこういうことだと思い、剣で立とうとする夢を忘れられない。
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杢之進は澤村に誘われ動乱への参加を決める。
 
そんなある日、ならずものの浪人たちが村に現れ、杢之助は酒・食べ物を与えて引き取らせる。しかし、市助が百姓呼ばわりされたことで彼らに楯突き暴行を受ける。その仕返しにと澤村が出かけ、ひとりを取り逃がし他を全て斬ってしまう。
これに相手が怒り、市助一家を襲い父親と市助が殺される。暴力が暴力を呼ぶ悪連鎖。
 
ゆうが、動乱に行く度量なら斬れると、杢之進に仇討ちを依頼する。
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杢之進はあくまでも話し合うとして彼らのあじとに乗り込む。これに、澤村は「動乱に行くとはどういうことか!お前の実力を見せろ」と杢之進に同行する。この後をゆうが追う。
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杢之進は刀を離して話し合おうとするが、相手はこんな彼を愚弄し、ゆうを捉えて強姦しはじめる。ならず者の頭・源田の刀を口につきつけられ杢之進は動きがとれない。
この時、澤村の剣が源田の腕を斬り割き、果し合いで見た光景とは全く異なる、凄惨な斬り合いとなる。この光景に「正義の闘いなどない!」と杢之進が動転する。
 
この場を引き上げ、澤村は杢之進を明日動乱に加わるため江戸に発つことをゆうに告げる。
 
杢之助は江戸行を拒否し、「何であんたは人が斬れる?俺もあんなふうに斬りたい」と教えを請う。「ここのことは忘れろ。もっと大きな仕事に就く。準備しておけ」と言い去る。
杢之進はひとりになり、苦悶する。
 
朝、澤村が迎えに来るが、杢之進がいない。森の入り口で投げ捨てた彼の衣類を見て、雨の中、深く森のなかに分け入る。これをゆうが追う。
 
杢之進は死んだふりをして、澤村の近づくのを待ち、一刀のもとで腹を斬り割く。噴水のようの飛び散る血液。剣の作法を忘れたように刀を振り回す杢之進。
杢之進が刀を引きずり去るのを見てのゆうの慟哭が森に響き渡る。
 
エンデイングのあと、バサバサという足音、ゆうの足音だと思っています。( ^)o(^ )
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