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「秒速5センチメートル」(2007)青春における特別な一瞬!

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「天気の子供」」(2019)のなかで、帆高と陽菜がホテルに泊まるシーン。監督は「北の国から87“初恋」に、人生にはこんなことがあるんだと胸が高鳴り、「秒速5センチメートル」「言の葉の庭」で繰り返し書いたと言い、「誰の人生にもそういう一瞬があるはず。その先の人生を長い間温めてくれる特別な一瞬、これを観客に経験して欲しかった」と明かしています。

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 この一瞬を味わいたくて、WOWOWで観ました。思春期の想い出に重なり、こうやって成長してきたんだな~あと感慨にふけっています!

本作品は「桜花抄」、「コスモナウト」、「秒速5センチメートル」という短編3話の連作構成で描かれ、話題のシーンは「桜花抄」に出てきます。

ストーリーはとてもシンプル。
貴樹と明里は、東京の小学校に転校してきた生徒で境遇が同じということで特別な仲であったが、小学校卒業と同時に明里は栃木へ転校。
貴樹が中学に入学して半年後の夏、明里から手紙が届く。それをきっかけに文通を重ねるようになる2人。
しかし中学1年の終わりが近づいたころに、今度は貴樹が鹿児島へ転校することが決まり、「もう二度と会えなくなるかもしれない」と貴樹は、明里に会いに行く決意をし・・・・。

前段は貴樹が明里に会いに行こうと決心するまで。大部が明里の手紙を明里のナレーションに合わせて、明里の気持ちが描かれますが、そのほとんどがふたりが共有していると思われる空や街、学校の風景描写です。味気ないほどのシンプルな描写ですが、美しい風景画がうまく間を繋いでくれます。
近藤好美さんのナレーションには、明里の方が精神的にずっと成長している感じが出ていて、とてもいい。

後段、雪が降り始めた午後、しっかり想いを伝えたいと書き留めた手紙を持って貴樹が会いに出かけます。ここからはほとんど貴樹のナレーションで明里への想いが語られます。が、映像は車窓からの雪の降る風景、走る電車、駅のホームや時刻表。貴樹はドアー寄りに立ったまま。電車は止まると時間表を見る。はやく会いたいという気持ちがよく伝わります。

雪の降り方が激しくなり、電車遅延のアナウンス。いらいらする貴樹。そんななかで、明里に渡す手紙を風に飛ばされ紛失してしまう。ついに明里は家に帰っていてくれたらと気遣い始める。

予定外の電車の遅延が、貴樹が明里のことを深く思う時間を作ったように思う。会うという行為が、手紙やメールでは得られない大きな意義を持っている。明里にとっても、じっと駅で待つという、“無駄な時間”なようで、このことがとてつもない大切な時間であったのでは。現代の人はこの時間を無くしましたね。

深夜になって、ようやく貴樹は待ち合わせの岩舟駅に到着。人気のない小さな待合室で明里は弁当を準備して待っていた。帰りの電車はなく、雪の降る中、桜の木の下で唇を重ね、近くの納屋の中で寄り添って夜を明かした。

ふたりが何を話したがなどの描写はないですが、観る人に任せるといううまい表現だと思います。

雪が止み快晴の青空。明里は「貴樹君はきっとこの先も大丈夫だと思う、絶対!」と言い、貴樹は「ありがとう」と別れた。

貴樹の手紙をなくしたことは言わなかった。貴樹は「あの日の前と後では世界の何もかもが変わってしまった気がしたからだ。彼女を守れるだけの力が欲しいと強く思った。それだけを考えながら窓の外の景色を見続けた」と述懐。

貴樹が明里に会うことで、彼女を守る力が欲しいという気持。会わなければ生まれない感情。小さな作品ですが、監督独特の美しい絵で紡がれるこの年頃の純粋な淡い恋心はなんとも懐かしい。忘れられない作品です。
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「秒速5センチメートル」予告編 HD版 (5 Centimeters per Second)