図書館が避難所?と聞いて、WOWOWで観賞しました。
凍死者が出るほどの大寒波が訪れた米オハイオ州シンシナティ。政府が用意した緊急シェルターが満員になり、行き場を失ってしまった約70人のホームレスたちは、救いを求めて図書館に大挙して押し寄せる。しかも、彼らに共感した図書館員も手を差し伸べて、彼らはそこで過ごすことができるかという社会正義が試される作品です。
監督:エミリオ・エステベス、脚本:エミリオ・エステベス、撮影:フアン・ミゲル・アスピロス、編集:リチャード・チュウ、音楽:タイラー・ベイツ ジョアン・ハイギンボトム。
出演者:エミリオ・エステベス、アレック・ボールドウィン、ジェナ・マローン、テイラー・シリング、クリスチャン・スレイター、ガブリエル・ユニオン、ジェフリー・ライト、マイケル・ケネス・ウィリアムズ、他。
「パブリックとはなにか」を図書館であった実話をネタに平易に描くというエミリオ・エステベス監督が長年温めていた脚本の映画化。アイデアが素晴らしい!文学書を読むテイストで、なかなかの手の込んだ脚本でした。😊 名優たちを使って、ユーモアたっぷりに見せてくれるという小品だけど心に沁みる作品です。
あらすじを簡潔に・・、
冒頭で図書館員に向いている人は「本が好き」で「人間が好き」な人だというナレーション。図書館員が人間好き、何故?これがテーマです。
物語の背景をラップ風に描写してくれます。どうやら平和だが不況で仕事がなく、社会への不満が募り、爆発しそうだ。
開館前の図書館。仕事に炙れた、路上生活、移民の人たちが会館10分前には席を求めて並んで会館を待っている。ユダヤ人でも入れるかと問う老人。図書館員スチュアート(エミリオ・エステベス)がそこに出勤。
なだれ込む図書館利用者たち。
彼らの目的は洗面・トイレ、暖を取ること、仲間の安否確認に何喰ったかの確認、書を読む人、眠る人。(笑) どうやら浮浪者に乗っ取られているようです。そのリーダーが黒人で退役軍人のジャクソン(マイケル・ケネス・ウィリアムズ)。
窓辺でふりちんで喚く男!もうこれは強制排除で精神病送りせざるをえない。
本来なら本を探す場所ですが、“世の中はそうはならない”、いろんな人がいろんな目的でやってくる。どう図書館員として対処していくか、人としてのあり様が問われるところです。
体臭入館者をどうする?
スチュアートは館長・アンダーソン(ジェフリー・ライト)に呼び出され評議会に参加。メンバーのひとりに次期市長を目指す弁護士・デイヴィス(クリスチャン・スレイター)がいた。議題は「スチュアートと警備員・エルネストが“体臭”でアイクの入館を拒否したこと」。スチュアートは「アイクが10年も路上生活を続け精神病を患っている、“公共性”に反する」と主張したが、デイヴィスは基本的人権に抵触し憲法違反だと激しくスチュアートを非難した。アンダーソンがデイヴィスの主張に同意して会議を終えた。デイヴィスの主張は市民の目を惹くための選挙対策?
市警の刑事・ラムステッド(アレック・ボールドウィン)は「薬で行方不明の息子マイクが街に居るらしいので捜索したい」とトム署長に休暇を申請するが、街の治安維持のために今は無理と断られ、「デイヴィスが市長に立候補、市警の支持がいると黒人の俺に近づく糞やろうだ!」と明かされた。(笑)
ラムステッドは別れた妻マーシーの一緒に浮浪者シェルターを探すが見つからない。図書館に居るかもしれないと館長・アンダーソンを訪ねることにした。
スチュアートは帰宅すると暖房の配管を修理しているアパート管理人・アンジェラ(テイラー・シリング)に出会った。彼女はアルバイトでこの役をやっていて、「アル中だったが本が俺を救ってくれ図書館員になった」と身の上話をしているうちに意気投合して、出来ちゃった!(笑)
朝、スチュアートが図書館に出勤。「この寒さでホームレスのセルターはどこも満杯」とニュース。図書館玄関前で身元不明の遺体が発見された」とWCBOのニュースキャスター・レベッカ(ガブリエル・ユニオン)が放送している。厳しい一日になるとスチュアート。
デイヴィスは市長選の対抗馬、牧師のブラドリーの選挙CMを見て「増え続ける犯罪に対処するため法と秩序を取り戻す」と主張することにした。
図書館では「物知りで犯罪歴の多いシーザーが凍死した」と噂している。「俺のレーザーアイで殺した」というジョージ。映画の観すぎだと皆が笑い飛ばす。
「今晩は帰らない」、
閉館時、スチュアートのところにジャクソンが「今夜は帰らない!」と告げにきた。周りを見るとさっと70人。スチュアートは館長に許可を取ろうと「今夜は利用者を追い出すと凍死者が出る」と意見具申したが、館長アンダーソンは「ここはシェルターじゃない。私の権限でなない」と断り「評議会が君の解雇を望んでおり、苦慮しているところだ」という。人命に関する非常時の決断では“人の度量・哲学”が試されます。「杉浦千畝大使の決断を見よ」と言いたくなりますね!
スチュアートはジャクソンらとともに3階文芸室に、本棚でバリケードを構築して、館長や警備員、駆けつけた弁護士デイヴィスや刑事ラムステッドとの接触を断った。いずれ警察が介入して来ると読んでいた。
ラムステッドはスチュアートの家宅捜査を署に求めた。デイヴィスは「市民的不服従の実施だ」として警察部隊を強行突入させ催涙ガスをまいて不法侵入で逮捕することを主張した。「責任者は俺だ!」とラムステッドが籠城者の意見を聞くことになった。
TVは「公共図書館で事件が発生。シンシナティ警察が駆けつけている。人質がいるのか銃乱射があったのか、状況分かりしだい伝えます」と放送していた。
スチュアートが報道で凶悪犯に仕立てられた!
ラムステッド刑事とスチュアートが電話で話し合った。ジャクソンが言うとおりにスチュアートが「平和なデモだ。みんな自分の意思で行っている。ここをセルターとして開放するか他施設を準備せよ」と申し入れた。これにラムステッドが「すぐ出て来い!」と激怒。スチュアートは「今すぐデイヴィスを外に出せ!図書館前で横たわらせろ!コンクリートの上に5分間だ!」と応じた。
デイヴィスはこれを実行に移し、TVのカメラに向かって「大事な図書館を混乱に陥れているのは図書館員だ。精神病で武装している」と喋った。
これをTVで見たスチュアートが抗議すると「世論はこうして作られるんだ」とスチュアートを凶悪犯に仕立てた。ラムステッドはスチュアートの調査記録を取り寄せ「前科が幾つもあり、ホームレスだった」とこれに同調した。アンダーソン館長は「彼は何年も酒を断ち学位を取って真面目に働いている」と彼らのやり方に嫌悪感を示した。
仕事帰りのアンジェラが図書館前で事件を知り、携帯で「中の映像を送って!」と連絡してきた。
急病人が出てので、これを外に出した。ラムステッドが「もうやめろ!」と怒鳴ったが「行く場所を紹介しろ!食べ物をピザ店に注文しろ!」と言い、バリケードを閉めた。ラムステッドが「探してくれ!」と息子マイクの写真を渡した。
スチュアートが室内の様子を撮影した。ゲームをしたり読書したりで酒を飲んだり騒ぐ者はいなかった。ジャクソンの「黒人の先駆者たちが繋いできた黒人の魂の炎を守ると声を上げたい!」という姿を収めた。
アンジェラがこの映像を「中にいる人たちと話したら!」と映像をレベッカに渡した。
ピザが届き、皆が喜んで食べた。その中にマイクが居たが、彼の気持ちが掴めていないのでラムステッドには知らせなかった。
館長が「図書館は自由を守るためにある」と翻意!
館長アンダーソンが「スチュアートは異常者ではない。私は情報の自由を守るために図書館を守ってきた。公共図書館はこの国の民主主義最後の砦だ。あんたらに利用されてたまるか!」と翻意し砦の中に入って行った。
レポーターの能力が低すぎた!
レベックのスチュアートへのインタビューが行われた。「あなたは沢山の犯罪歴があり路上生活もある。事件との関係は?」と聞いてきた。スチュアートは「怒りの葡萄」の言葉を借りて「ここには涙では示すことができない悲しみがある。怒りの葡萄だ」と答えた。この言葉を籠城者たち全員は理解した。が、レベッカは「よくもあんないかれた男を紹介して」とアンジェラに食って掛かった。これに図書館員のマイラ(ジェナ・マローン)が「スタインベックの言葉で10代の必読書よ」とやり返した。アンジェラは「お天気レポートも駄目ね!」と貶した。(笑)
アンダーソンは「美しい言葉だ!」と褒めたが、ジャクソンが「不法侵入で逮捕され、抵抗した罪で刑務所送りだ!」と言う。スチュアートは一計を案じていた。
TV放送を観た人から食料や衣類が届けられ始めた。
警察隊は到着し、ラムステッドが突入を指示した。スチュアートたちは彼らの前に絶対にTVに姿を撮られず、必ず暖の取れる場所に送られる姿で、全員で「I Can See Clearly Now」を唄いながら現れた!(笑)
感想:
状況により公共性をどう捉えるかと、前半と後半で弁護士デイヴィスは人権から公共性に、館長アンダーソンは人権から自由へ。スチュアートは公共性から人権へと自分たちの立場をひっくり返して捉え方を見せるといううまい脚本でした。この問題に“お騒がせ”マスコミを取り上げやんわりと叩いたのはよかったですね!😊 これが監督のやり方なんでしょうか。
公共性が人の命が関わったときの問題をどう捉うか、「人にやさしい社会」であって欲しいですね。「怒りの葡萄」の一節で説く図書館員スチュアートの言葉には説得力がありました!
人命とオリンピックのどちらをとるかの問題に似ていましたね!(笑)
図書館にはいろんな知恵が詰まっている。「怒りの葡萄」からシーザーの博学知識まで多種多様な人たちの図書館の使い方を見せ、使い方はあなた次第というのが楽しかった。
ラストシーンには伏線がありましたが、まさかという結末で沢山のユーモアが詰まっていました。
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