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「逆転のトライアングル」(2022)ブラックユーモアで批判した金本位のヒエラルギー、強烈すぎて笑えない(笑)!

 

ザ・スクエア 思いやりの聖域」のリューベン・オストルンド監督作ということで観ることにしました。この作品は美術館のキュレイターがスクエアのオブジェを展示して「平等」を市民に説くという話でしたが、全く平等を実践行動で示せないこの男に平等など説けないと“意識高い系”をメッタ斬りする話だった。今回もこの歯切れのよい“意識高い系”を斬ってくれると楽しみにしていました。(笑)

結論から言いますと、見事に斬ってくれました。前作より数段スケールアプしていて、“同感”と留飲をさげました。(笑)

第95回アカデミー賞(2023)で「作品」「監督」「脚本」の3部門にノミネートされてましたが無冠に終わりました。「エブエブ」に賞が集まり過ぎ!この作品は社会変革を求めるというテーマが素晴らしいので、監督賞か脚本賞を渡すべきであったと思っています。(笑)

監督・脚本:リューベン・オストルンド撮影:フレドリック・ウェンツェル、編集:リューベン・オストルンド マイケル・シー・カールソン ジェイコブ・シュレシンジャー ベンジャミン・ミルグレット。

出演者:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ウッディ・ハレルソン、ビッキ・ベルリン、ヘンリック・ドーシン、ズラッコ・ブリッチ、ジャン=クリストフ・フォリー、イリス・ベルベン、ドリー・デ・レオン、ズニー・メレス、他。

物語は

ファッション業界とルッキズム、これに繋がる現代における階級社会をテーマに描くというもの。

モデルでインフルエンサーとしても注目を集めているヤヤ(チャールビ・ディーン)と、人気が落ち目のモデルのカール(ハリス・ディキンソン)。美男美女カップルの2人は、招待を受けて豪華客船クルーズの旅に出る。

船内ではリッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでもかなえる客室乗務員が笑顔を振りまいている。しかし、ある夜に船が難破し、海賊に襲われ、一行は無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態のなか、人々のあいだには生き残りをかけた弱肉強食のヒエラルキーが生まれる。そしてその頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃係だった。(映画COMから引用)

タイトルの「トライアングル」とは、作品中で出てきますが、男性モデルたちが「俺たちはH&Mで笑顔、バレンシアの女性モデルは“眉間のしわ=トライアングル”で不機嫌な顔」と歌うシーンから引用されていて、トライアングルは女性たちの特権、「ヒエラルギー」を意味します

物語は3つのパート、ヤヤとカール、ヨット、島からなり、物語はこの“特権系“の女性モデルやセレブな客船客が海上で嵐に襲われたことで、ブラックユーモアで「彼らの特権意識の鼻」をへし折って、次に海賊に襲われ無人島に流れ着き、ヒエラルギーが逆転し、ラストで現在社会への大きな問題を投げかける作品になっています。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

冒頭、モデルのカールは選抜審査でインタビュアーの女性に「男性モデルで一番大切なのは美しさ」と問い掛けられ、選ばれて次の面接審査を受ける。ここでは歌いながら歩く、そして「ポトックス、悲しみの三角(トライアングル)やってみて!」と審査され、合格した。

選ばれた男性モデルたちが「俺たちはH&Mで笑顔、バレンシアの女性モデルは“眉間にしわ”をつけて不機嫌な顔」と歌い出す。男性モデルは女性モデルに比して稼ぎが極めて低いことを示唆するシーンです。

ルッキズム、そんなことはない“内面だ”」といわんばかりに男性モデルたちの身体に絵具をぶっかけて本題に入る。

パート1「カール&ヤヤ」

女性のファッションショー会場。最前列で、3人の特別招待客が訪れたため、前列全員が立って席を開けるという、目に見えないヒエラルギーが、「これが今の社会だ」と言わんばかりに描き出されます。

「今こそ愛!」、気候変動が起きファッションではフェミニズムと「意識高い系」のショーが始まり、ヤヤが登場する。 (笑)

レストランでカールとヤヤが食事。終わると「ご馳走さま!」とヤヤが立ち上がる。これにカールが「なぜ男が払わねばならぬ、高い収入のあるお前が払え!」と支払いを巡り揉め、結局はカールが払うという結末が詳細に描かれる。これは「今の社会に生きている!」とニンマリと観ました。(笑)

ここだけでこの問題は終わらなかった。ふたりはホテルに戻りさらに揉めた。

ふたりは別々の部屋で休むことにしたが、ヤヤがカールの部屋に身体を求めてやってくる。「金だけの話でない、対等であるべきだ」というカールに「働かない男は無用!モデルを辞めたらセレブと結婚する」とヤヤが宣う。これにカールは、「“宣伝のために招待を受けているヨツトで。見ていろよ!俺に干されるな!お前は俺に惚れる!」とほざいた。(笑)

パート2「ヨット」

ヨットでは、パーサーたちがリーダーのポーラ(ビッキ・ベルリン)の言葉「高いチップを期待して最後まで“かしこまりました”とサービスしましょう!」に気勢を上げ、客を待ち構えていた。そこにカールとヤヤがヘリでやってきた。

日光浴で寝そべるヤヤの撮影係を務めるカール。スマホが気がかりなヤヤにうんざりしていたカールに話しかけてきたのは、ロシアの新興財団の経営者ディミトリ(ズラッコ・ブリッチ)糞商売(有機肥料)で財をなし、今では投資で生活しているという。妻のベラ(ズニー・メレス)と愛人を伴って乗船していた。ディミトリの趣味は「あの男がナンパするぞ!」と乗船客を監視することだった。(笑)

あの男とは何故かひとりで参加している大金持ちの老紳士・ヤルモ(ヘンリック・ドーシン)。さらに地雷製作会社社長の老夫妻脳梗塞を患って話すことが出来ない妻テレーズ(イリス・ベルベン)とその夫ウリ(ラルフ・シーチア)、等々超豪華なセレブたち。フィリッピン出身の清掃係アビケイル(ドリー・デ・レオン)はセレブたちの部屋を懸命に掃除していた。

お騒がせなのがロシア人セレブのベラ。ひとりぼっちのプール泳ぎに飽き、パーサーのポーラに「役割交換して!」と迫るが、ポーラもこればかりは“かしこりました“と引き受けられない。ベラは厨房従業員に、機関整備員にと「泳いで!」と無理強いをする。ポーラは船長(ウッディ・ハレルソン)にこのことを訴えようとするが、この船長、ドアーを閉めたままで出てこない。船長は共産主義者でセレブが大嫌い!だった(笑)

嵐の予兆がしてきて、船長がキャプテンディナーをやると言い出した

ディナーの開始。船長は正装でセレブたちを迎え、パーティーが始まった。船長とセレブたちの懇談。地雷製作会社社長のウインストン(オリバー・フォード・デイ)が「国連に地雷を禁止され危機に陥ったが夫婦で乗り切った」と自慢げに挨拶するが、船長はいい顔はしなかった。

超豪華な会食が始まった!「地球に存在する美味い物を全部食べ尽くす」とばかりに食べる。船長はしっかりベラに酒を勧めた。(笑)嵐で船が荒れだし、ワインの酔いもあって、食べたものを大量に吐き出すベラ。これにつられて他のセレブたちが吐き出す。

収拾がつかなくなり、セレブのみなさんは個室に引き上げた。船長とディミトリの経済論戦が始まったマルクスだ、レーニンだ、ケネディーだ、サッチャーだと論議が続くがよく分からなかった!(笑)。

ベラが個室の便器に素っ裸で跨り吐いていた。(笑)

船長は部屋に引き上げ飲んでいた。そこにディミトリが「船が浸水しているなんとかせよ」と言ってきた。船長は「至急救助隊を要請する。行き先はキューバだ」と伝えた。「共産主義か」と文句を言うディミトリに「俺が船の新しいオーナーだ!税金を払うのが人間だ!働け!俺は許さん、ロシアの豚野郎!」と船内放送で流した。(笑)このときベラの便器から浸水した海水があふれ出し、船内に糞が流れ出した。(笑)

清掃係のアビケルが吐もので汚れた床を懸命に清掃していた。船長は「お前らは社会貢献がたりない!税金を払え!」と追加放送した。(笑)さらに「政府が暗殺者を送り込み爆弾を投下し金儲けた。お前ら権力者が戦争を仕掛けマスコミは政府が言うがままだった」と喋った。

このタイミングで海賊船が現れヨットに地雷を投げ込んだ。これを拾った地雷再作会社夫妻が亡くなり、船は大破した。

数時間後、孤島にカールとヤヤ、ディミトリと愛人が漂着した。ウリとテレーズ夫妻も生きていた。それに機関員のネルソン(ジャン=クリストフ・フォリー)も。ベラが遺体となり漂着した。

エパート3「島」

赤い救命ボートでポーラとアビケルが漂着した。水と食べ物が欲しい。フィリピンの海岸街育ちのアビケルが蛸を捕えた。火をおこし、料理し、みんなの腹を満たしたことで、ポーラの提案で「皆が働く!この島のキャップテンはアビケル」と決まった。

アビケルは「男が火を守る、私は男と寝る」と宣言し、カールに食べ物を与えず空腹にして「ポートに来るか」と誘った。カールがこれ以降、食べ物をヤヤに渡すが、その後はボートに戻ってアビケルと一緒に過ごすようになっていった。

男たちはロバを捕獲するなど食料を確保し、みんなのために保管するようになっていった。男たちは誰もアビケルに反抗しなかった、側にはいつもカールが控えていた。

そんな中で、ヤヤが救命ボートにやってきてアビケルに「山歩きに行く、リュックを貸して」という。カールを残して、ヤヤとアビケルは山深く入って行った

島の反対側に出て、洞窟にエレバーターがあるのを発見し、「ここはリゾート地だ」と知った。ヤヤは「助かった!アビケル、私の付き人に雇ってあける」と言う。アビケルはトイレと偽って、殴る石を見つけヤヤを追っていた。このころカールがヤヤとアビケルを追って森の中を走っていた。

この後のヤヤとアビケル、カールはどうなったかは語られない!どう考えますかと問うている。

まとめ

「孤島がリゾート地である」と知った後のヤヤとアビケル、カールの行動は、元のヒエラルギー体制に戻るしかない、新しい経済システムが必要だと思いました。

 カールとヤヤの男女格差、富豪の乗客とヨット乗組員(一般国民)の経済格差を生んだ「お金で決まるヒエラルギー社会」にあって、船長が知恵を働かせ、持てない者の味方になって、しっかり持てる者を叩いてくれました。(笑)

レストランでのカールとヤヤの支払いを巡る諍い、嵐の中で船長が行ったセレブ客批判、糞に晒されたセレブたち。経済問題をこのようなブラックユーモアで描き、エンタメ作品として見せてくれたことに驚きました!(笑)

この問題は福祉立国スエーデンの悩みではないでしょうか。働かず、納税しない富裕層の発生(タックスヘイブン)。我が国でも年金制度が待ったなしの状況では、考えねばならない問題でしょう。

最高に面白かったのは掃除府役のフィリピン女優のドリー・デ・レオンの元気いっぱいの演技。これはリアルな設定で、世界のスターになるかもしれませんね。ロシアの富豪ベラ役のズニー・メレス、これは大変でしたね!(笑)

船長役のウッディ・ハレルソンの酔っ払いと演説演技、「スリー・ビルボード」(2017)に引き続き印象に残る演技でした。ヤヤ役のチャールビ・ディーン、なかなかの魅力的な女優さんでしたが本作が初出演作で、これが遺作とのこと。享年32歳と知って絶句しました。ご冥福をお祈りします。自分には脳内整理に必要な作品、次作も期待しています!(笑)

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