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「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(2018)

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イラク戦争大義名分となった大量破壊兵器の存在が政府の大嘘であったという言う話は「バイス」(2018)で副大統領チェイニーの視点から描かれましたが、これとは別のメデイアからの視点で合わせ観るのがいいと言われていて、やっと観ることができました。
原題は「衝撃と畏怖」。これは米軍のイラク作戦名称です。大量破壊兵器の存在が嘘だと分かったとたんに、市民が政府に返したい言葉で見事なタイトルだと思います。( ^)o(^ ) 邦題が悪すぎます!
 
「メデイアは市民の立場に立て」をテーマとし、市民目線で堅苦しい社会派でなくヒーマンドラマ仕立てでやんわりと本質に迫り、我々はどうすべきかと気付かされるものでした。日本の政治現状を見るにつけ、観るべき作品だと思います!
 
監督は「最高の人生の見つけ方」(2007)のロブ・ライナー。出演は、記者役に「スリー・ビルボード」のウッディ・ハレルソン、「X-MEN」シリーズのジェームズ・マースデン。そのほかジェシカ・ビールミラ・ジョボビッチトミー・リー・ジョーンズが共演。特筆すべきは編集長として監督自らが出演していることです。
劇中で「他のメデイアが政府の広報に成り下がるなら、成り下がらせておけ!真実を書け!」と叫ぶシーンがありますが、この信念を吐露したかったんだと思います。( ^)o(^ ) 温厚なお人柄に見えますが、熱い心をお持ちの方だとお見受けしました。
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物語は、中堅新聞社ナイト・リッダーの取材チームの活動が、これを支える家族、そして市民の反応、911愛国心に燃える青年アダム・グリーンの行動を交えながら語られます。当時のブッシュ政権の政治家や官僚の発言やニュース番組映像が添えられ、みごとに彼らの嘘を暴いています!
あらすじ:
NY支部編集長ジョン・ヴォルコット(ロブ・ライナー)、特派員ジョナサン・ランデイー(ウッディ・ハレルソン)、記者ヴォーレン・ストロベル(ジェームズ・マースデン)、ジャーナリスト:ジョー・ギャロウエイ(トミー・リー・ジョーンズ)からなる取材チームは、911直後、政府内から漏れた「本当の狙いはアフガニスタンではなく、イラク」を聞きつけ、その証拠を、傘下の新聞社からは記事の掲載を断られ、オフィスには秘匿の脅迫メールが届き、身内からも裏切り者呼ばわりされながら、大手メデイアが気に止めないような端末の政府職員へ地道な取材を実施して真実を探り当てていくが・・・。
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冒頭「多様で独立した自由なメデイアこそ米国の民主主義にとって重要だ」というジョンソン元大統領の報道官ビル・モイヤーズのことばで、テーマを浮き彫りして始まります。この言葉で日本の現状がいかに幼稚なものかと思い知らされます。
 
次いで、2006年(2003イラク戦争イラクで脊髄を損傷したアダム・グリーンが車椅子で「傷痍軍人給与法審議?」の公聴会に出席し、イラク戦争がいかに非人道的なものであったかと死者数など数字で挙げ、何故戦争しなければならなかったのか?」と問う。
9.11を目の当たりにし国を守りたいとアダムはイラク派遣を志願し、イラクに降り立った直後、地雷で吹っ飛ばされた。報道が正しければ、彼は志願しなかったし、多くの若者が命を失うことはなかった。
ここでは愛国心と報道の関りが問われ、911愛国心一色となった米国では政府批判記事は掲載できない雰囲気ができ、メデイアはこれを忖度し、政府の嘘を暴けなかった。このような環境にあるときこそ、メデイアが真実を伝えなければならないことを示唆している。
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「目標はイラク侵攻」を耳にしたジョンは元従軍記者でパウエル国務長官スペシャコンサルタントでもあるジョーにその可能性を聞くと「ビンラディンではない!」と言い切る。これでジョンは「国はイラクに侵攻するのか?」に焦点を当て情報収集を始める。直ちに、ジョナサンをアフガニスタンに従軍記者として派遣し現状を把握する。
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ウオーレンは政府関係職員からの情報収集にあたる一方で、アパートの隣室に住むリサとデート。仕事柄、ビンラディンサダム・フセインの話になり、リサが「学校で学んだが、イラクの成り立ち、イラク内の民族対立からふたりが連携することなどありえない」と言い切る。
これは、我々にも“疑う知性”が求められていることを示唆しています。この映画を観て、もっと胸を打つものでした!
 
リッダーの記事を見て、政府職員、政府高級官僚が接触してくるようになるが、秘匿名を希望し情報としての深みが出て来ない。根拠を明らかにすることこそがジャーナリストの役割であり、その難しさを知ります。
 
20022月に入り、政府は「イラク大量破壊兵器が存在する」と言い出し、イラク攻撃の環境作りが始まる。
ジョンはイラクが輸入する資材について、専門家の知見「パイプの太さが核融合に使用するには細すぎる」に注目。また、国防省の女性職員から「省のなかに戦略準備室ができている」と明かされる。
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これをもとにイラク参戦反対記事を書くが、政府の広報誌に成り下がったニューヨーク・タイムズ、報道番組でのコメンテーターの意見などで、市民はリッターの記事を「核攻撃されたらどうする」とキューバ事件の例を持ち出して非難する。「ケネデイーには証拠があった」と反論しても聞き入れられない。
 
なかでも、ピュリツアー賞受賞者であるジュデイス・ミラーのTV出演による「イラク脅威論」は大いに政府を助けた。
 
パウエルだけが最後の望みでしたが、彼は国連で政府の意見を通した。「彼は泥をかぶった」とジョー・ギャロウエイ。
 
イラク侵攻後、大量破壊兵器の痕跡はなにも出てこない。ニューヨーク・タイムズもジュデイス・ミラーも謝罪でお終い。証拠を検証し得なかったメデイアの怠慢です。
 
この作品は「政府のいうことは疑え」と教えています。我が国のメデイアの現況は不甲斐ない。「疑う知性」を持つことが求められています。
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