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「メメント」(2000)

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クリストファー・ノーラン監督の2作目、とても難解だと評判の作品です。観たいと思っていたところにWOWOWシネマで「TENETテネット」放送記念として放送され、録画して観ることができました。

評判とおりで1回目はよく分かりませんでしたが、ラスト10分で物語の作り方や概要が掴め、2回目の観賞で分かってくるという、これまでにない映像体験でした。

劇場で1回目だったら理解できなかったでしょう。😊

監督・脚本:クリストファー・ノーラン。原案:ジョナサン・ノーラン、撮影:ウォーリー・フィスター、編集:ドディ・ドーン、音楽:デビッド・ジュリアン

出演者:ガイ・ピアースキャリー=アン・モスジョー・パントリアーノ、マーク・ブーン・ジュニア、ジョージャ・フォックス、スティーブン・トボロウスキー、ハリエット・サンソム・ハリス、ラリー・ホールデン

あらすじ:

強盗犯に襲われて妻を失い、頭部を損傷し、約10分間しか記憶を保てない前向性健忘という記憶障害になったレナード(ガイ・ピアース)。彼は、ポラロイド写真にメモを書き、体中にタトゥーを彫って記憶を繋ぎ止めながら、犯人を追う。レナードの記録に間違はないか?

タイトルの「メメント」はラテン語のMemento。「記憶しろ」という意味だそうです。

あらすじのようなストーリーになるのは2回目以降だと思います。わけ分からないで観るのが、この作品を観る醍醐味です。😊

感想:

物語はカラーの映像(カラーパート)とモノクロ映像(モノクロパート)からなり、カラーパートに主体を置き、ふたつのパートが交互に写し出されます。

冒頭、カラーパートで、男がポラロイド写真を見て拳銃を発射、血液が流れ、壊れたメガネが写しだされるが、ひと呼吸置いて銃弾が拳銃に収まり、メガネがきれいになりと時制が逆い動き始めます。誰が撃たれたか?はここでは分からない。この作り方は「TENET」と全く同じで、カラーパートは時系列が逆で過去に戻っていき、この男が撃たれた経緯が明かされ、誰が撃たれたかが分かります。

次にモノクロパートでは、身体中に刺青のあるレナード(ガイ・ピアースが「ここはどこだ、モーテルの部屋か。いつ来たか、1週間か3か月たっているかもしれない」と語り、手首の「サミーを忘れるな」と彫ったタトゥーを見る。胸の一番上、目立つところに「ジョン・Gが妻を殺した」のタトゥーがある。常にこれを見る。

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サミーに関わる過去が時系列順に語られ「サミーを忘れるな!」の意味が分かるように現在へと移っていきます。

レナードはこの話を電話で誰かと話している。相手は誰なのか?何のために?これがモノクロパートのラストで明らかになります。

カラーパート編は、レナードが妻殺害の犯人者「ジョン・G」(タトゥー)を捜しているなかで、「Gはジョン・ギャメル」と情報提供してくれるナタリー(キャリー=アン・モスという女性の正体、彼女と付き合うことで妻が殺害されたときの記憶やこの事件に関わった刑事テディ(ジョー・パントリアーノの正体が時間を逆行しながら明かされてきます。

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モノクロパートのラスト、

レナードは記憶障害前、保険会社の調査員をやっていて初めての客がサミー(スティーブン・トボロウスキーだった。サミーは記憶障害があるが各種テストを試みて精神病と判定し、保険会社は支払いに応じなかった。妻(ハリエット・サンソム・ハリス)はサミーの記憶障害を証明しようと、サミーにインシュリン注射を自分に打たせるテストで亡くなった。サミーは記憶障害者だった。レナードの話は常にサミーの話を絡めて、「誰か?」と延々と電話する。

ラストシーンで相手から「ジミーはナタリーを使って薬取引をやっている。準備は出来ている、待っている」と電話が入った。レナートは記憶を忘れないために壁に貼っていた地図とメモをまとめバックに収めて部屋を出て行った。

モノクロパートのラストがカラーパートのラストシーンに繋がります。

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カラーパートのラストシーン。レナードがテディに教えられた廃屋で待っていると、ジミー(ラリー・ホールデンが「テディか?」と入ってきた。レナードは彼を射殺してポラロイド写真に撮った。しかし、ジミーの様子が変だと感じた。遅れてやってきたテディに「あんたが犯人だ!」と言い争う。

テディはこれを否定し、「お前は病人でジョン・Gという犯人を次々と作り上げている。そしてサミーというのはお前だ、サミー女房はお前の女房のことだ!お前の病を苦にして亡くなった。お前が殺したのも同然だ」と言葉を投げつけた。レナードはジミーの遺体写真を破り、テディのポラロイド写真に「やつのウソを信じるな!」と記入し、ジミーの車ジャガーで、“テディの車番”メモを持って刺青屋に寄る。

このカラーパートのラストシーンからカラーパート冒頭部へ向かって物語が始り、殺されたのはテディで、モノクロパートでレナードと会話していた相手もテディだということが分かります。

ラストが実は物語の始まりだった。もう一回初めからカラーパートを見なければならない。この発想が凄い。

レナードのとぎれとぎれの記憶を時制を逆にして見せ、それを繋いで理解していく作業は前向性健忘で狂ったレナードの記憶を体験したような気分でした。レナードが“正しい記憶だ”とメモし彫った刺青は、自分で都合の良い記憶だけで実は彼は「ジョン・G」という犯人像を作りだして殺す殺人鬼だった。

一方のテディはレナードをうまく利用して麻薬組織に接触して稼ぐという悪徳刑事だった。ナタリーはジミーの愛人でジミーの麻薬取引上の美人局だった。

どいつもこいつもとんでもない奴らだったというこの結末が凄すぎます。

記憶は記録しておけば真実とレナードが記録したタトゥーは真実であったか?ナタリーがレナードの膨大なメモに「こんなに記録があるのにどうして犯人が捕まらないの?」と問うシーン、それは狂ったレナードの記憶だった。

時制を逆行させて描いた本作はTENET比して、ストーリー・テーマ性という点では、同じ手法で描いたTENETを数段凌駕していると思います。

作品の面白さは、時制の逆転のように言われますが、そうではなくて狂った精神状態を体験させてくれ、その記憶の怖さ、ストーリーの面白さ。監督の作家性がすばらしい。

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