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「窓辺にて」(2022)決してダメな男ではない、その優しさに心打たれます!

遅れましたが、今泉力監督作品を鑑賞することができました。どこでもある平凡な生活の中で描かれるダメ恋愛劇。胸に刺さる会話とユーモアのある描写で、観る人を力づけてくれる作風が好きで、楽しみにしていました。

今回は妻が浮気しているのに、ショックを受けないで、怒りが一切ないという男(45歳)の顛末を描くというもの。この歳をとっくに過ぎましたが、こんなバカなこの男、なぜこうなったかと彼が採った結末を観ることにしました。(笑)

監督・脚本今泉力哉撮影:四宮秀俊、照明:秋山恵二郎、録音:弥栄裕樹、美術:中村哲太郎、編集:相良直一郎、音楽:池永正二、主題歌:スカート。

出演者:稲垣吾郎中村ゆり玉城ティナ若葉竜也志田未来、倉悠貴、他。

稲垣さんと監督の初タッグ作品。オリジナル脚本で主人公を稲垣さんにアテガキということで、稲垣さんの演技が楽しめます。

物語は

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者である妻・紗衣(中村ゆり)が担当している人気若手作家の荒川円(佐々木詩音)と浮気していることに気づいていたが、それを妻に言い出すことができずにいた

その一方で、茂巳は浮気を知った時に自身の中に芽生えたある感情についても悩んでいた。そんなある日、文学賞の授賞式で高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)に出会った市川は、彼女の受賞作「ラ・フランス」の内容に惹かれ、その小説にモデルがいるのなら会いたいと申し出た。

茂己は瑠亜の小説モデルの水木優二(倉悠貴)、カワナベ(斉藤陽一郎)、さらに友人でスポーツ選手の有坂正嗣(若葉竜也)と交わる中で“芽生えた感情”を自覚し、結婚生活を見直すというハートフルな物語。

物語は市川夫婦、友人の有坂夫婦そして瑠亜と恋人優二の3組の世代が違う“別れるかもしれない”カップルの“好きという感情”、“別れるという重み”を会話を通して描いてくれます。

背景のカフェや街の風景、音楽で、長尺ですが決して飽きない、じっくりと映画の中に入り込んで楽しめます。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

冒頭、カフェで茂己が荒川(33歳)の小説を読み、水飲み用グラスの底に窓から差し込む光を集めて自分の手に当てて結婚指輪をみるシーンから物語が始まります。これがラストでどうなるかという面白い導入部になっています。

茂己はトレーニングジムで友人の正嗣に会った。彼は怪我でリハビリ中。寿司屋で彼の悩み「辞めるという決心はなかなかつかないが1年で辞める。しかし、妻には言い出せない」を聞いた。辞めるという言葉が、妻との関係をどうするかと、茂己には大きくのしかかってくる。

茂己と紗衣の関係は表面上が穏やかなものだか殆ど言葉はない。ふたりが一緒にご飯を食べることはない。

有田十三文学賞の受賞式。高校生の天才小説家・父母瑠亜が選ばれ、荒川は落選だった。

記者会見で茂己が「恋人をすぐに手放すという感覚」についって質問。これは茂己自身の問題であったのだか、紗衣からは明確な回答がなかった。が、控室に呼ばれ「会わせましょう」と約束してくれた。「恋人を手放す」というところで、ふたりには魅かれるものがあった。

茂己はカフェで瑠亜に会った。パフェを注文して、「パーフェクトがパフェの言語、パフェは完全ではないが好き!」「誰にも相談できないことがあるの」と聞く瑠亜、大人のようで子供、掴みどころのない女!ティナさんが上手く演じてくれます。茂己は瑠亜の彼氏・優二に会うことになった。

正嗣には妻とは別にモデルの彼女・なつ(穂志もえか)がいた。ここが面白いところで、なつには「1年で選手を辞める、妻には生活があるから言えない」と伝えた。彼女はこの言葉に喜ぶが「奥さんに伝えるべきだ。私はMax焼肉でいい」で言う。(笑)

茂己が瑠亜の案内で優二に会った。金髪の男で髪のことで瑠亜と揉める。一段落あって、優二は茂己が小説家だったと知って警戒心を示す。瑠亜の提案で優二が運転するオートバイに乗せられ、街中を走った。オートバイで走り心が解放される瞬間を味わった。

この後、カフェで瑠亜が「あいつが私を好きだと分かってよかった」という。瑠亜と優二の愛しかたはこういうことらしい。(笑)

瑠亜が「何で小説家を辞めた」と聞く。茂己は「書いて残して置きたかっただけ、人に理解されないとか失望されるのがいやだった」と話した。瑠亜は「書くことが相手に繋がる、理解される」という。この指摘に茂己はグラスで窓の光を自分の指に当てて、俺を分かるやつがいると、指にできる光のリンクを見た。

茂己が義母の三輪ハル(松金よね)を尋ね、ふたりでケーキを食べて、茂己がしっかりハルの写真を撮った。

紗衣と荒川がベッドを共にしていた。荒川が紗衣に茂己に分かれてくれと言うが紗衣は拒否し、身体を与えていた。荒川は「市川さんが小説を書いたらこんな関係にはならなかった」という。ここはとてもよくふたりの関係が分かるシーンでしたね!

茂己は瑠亜とともに瑠亜の叔父・カワナベが経営する山小屋を訪ねた。カワナベはここでホームレスのような生活をしていた。彼は「TVの仕事に関わっていたが、次から次へと作るシステムに嫌気がさした。辞めるときは何かを手にすることだ」と言う。茂己は、自分が小説を書くのをやめた理由に似ていると、「妻の浮気を知ってもショックを受けない。このことがショックで妻にしてやれることは何かと考えている」と悩みを打ち明けると、「色恋の話は私には分からない、あなたは人を見下しているから相談できない、誰かいないの?」と応えた。

茂己は友人の正嗣を彼の自宅に訪ね「妻と別れたい」と相談をした。すると傍で聞いていた正嗣の妻・ゆきの(志田未来)に「紗衣さんが可哀そうだ、あなたにも責任がある」と叱責され、追い出された。(笑)

正嗣は“なつ”を焼き鳥店に誘って「妻が分かれるといったらチャンスだ」という。(笑)なつは「焼き鳥で十分」と言いながら、正嗣の要求に応えていた。なつのこの”好き”加減がいいね!(笑)

正嗣の浮気が妻のゆきのの耳に入ってきた。(笑)ゆきのは茂己のマンションを尋ね相談をした。ゆきのが「正嗣が好きだ」というので、茂己は「温泉でも行って話し合ってみたら」と紗衣と行く予定だったクーポンを譲った。自分のことは分からないが他人のことは分かるらしい。(笑)

夜、書店で荒川の小説の評判をチェックして帰宅した紗衣が「私は生きていて何かに役立っているのかな!私は小説好きであなたの才能を潰した!」と茂己に話し掛けた。茂己は「別れたい!」と切り出した。紗衣は「別れたくない」というが「浮気が赦せない」と明かした。「本当のことを言って」と聞くから「好きという気持ちが他の人のように存在しない。それがショックなんだ。俺は人のことを考えられない冷たい人間だ。俺が誰かのために役に立つことがあるのかと苦しくなる」と答えた。紗衣が「私のため!」と聞いたが「俺のためだ」と答えた。紗衣のボタンの取れたシャツを償う茂己を見て「役に立ってる!」と紗衣は泣いた。

有坂夫婦は家族で温泉旅行に出かけて、とても楽しかったようだ。

茂己はタクシー運転手に「パチンコは時間と金を浪費する最高の贅沢だ」と教えられ、パチンコ店に寄って始めたが、意に反してぼろ儲けしているところに、瑠亜から呼び出しを受けた。(笑)

瑠亜を訪ねるとそこはラブホテルだった紗衣は「小説を書くためにここを使っている」と言い、「優二がコンビニの女の子が出来たので別れると言ってきた」と泣く。「朝まで一緒につき合って」とトランプをしながら、「妻と別れることにした」と話すと「小説にそのネタ使わして!」という。こうして一夜を過ごし朝、目覚めた紗衣はシャワーを浴びると言い出し、茂己の様子を見る。茂己はベットで毛布にくるまって寝ていた。(笑)そこに荒川から携帯で呼び出しが掛かってきた。

茂己は荒川とカフェで会った。荒川が「ふたりの関係を書いた。貴方が書かなくなった理由が分かった。書くと過去になってしまうからでしょう。自分が書いてみて分かった」と描き上げたばかりの原稿が茂己に渡した。「ただでは貰えない」と金を払った。

荒川の新作小説はTVでも取り上げられ大評判となった。このニュースを紗衣は母親のところでおにぎりを食べながら観ていた。(笑)茂己が撮った母親の写真を眺めて・・・。

茂己はカフェで瑠亜から渡された小説を読んでいると、そこに優二が「別れたと聞いた」とやってきた。「瑠亜は泣いていたぞ!」と話すと「それは聞いてない」と言い「その本はHの表現が過激だ」という。さらに「不倫は嫌だ、不倫された男が何も感じない、SFみたいな話だ」という。(笑)

「瑠亜はこの本を俺に渡して消えたのはどういう意味か?やり直したいということか?分からない」と聞く。茂己は「やり直したいんだよ」と答えると、優二は嬉しそうに「コンビニなんかに女はいない」と携帯を取り出し外に出て行った。(笑)

茂己は窓から入る光をグラスの底に集めて、自分の指に写してみた。そこに指輪はなかったが光輝いていた

まとめ:

物語は市川夫婦、友人の有坂夫婦そして瑠亜と恋人優二の、3組の世代が違う“別れるかもしれない”カップル。「別れる」「現状維持」「くっつく」とそれぞれの結果がでました。

茂己は紗衣を好きで一緒になったが、歳を重ねるにつれ、自分らしく生きようとして、それが紗衣の思いと違ってきた。紗衣への思いやり、痛みを与えたくない思いが強すぎて会話がなくなっていた。

茂己の生き方はカワナベのいう次から次へと作品を作るシステムについて行けない。現代人の悩みかもしれませんね!

役に立たないというが、有坂夫婦の危機、世間知らずの瑠亜と優二の危機を救いました。カワナベとは違う。この優しさがいい。

有坂夫婦は、正嗣のスポーツ選手としてのプライドで引退を妻に言い出せなかったことが、二人の間を危ないものにしたが、茂己の好意とゆきの毅然たる“好き”という意思で、救われました。

瑠亜と優二の恋愛関係は、常にサプライズ(傷つける)で相手に好きを試すという宇宙人時代の関係でした。茂己もこのサプラズの洗礼を受けて、変わっていくんでしょうね!(笑)

いづれにしても常に好きを確認する作業が大切ですね!時に痛みを与えることも忘れてはいけない。

稲垣さんのアテガキ茂己の演技。穏やかで優しそうで知的でどこか謎めいている演技、見事でした。

どの俳優さんの演技も自然で、物語によくなじんでいましたが、王城ティナさんの少女のようで大人の会話、ミステリアスで物語を面白してくれ楽しめました。

人と人の関係が濃厚に会話で描かれ、そこに隠された宝物を探すような作品でした。

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