映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「アンビュランス」(2022)ド派手なカーアクションだけではない、泣ける作品だった。

強盗を働いた元軍人の主人公が、瀕死の警官を乗せた救急車で逃走劇を繰り広げる姿を描いたノンストップアクション。

 監督が「トランスフォーマー」シリーズのマイケル・ベイジェイク・ギレンホール主演作ということで、WOWOWで鑑賞しました。

見どころは“カーアクション”だろうと思ったら、“とんでもない”泣かせるストーリーだった(笑)

監督:マイケル・ベイ脚本:クリス・フェダク、撮影:ロベルト・デ・アンジェリス、美術:カレン・フリック、編集:ピエトロ・スカリア ダグ・ブラント カルビン・ウィマー、衣装:リサ・ノラ・ロバース、音楽:ローン・バルフェ。

出演者:ジェイク・ギレンホール、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、エイザ・ゴンザレス、ギャレット・ディラハント、キーア・オドネル、A・マルティネス、他。

物語は

アフガニスタンからの帰還兵ウィル(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、出産直後の妻エイミー(モーゼス・イングラム)が病に侵され、その治療には莫大な費用がかかるが保険金も降りず、役所に問い合わせてもたらい回しにされるだけだった。なんとかして妻の治療費を工面しようと、血のつながらない兄のダニー(ジェイク・ギレンホール)に助けを求めるウィル。犯罪に手を染めるダニーが提案したのは、3200万円ドル(約36億円)もの大金を強奪する銀行強盗だった。

計画通りならば、誰も傷つけることなく大金だけを手にするはずだったが、狂いが生じて2人は警察に追われる事態に。やむを得ず逃走用に救急車に乗り込んだ2人だったが、その救急車はウィルに撃たれて瀕死となった警官ザック(ジャクソン・ホワイト)を乗せていた。(映画COMより転用)

警官ザックを乗せての逃走中、ロス警に追い込まれ、ザックの様態が悪化して金か命かとダニーとウイルが揉め始め、FBIとの取引と、物語は二転三転、どこに行き着くのかと、ややこしい物語になってくる。(笑)


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あらすじと感想(ねたばれ:注意)

ダニーの父親が里親となりウイルを施設から引き取り養子にした。とても仲の良い兄弟だったが、成長して、ウイルは闇稼業を嫌がり家を出て陸軍に入隊、結婚した。ウイルは親父さんの死に目も会いに来なかった。久しぶりに金の工面でウイルが兄ダニーの銀行破りを手伝うことになるが、果たしてふたりの兄弟愛は生きているのか。

ダニーは大学出のインテリ。親父の稼業を継ぎ、銀行破りで失敗したことがないというベテラン。(笑)いまの親分パピには不満があるらしい。

救急救命士のキャム(エイザ・ゴンザレスは医者を志したが麻薬の溺れ、彼氏とも別れて救命士になった女性。「20分間は絶対に命を繋ぐ」という伝説の救命士。

ダニーらギャング団(5人)は、ドライバーを監視役に残して4人で銀行に侵入。そこに警察学校でたばかりの警官ザックが、警ら中であるにも関わらず、窓口業務の可愛い子ちゃんキムにデート約束にやってきた。(笑)

金を奪って逃走中にザックに出会って、撃ち合いになり、ウイルの弾が当たった。ウイルは救助すべきと主張したが、ダニーが拒否。ザックを放置して待機中のトラックを探すが、見つからない。車を求めて地下駐車場に戻ると、騒ぎで駆けつけた救急車に遭遇。救急車を奪って、ザックを乗せ、ここから逃走劇が始まった。

救急車の運転はウイル乗員はダニー、負傷警官のザック、救命士のキャムの4人。ここまでのプロセスは、ユーモアを交えてスピーディーに描かれが、大雑把という感じ。でも笑える!(笑)

ここから救急車とロス市警の、ド派手なカーチェイス。これにヘリ2機が加わる。転覆、炎上、破壊車両は全部パトカー。(笑)カーアクションはこれ以外ないと言わんばかりのいろいろなカーアクションシーンが準備されていた。映像がしっかりしている。(笑)

ザックの容態が急変。「助けろ」とダニーがウイルと車の運転を変わる。キャムの救急処置をウイルが補助。キャムが病院と連携して体内残存弾丸の摘出手術を行う。ここでのキャム役エイザ・ゴンザレスの熱演が光る。まさに伝説の救命士だった!(笑)

ここにFBI捜査官のクラーク(キーア・オドネル)が駆け付けてきた。クラークはかってFBIに研修にやってきたダニーと懇意の仲だった。「犯人がダニーなら人殺しはせん」とロス警の現場指揮官モンロー(ギャレット・ディラハント)と対立する。クラークは携帯でダニーと接触、手術間は監視に留めることにして、ヘリによる監視を続ける。一方、モンローはダニーの行き先をモバイル・ハイツと読んで、ロス警パトカーを集中させつことにした。

ダニーはロス警を騙して逃走する計画を発動。アジトで救急車を塗装し直し、さらに3台の救急車を待機させた。(笑)

救急車はヘリの偵察を回避するようロサンゼルス河床を走り、アジトに到着。救急車を黄色(笑)に塗り替えた。ダニーはウイルに「家に帰れ!」と勧めるが「ザックを助ける!」と聞き入れない。

ここから3台の救急車で警察を拘束し、無人の車載ガットリングガンでパトカーをなぎ倒す。その間に、黄色い救急車は親分パピの隠れモバイルハイツへと急いだ。

パピの隠れ工場。周辺をロス警に包囲された。ダニーはパヒに1600万ドルを渡し、残りをウイルに持たせ「ここから家に帰れ!」と言うが、ウイルは「救急車のザックとキャムを放置できない」とこれを断った。ダニーが「もう兄弟ではない、馬鹿者!」と罵声を吐く。ここでのギレンホールとアブドウルの激しいやりとりは、さすが!というほどに熱の入った演技だった。しかし、レンホールがいいとこ全部持っていくんだ!(笑)

これを見たパピの配下がウイルに銃を向けた。ダニーがウイルを守るため狂ったように軽機を乱射したが、ウイルが受傷した。

ダニーは救急車にウイルを乗せ、メモリアル病院に走った。これを追うパトカー、救急車の走りっぷりが凄い!(笑)

病院に到着するとパトカーに包囲され、モンロー警部の指示で狙撃手が待ち構えていた。

ウイルの容態が悪化、最後の力を振り絞って金をキャムに渡した。クラークが「出て来い!」と誘う。ダニーは「ウイルは死んだ!」と知らせた。ザックが息を吹き返して拳銃をキャムに渡した。これを見たダニーは「助けてやったのに撃つのが?」と激高し、キャムを人質に「弟は死んだ!何も悪くない!」と叫びドアーを開いたところを狙撃された。

駆け付けたウィルの妻エミリーの「夫を助けて!」の叫びに、一度救急車を下りたキャムは車に戻り、ウイルに懸命の救命処置をした。

ウイルの命は救われ、ザックはウイルを「命の恩人だ」とクラークに告げた

決して病院に渡した被害者のその後を生死を気にしなかったキャムが、入院名簿を検索して、込んだ少女を見舞い「生きることのすばらしさ」を知った!

まとめ

ド派手なアクションドラマの中で、ダニーとウイルの兄弟愛で締めるという結末。ストーリーは多少ぐじゃぐじゃするが、難しいことは考えず、流れに任せて、ポップコーンを食べながら観る作品です。それでいて、「まともな人間になれ!」と教えてくれます。(笑)

マイケル・ベイ監督の最高傑作だという人もいるが、そうかもしれない!

恰好よく死んだダニーだか、往生際が悪い!ジェイク・ギレンホールにやらせるとこうなるということなんでしょうか。(笑)しかし、上手い演技でした。

一番のお気に入りはキャム役のエイザ・ゴンザレス、すばらしいできでした!

救急車は人の命を救うだけでなく、人生をも救うという話だった!(笑)

               ****

 

「MEN 同じ顔の男たち」(2022)男性優位の暴力体制へのテーゼ!アートだった!

 

夫の死を目撃した過去のトラウマと目の前に現れる同じ顔の男たちの恐怖に対峙する妻の物語。

「ヘレディタリー/継承」「ミッドサマー」のA24作品で「ジュディ虹の彼方に」のジェシー・パックリー、「007ノータイム・トゥ・ダイ」のロリー・キニア主演作ということで観ることにしました。監督はアレックス・ガーランド、とても評判のいい監督さんのようでした。(笑)

果たして私に分る作品か?情報入れずに挑んでみました!

監督・脚本:アレックス・ガーランド撮影:ロブ・ハーディ、美術:マーク・ディグビー、衣装:リサ・ダンカン、編集:ジェイク・ロバーツ、音楽:ベン・サリスベリー ジェフ・バロウ。

出演者:ジェシー・バックリー、ロリー・キニア、パーパ・エッシードゥ、ゲイル・ランキン。

物語は

夫ジェームス(パーパ・エッシードゥ)の死を目撃してしまったハーパー(ジェシー・バックリー)は、心の傷を癒すためイギリスの田舎町へやって来る。彼女は豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリー(ロリー・キニア)と出会うが、街へ出かけると少年や牧師、警官に至るまで出会う男すべてがジェフリーと全く同じ顔だった。さらに廃トンネルから謎の影がついてきたり、木から大量の林檎が落下したり、夫の死がフラッシュバックするなど不穏な出来事が続発。ハーパーを襲う得体の知れない恐怖は、徐々にその正体を現し始めるというもの。

身構えてみることにしました。その結末に、一体俺は何を観たかと、絶句しました。(笑)


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

マンションの一室。夕陽のさす部屋で「言うべき言葉がない!」と怒りを見せるハーパー。窓辺によると、夫ジェームスが目を見開いて、こちらを睨んで落ちて行った!

ハーパーは車で自然豊かなイギリスの田舎町にある小さなお城のようなカントリーハウスを訪ねた。庭にリンゴの木があり、一個もらって食べた。「リンゴを食べたらイヴとなるぞ!」と成り行きを身構えました。(笑)

 

管理人のジェフリーの案内で部屋を見て廻る。「マーロウ夫人」と問われ「今では夫人ではない。滞在は2週間の予定」と返事した。ジェフリーが「リンゴは沢山食べていい」という。窓から教会が見えた。ジェフリーは「この先に住んでいる」と出て行った。

早速、女友達のライリー(ゲイル・ランキン)に「夢のカントリーハウスよ、管理人は良い人、夫人でないと答えたのはまずかった」と電話した。電波が乱れ早めに切った。

ハーパーが離婚を言い出すと「俺の一生が消える、自殺してお前に罪を負わせてやる」というジェームスの姿を思いだした。

ハーパーはこの思い出を消すために散歩に出た。森の中の散歩、緑が爽やかで水溜まりが実に美しい。トンネルに入り声を出すと幾重にもコダマして帰ってくる。が、誰かにつけられている。

 

走ってトンネルを出ると野原。西洋タンポポの綿毛が飛んでいた。さらにその先が牧場で古い屋敷の前に頭に葉っぱをつけた裸の男がいた。ハーパーは、ベランダから落下して鉄柵のひっかかり腕が裂かれた夫の死様姿を思い出しながら、走ってハウスに逃げ帰った、

風呂に入って、テイリーに古い屋敷の映像を送って、拡大してみると裸の男が写っていた。

翌朝、ピアノを弾くと昨日の散歩の風景が出てくるが、大きな木の枝分かれが人間の股間に見えて、弾くのを止めた。ライリーに「ここはまずい」と各部屋を携帯で伝送しいて、リンゴをとる裸の男を見つけた警察に連絡し、逮捕してもらった。ハーパーはこのとき夫ともみ合い激しく殴られた記憶が重なり、ひどく怖がった。

裸の男を警察に渡したことをライリーに「いかれた男だった」と伝え、散歩に出た。

誰もいない教会に入った。そこには葉っぱを頭につけた?“男性の顔面”(グリーンマン)と性器を出している女性(シーラ・ナ・ギグ)のレプリカが掲げられていた。このふたつのレプリカが何度もこの作品の中でてきますが、いかなる意味をなすのか、よく分からなかった。

ハーパーは祭壇で「自殺するなどどうでもいい!出て行って!」と泣いた。これを牧師が観ていた。

 

外に出ると唇の大きな女性の面を被った少年が出てきて「かくれんぼしよう」と誘う。そこに牧師がやってきて少年を追い出し、ハーパーに「問題を抱えているようだが、話してみませんか」と寄ってきた。ハーパーは「夫婦喧嘩で夫がベランダから飛び降り自殺し、落下中に自分を一瞬見たことがトラウマになっている」と話した。すると牧師は「彼に謝る時間を与えていたら死ななかった」という。ハーパーは「バカにしないで!」と怒ってハウスに戻った。

 

ハーパーの頭の中を腐敗が進む鹿の遺体、教会のパブリカの像、裸の男の姿が浮ぶ。

ハーパーは気分直しにバーを尋ねると店主はジェフリーだった。客のふたり、それに警官がいた。みんなジェフリー似だった。ハーパーの頭がおかしくなったのか?警官が「裸の男は釈放した」という。ハーパーは慌ててハウスに戻った。

ハーパーはライリーに「このハウスは変だ!迎えにきて!」と電話した。「4時間かかる、居場所を送って!」という。電波状況が悪く、地図を上手く送れなかった。

街灯が点滅しだし、そこにジェフリーが、警官も来ている?リンゴが一斉に落ちた!

ハーパーはダイニングルームから包丁を取り出して身構えた。大きな音がして窓が割れた。そこにジェフリーが入ってきて「なんてこった!」と落ちた鳥の首をひねって殺した。「警官がいた」と訴えると「バカ言うな!」と言い「大家としてしっかり調べる」と部屋を点検して帰っていった。

庭に出てジェフリーが帰るのを見ていると裸の男が近づいてきて息を吹きかけた。

ハーパーが逃げると女の面を着けた少年が追ってきた。ハウスに戻って鍵を閉めた。すると郵便受け口に手を突っ込んでハーパーの手を掴み引っ張った。ハーパーは鉈でこの手を切り裂いた。ヒーヒーと声をあげながら少年がハウスに入ってきた。

 

ハーパーは二階の寝室に逃げた。するとそこに牧師がやってきて血だらけの手を洗い、「あなた誰?」と聞くと「白鳥だ!」と言い「お前は陰部を見せ、口を開いた」と背後から襲い掛かった。ハーパーは牧師を蹴とばして、庭に出て車で逃げ出した。

ところが車の前面にジェフリーが現れ、ハーパーは車から引きずり出され、この車でジェフリーが追いかけてきた。車は壁にぶち当たって止まった。ハーパーがほっとして泣いていると、頭に葉っぱをつけた裸の男が折れて脚を引きずりながら近づいてきた。

この裸の男の顔が“教会のレプリカ像の人面”となり、大きな女性の陰部となり、・・・ここからは書けない。私は何を観ているのか?

ハーパーがハウスのソファーに座っていると、ジェームスがやってきて「俺が死んで鉄柵に挟まれ腕が裂かれたのはお前がやったこと!」という。ハーパーが「何を私に求めるの?」と聞くと「愛だ!」という。

ライリーが迎えに来た。ハーパーは彼女を見て微笑んだ!衝突した車が転んでいた。

まとめ

ハーバーは夫とあまりにも衝撃的な別れを癒すためにこのカントリーハウスにやってきた。ハーバーの精神はかなり混乱きたしており、現実と妄想が区別できなくなる。

ラスト10分、頭に葉っぱをつけた裸の男が折れた脚を引きずりながら近づいてきてこの男から次の男が生まれ、さらにこの男から次nullお男が生まれ、最後に夫が生まれ、「何がして欲しいの?」と聞くと「愛が欲しい」という。ここまでh全て妄想の世界。ハーバーは恐怖のあまりハウスの外に出て車両事故を起こし、やっと生気に戻った。

「リンゴの木」「葉っぱを頭に付けた男」「教会のレプリカ像」「白鳥」は女性に苦痛を与えた古史からの引用。「西洋タンポポ」は受粉をせずに自分だけで種子を作ることができる。

ハーバーはこのハウスにやってきて、現実と妄想の中で、夫の暴力(言葉を含む)、レイプに晒されていた

10分の問題のシーンは「西洋タンポポ」をオマージュした「男どもは!」

何が原因でハーパとジェームスが離婚に至ったか、夫の性暴力だった「男は女を見るとセックスを求め、拒否すると暴力を振う」。#MeToo運動の今、10分間の「俺は何を観ているのか」という驚愕の映像もテーマ的には平凡なもので、男性優位の暴力体制をこのようなアートで表現した作品だった。

 「同じ顔の男たち」、これは余計だった同じに見えても見えなくてもよかった。

作品は美しい色彩と音楽、効果音でアクセントをつけてくれ、ホラーを楽しみました。(笑)そして、ハーパー役のジェシー・バックリーが、こんな恐怖に対して自然な表情で演じるので物語にリアリティを感じ、いくつもの人物を演じるロリー・キニアの演技がそれらしく、これも素晴らしかった。

                *****

「ラーゲリより愛を込めて」(2022)極限状態で知る「人が生きるとはどういうことか」。

 

原作が辺見じゅんさんのノンフィクション小説「収容所(ラーゲリ)から来た遺書。それを「護られなかった者たちへ」「糸」の瀬々敬久監督が描くという。これで観ることにしました。

私の親族にはソ連抑留から帰還しものが2人います。抑留の話はあまりしませんでした。すでに亡くなっていますが、言えないことがあったんだろうと思います。

監督:瀬々敬久原作:辺見じゅん脚本:林民夫、企画プロデュース:平野隆、撮影:鍋島淳裕、音楽:小瀬村晶、主題歌:Mrs. GREEN APPLE

出演者:二宮和也北川景子松坂桃李中島健人桐谷健太安田顕寺尾聰市毛良枝、他。

物語は、

第2次世界大戦後の1945年。シベリアの強制収容所に抑留された日本人捕虜たちは、零下40度にもなる過酷な環境の中、わずかな食糧のみを与えられて重い労働を強いられ、命を落とす者が続出していた。そんな中、山本幡男(二宮和也)は日本にいる妻や子どもたちのもとへ必ず帰れると信じ、周囲の人々を励まし続ける。山本の仲間思いの行動と力強い信念は、多くの捕虜たちの心に希望の火を灯していく。

捕虜となってからの11年間、当初の絶望から希望を見出し、再び絶望に追い込まれる中で、山本を通して彼等が掴んだ「生きることの意義」が描かれます。必ず泣けます!

歴史的な背景をあまり詮索しないで、彼らの生き様を見る作品になっていますが、背景のシベリアの描写は無理としても、捕虜生活の映像はよく再現きているのではないでしょうか。日本映画を牽引している若い俳優さんたちの演技がすばらしいです。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

1945年8月9日、当然ソ連軍が満州侵攻を開始した。山本は妻モジミ(北川景子)、4人の子供とハルピンのホテルで食事をしていた。空襲警報でホテルの外に出たところで爆撃があり、負傷した。「南に逃げろ!すぐ会える、日本で会おう!」言葉を残して、侵攻してきたソ連軍の捕虜になった。

シベリア奥地に向かう貨車は日本兵で一杯だった。皆が不安の中にいるのに山本は「ロシア文学は沢山読んだから、ロシアが見物できる」と呑気ことを言っていた。この姿を見た松田(松坂桃李)は「この人は正気を失っている」と思ったという。

二宮さんの「何を考えているのか分からない」というほんのりした演技が山本をよく表現しています。

彼らが着いた収容所はスベルドロフスクだった。

 ソ連兵監視下日本人指揮官の指揮下で、森林伐採の過酷な労働が始まった。食事も2食で黒パン、零下40度以下にならないと中止はないというもの。この時期、まだ軍隊制度が生きていて、将校・軍曹がいばり散らす。同じグループの相沢(桐谷健太)は気にいらねば下級者をぶん殴るという男だった。「俺は2等兵でない」と山本は講義した。

山本は特務機関で働いていたのでロシア語ができ、ソ連兵の動きが読める。「いずれ国に戻れる」という確信を持っていた。

過酷な労働の中で逃亡者が出てくる。ソ連兵に射殺される。山本が遺体を埋めてやる。兵舎には小さな仏壇を設け、弔ってやる。これがソ連兵には気にいらない。激しく暴行を加えられ、これに反攻する山本は独房に入れられ吊るされる。

松田は「関わりたくない」と見ない振りをする男だったが、この過酷な状況の中で誰にも看取られず亡くなった男たちの面倒を見る山本に対して、特別な感情を持つようになってきた。山本を庇って独房に入れられた。

しかし、相沢は捕虜収容所に配属され上官の命令で捕虜を射殺した経験から「上官の命令が絶対だ。ここは戦場、人間を忘れた」という。

山本は何度も独房に入れられる状況が続いた

そんなところに「ダモイ(帰還」が伝えられた。皆歓喜しナホトカ行きの列車に乗った。

ところがハバロフスクで停車し、残置するものと帰国者が区分された。山本らは残置することになった。

兵士たちはスターリン肖像画のある舞台に上げられ、アクチブを強制されていた。そこに顔面を殴られた原(安田顕)がいた。彼は山本の上司だった。

山本らはソ連極東軍総司令部に連れ出され、25年間の強制労働を課せられた

1947年、終戦から2年、山本らはハバロフスク収容所にいた。この収容は大きな絶望を産んだ。原が「君をソ連に売った」と白状した。

鉄道建設に携わっていた。現場までの雪の行進でバタバタと倒れる仲間たち。夏になると水泳を楽しみものも出てくるようになった。ここで出会ったのが漁師の新谷(中島建人)、そして黒い犬“クロ”だった。クロに慰められた。新谷が字が読めないというので教えることにした。そして俳句を皆に教えることにした。

妻モジミは友人の紹介で教職についていた。ソ連からの帰還者が舞鶴港に着くたびに迎えにでるが、「今回もだめ、もう止めよう」という長男顕一に「必ず帰る!」と決して諦めなかった。

1950年、終戦から5年。朝鮮戦争が始まって、帰国が絶望的なった。自殺者、逃亡して捕まり射殺さるものが急増してきた。

山本は様子がおかしい原に「生きるのを止めないで!一緒に帰りましょう」と励ました。

原は「俺を許すのか!」と泣いた。山本は異常な状況下で起こったことと原を恨む気はなかった。むしろ部下のときに文学の指導をしてくれたことに感謝していた。

皆はソ連兵に隠れて将棋や花札囲碁を楽しみようになっていった。山本は布クズでボールをつくり、皆で野球を楽しむようになった六大学野球で名を成した原もこれに加わるようになってきた。

これにソ連側が大反対をする。山本は「希望が必要なんだ、これで笑顔が戻る」と必性を訴えが、激しく殴られ独房に入れられた。原が野球の必要性をソ連側に説き、野球は作業効率を上げると許可された。

1752年、終戦から7年。日本への手紙が許された。皆が家族に当てて手紙を書いた。山本は「帰るという約束を守る」と書いた。このとき大きく咳き込んだ。

返事がきた。松田は母親を亡くし、相沢は妻と子供を戦災で亡くしていた。

相沢が「生きている意味がない」と絶望し自殺を図ろうとする。山本は「それでも希望がある」と止めた。相沢はこのとき“この意味”が分からなかった。

1954年、終戦から9年目。山本は収容所の医務室に入院していた。「病名が分からない」ということに反発して、収容所本部前で松田が断食を始め、これに皆が加わり作業をボイコットした。原はソ連側と「すでに9年が経つ。我々は家畜ではない。山本を救え!」と交渉した。収容所側がこれを認めた。が、山本は口頭ガンに侵され余命3月と分かった。

一番衝撃を受けたのは相沢だった。「絶対死ぬな、生きろ!」と介護役を買って出た。

原は「未来について書け!」とノートを渡した。山本は「ここにきて、人間が生きるというのはどういうことかが分かった」と答え、書き始めた。

原は「これでは奥さんに遺書が渡せない」と別ノートを与え、遺書を書くよう勧めた。山本が書き終えて、光の差し込む病室で静かに亡くなった。シベリアの地に葬った。

遺書をソ連兵の目からどう隠すか?4つにノートを切り分けて、原、松田、新谷、相沢が暗記することにした。

1956年、戦後11年。原らは、流氷の上を走ってくるクロを収容して、帰国の途についた。電報で山本の死を知らされたモジミは舞鶴に出向くことなく、庭に出て「あなたは嘘をついた」と泣いた。

原が最初で、松田、新谷、有沢の順にモジミに文書と口頭で遺言を伝えたいずれも山本の生還したように遺言を笑顔で伝えた。最後の有沢は伝えた「妻よ!」の遺言に、モジミは「夫が帰ってきた」と納得して微笑んだ。

まとめ

山本の「人が生きるとはどういうことか」はどの遺言にも書かれている”愛”でしたが、やかり子供たちに与えた「道義に生きよ!」が一番心に響きました。「出世などどうでもいい、自分を磨けば他人はついてくる」でした。まさに山本の生き様でした。

先般書いた映画「セント・オブ・ウーマン夢の香り」(1992)の結末もそうでした。本作は泣けるシーンが一杯でしたが、この言葉に「ウラー!」と密かに声をあげました。(笑)

山本が戦友たちを分け隔てなく愛し、励ます生き方に共感を持ちますが、一番感動したのか妻モジミが山本の手紙に送った返事「子供たちと義母と生きています」でした。「義母の面倒みることで山本と生きている」というモジミの生き方は「昭和の母親だ!」と思いました。

ということで、出演者のどなたの演技も申し分ないのですが、一番感動した演技は、泣くシーンの多かったモジミ役の北川景子さんにします。

               ****

「ゴッドファーザー 最終章 マイケル・コルレオーネの最期」(2020)最終章にふさわしいマイケルの死様だった!

言わずと知れたフランシス・フォード・コッポラ監督による傑作ゴッドファーザー」3部作の完結編「ゴッドファーザーPARTIII」の再編集版。その全米公開30周年を記念して、コッポラ監督自身の手により再編集されたもの。

歳のせいか、最盛期の時代よりも「マイケル・コルレオーネの最期」という、この時期の生き方を見たかった。

監督:フランシス・フォード・コッポラ脚本:フランシス・フォード・コッポラ マリオ・プーゾ撮影:ゴードン・ウィリス編集:バリー・マルキン リサ・フラックマン ウォルター・マーチ音楽:カーマイン・コッポラ

出演者:アル・パチーノダイアン・キートンタリア・シャイアアンディ・ガルシアイーライ・ウォラックジョー・マンテーニャブリジット・フォンダ、ジョージ・ハミルトン、ソフィア・コッポラ、他。


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あらすじ

1979、老境に入ったマイケルは、自分の犯してきた罪に苦悩していた。そんな彼は、資産を合法化するためバチカン銀行と大司教・ギルディ大司教(ドナル・ドネリー)に接近し、寄付の見返りに叙勲を受け、その祝いの席で家族と再会。

そこに元妻ケイ(ダイアン・キートン)が「次男アンソニーの歌手志望を認めて欲しい」とやってきていた。マイケルは「誰が後を継ぐ!」と反対したが、忌々しい過去を持ち出し説得するケイには逆らえず、赦すことにした。これがマイケルの人生末路に大きな影響を及ぼすことになった。

そして亡き長兄ソニーの息子ビンセント(アンディ・ガルシア)も顔を見せ、かつてのコルレオーネ家の縄張りアトランティック・シティのカジノホテルを支配するジョーイ・ザザが「ビンセントは扱い難いから注意してくれ」と訪れた。ふたりを仲裁して握手させようとするとビンセントがジョーイの耳にかぶりつき負傷される始末。マイケルはジョーイに侘びを入れてビンセントを引き取り、側に置くことにした。

しかし、この一件がこれでは終わらなかった。ビンセントが彼女と寝ているところを、ジョーイが刺客を送った。ビンセントは灘を逃れたが、これが大きく彼の生き方に影響を与えた。

バチカン銀行の投資会社「インターナショナル・インモビリアーレ」の経営権を手に入れる工作も順調に進み、あと法王の認可があればよいところまできた

ファミリーに合法ビジネス転換を説明するために、アトランティック・シティのカジノホテルにやってきた。多くの友好ファミリー幹部の賛同を得たが、若いジョーイの反発を招き、夜間宿泊ホテルをヘリで襲撃されるという事態を招いた。

ビンセントの機転で脱出することができたが、糖尿病の発症で、これ以降この病に悩まされることになった。

この物語のマイケルの表情は終始疲れた正気のない表情をしている。

ヘリ襲撃という大それた襲撃事件は、背後にジョーイの親分アルトベッロ(イーライ・ウォラック)が関わっていると睨んでいた。

こんなときにビンセントが相談もなく、街の祭典を巡視するジョーイを警官に化けて馬上から射殺し、 新たな紛争種が生まれた。これも元を質せばマイケルが作った罪。

ビンセントが娘のメアリー(ソフィア・コッポラ)と恋仲であることが分かってきた。マイケルはこの恋に近親結婚という“血の恐ろしさ”を感じていた。

法王の危篤が伝えられる中で、「インターナショナル・インモビリアーレ」の経営権奪取が怪しくなってきた。

投資会社事業を進めるために、故郷バレオーネに立ち寄り、恩人ドン・トマシーノらと絆を温め、策を練っていた。

ビンセントをスパイとしてアルトベッロの元へ潜入させ動向を探らせた。アルトベッロが、イタリアの政治家ドン・ルケージや関係銀行頭取と組み、マイケルの投資事業を妨害していることが明らかになった。

合法的に事態を収拾するため、法王に意見の言える改革派のランベルト枢機卿に取り入り、ソニーを殺したことを懺悔して過去の罪を消すことにした。

ケイが息子アンソニーを訪ねてイタリヤにやってきた。マイケルはケイをコパレオーネに連れ出し、叔父の家や結婚式場、人形劇を案内して、ふたりは邂逅していった。メアリーやアンソニーも加わり、久しぶりの家族の味を味わった。が、ドン・トマシーノが射殺され、また復讐戦が始まった。

バチカンでは新しい法王としてランベルト枢機卿が選ばれた。事態は改善すると思ったが、ギルディ大司教を通して融資していた金がルケージの指示で持ち出されるという事件が起きた。ビンセントは「命令をくれ!」と迫るが、二度と罪は起こさない!と断った。

コニー(タリア・シャイア)の強い勧めもあってメアリーとの恋を諦めることを条件に、ゴッドファーザーの座をビンセントに譲った

次男アンソニーのオペラ初公演を祝おうとケイら家族と一緒にオペラ劇場に乗り込んだところで、ビンセントとアルトベッロの謀略戦に巻き込まれ、これからの人生で最も切な家族、メアリーを失うことになった。

感想

マイケルは闇の事業を真っ当なものにして、マイケルに受け継がせ、元妻ケイと寄りを戻し、静かにシチリアで過ごすのが夢だったと思いますが、叶わなかった。原因は全て自分が作った過去の災いによるものであった。これらから必死に逃れようとするが、逃れられない!すべてが裏目に出る。ラストシーンで、ひとりバレオーネの片田舎に佇む姿に堪らなく寂しさを感じました。しかし、「因果応報、これが人生!」と納得する最終章でした。面白くない作品だと思う人が多いと思いますが、よくぞここまで描いたという味のある作品だと思いました。

Ⅰ、Ⅱ作に比して、派手さのない静かな作品になっている。アクションシーンはド派手なヘリによる襲撃(ベトナム戦)とジョーイ襲撃戦、そしてラストはオペラ座のオペラ劇にシンクロするように起きる暗殺・毒殺というこれまでとは違った静かな殺人劇だった。しかし、とてもスリリングで面白かった。

娘メアリーの死に号泣するマイケルとケイの姿に、これほどの悲劇はないと思った。悲劇で終るマイケル・コルレオーネの最期だった。

                                                   ****

「月の満ち欠け」(2022)「この世に生まれた命は、皆だれかの生まれ変わり」についてゆけるか!

原作が2017年に第157回直木賞受賞作、佐藤正午さんの同名小説ということで観ることにしました。未読です。

発行部数は56万部を超えるというベストセラー小説。ということで、劇場はなかなかの入りでした。

監督:廣木隆一脚本:橋本裕志撮影:水口智之、照明:北岡孝文、録音:深田晃、美術:丸尾知行、編集:野本稔、音楽:FUKUSHIGE MARI、劇中歌:ジョン・レノン

廣木監督は今年5番目の作品になります。大丈夫かという感じですよね!(笑)脚本家の橋本さんには「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」(2021)「そして、バトンは渡された」(2021)というヒット作があります。

出演者;大泉洋有村架純目黒蓮伊藤沙莉田中圭柴咲コウ、菊池日菜子、小山紗愛、他。

物語は

現代を生きる、愛する妻・梢(柴咲コウ)と娘・瑠璃(菊池日菜子)を亡くした男性・小山内堅(大泉洋)と、27年前にある女性・正木瑠地(有村架純と許されざる恋をした男性・三角哲彦(目黒蓮)、無関係だった彼らの人生が“瑠璃”という名の女性の存在で交差し、「愛する人にもう一度会いたい」という想いが引き起こした数奇で奇跡を紡ぐ壮大なラブロマンス。

 過去に現在、瑠璃に繋がる人と人の想い行き来し、「今何が描かれている」という視点を見失うような複雑な物語でした。(笑)しかし、この複雑さに「人はみな他人の人生を生きる。そして繋がってくる」という“輪廻転生の世界感”に誘われ、身内の人を失っても“生きる希望”を感じるという作品でした。この世界感に嵌らなかったら残念な作品となるかもしきれません!

この作品はコロナ禍にあって全編ロケ。それも高田馬場駅周辺の変遷が美しく描かれ、ジョン・レノンの曲で命が繋がる物語となっていて、悲しい話でありながら、暖かい気分にしてくれます。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

2007年12月、1999年に妻子を交通事故で亡くした小山内は建設会社を辞めて、実家の青森の八戸に戻り水産会社に勤めていた。そこに東京に住む娘・瑠璃の高校時代の親友・緑坂ゆい(伊藤沙莉から、「話したいことがある。瑠璃が描いた人物画を持ってきて欲しい」と連絡があった。

12月8日、東京に着いた小山内は妻子が亡くなった事故現場に花を手向け、ゆいが待つホテルに向かった。ホテルのラウンジでゆいは子供と一緒に待っていた。ゆいは瑠璃の思い出が撮ってあるビデオカメラを持参していた。

ゆいは小山内が持参してきた瑠璃が描いた人物画の謎を小山内に聞かせ、小山内はゆいが持参してきたビデオカメラを受け取り、その映像をみながら東北新幹線で八戸の帰り着くまでの話です

小山内の瑠璃についての記憶。

1980年12月8日、小山内は同郷の梢と結婚した。ジョン・レノンが暗殺された日だった。ジョンの曲が溢れていた。小山内は「梢を大学の食堂で梢を見染めたのが切っ掛けだ」という。

1981年、瑠璃が誕生。梢が「瑠璃という名は夢の中で瑠璃が自分で決めって生まれてきた」という。

1988年瑠璃7歳の夏、赤い車で梢が運転して、3人で海でのピクニックに出かけた。途中で美しい夕陽を見た。そして夜、瑠璃が満月の月を見て「こないだ死んだ月が生き返った」と言い、梢が「消えたものが元に戻ったの。これが繰り返されるの」と教えた。

9月に瑠璃が原因不明の高熱で入院。退院後、英語の歌を唄ったり、人形にアキラ君と名付けて呼ぶ、またジッポライターの石交換をするというちょっと普通の子には考えられない行動がみられた。

12月8日、瑠璃がひとりで電車に乗り、高田馬場の駅近くのビデオショップを訪れアンナ・カレーニナのビデオを見ていたという。小山内が「何故高田馬場に来た?」と聞くと「アキラ君に会いにきた」という。「高校を終わるまで来てはいけない」と注意すると「分かった!パパの愛情は忘れない」と答えた。

ゆいの瑠璃についての記憶

1999年10月、瑠璃18歳。瑠璃はゆいを自分の誕生会に誘った。ゆいが見た瑠璃の家族は瑠璃をとても大切にし、仲良し家族で小山内が梢を妻にした訳を話す状況などをビデオカメラに収めた。途中で小山内に会社から電話があり席を外した。

席を外してからの小山内の記憶。小山内は翌日、部長から新しいプロセクトを任され、祝いにお酒に誘われたが家族八戸に行く約束があると断った。そこに梢と瑠璃が車両事故で無くなった知らせが入ってきた。

2007年、ホテルのラウンジに戻る

ゆいは瑠璃が描いた人物画を見て、小山内に「記憶がある?」と聞いた。小山内は「一度ある」と言って話し出した。

2000、小山内は実家八戸に戻り、荷物を整理しているところにフリーカメラマンの三角哲彦が尋ねてきて、瑠璃に位牌に手を合わせた後、「事故のあった日、瑠璃さんから電話があった」「瑠璃ちゃん7歳のときにも高田馬場のレコードショップに訪ねてきてくれて会った」と瑠璃との思い出は語りはじめた。

始めて会ったのはレコードショップ前で雨宿りしている瑠璃(有村架純にタオル代わりにTシャツを渡し、傘を貸して、彼女は映画が好きだと知って別れた。三角は大学生でアルバイトをしていた。ジョン・レノンが暗殺された日だった。その後、早稲田松竹座で見かけた。

彼女が忘れなれない人になり探していた。偶然に高田馬場駅前で出会い、川沿いのベンチでビールを飲んで、「会ったときに話すノートがある」と話すと、「見たい!」と瑠璃がアパートにやってきた。瑠璃はラジオから流れるオノ・ヨーコの“リメンバーラブ”を唄いながらノートを見ていた。自分は8mmカメラでこの情景を撮った。名前を聞くので「母親はアキラにするはずだったが、親父はアキヒコにした」と話すと「アキラを呼んでいい」と返してきたという。そして結ばれた。「ここに居て欲しい」と言ったが消えるように出て行った。

再び捜す毎日が続き、公園で寂しそうに猫を撫でている瑠璃(架純)を見つけ、強引に手を引いてアパートに連れてきた。瑠璃(架純)は先に撮った8mmの映像を見て「私が笑っている!」と喜び、三角とベッドで過ごした。「仲の良い夫婦を見つけた。奥さんが赤い車を運転していた。今度生まれるときはあんな幸せな家族に生まれたい」と言った。「あなたが望むところに連れていく!毎日高田馬場駅で待っています」と言ったが、瑠璃が「本当は私が会いたかったのよ、嬉しかった」と言って帰っていった。

三角は高田馬場駅で待っていると「踏切事故で電車が遅れた」と聞いて震え、ニュースで瑠璃が亡くなったことを知ったが、受け入れられなかった」という。

三角は「あなたの娘さんからの電話で、もしかしたら彼女はあなたの娘さんに生まれ変わるために死んだのではないかと思う」と話し、「瑠璃(架純)への気持ちを吹っ切るために来たのかもしれません、失礼しました」と帰っていった。

ゆいが「この絵、三角に似てない?」と聞くと「瑠璃はまだ生まれてないときのことだ」と小山内は信じられなかった。「高校のとき想像して書いたと瑠璃が言っていた。子は親を選ぶのよ!小山内さんも知っているでしょう」と言い、「小山内さん、瑠璃さんの夫・正木さん知っているでしょう」という。ゆいが正木のことを話し始めた。

正木は瑠璃(架純)が貴金属店で働いているとき、ジッポライターを買って近づき、「居場所を与えます」とプロポーズした。瑠璃(架純)は両親を亡くし厳しい親戚の人に育てられた記憶があっで、素直にこのプロポーズを受け入れた。しかし、不妊体質であったことから正木が暴力を働くようになり、これに堪えられず瑠璃(架純)は三角との恋に走った。不倫が正木にバレ、瑠璃は家を出た。正木は諦めきれず瑠璃(架純)追ったが、踏切で列車に接触し瑠璃(架純)は亡くなった。正木は瑠璃(架純)が残した日記を読んだ。

ゆいが「これで正木さんは生活が荒んで会社も潰したそうです」と話した。

この話で、小山内は部長から「面倒をみてやってくれ」と正木を紹介され、自宅に招いてプロゼクトを議論しているところに、外から帰ってきた瑠璃が正木の顔を見て、“ふい”と二階に上がったことを思い出した。

ゆいは美術室で男性の肖像画を描く瑠璃を見ていた。そして、学友たちと一緒に帰校時、瑠璃が肖像画の男性について「今はパパとの約束で会えないが、想いはどんどん深くなる!」と話していたところに正木が現れ、ジッポライターで火を点けて「なぜ出て行った?何が不満なのか?」と激しく迫ってきて、級友たちが驚いた。ゆいが正木にしがみつき瑠璃を逃がした。そのあと、瑠璃から「アキラに何かあったらいけないから伝えに行く」と電話があった」と記憶を話した。梢と瑠璃の乗った車は正木に追われ、トラックと接触して横転し、この事故で無くなった。

小山内は「正木に瑠璃を会わせた俺に事故の原因があるのか!」と無念がった。

ゆいが「今まで言わなかったがこの子を見て!」と連れてきた子のことを語り始めた

先月瑠璃の墓参りに出向いたとき、小山内に出会い、小山内がゆいの子の名が瑠璃(小山紗愛)と聞いてびっくりしたこと。そして「瑠璃が絵描いた男性の肖像画を捜して!」と頼んだことを話した。

そして、「瑠璃(紗愛)は7歳で高熱を出し、人形にアキラ君と名付けた」と話し、「瑠璃ちゃんから死ぬ前にいろんな話を聞かされて、この子が名を選んで生まれた。瑠璃ちゃんが亡くなる前に人は命を繰り返すと言っていた。瑠璃(紗愛)は瑠璃ちゃんの生まれ代りよ!」と話した。そして三角に電話して「瑠璃(紗愛)を会いに行かせる」と話したという。

小山内は「この話は止めよう」と信じられなかった。ゆいは瑠璃の誕生日に小山内一家を撮ったビデオを渡した。このとき、瑠璃(紗愛)が「ホテルの外に出たい!」と出ていた。

小山内は八戸への帰りの東北新幹線の中で、亡くした梢と瑠璃のことを思い出していた。

走って出て行った瑠璃(紗愛)が瑠璃となり三角と高田馬場駅で会い抱合っている幻想をみた。そしてゆいから渡されたビデオを観ると梢が瑠璃に「パパに好きになったのは私の方が先。高校のとき雨の日に傘を貸してくれた先輩がいて、パパを意識して同じ大学に入った・・・」と話していた。小山内は泣いた!

まとめ

テーマ「この世に生まれた命は、皆だれかの生まれ変わり」が強すぎて、命が繋がる伏線、雨、傘、人形の名、ジョン・レノンの死、赤い車、ジュポライター、瑠璃の名の由来、映画などが、フィクションとしても、バカにするなというレベルまで繋がり、現実性が感じられず、輪廻転生の世界感には残念ながら入り込めなかった。(笑)

しかし、小山内が東北新幹線の中で、ひとりになり、瑠璃(紗愛)が瑠璃に重なり恋人・三角に走り寄る姿を思い描く姿、ビデオを観て、妻・梢の想いが瑠璃(架純)の人生に重なっていても、涙する姿には泣けますね!

三角と瑠璃(架純)の恋物語、小山内と梢の夫婦愛と親子関係など個々のエピソードはそれなりに楽しめました。有村さんのこれまでにない大人びた女性の演技に、目黒蓮さんの純真な愛の演技、よかった。この作品には明るい人がいい、ということで大泉さんの演技が生きていて、泣きの演技も見事でした。柴咲コウさんの明るい母親の存在感はみごとでした。

なかでも、菊池日菜子さんの明るさ透明感が余韻を残し、ちょっと楽しみな女優さんが現れたなと。でも菊池さんを有村さんと間違えるという設定は無理があり過ぎる。(笑)

                                                     ***

「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」(2021)ドキュメンタリーだが、ミステリアスに美術界の闇を描きだしたエンタメ作品!

発見されたときは13万円だったレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「世界の救世主」が史上最高額の510億円で落札されたが、今だにその絵の所有者が名乗りをあげない、所在が不明という出来事。アート界の闇を暴いたドキュメンタリーです。

 監督:アントワーヌ・ビトキーヌ、製作:ポール・ローゼンベルグ セリーヌ・ヌッセ、撮影:グザビエ・リバーマン、編集:イバン・ドゥムランドル タニア・ゴールデンバーグ、音楽:ジュリアン・ドゥギン

物語は

ある美術商が名もなき競売会社のカタログから13万円で落札した1枚の絵。彼はロンドンのナショナル・ギャラリー接触し、その絵は専門家の鑑定を経てダ・ヴィンチの作品「世界の救世主」として展示される。

お墨付きを得たこの絵に、投資目的の大財閥や手数料を騙し取ろうとする仲介人、大衆を利用して絵の価値を釣り上げるマーケティングマン、国際政治での暗躍が噂されるサウジの王子など、それぞれ思惑を抱えた人々が世界中から集まってくる。

その一方で、「ダ・ヴィンチの弟子による作品だ」と断言する権威も出現。そしてついに510億円の出所が明かされるが、それはルーブル美術館を巻き込んだ新たな謎の始まりだった。今なお謎が深まるばかりのこの絵画にまつわる疑問をひも解いていくと共に、知られざるアート界のからくりや闇の金銭取引の実態を生々しく描き出す。(映画COMより)

ドキュメンタリーですが、ミステリアズで人間の欲や妬みを描いたエンタメ作品になっています。美術のことなんか何にも考えないでたっぷりと楽しめます!

ダ・ヴィンチ作品だからこその展示美術館、その美術館周辺の風景、エーゲ海に浮かぶ豪華ヨットとパリのホテルを繋ぐ売買交渉現場、発展途上のサウジの風景などの映像をたっぷりと見せながら、絵画「世界の救世主」が旅する物語。映像がとても美しい!

隠し撮りされて、まさかレオナルド・ディカプリオが出てくるとは思わなかった!(笑)“レオナルド”絡みで見に行ったのですかね!


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意):

2005年、ルイジアナの小さな美術商のロバート・サイモンは、主が亡くなり売り出され絵がダ・ヴィンチの“救世主”の構図が似ていて、ダ・ヴィンチというサインも付いており、「もしかしたら!」と1175ドルで購入した。

この絵をベテランのダイアン・モデスティーニ女史に洗浄、修復を託した。洗浄すると別のところに右手が描かれているのが発見され、右手はダ・ヴィンチが書き直したと考えて、「この絵は本物だ!」と思ったという。

2年間修復にかけて世に出そうとしたとき、イギリスのナショナル・ギャラリーで「ダ・ヴィンチ展」があることを知り、館長のルーク・サイソンに“救世主”の話をした。

2008、ルークは早速NYを尋ね、絵を見て「ひどく損傷を受けているが、存在感が凄い!」ということで、専門家に真偽を聞くことにした。

2009、“救世主”はNYからロンドンに空輸された。

 5人の専門家が真偽を論議したがマーティン・ケンプ、オックスフォード大学美術史家のみが「絵の履歴がないが目で判断して本物」と立場を明らかにしたが、他は態度が曖昧だった。

2009年11月9日、ダ・ヴィンチ15品中9品が展示されるなかで「世界の救世主」が展示された。サイモンは「まさか!」と思ったという。

作品を見た研究者・マシュー・ランドルス、フオックスフォード大学美術史家は「絵の帰属判定が少人数で閉鎖的に行われたことは、普通では考えられない」と疑問に思った。また「ホラーが作ったどの救世主の模写か?」という意見も出てきた。ルークは「ホラーは決定的な根拠にはならない」と楽観視していたが、ランドルスは「ルークは先鋭的な学芸員を狙っているから」と批判的だった。

ニューヨークタイムの記者スコット・レイバーンが「学者はちゃんと答えをだせ!」と記事にした。

展示会が終って「救世主」はニューヨークに戻された

展示会を終えて2011年まで、サイモンのところに絵の聞き合わせはなかったという。彼は「絶対という根拠がない」からだろうと考えていた。

サイモンに修復や保険などに詳しい美術商ローレン・アデルソンが協力することになった。アデルソンは「本物だ!」と1億8000万ドルで交渉を考えていた。

オークション大手のサザビーズファランスのニコラ・ジョリ元副社長は「塗重ねが激しいので買う気にならなかった」と述懐した。

アデルソンはバチカンと交渉したが断られたという。

2012、アデルソンのところに全くその筋でない人から「買いたい」と連絡が入った。相手はロシアの新興財団イルガルのオーナー:ドミトリー・リボロフレフ。彼に右腕と言われるイヴの仲介によるものだった

リボロフレフはソ連崩壊時にカリウムの鉱山を買って財をなした男。鉱山事故で会社を売り、80億ドルを持っモナコに拠を構え、絵画を集めていた。一方、イヴは小さな船舶運送会社を始めて美術品運送屋になったという人物。ジュネーブの自由港に倉庫を持ち、ここに貴重品を秘匿し無税で保管できるという。イヴはオークション会社サザビーズを利用していた。

2013年、3月。アデルソンとイヴがニューヨークで接触。絵の写真だけで交渉した。リボロフレフの購入目的は“自分のために持つ”。価格は1億3000万ドルというものだった。細部はパリで交渉することになった。

イヴはエーゲ海のヨットにいるリボロフレフの秘書ミハイルと連絡を取りながら、アデルソンとの直接交渉はJ=M・A・プレッツィ、元カジノオーナーに行わせることした。場所はパリ、ホテル・プラザ・アテネ

ミハイルから1億2000万ドルに下げろという指示がきた。プレッツィは8800ドルで交渉を終えた。イヴは4400万ドルをポケットに入れた。

 ここはとてもスリリングなシーンで、かつ、エーゲ海とホテルの映像が美しい!

「救世主」はニューヨークからシンガポールのイヴの倉庫に移送されたここにリボロフレフの隠し専用部屋があった。

2014、レイバーン記者がサイモンのサイトを見ると「救世主」が消えていることに気付いた。しかし、どこに売ったかが分からなかった。レイバーン記者は知合いから推定値段は8000万ドルと聞いて、「救世主」は8000万ドルで売却されたと記事を書いた。

この記事を目にしたリボロフレフは弁護士を使ってイヴと交渉したが、この世界はイブのやり方が通る世界だった。

2016、クリスティーズ共同代表のロイクは・クゼールが「名画があれば即金で買う」というキャンペーンをやっていた。クゼールの専門は現代アートだった。そこにリボロフレフの新たな側近サンディ・ハラーが接近してきた。

クゼールは「救世主」を現代アート”“として展示することにした。この際、徹底して真偽を問われないよう必要なものは隠し処置した。

「救世主」はシンガポールからニューヨークに移送された

展示会では見たこともない光景、長い列ができ、あらゆる階層の人が訪れた。絵の後ろにカメラを配置して鑑賞者の表情を撮ってCMを作った。この映像の中にレオナルド・ディカプリオがいた。(笑)

「救世主」を神として涙するものが現れという盛況で、展示会は成功裏に終わった。

2017年、11月。クリスティーズによって最後のダ・ヴィンチ作「世界の救世主」としてオークションにかけられた。4億ドルで落札された。すざましい買いっぷりだったという。しかし、誰が買ったのかが明かされなかった。アマゾンCEOのジェフ・ベゾス文化芸術の中心になりたがっている中国と噂されていた。

このころ長い車列がアラビア砂漠の古都アル・ウラに向かっていた。サウジの皇太子ムハンド・ビン・サルヤーン(MBSは「中東は新しいヨーロッパになる」という国家戦略を掲げて動いていた。この映像がうつくしい。「アラビアのロレンス」以上です。(笑)

2017年12月6日、ニューヨークタイムス紙に「“救世主”の謎の購入者はサウジの王子パドル文化相」と掲載された。

レイバーン記者は「ポスト石油時代に向けた革命的はサウジの“ビジョン2030”にあるアル・ラウ遺跡の観光化、美術館群の建設からこう考え、アリア・アル・セヌーシ王女(バドル王子の顧問)にインタヴューを行なった。王女は自分は関わってないと言いながら、フランス国立美術館代表クリス・サルコンを相談役に迎えていた。

2018年、春ガーデアン紙が「救世主はほぼダ・ヴィンチの工房の製作だ」と言い出した。ランドルスが「レオナルドではなく弟子のベルナルディー・ルイニーだ」と主張しだした。この記事でランドルスは国家反逆者だと脅しを掛けられたという。CBCは「サウジの狙いは男性のモナリザを所有することだ」と報じていた。

クリスティーズの役員アンヌ・ラムにエールは「金はすぐに払い込まれたと聞いている」と証言している。

2018年4月MBSマクロン大統領の間で協議し、アル・ウラ開発でさらなる関係強化を図ることが決まった。これに基づき、MBSのスタッフとルーブル美術館館長マルディネスとの間で「世界の救世主」の展示開催が決まった。

「世界の救世主」はニューヨークからパリに空輸さ、れ厳重警戒の中でルーブル美術館に搬入された

ルーブル美術館「世界の救世主」を徹底的に調査した。そしてサウジに「レオナルドが貢献したことは間違いない」と告げた。このことをサルコンが認めている。

マクロン大統領はフランス政府高官“ジャック”から「サウジの条件で展示すれば4億5000万ドルの資金洗浄をすることになる。これは国家の信頼性に関わる問題でルーブルにどこの国も絵を貸してくれなくなる。ナショナル・ギャラリーは軽率であった。目先の利益に捉われ過ぎた」という意見を聞いて、解決を文化相に任せた。展示を巡ってルーブルとサウジの間で交渉が続いた。サルコンは「サウジは偽物を掴まされたと言われるのを恐れた」という。

ルーブルの展示会が始まったがそこに「世界の救世主」はなかった。

館員に絵の所在を質すと「所有者から貸されるはずでした。他は知りません」「絵があってもなくても問題はない、我々は言いたいことを言った」という。

展示会は2020年2月までで、100万人以上の来館者、ナショナル・ギャラリーの2倍であった。

2021年になって問題が再燃しだした展示会の閉幕後ルーブルは研究本で「絵は完全にダ・ヴィンチのものであった」と主張。この研究本はスポンサーのMBSだけが所有している。アル・ウラ協定によりサウジはルーブルに資金を提供することになった。

「世界の救世主」の行方は今だ知れず、サウジの美術館で展示されるのか?

サルコンは「いずれかの銀行の貸金庫かMBSのヨットだろう。本物でないという学者を招いて、調査結果とともに公開すべきだ!それ文化だ」と主張している。

ふたりの美術商、サイモンとアデルソンは「美しい絵だ、しかし美術界のことだから」と笑って言葉を濁した。

まとめ:

ロシアの新興財団オーナー:リボロフレフが「世界の救世主」を手にするまでのプロセス。カジノの元オーナー・プレッツィを使って予定額より4400万ドル安値で買って、仲介者のイヴがその差額を懐に入れるというシーンは最高のミステリーだった。

ふんだんに金を使って買いたい絵を買う富豪家、これにたかる仲介屋。さらに絵の真偽を巡って暗躍する専門家。私には無縁のすごい「欲と金の世界だ!」と思った。

コピーですが平山郁夫の一枚の絵があれば十分です!

真偽が分からない「救世主」を“現代アート“として展示会を開き、鑑賞に訪れたレオナルド・ディカプリオの表情を盗み撮りしてCMで流し、オークションを開き4億ドルで落札させたというクリスティーズのクビールの手腕も見事だった。

「世界の救世主」を政治目的で購入したサウジの皇太子MBSこの絵をモナリザと並べてリーブル美術館で展示し、その存在感で世界の文化国家に仲間入りしようという企み。

「展示されなかった」、ルーブル美術館ダ・ヴィンチの名誉を守ったと思います。ダ・ヴィンチは微笑んでいるのではないでしょうか!

未だに「「世界の救世主」の所在が分からない、真偽が分からない。しかし、ここまでくればどちらでもいい、真偽などには関係なくこの絵に涙する人がいる。この絵には真意がわからない故の無限の価値があるように思え、早く公開されて、「観たい!」と思います。

                *****

「窓辺にて」(2022)決してダメな男ではない、その優しさに心打たれます!

遅れましたが、今泉力監督作品を鑑賞することができました。どこでもある平凡な生活の中で描かれるダメ恋愛劇。胸に刺さる会話とユーモアのある描写で、観る人を力づけてくれる作風が好きで、楽しみにしていました。

今回は妻が浮気しているのに、ショックを受けないで、怒りが一切ないという男(45歳)の顛末を描くというもの。この歳をとっくに過ぎましたが、こんなバカなこの男、なぜこうなったかと彼が採った結末を観ることにしました。(笑)

監督・脚本今泉力哉撮影:四宮秀俊、照明:秋山恵二郎、録音:弥栄裕樹、美術:中村哲太郎、編集:相良直一郎、音楽:池永正二、主題歌:スカート。

出演者:稲垣吾郎中村ゆり玉城ティナ若葉竜也志田未来、倉悠貴、他。

稲垣さんと監督の初タッグ作品。オリジナル脚本で主人公を稲垣さんにアテガキということで、稲垣さんの演技が楽しめます。

物語は

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している人気若手作家の荒川円(佐々木詩音)と浮気していることに気づいていたが、それを妻に言い出すことができずにいた

その一方で、茂巳は浮気を知った時に自身の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。そんなある日、文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)に出会った市川は、彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、その小説にモデルがいるのなら会いたいと申し出た。

茂己は瑠亜の小説モデルの水木優二(倉悠貴)、カワナベ(斉藤陽一郎)、さらに友人でスポーツ選手の有坂正嗣(若葉竜也)と交わる中で“芽生えた感情”を自覚し、結婚生活を見直すというハートフルな物語。

物語は市川夫婦、友人の有坂夫婦そして瑠亜と恋人優二の3組の世代が違う“別れるかもしれない”カップルの“好きという感情”、“別れるという重み”を会話を通して描いてくれます。

背景のカフェや街の風景、音楽で、長尺ですが決して飽きない、じっくりと映画の中に入り込んで楽しめます。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

冒頭、カフェで茂己が荒川(33歳)の小説を読み、水飲み用グラスの底に窓から差し込む光を集めて自分の手に当てて結婚指輪をみるシーンから物語が始まります。これがラストでどうなるかという面白い導入部になっています。

茂己はトレーニングジムで友人の正嗣に会った。彼は怪我でリハビリ中。寿司屋で彼の悩み「辞めるという決心はなかなかつかないが1年で辞める。しかし、妻には言い出せない」を聞いた。辞めるという言葉が、妻との関係をどうするかと、茂己には大きくのしかかってくる。

茂己と紗衣の関係は表面上が穏やかなものだか殆ど言葉はない。ふたりが一緒にご飯を食べることはない。

有田十三文学賞の受賞式。高校生の天才小説家・父母瑠亜が選ばれ、荒川は落選だった。

記者会見で茂己が「恋人をすぐに手放すという感覚」についって質問。これは茂己自身の問題であったのだか、紗衣からは明確な回答がなかった。が、控室に呼ばれ「会わせましょう」と約束してくれた。「恋人を手放す」というところで、ふたりには魅かれるものがあった。

茂己はカフェで瑠亜に会った。パフェを注文して、「パーフェクトがパフェの言語、パフェは完全ではないが好き!」「誰にも相談できないことがあるの」と聞く瑠亜、大人のようで子供、掴みどころのない女!ティナさんが上手く演じてくれます。茂己は瑠亜の彼氏・優二に会うことになった。

正嗣には妻とは別にモデルの彼女・なつ(穂志もえか)がいた。ここが面白いところで、なつには「1年で選手を辞める、妻には生活があるから言えない」と伝えた。彼女はこの言葉に喜ぶが「奥さんに伝えるべきだ。私はMax焼肉でいい」で言う。(笑)

茂己が瑠亜の案内で優二に会った。金髪の男で髪のことで瑠亜と揉める。一段落あって、優二は茂己が小説家だったと知って警戒心を示す。瑠亜の提案で優二が運転するオートバイに乗せられ、街中を走った。オートバイで走り心が解放される瞬間を味わった。

この後、カフェで瑠亜が「あいつが私を好きだと分かってよかった」という。瑠亜と優二の愛しかたはこういうことらしい。(笑)

瑠亜が「何で小説家を辞めた」と聞く。茂己は「書いて残して置きたかっただけ、人に理解されないとか失望されるのがいやだった」と話した。瑠亜は「書くことが相手に繋がる、理解される」という。この指摘に茂己はグラスで窓の光を自分の指に当てて、俺を分かるやつがいると、指にできる光のリンクを見た。

茂己が義母の三輪ハル(松金よね)を尋ね、ふたりでケーキを食べて、茂己がしっかりハルの写真を撮った。

紗衣と荒川がベッドを共にしていた。荒川が紗衣に茂己に分かれてくれと言うが紗衣は拒否し、身体を与えていた。荒川は「市川さんが小説を書いたらこんな関係にはならなかった」という。ここはとてもよくふたりの関係が分かるシーンでしたね!

茂己は瑠亜とともに瑠亜の叔父・カワナベが経営する山小屋を訪ねた。カワナベはここでホームレスのような生活をしていた。彼は「TVの仕事に関わっていたが、次から次へと作るシステムに嫌気がさした。辞めるときは何かを手にすることだ」と言う。茂己は、自分が小説を書くのをやめた理由に似ていると、「妻の浮気を知ってもショックを受けない。このことがショックで妻にしてやれることは何かと考えている」と悩みを打ち明けると、「色恋の話は私には分からない、あなたは人を見下しているから相談できない、誰かいないの?」と応えた。

茂己は友人の正嗣を彼の自宅に訪ね「妻と別れたい」と相談をした。すると傍で聞いていた正嗣の妻・ゆきの(志田未来)に「紗衣さんが可哀そうだ、あなたにも責任がある」と叱責され、追い出された。(笑)

正嗣は“なつ”を焼き鳥店に誘って「妻が分かれるといったらチャンスだ」という。(笑)なつは「焼き鳥で十分」と言いながら、正嗣の要求に応えていた。なつのこの”好き”加減がいいね!(笑)

正嗣の浮気が妻のゆきのの耳に入ってきた。(笑)ゆきのは茂己のマンションを尋ね相談をした。ゆきのが「正嗣が好きだ」というので、茂己は「温泉でも行って話し合ってみたら」と紗衣と行く予定だったクーポンを譲った。自分のことは分からないが他人のことは分かるらしい。(笑)

夜、書店で荒川の小説の評判をチェックして帰宅した紗衣が「私は生きていて何かに役立っているのかな!私は小説好きであなたの才能を潰した!」と茂己に話し掛けた。茂己は「別れたい!」と切り出した。紗衣は「別れたくない」というが「浮気が赦せない」と明かした。「本当のことを言って」と聞くから「好きという気持ちが他の人のように存在しない。それがショックなんだ。俺は人のことを考えられない冷たい人間だ。俺が誰かのために役に立つことがあるのかと苦しくなる」と答えた。紗衣が「私のため!」と聞いたが「俺のためだ」と答えた。紗衣のボタンの取れたシャツを償う茂己を見て「役に立ってる!」と紗衣は泣いた。

有坂夫婦は家族で温泉旅行に出かけて、とても楽しかったようだ。

茂己はタクシー運転手に「パチンコは時間と金を浪費する最高の贅沢だ」と教えられ、パチンコ店に寄って始めたが、意に反してぼろ儲けしているところに、瑠亜から呼び出しを受けた。(笑)

瑠亜を訪ねるとそこはラブホテルだった紗衣は「小説を書くためにここを使っている」と言い、「優二がコンビニの女の子が出来たので別れると言ってきた」と泣く。「朝まで一緒につき合って」とトランプをしながら、「妻と別れることにした」と話すと「小説にそのネタ使わして!」という。こうして一夜を過ごし朝、目覚めた紗衣はシャワーを浴びると言い出し、茂己の様子を見る。茂己はベットで毛布にくるまって寝ていた。(笑)そこに荒川から携帯で呼び出しが掛かってきた。

茂己は荒川とカフェで会った。荒川が「ふたりの関係を書いた。貴方が書かなくなった理由が分かった。書くと過去になってしまうからでしょう。自分が書いてみて分かった」と描き上げたばかりの原稿が茂己に渡した。「ただでは貰えない」と金を払った。

荒川の新作小説はTVでも取り上げられ大評判となった。このニュースを紗衣は母親のところでおにぎりを食べながら観ていた。(笑)茂己が撮った母親の写真を眺めて・・・。

茂己はカフェで瑠亜から渡された小説を読んでいると、そこに優二が「別れたと聞いた」とやってきた。「瑠亜は泣いていたぞ!」と話すと「それは聞いてない」と言い「その本はHの表現が過激だ」という。さらに「不倫は嫌だ、不倫された男が何も感じない、SFみたいな話だ」という。(笑)

「瑠亜はこの本を俺に渡して消えたのはどういう意味か?やり直したいということか?分からない」と聞く。茂己は「やり直したいんだよ」と答えると、優二は嬉しそうに「コンビニなんかに女はいない」と携帯を取り出し外に出て行った。(笑)

茂己は窓から入る光をグラスの底に集めて、自分の指に写してみた。そこに指輪はなかったが光輝いていた

まとめ:

物語は市川夫婦、友人の有坂夫婦そして瑠亜と恋人優二の、3組の世代が違う“別れるかもしれない”カップル。「別れる」「現状維持」「くっつく」とそれぞれの結果がでました。

茂己は紗衣を好きで一緒になったが、歳を重ねるにつれ、自分らしく生きようとして、それが紗衣の思いと違ってきた。紗衣への思いやり、痛みを与えたくない思いが強すぎて会話がなくなっていた。

茂己の生き方はカワナベのいう次から次へと作品を作るシステムについて行けない。現代人の悩みかもしれませんね!

役に立たないというが、有坂夫婦の危機、世間知らずの瑠亜と優二の危機を救いました。カワナベとは違う。この優しさがいい。

有坂夫婦は、正嗣のスポーツ選手としてのプライドで引退を妻に言い出せなかったことが、二人の間を危ないものにしたが、茂己の好意とゆきの毅然たる“好き”という意思で、救われました。

瑠亜と優二の恋愛関係は、常にサプライズ(傷つける)で相手に好きを試すという宇宙人時代の関係でした。茂己もこのサプラズの洗礼を受けて、変わっていくんでしょうね!(笑)

いづれにしても常に好きを確認する作業が大切ですね!時に痛みを与えることも忘れてはいけない。

稲垣さんのアテガキ茂己の演技。穏やかで優しそうで知的でどこか謎めいている演技、見事でした。

どの俳優さんの演技も自然で、物語によくなじんでいましたが、王城ティナさんの少女のようで大人の会話、ミステリアスで物語を面白してくれ楽しめました。

人と人の関係が濃厚に会話で描かれ、そこに隠された宝物を探すような作品でした。

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