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「殺人狂時代」(1947)この時代に12人の女性を殺した殺人者の方便は?

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「モダン・タイムス」(1936)「チャップリンの独裁者(1940)に次ぐチャップリン作です。NHKBSプレミアムのチャップリン特集で観賞しました。

金の為に殺人を続ける男アンリ・ヴェルドゥ(チャールズ・チャプリン)が、真相が発覚し死刑台に送られるまでの顛末を描くというもの。

無声映画からトーキー作品への変化で、チャップリンこれまでのトレードマーク、チョビ髭に山高帽にドタ靴姿を捨てて、投資家、船員などの姿で登場し、女性の騙しテクニックで笑いを取るというお喋り作品になっています。そしてそのラストは一変して、殺人者としての立派な方便をしてくれます。(笑)

監督・脚本・音楽:チャールズ・チャップリン、「撮影」:ローランド・トザロー

「キャスト」:チャールズ・チャップリン、マーサ・レイ、マディー・コレル、イゾベル・エルソム、マーガレット・ホフマン、ロバート・ルイス、マリリン・ナッシュ、他。


Charlie Chaplin - Monsieur Verdoux (Trailer)

あらすじ:

30年務めた銀行を首になり、株投資家となって病弱な妻と息子お生活を支えるアンリ・ヴェルドウ(チャールズ・チャップリン)。

フローレ家では娘のセルマがヴェルドウに騙されて行方不明と警察に届を出すという。警察は「犯人は3年間に12人の女性が消えており、この女性ではいか。すべて中年の女性で、同じ男と結婚している。船乗りか?」という。

ヴェルドウはセルマに成りすまして郵便屋から現金書留を受け取って、金を勘定する。長年銀行官だけに数えぶりが堂に入ってる。(笑)バロン証券会社からの電話に、指値で大陸ガスを500株注文を出して、金は明日送金すると約束。

ヴェルドウは不動産屋として、売家の下見にやってきた客グロネイ夫人(イソベル・エルソム)に家を売ろうと案内。が、独身で金があると見ていきなり「星座が一緒だ!」なんぞと言い出し関心を引く。が、グロネイ夫人はその気がなく帰っていった。

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ヴェルドウがパリの家具店に戻るとバロン証券から「株価暴落で5万フラン必要だ。期限はあす午前中だ!」と連絡を受けた。

5万フランの金作りに、船員服装で愛人のリディア(マーガレット・ホフマン)を訪ねる。「銀行が潰れる。金を降ろした方が良い」と嘘ついて降ろさせ、これを奪ってドロン!(笑) 最近頻発する事件に似ていますね!(笑)

久しぶりにトランクを持って紳士となり結婚10周年だと家族の元に帰り、金を渡して妻・リナ(マディ・コレル)を労わる。新聞を見ると「世界的不況、失業が拡大中」とある。慌てて列車で、愛人のアナベラ(マーサ・レイ)の元に急ぐ!

アナベラを演じるマーサ・レイ。このガラガラ声とひょうきん表情で芸達者なチャプリンに挑む演技が笑えます。(笑)

アナベラは金満家で貴金属や株、不動産に興味を持っている。これをせしめよと「暴風で浅瀬に乗り上げて!」と船員服で訪ねた。アネベルは「待っていたとボネール!」と呼ぶ。(笑)「無駄使いをするな!不動産や宝石に投資しろ」と忠告するが、偽物の宝石を買わされ、“太平洋電力株”に手を出し、現金は降ろして家に隠してあるという。屋敷はヴェルドウ名義になっているというので安心した。クロロホルムを嗅がせて眠らせ、金を盗んでやろうと思うが、メイドがウロウロして実行できない。諦めてパリに戻った。(笑)

パリに戻ったヴェルドウは紳士服で花屋を訪ねグロネイ夫人に花を週1回贈ってくれるように依頼して、店に戻った。

友人のモーリス(ロバート・ルイス)から「心臓病に似た症状でパタンといくが検出できない薬がある」という話を聞く。(笑)

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さっそくこれを試そうと、街で出会った女性(マリリン・ナッシュ)を店に連れてきたが、女性の旦那が病気で亡くなり窃盗罪で捕まり今出て来たばかりという話を聞いて、自分のことのように思え、薬を試すのを止めた。マリリン・ナッシュの美しさが冴えています。

花屋によって、グロネイ夫人にはきちんと花が届けられていることを確認して、店を出たところでモロー刑事(チャールズ・エヴァンズ)に捕まった。

店に戻って刑事から尋問を受け、「重婚罪」で捕まった。このとき街の女のためにテーブルに出しておいたワインを刑事が飲んだ。本当かどうかを確認に妻のところに移動する列車の中で刑事が死亡した。ヴェルドウは逃げた!

アナベルから金を手に入れようとアナベル邸に乗り込んだ。アナベル用の毒薬瓶とメイド用の漂白罪瓶を準備していたが、手違いでアナベルに漂白剤がメイドに毒薬が渡った。(笑)メイドは髪が全部抜けて大騒ぎ!アナベラが苦しがり、おかしいと飲んだヴェルドウは腹痛で苦しむ。駆けつけた医者の指示で田舎でしばらく養生することになった。(笑)

田舎暮らしのなかでボートで釣りに出て、アナベルの首に重しを着けて湖に鎮めようとするがボートが揺れて自分が湖の中に落ちた!(笑)

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花屋に顔を出すと、グロネイからの電話番号が届いていた。電話すると「あなたに根負けした」というから歯の浮くような言葉を一杯投げ掛けて(笑)、グロネイ邸を訪れ、求婚した!

グロネイとの結婚式。招かないのにガラガラ声のアナベラが参加している。ヴェルドウは見つからないようにと隠れるが駄目だった。遂に式場から逃げ出した。(笑)

「株が大暴落パニックが広がる」「銀行が倒産 暴動が発生 自殺者が出る」のニュースが踊る

ヴェルドウは銀行に電話すると「抵当権を行使する!すぐ返済しろ!」と言われる。家族はどうなるんだ!

そしてバロン証券に「全部株を売ってくれ!」と電話するが「バカ!君は破産だ!」と。

さらに「ヨーロッパに危機迫る。ヒトラーの登場」「ナチがスペインを空爆 民間人が犠牲!」のニュースをカフェで読んでの帰り、「雨の夜アパートに招いてくれた人」と街で声をかけた女性に呼び止められ、カフェ・ロイヤルで食事をした。彼女は「人生大逆転!軍事工場の経営者に出会った」という。ヴェルドウが「今は絶望で早晩死ぬだろう」と答えると「その前に楽しみなさい!人命は理屈を超えているもの。運命に従うのよ」という。

「運命か!」と思っていると、セルマの家族がカフェにやってきた。この家族から必死に逃れようとしたが、彼らが呼んだ警官たちに捕まった。

裁判が始まった。検察官が「法廷史始まって以来の極悪犯罪だ」と主張し、「知性があるのにまともな生き方を捨て善良な授精を殺し財産を奪った」として斬首刑が適当と下された。

「刑の宣告前に言うことなないか」と弁護士(リチャード・アボット)に聞かれ、ヴェルドウは「35年間頭を正直に使ったが、その後誰にも必要とされず自前のビジネスを始めた。世界は大量殺人を奨励しています。大量破壊兵器のためだ。そして罪なき女性や子供を吹き飛ばす。私は大量殺人においては素人です。しかしじきに失う頭だ。いまさら湯気を立てても!」と述べた。

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刑務所に訪れた記者から「君は人を殺し、盗み続けた」と質問され、「ビジネスだ!歴史的に殺しは一大ビジネスだ。戦争も紛争もビジネスだ。人を殺せば悪党、1000万人を殺せば英雄だ。敵が罪を正当化する」と答えた。

神父が「神との和解を取持ちます」とやってきた。「神とはいい関係です。私の敵は人間です」と答えた。「罪への悔いは?」に「罪とは何ですか?天から生まれ落ちたこと。最終的な運命など誰もしらない。罪がなければあなたは失業だ!」と答えた。「魂に神の慈愛あれ」に「私の魂はもともと神のものです」と。

刑の執行官に導かれて断頭台に!

感想:

どうでしたか、笑えましたか。チャプリンは本作を最高傑作と評価していたそうですが、あまり笑えなかった!(笑) アナベラとの毒殺劇やグロネイとの結婚詐欺劇で笑わせ、街で声をかけた女性とのしんみりしたやり取りで人生とは何かを語る脚本。無性に信じたくなる人生の機微に富んだセリフがよかった!(笑)

しかし、この時代を「殺人狂時代」としたタイトルが光る作品で、殺人狂時代のなかにあって、12人の殺人者としての方便が面白い。

前2作に引き継いで観てくると、世界大恐慌から世界大戦の中で市民生活を見て来た貧乏人チャップリンの「機械化が貧富の差を作り、これが戦争を産む」という想いが詰まった方便でした。

共産主義者として米国を追われる一因になった作品とういことですが、戦争直後の戦勝に湧く中でよくもこんな作品を作ったなというチャプリンの想い、覚悟を知る作品でした。

この作品が公開時受け入れられず、受け入れられるようになったのはベトナム戦でアメリカが敗北して時期であったという。この戦で軍産複合体勢力の無謀が明かされ、今もこれが続いていることを思うと、本作の凄さが分かります。

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