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「ダ・ヴィンチは誰に微笑む」(2021)ドキュメンタリーだが、ミステリアスに美術界の闇を描きだしたエンタメ作品!

発見されたときは13万円だったレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画「世界の救世主」が史上最高額の510億円で落札されたが、今だにその絵の所有者が名乗りをあげない、所在が不明という出来事。アート界の闇を暴いたドキュメンタリーです。

 監督:アントワーヌ・ビトキーヌ、製作:ポール・ローゼンベルグ セリーヌ・ヌッセ、撮影:グザビエ・リバーマン、編集:イバン・ドゥムランドル タニア・ゴールデンバーグ、音楽:ジュリアン・ドゥギン

物語は

ある美術商が名もなき競売会社のカタログから13万円で落札した1枚の絵。彼はロンドンのナショナル・ギャラリー接触し、その絵は専門家の鑑定を経てダ・ヴィンチの作品「世界の救世主」として展示される。

お墨付きを得たこの絵に、投資目的の大財閥や手数料を騙し取ろうとする仲介人、大衆を利用して絵の価値を釣り上げるマーケティングマン、国際政治での暗躍が噂されるサウジの王子など、それぞれ思惑を抱えた人々が世界中から集まってくる。

その一方で、「ダ・ヴィンチの弟子による作品だ」と断言する権威も出現。そしてついに510億円の出所が明かされるが、それはルーブル美術館を巻き込んだ新たな謎の始まりだった。今なお謎が深まるばかりのこの絵画にまつわる疑問をひも解いていくと共に、知られざるアート界のからくりや闇の金銭取引の実態を生々しく描き出す。(映画COMより)

ドキュメンタリーですが、ミステリアズで人間の欲や妬みを描いたエンタメ作品になっています。美術のことなんか何にも考えないでたっぷりと楽しめます!

ダ・ヴィンチ作品だからこその展示美術館、その美術館周辺の風景、エーゲ海に浮かぶ豪華ヨットとパリのホテルを繋ぐ売買交渉現場、発展途上のサウジの風景などの映像をたっぷりと見せながら、絵画「世界の救世主」が旅する物語。映像がとても美しい!

隠し撮りされて、まさかレオナルド・ディカプリオが出てくるとは思わなかった!(笑)“レオナルド”絡みで見に行ったのですかね!


www.youtube.com

あらすじ&感想(ねたばれ:注意):

2005年、ルイジアナの小さな美術商のロバート・サイモンは、主が亡くなり売り出され絵がダ・ヴィンチの“救世主”の構図が似ていて、ダ・ヴィンチというサインも付いており、「もしかしたら!」と1175ドルで購入した。

この絵をベテランのダイアン・モデスティーニ女史に洗浄、修復を託した。洗浄すると別のところに右手が描かれているのが発見され、右手はダ・ヴィンチが書き直したと考えて、「この絵は本物だ!」と思ったという。

2年間修復にかけて世に出そうとしたとき、イギリスのナショナル・ギャラリーで「ダ・ヴィンチ展」があることを知り、館長のルーク・サイソンに“救世主”の話をした。

2008、ルークは早速NYを尋ね、絵を見て「ひどく損傷を受けているが、存在感が凄い!」ということで、専門家に真偽を聞くことにした。

2009、“救世主”はNYからロンドンに空輸された。

 5人の専門家が真偽を論議したがマーティン・ケンプ、オックスフォード大学美術史家のみが「絵の履歴がないが目で判断して本物」と立場を明らかにしたが、他は態度が曖昧だった。

2009年11月9日、ダ・ヴィンチ15品中9品が展示されるなかで「世界の救世主」が展示された。サイモンは「まさか!」と思ったという。

作品を見た研究者・マシュー・ランドルス、フオックスフォード大学美術史家は「絵の帰属判定が少人数で閉鎖的に行われたことは、普通では考えられない」と疑問に思った。また「ホラーが作ったどの救世主の模写か?」という意見も出てきた。ルークは「ホラーは決定的な根拠にはならない」と楽観視していたが、ランドルスは「ルークは先鋭的な学芸員を狙っているから」と批判的だった。

ニューヨークタイムの記者スコット・レイバーンが「学者はちゃんと答えをだせ!」と記事にした。

展示会が終って「救世主」はニューヨークに戻された

展示会を終えて2011年まで、サイモンのところに絵の聞き合わせはなかったという。彼は「絶対という根拠がない」からだろうと考えていた。

サイモンに修復や保険などに詳しい美術商ローレン・アデルソンが協力することになった。アデルソンは「本物だ!」と1億8000万ドルで交渉を考えていた。

オークション大手のサザビーズファランスのニコラ・ジョリ元副社長は「塗重ねが激しいので買う気にならなかった」と述懐した。

アデルソンはバチカンと交渉したが断られたという。

2012、アデルソンのところに全くその筋でない人から「買いたい」と連絡が入った。相手はロシアの新興財団イルガルのオーナー:ドミトリー・リボロフレフ。彼に右腕と言われるイヴの仲介によるものだった

リボロフレフはソ連崩壊時にカリウムの鉱山を買って財をなした男。鉱山事故で会社を売り、80億ドルを持っモナコに拠を構え、絵画を集めていた。一方、イヴは小さな船舶運送会社を始めて美術品運送屋になったという人物。ジュネーブの自由港に倉庫を持ち、ここに貴重品を秘匿し無税で保管できるという。イヴはオークション会社サザビーズを利用していた。

2013年、3月。アデルソンとイヴがニューヨークで接触。絵の写真だけで交渉した。リボロフレフの購入目的は“自分のために持つ”。価格は1億3000万ドルというものだった。細部はパリで交渉することになった。

イヴはエーゲ海のヨットにいるリボロフレフの秘書ミハイルと連絡を取りながら、アデルソンとの直接交渉はJ=M・A・プレッツィ、元カジノオーナーに行わせることした。場所はパリ、ホテル・プラザ・アテネ

ミハイルから1億2000万ドルに下げろという指示がきた。プレッツィは8800ドルで交渉を終えた。イヴは4400万ドルをポケットに入れた。

 ここはとてもスリリングなシーンで、かつ、エーゲ海とホテルの映像が美しい!

「救世主」はニューヨークからシンガポールのイヴの倉庫に移送されたここにリボロフレフの隠し専用部屋があった。

2014、レイバーン記者がサイモンのサイトを見ると「救世主」が消えていることに気付いた。しかし、どこに売ったかが分からなかった。レイバーン記者は知合いから推定値段は8000万ドルと聞いて、「救世主」は8000万ドルで売却されたと記事を書いた。

この記事を目にしたリボロフレフは弁護士を使ってイヴと交渉したが、この世界はイブのやり方が通る世界だった。

2016、クリスティーズ共同代表のロイクは・クゼールが「名画があれば即金で買う」というキャンペーンをやっていた。クゼールの専門は現代アートだった。そこにリボロフレフの新たな側近サンディ・ハラーが接近してきた。

クゼールは「救世主」を現代アート”“として展示することにした。この際、徹底して真偽を問われないよう必要なものは隠し処置した。

「救世主」はシンガポールからニューヨークに移送された

展示会では見たこともない光景、長い列ができ、あらゆる階層の人が訪れた。絵の後ろにカメラを配置して鑑賞者の表情を撮ってCMを作った。この映像の中にレオナルド・ディカプリオがいた。(笑)

「救世主」を神として涙するものが現れという盛況で、展示会は成功裏に終わった。

2017年、11月。クリスティーズによって最後のダ・ヴィンチ作「世界の救世主」としてオークションにかけられた。4億ドルで落札された。すざましい買いっぷりだったという。しかし、誰が買ったのかが明かされなかった。アマゾンCEOのジェフ・ベゾス文化芸術の中心になりたがっている中国と噂されていた。

このころ長い車列がアラビア砂漠の古都アル・ウラに向かっていた。サウジの皇太子ムハンド・ビン・サルヤーン(MBSは「中東は新しいヨーロッパになる」という国家戦略を掲げて動いていた。この映像がうつくしい。「アラビアのロレンス」以上です。(笑)

2017年12月6日、ニューヨークタイムス紙に「“救世主”の謎の購入者はサウジの王子パドル文化相」と掲載された。

レイバーン記者は「ポスト石油時代に向けた革命的はサウジの“ビジョン2030”にあるアル・ラウ遺跡の観光化、美術館群の建設からこう考え、アリア・アル・セヌーシ王女(バドル王子の顧問)にインタヴューを行なった。王女は自分は関わってないと言いながら、フランス国立美術館代表クリス・サルコンを相談役に迎えていた。

2018年、春ガーデアン紙が「救世主はほぼダ・ヴィンチの工房の製作だ」と言い出した。ランドルスが「レオナルドではなく弟子のベルナルディー・ルイニーだ」と主張しだした。この記事でランドルスは国家反逆者だと脅しを掛けられたという。CBCは「サウジの狙いは男性のモナリザを所有することだ」と報じていた。

クリスティーズの役員アンヌ・ラムにエールは「金はすぐに払い込まれたと聞いている」と証言している。

2018年4月MBSマクロン大統領の間で協議し、アル・ウラ開発でさらなる関係強化を図ることが決まった。これに基づき、MBSのスタッフとルーブル美術館館長マルディネスとの間で「世界の救世主」の展示開催が決まった。

「世界の救世主」はニューヨークからパリに空輸さ、れ厳重警戒の中でルーブル美術館に搬入された

ルーブル美術館「世界の救世主」を徹底的に調査した。そしてサウジに「レオナルドが貢献したことは間違いない」と告げた。このことをサルコンが認めている。

マクロン大統領はフランス政府高官“ジャック”から「サウジの条件で展示すれば4億5000万ドルの資金洗浄をすることになる。これは国家の信頼性に関わる問題でルーブルにどこの国も絵を貸してくれなくなる。ナショナル・ギャラリーは軽率であった。目先の利益に捉われ過ぎた」という意見を聞いて、解決を文化相に任せた。展示を巡ってルーブルとサウジの間で交渉が続いた。サルコンは「サウジは偽物を掴まされたと言われるのを恐れた」という。

ルーブルの展示会が始まったがそこに「世界の救世主」はなかった。

館員に絵の所在を質すと「所有者から貸されるはずでした。他は知りません」「絵があってもなくても問題はない、我々は言いたいことを言った」という。

展示会は2020年2月までで、100万人以上の来館者、ナショナル・ギャラリーの2倍であった。

2021年になって問題が再燃しだした展示会の閉幕後ルーブルは研究本で「絵は完全にダ・ヴィンチのものであった」と主張。この研究本はスポンサーのMBSだけが所有している。アル・ウラ協定によりサウジはルーブルに資金を提供することになった。

「世界の救世主」の行方は今だ知れず、サウジの美術館で展示されるのか?

サルコンは「いずれかの銀行の貸金庫かMBSのヨットだろう。本物でないという学者を招いて、調査結果とともに公開すべきだ!それ文化だ」と主張している。

ふたりの美術商、サイモンとアデルソンは「美しい絵だ、しかし美術界のことだから」と笑って言葉を濁した。

まとめ:

ロシアの新興財団オーナー:リボロフレフが「世界の救世主」を手にするまでのプロセス。カジノの元オーナー・プレッツィを使って予定額より4400万ドル安値で買って、仲介者のイヴがその差額を懐に入れるというシーンは最高のミステリーだった。

ふんだんに金を使って買いたい絵を買う富豪家、これにたかる仲介屋。さらに絵の真偽を巡って暗躍する専門家。私には無縁のすごい「欲と金の世界だ!」と思った。

コピーですが平山郁夫の一枚の絵があれば十分です!

真偽が分からない「救世主」を“現代アート“として展示会を開き、鑑賞に訪れたレオナルド・ディカプリオの表情を盗み撮りしてCMで流し、オークションを開き4億ドルで落札させたというクリスティーズのクビールの手腕も見事だった。

「世界の救世主」を政治目的で購入したサウジの皇太子MBSこの絵をモナリザと並べてリーブル美術館で展示し、その存在感で世界の文化国家に仲間入りしようという企み。

「展示されなかった」、ルーブル美術館ダ・ヴィンチの名誉を守ったと思います。ダ・ヴィンチは微笑んでいるのではないでしょうか!

未だに「「世界の救世主」の所在が分からない、真偽が分からない。しかし、ここまでくればどちらでもいい、真偽などには関係なくこの絵に涙する人がいる。この絵には真意がわからない故の無限の価値があるように思え、早く公開されて、「観たい!」と思います。

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