映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(2016)誰にでも起こりうる過失の罪に、自らを許せないと苦しむ男の再生物語!

 

「癒えない傷も、忘れられない痛みも。その心ごと、生きていく」というキャッチコピーで、DVD鑑賞です。

 監督・脚本;ケネス・ロナーガンプロデュース:マット・デイモン音楽:レスリー・バーバー、撮影:ジョディ・リー・ライプス、編集:ジェニファー・レイム。

 出演者:ケイシー・アフレックミシェル・ウィリアムズルーカス・ヘッジズカイル・チャンドラー、他。

2016年度アカデミー賞主演男優賞脚本賞受賞作品です。

物語は

ボストン郊外で便利屋をしている孤独な男リー(ケイシー・アフレック)は、兄ジョー(カイル・チャンドラー)の急死をきっかけに、故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってくる。兄の死を悲しむ暇もなく、遺言で16歳になる甥のパトリック(ルーカス・ヘッジズ)の後見人を引き受けた彼は、甥の面倒を見るため故郷の町に戻ってきた。が、故郷にいると心の痛みが増すリーとこの町に住み続けたいパトリックは、今後の生活をめぐって意見が食い違う。それでも数日を一緒に過ごすうち、ふたりの間には支え合う関係が築かれていき・・。(シネマトゥデイ


www.youtube.com

あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

冒頭、兄ジョー、主人公リーとジョーの息子パトリックの三人がマンチェスター・バイ・ザ・シーの入り江を離れ沖に釣りに出かけるシーン。この夜、リーにとって取り返しのできない事件が起こった。

事件後、リーはボストン郊外に移って、アパート管理人として過ごしていた仕事は便利屋で雪かき、配管工事、電灯の取り換え、風呂場のシャワー修理など。仕事振りは投げやりで、住み人からしばしばクレームを付けられる。憂さ晴らしにバーに出かけて、一人で飲み、客に絡むなどなど孤独で生気がない、目がうつろで魂を失った男の情感ケイシー・アフレックが体で見事に演じてくれ、観てるこちらが辛くなります。

突然の兄ジョーの死を知らせで、マンチェスター・バイ・ザ・シーの病院に駆けつけ兄ジョーの遺体に面会したが、突然のことで涙は出なかった。

リーは動転していて何をなすべきかわからないが、まずは甥の高校生パトリックに会い、一緒に弁護士のところに出向き、兄ジョーの遺言を確認した。

遺言は「後見人としてマンチェスター・バイ・ザ・シーでパトリックと過ごして欲しい」というものだった。リーは「考えさせてくれ!」と遺言を引き取った。

兄ジョーのアパートに戻ると、パトリックは友人や彼女を呼んで過ごし、そのまま彼女と夜を過ごすという、父の死にも気丈に振舞う子に育っていた。

元妻のランデイー(ミシェル・ウィリアムズ)かにら「お世話になった人だから」と葬儀に参加したいと申し出てきた。リーは会いたくなかったが、参加を認めた。

リーにジーンの別れた妻エリーズ(グレチェン・モル)から電話があったが、出なかった。兄の心臓病が発見され「余命わずか」と医師から知らされとき、兄を捨てて出て行った記憶があるからだったが、パトリックには関係ないことだった。

パトリックに「なぜ断った?」と聞かれ、「君が電話したらいい」と答えた。パトリックは母親に電話した。

リーは、兄ジョーの部屋を使う気になれず居間で、ここを離れることになった辛い過去を思い出していた。

「真夜中ストーブを点けっぱなしで酒を買い出しに出て出火。そこに居なかったことでふたりの娘を焼死させた全責任は自分にある」と警察の取調官に申し述べて際、「君に罪は問わない。重要なことだが誰でもやる。スクリーン(防火処置)はなされていたと書いてあげる」を言われたこと。その後、取調べ室を出て取調官の言葉に一層強く自分を責める気持ちになって、警官の拳銃を奪い自殺を図ったが、警官らに制止されたこと。

リーは、このように成長したパトリックに、便利屋で生活力がない自分に何をしてやれるのか。忘れることができない罪を起こした“ここ”で過ごせるのかと後見人になることを恐れた。その反面で、ジョーの遺言には細かい配慮がなされていて、リーのマンチェスター・バイ・ザ・シーへの引っ越し経費500ドルまで記載されていた。また、リーがボストンに移住するまでジョーが支えてくれたこと、ボストンに移住した際にはやってきて家具を整えてくれたことなどを思い出し、数々の兄ジョーの好意に対して、遺言を無下にすることはできないと思った。

 リーはパトリックに遺言についての意見を聞いた。「ここに住みたい」「父の残した船は売らない」「冷凍保存されている父の遺体を早く埋葬したい」という。リーは「仕事のために毎日ボストンに出かけられない」「古い船を維持管理する金がない」「遺体の埋葬は暖かくなるまで待つ」と反対し、揉めた。

リーは喧嘩をしながらもパトリックの登下校、彼女の家への送迎を欠かさなかった。

葬儀には兄ジョーに縁のある人たちが多数集まり、粛々と執り行われた。元妻ランディー夫妻、兄ジョーの元妻エリーズ夫妻も参加していた。リーは静かに彼等を見つめていたが、ランディーが近づいてきて抱擁し、ジョーの死を悼んでくれた。

葬儀を終えてアパートに帰宅すると、これまで気丈に振舞っていたパトリックが父を失った喪失感でパニックに陥った。パトリックは母親と暮らしたいとエリーズの家庭を訪ねたが、エリーズの夫を受け入れることが出来なかった。

リーは本気でここで暮らすことを考え、ボストンのアパートを引き払い、こちらで仕事を探し始めた。女友達の多いパトリックに心を許して付き合うことにした。(笑)

パトリックとジョーが残したボートを修理し、一緒に楽しむようになったところで、元妻ランデイーに出会った。

彼女には再婚し生まれたばかりの幼子がいた。ランデイーは、事故のとき責めたことを詫び、労わる言葉「あの時は心が壊れて、ずっと壊れたまま。あなたの心も壊れた、あなたにひどいことを言ってごめんね。愛している。でも手遅れね」でリーを慰めた。

しかし、彼女が優しい言葉を掛ければ掛けるほどリーの心は痛み、許されない気持へと自分を追い込んでいった。「違う、俺は何もない。何も思っていない」と泣きながら彼女の元を去って行った。

パトリックは「リーと一緒に過ごしたい」と思うようになった。しかしリーはランデイーに会ったことで心の傷は癒えず元の状態に戻っていた。リーはバーで酒を飲み客と揉め、叔父のジョージ(C・J・ウイルソン)夫妻の介抱を受けた。

帰宅したリーは、キッチンでトマトソースを温めていてうたた寝。亡くした娘たちに会った夢を見ていた。異臭で飛び起きると部屋の中は煙に包まれていた。“俺はまだ許されていない”とパトリックの後見について叔父ジョーンに相談した。

ジョーンが「子供たちも巣立っているのでパトリックを養子に迎えたい」と言ってくれた。

リーは自信を持って「叔父ジョーンが養子として迎えてくれる。自分はボストンに戻る。釣り船は売却する」とパトリックに伝えた。パトリックはこれを受け入れた。

ジョーの埋葬は叔父ジョージの墓地で行った。ふたりは無事埋葬を終えた。帰りしなに、リーは「金がない」と言いながらパトリックにアイスを買ってやり、仲良くボールを繋ぎながら「ボストンに帰ったら部屋を探すが、お前が遊びに来れるようソファーも準備する」と話した。

リーとパトリックは「これが釣り船とのお別れ」と船で釣りを楽しんだ。

まとめ:

冷たい“マンチェスター・バイ・ザ・シー”の風景のなかで語られる贖罪と赦しの物語。風景そのものがリーの心象だった。

 リーは兄ジョーから依頼されたパトリックの後見人役を、この町で起こした許しがたい事故を許せない中で、引き受けることができるのかと苦悩した。そこで見つけたのは自分の心の時間はあの事件の時間で止っているということ。時は動いている。そこに留まったままでは何も解決しない。自分が動き出さねばならない。

リーは事件を起こしたこの地を離れ、新しい自分を探すことにした。悲しいばかりの物語だが、ラストに少し光が見えてくる話だった。

圧巻はリーとランディーの出会いシーン。一時のこのシーンに、ふたりが元には戻れないことを知りながら慰め合う姿に、時の流れを感じ、ケイシー・アフレックミシェル・ウィリアムズの演技に涙しました。

こんな悲しい物語がアカデミー賞主演男優賞脚本賞を獲得したことに驚きでしたが、やはりケイシー・アフレックの熱演。背景のマンチェスター・バイ・ザ・シーの佇まい、もの悲しくも静謐な音楽、何時までの心に残る映像でした。決してこの作品を忘れないでしょう。

今年はこのレビューで終わりとします。読んでいただいた方に、1年間ありがとうごいました。良いお年をお迎えください。

                  ****