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「父親たちの星条旗」(2006)

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3月26日、この日は太平洋戦争の激戦地硫黄島で最後の突撃が行われここでの戦闘が終わった日でした。
このような激戦があったことなど忘れられようとしていますが、米国の死傷者が28,686人で日本軍の20,129人を上回ったという激戦で、米国にとっても忘れられない戦争でした。
NHKでは総合朝のニュースで現在の遺骨収集の状況を伝え、BSプレミアムで2夜にわたり「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」、いずれもクリント・イーストウッド作品を放送するという粋な計らいでした!!これを録画して観た感想です。

物語は硫黄島の擂鉢山に星条旗を打ち立てた6人の兵士の写真の真実と、戦場から生き残り米本土に帰還した3人のその後の人生を描いています。

この一枚の写真の真実を暴くことで沖縄戦の惨さを明らかにし、6人の兵士のうち生還した3人が英雄として国債募金キャンペーンに駆り出され、そこでの彼らの苦悩を描くことで英雄とはなにかを問い、二度とこんなばかげた英雄を作ってはいけないと戦争の虚しさ、国家の責任を説いています。以後、イーストウッド監督がヒーロー物語を描くのは、ここに視点があったかも知れません!

原作はジェームズ・ブラッドリー、ロン・パワーズ の小説「硫黄島星条旗」。
監督:クリント・イーストウッド、脚本:ウィリアム・ブロイレス・Jr、ポール・ハギス、撮影:トム・スターン。
製作にはスティーヴン・スピルバーグが参加していて、戦闘シーンを見ると「プライベートライアン」(1998)を思い出します!

出演者はライアン・フィリップジェシー・ブラッドフォード、アダム・ビーチ、ポール・ウォーカージョン・スラッテリーバリー・ペッパージェイミー・ベルロバート・パトリック、ニール・マクドノー、メラニー・リンスキーらです。


映画「父親たちの星条旗」日本版劇場予告

あらすじ:
キャンペーンに参加した3人のうちのひとり、今では葬儀屋を営む年老いたジョン・“ドク”・ブラッドリーが突然倒れ病床で「あいつは何処だ!」とうなされる父の言葉で、息子ジェームズ(トム・マッカーシー)が父の戦友を訪ね、父の硫黄戦の記憶を紡いでいく。
硫黄島では想像を絶する戦闘があったこと、3人の戦友と本国に帰還し“擂鉢山に星条旗を打ち立てた英雄”(写真)として持て囃され国債キャンペーンに参加したが、苦しんでいたことを知る。

この写真は最初に立てた小さな星条旗を「記念に」とスミス海兵中将が欲しがるので、大きな星条旗を立てるときに撮ったものであった。こん事実があったことに驚きでした!

星条旗を立てたメンバーはレイニー・ギャグノン(ジェシー・ブラッドフォード)の証言によるもので、これが正式メンバーとして公表された。レイニーは横着な兵士で、扱い難いと小隊長からの具申で中隊長が伝令として使っていた。擂鉢山の攻撃には参加しておらず、中隊長からの指示で大きい星条旗を持って山に登り、旗を立てることに参加したところを撮られたもので、6人全員の名前など知らずに喋ったものだった。
最初に立てたときのメンバーと混同しており、写真と名前が一致せず遺族に混乱させた。帰還して遺族に会い真実を語れないことがドクともう一人の英雄アイラ・ヘイズ (アダム・ビーチ)を苦しめた。

ドク(ライアン・フィリップ)は特に衛生兵としてまさに第一線で活躍、この山の攻撃に参加していた。「衛生兵!」と叫ぶ戦友を救えなかったことに大きな責任を感じ、なかでも大の仲良しのイギー(ジェイミー・ベル)を失ったことは自分に責任があると、英雄として持て囃されることに苦しんでいた。

一方、アイラは先住民ピマ族出で戦場では侮られないよう勇敢に戦ったが、名前を名簿に加えることを堅く断ったが、レイニーが上官に訴えたことで加えられた。

アイラは自分を戦友と認めてくれた友が亡くなり、自分には英雄などの資格はないと思っていた。それだけに、伝令で戦闘では役に立たなかったレイニーが自分を売り出すチャンスとばかりにキャンペーンリーダーを平然とやり遂げることに嫌気がさし「嘘はつけない!」と酒に溺れキャンペーンから降ろされた。

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アイラはトルーマン大統領の「原住民の力で勝てた」という握手を信じてキャンペーンに参加したが、今では墓の中で恨んでいるでしょう!ここでの、苦悩するアダム・ビーチの演技はすばらしかった!

その後のアイラは放浪生活を続け、亡き戦友の母に真実を伝えることで生涯を終えた。一方、ドクとレイニーは、あるときは「本当に英雄なのか?」と揶揄されながらも、ふたりで終戦までキャンペーン任務を続けた。この後レイニーは英雄としては忘れられ、用務員として生涯を終えた。

ドクはイギーの母親にその最期を伝え、結婚して葬儀屋を買い取り事業に成功した。しかし、決して戦争について語ることはなかった。
息子ジェームスは父の戦友から「ドクは最期まで衛生兵として戦友を救おうと奔走した。真の英雄だ!」という言葉を聞き、父はこの人たち戦友の記憶のなかに居たかったのだと思った。
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戦場と国債キャンペーンを繋ぐ演出、ソルジャー・フィールド会場で星条旗を立てるデモンストレーションでの花火や「ドク!」という歓声に、華やかなパーティで出されたデザートにかけられたストロベリーソースの真っ赤な血の色に、あの日の硫黄島戦場に戻るという演出。

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戦場で何があったか?と父たちの行動や星条旗を立てた写真の真実が明かされ、家族にどのような苦痛を与えたか、ドクとアイラの悩みが浮き彫りになっていく臨場感のある演出がすばらしかった。

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さらにラストで見せるドクの魂が戦友のところに戻っていくところは感動的でした。親父たちは危険を冒して戦ったのは戦友のためだった。国のために戦っても、死ぬのは仲間の為だった!何が英雄だ、バカタレ!

硫黄島の戦いの激しさをどう描くか。上陸作戦を艦砲射撃、上陸用舟艇の発進、海岸への達着など当時の上陸作戦様相がしっかり描かれ、規模の大きさでこれ以上の作品はないでしょう。

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日本軍の射撃を受けることなく上陸できたが、その後、秘匿され陣地から猛烈な射撃で大量の死傷者が発生し彼らで海岸埋まるという、さらに日本軍の夜襲で苦しめられ、友軍の誤射や友軍相撃でさらに死傷者ででるという、地獄の声が聞こえるような映像が硫黄島の戦闘をよく描写している。映像のなかに「味方の射撃だ!」という音声が入っているが、これによる死傷者数は無視できないのではないでしょうか。

ドクが胴体のない死骸を見て驚くシーンやアイラが擂鉢山の守備隊長・参謀の自決現場を目撃するシーンなど、戦場の惨さがよく出ていて、ドクやアイラが英雄でないと苦悩することがよく理解できたと思います。

冒頭で、少し長いナレーションでしたが、戦争における英雄と善人の見方は簡単には下せないというフレーズ。たった一枚の写真が戦争の見方を決めてしまい英雄を作るが、真実を極めず作られた英雄たちは決して幸せにはなれないと戒め、国家の責任を問う監督の覚悟が見事です。
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