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「国家が破産する日」(2018)

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1997年に韓国で起こった通貨危機IMF経済危機)の裏側を描いた社会派ドラマ。韓国では性懲りもなく今日また経済危機が騒がれており、これを戒めるため「国民よ賢くなれ!」と訴えた作品です。WOWOW初放送で観ました。

韓国銀行の通貨対策チーム長が打ち出す金融危機対策に関係金融官僚がどう反応し、国の金融危機対策ができたか。経済状況が読めない中小企業主とこの状況にひと儲けしようと企む金融ブローカーの生き様を絡ませ、再び訪れようしている金融危機に国家、国民は何をなすべきかを問う作品です。

日本ではおそらくこの作品を観る人は少ないでしょうが、韓国では多くに国民が観たという。その理由が分かるような作品でした。

経済音痴の自分には分からないと思っていましたが、お芝居で分かりやすく見せてくれますので、我が国も同じような問題を抱えているところがあるし、絶対にIMFに頼ってはならないと思いました。

監督:チェ・グクヒ、脚本:オム・ソンミン、撮影:チェ・チャンミン

出演:キム・ヘス、ユ・アイン、ホ・ジュノ、チョ・ウジン、バンサン・カッセル、他。


映画『国家が破産する日』予告編

あらすじ(ねたばれ):

1977年12月22日、100億ドル輸出の日、輸出により産業の国際競争力をと謳い、ソウル市と住宅公社は2万990世帯の庶民向け住宅建設を発表し’88年のオリンピック大会を経て、鉄鋼、自動車、半導体、造船などの産業が成長し、国民所得は1万ドル時代に入り、遂にOECD加盟国となった。韓国経済はこのまま発展し続けると思っていた。囁かれる経済危機説に分けわからんという状況であった。

1997年11月5日 アメリモルガンスタンレー:東アジア部は「投資家はすぐに韓国を離れろ!」という警告を発した。

11月15日韓国銀行は1ドル792ウォン、外貨準備高156億ドルで来年の経済成長率は7%と予測していた。国民は一人当たりの所得は1万ドル、85%以上が中間層と浮かれていた。

 韓国銀行通貨政策チーム長のハン・シヒョン(キム・ヘス)は総裁に呼び出され国別短期借入金推移データーを見て、「何でこんなデーターを早く見せない!」と叱責された。シヒョンは注意喚起していたのに部長が受け付けなかったと不満。すぐに経済首席、関係幹部による協議の必要性を訴えた。

シヒョンは部下に命じて、外貨準備額の推移、ロールオーバーの動向などの通貨危機情報を整理し通貨危機レポートを持って、総裁とともに大統領府経済首席の元に急いだ。首席によって政府対策チームメンバーとして財務局次官、金融室長が集められた。

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政務局次長ハク・デトン(チョ・ウジン)は部屋でパターの練習中。(笑)シヒョンは「諸外国は韓国政府の危機管理能力を疑問視しています。8月から外国資本が撤退を始め、ウォンが下落。1ドル800ウォンを死守するためには週に20億ドル必要です」と状況説明した。次官は「分かっている、仕方がない」と返事。「10月末のロールオーバー率は86.5%で、外国投資家はこのことを知っています。11月3には多くの投資家が返済延期を拒否、11月15日現在の外貨準備高は158億ドル、実質90億ドル以下で政府が我が国の輸出入を保証できなくなり“国家破産”です。あと一週間しかありません」と国家の危機を訴えた。

大統領へ状況報告に伺うが、秘書から「大統領は今ご機嫌斜め」を聞いて、首席が後にしようと言うが、シヒョンは報告すべきだと勧めた。

金詠三大統領は報告を受けて「ドルが足らないならドルを買え!経済基盤はしっかりしているから心配ない。宴が終わったというわけか」と楽観的だった。

大統領報告を終え、政府対策チームは「国民に危機を知らすべきか否か?」について論議した。

シヒョンは「国民は知る権利があり、経営判断をしようとする人への注意喚起です。事態の軟着陸です」と主張したが、次長の「混乱するだけ!君が責任を取れ!次期統領選で不利だ!」の一言で、国民には知らせないことに決まった。シヒョンは首席に「情報を公開すべきです。中小企業を救うべきです」と訴えたが受け入れられなかった。

このころ高麗総合金融の社員ユン・ションハク(ユ・アイン)は政府発表の各種経済指標を検討し町の声を聞いて景気異変を感じ、上司にバカ扱いされたが、「国が破綻する。先に逃げたやつの方が生存率が高い!」と会社を辞めて投資会社を立ち上げ、「今年中に国の与信がなくなる」と逆張り投資で投資家を募っていた。「政府は無知、だからその無能に投資する」と煽った。(笑)「1ドルは2000ウォンになる。株とウォンが暴落したら4倍儲かる」と説いた。

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町工場で食器製造経営者のガブス(ホ・ジュノ)はミドパ百貨店からの食器納入が決まり喜んでいた。材料業者のことを考えると嫌だったが、百貨店の手形決済に応じた。ニュースは「韓国の経済危機説は経済副総理が否定。経済は回復しつつある」と報じており、心配ないと判断した。

11月18日、1ドル843ウォン外貨準備高103億ドル。ソロスのファンドが韓国の返済延期を拒んだというニュース。シヒョンは上層部を動かすには短期不良債権の調査が必要があると部下とともに現場に出た。ヘボン製鉄の融資額と理由を聞くが真面な答えがない。会計責任者は銀行監督局からの天下りだった。「融資を手配したのは大統領の息子だよ!」という有様。(笑)最近の国会答弁を思い出します。(笑)

このころ首席が金融室長を「ハーバードの先輩で入閣は堅い」とある人物に会せていた。この人物と次官がイルソングループ会長の息子パク・テヨンと会って、「会長の後を継ぐべきでは?良い情報がある会長に伝えればお喜びになる、もうすぐ國が破産して世の中が変わります」と伝えた。

ニュース:「外国投資家が次々に株を売り株価が暴落。1ドル900ウォン外貨準備額80億ドル。為替市場が開始5分で取引を中止」「ミドパ百貨店の経営状態が悪化!」

ガブスが慌てて手形発行ノンバンクに駆けつけたが、すでに多くの債権者が駆けつけて担当部長を責めていた。部長は姿を消した。

ニュース:「ミドパは3100億ウォン、ノンバンクに2150億ウォンの負債。不渡りに影響が広がる見込み」

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シヒョンは200社以上が倒産すると予測していた。低金利債権がノンバンクに売り戻されており、ノンバンクが潰れれば連鎖して銀行が負当たりを出す可能性があるとみていた。ウォール街では韓国の破産が話題になっていた。

ションハクはこの状況を見て「これで人生が変わる、社会的地位や環境を変えねば!」とさらに大きな勝負に出ることにした。町では自殺者が出始めた。

この危機を乗り切る策として次官が「IMF国際通貨基金)に頼るしかない」と言い出した。シヒョンは「韓国経済に介入し主権を握られる。構造改革と外貨準備高の問題は切り離すべきだ」と反対した。次官が「政治による支援が必要だ!構造改革とは切り離せない」という。「日本やアメリカから100億ドルつづ借りて外債を返済する手がある。その後は政府の資産を担保に海外で資産担保証券を発行してもらう」案を出したが、次長が「そんなことで解決できない!女は感情で動く!」と反対。次官は「この機会を逃してはならない、労働者の連中はデモばかりしている、今韓国が変わるときだ」と考えていた。会議の結論は経済首席が「IMFには頼らない、日本にスワップをお願いする」と下した。

ガプスは不当たり手形を掴まされて材料業者のチョン社長に支払いが出来ず、従業員に給与も支払えないところまで追い込まれ自宅を担保に入れる決心をしていた。

一方ションハクは15%下がったところでマンションを買い漁り、政府はIMFに賭けると考えていた。国は大企業や財閥が生き残れる金融支援を要請し、この事態になったのは国民の浪費によると言うだろうと読んでいた。

ションハクの予想通り「国民の外国製品志向が続いている」「海外旅行で浪費している」と報道され始めた。

 1ドル1076ウォン、外貨準備高51億ドル。突然の内閣改造で経済首席が交代し、新任首席キム・チャンスは国家破産を避けるためIMFに支援を要請すると宣言し、協議は非公開と決まった。国民には知らされない!

1120日第1回非公式会議がヒルトンホテルで始まった。IMF専務理事(パンアン・カッセル)はいきなり合意を崩さない合意書が欲しいと言い出した。シヒョンは内容が分からないのにおかしいと反対したが、首席が引き受けた。1ドル1103ウォン外貨準備高35億ドルだった。

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11月21日首席は「IMF勧告を受け入れ200億ドルの金融支援を要請することになった」と記者発表し、政府とIMF側は支援額と条件交渉に入った。が、一方的にIMFの考えを押し付けるもので、アメリカ政府の意思によるものだった。

金融機関11社を直ちに営業停止。金融支援を受け次第政策金利を現在の12.5%から30%に上げること。資本市場を開放することとして外国人の投資額限度を7%から50%に引き上げる。韓国の金融機関を合併しうる法と制度を整備すること。外国の証券会社と債権市場への投資拡大を許可すること。そして外国資本による敵対的買収を許可すること。

これに、シヒョンは「IMFの設立目的に反する。経済の自主性を侵害すべきでない」と抗議したが次長が引き留めようとする。そこに韓国の信用格付けBマイナスという情報が伝えられ、IMF専務理事が「韓国の紙幣は紙くずだ」とシヒョンの申し立てを退けた。

休憩時間に首席は「やり方が強引だ!」と漏らすと、次長は「大企業と中小企業の共存は不可能、国が守れるのは大企業だけだ。総合金融会社を介した大企業の手形取引は免責にしたら」とイルソングループ社長の息子パク・テヨンを呼び「我々にはこの問題は好都合だ。この時間が必要だった!」と伝えた。

11月22日の第3会議で労働市場改革が持ち出され、大量の解雇が発生することに、雇用形態の多様化ということで非正規雇用や間接雇用が取り入れられることになった。

シヒョンは「何故支援条件として大量の解雇を指示するのか、何故資本市場の解放を求めるのか。アメリカがこの協議を利用して利益をうるためではないのか。何故大量解雇が必要なのか」とIMF専務理事に抗議した。「協議を止めてください」と首席に訴え、次官に「出ていけ!」と追われた。

シヒョンは「モラトリアム宣言で国の破産を認めて国を救う」と、記者会見で「貧しい者はさらに貧しく、富める者はさらに富む。解雇が容易になり、非正規雇用が増え、失業者が増える。これがIMFの作る世の中です」と協議実態を明かした。しかし、新聞には首席の「IMFの金融支援が妥協した。550億ドルの支援と引き換えにわか国の経済はIMFの管理下に入る」という発表が載った。

ガプスは百貨店の不当たり手形、マンション投資の失敗、屋敷の担保、従業員・材料業チャン社長への不払い、部下の自死で自らも自殺を試みたが思いとどまり、妹のシヒョンに「ひとつだけ頼みがある。融資銀行を紹介してくれ!」と泣いて頼んだが、シヒョンはなす術がなく泣いた! 彼女は「IMF交渉の記録」を上梓して、銀行を去った。投資家ションハクは投資の大成功で、投資会社の代表になった。

1997年12月3日、韓国側がIMF合意案に署名、IMFによる管理体制が始まった。翌年の韓国失業者は1300万人を越え、自殺者が42%増加した。国民が国を救おうとして4か月で集めた金は22億ドル、この金は企業債務の返済に使われた。

20年後、危機は再び巡って繰り返される!

ションハクは特別公演で、一晩の講演料が1000万ウォンの投資会社代表。「再び危機は機会だ」と狙っている。

ガプスは息子に店を譲り、「優しい人だけじゃなくて誰も信じるな!自分だけが頼りだ」と言い聞かせている。

ベスト金融投資会社のCEOパク・テヨンに「金融の締め付けがきつい」とかっての次官や金融室長が集まっている。

金融資本監視センターのCEOとなっているシヒョンのところに企画財務部の第2次官が訪れ、「今年中に世帯負債が爆発する可能性がある」と対策チームへの協力を申し出た。シヒョンは「危機は繰り返す!危機を回避するためには絶えず疑い考えること。目を開いて世界を見ること。私は二度負けたくない!」とチームで働くことを約束した。

感想:

見せ場はIMF協議の場で、ここで何が協議され、その後の韓国の経済、労働市場がどうなったかを知るためにすこし長いネタバレになりました。

一方的にIMFから押し付けられ、意見さえ言えない政府関係者。反対するのは韓国銀行の通貨対策チーム長だけという情けなさ、誇張でしょうが。自分の保身を図る官僚・政治家たち。いかに政府が体たらくで、実は彼らの目的は大企業の育成と雇用形態の変革という国民に大変な苦を強いる構造改革であったという結末。大企業優先の政・官・財の癒着構造。いつか来た道を振り返るようで、清々しいキム・ヘスの熱血女性対策チーム長の演技を観ることになりました。こんな作品を作る韓国映画も凄い!

これをいかに打開するかという未来に向けてのメッセージ、韓国民はどう受け止めているのでしょうか。

IMF協議に絡めるように描かれる投資家ションハクと町工場経営者ガプスの行動。ションハクの行動は万に一つの事例で、ガプスの行動に自分を重ねて観ることになりました。もう二度とこんな目に遭いたくないと思っても、経済資料を読み解く力はなく、ガプスの言う「優しい人だけじゃなくて誰も信じるな!自分だけが頼りだ」くらいのことしか出来ないと思います。政府を信頼し、政府が情報開示をしっかりしてくれることを望むばかりです。

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