監督とキャストで観ることにしました!
“アンダーカレント“とは底流、下層流。ここでは「心の奥底に流れる心象」。
原作:フランスを中心に海外でも人気を誇る豊田徹也さんの長編コミック「アンダーカレント」、未読です。
監督:「愛がなんだ」の今泉力哉、脚本:今泉監督と「愛はなんだ」でタッグを組んだ澤井香織、撮影:岩永洋、編集:岡崎正弥、音楽:細野晴臣。
出演者:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、等。
物語は、
かなえ(真木よう子)は家業の銭湯を継ぎ、夫・悟(永山瑛太)とともに幸せな日々を送っていた。ところがある日、悟が突然失踪してしまう。かなえは途方に暮れながらも、一時休業していた銭湯の営業をどうにか再開させる。数日後、堀(井浦新)と名乗る謎の男が銭湯組合の紹介を通じて現れ、ある手違いから住み込みで働くことに。かなえは友人に紹介された胡散臭い探偵・山崎(リリー・フランキー)とともに悟の行方を捜しながら、堀との奇妙な共同生活の中で穏やかな日常を取り戻していく・・(映画COMから引用)
あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):
冒頭、かなえが銭湯を再開することにして浴槽を掃除し、風呂を焚き、番台でお客さんを迎えるシーン。水を張った風呂の側で考え事をしていて、そのまま後ろにひっくりかえって風呂の中に沈む。不思議な映像と音響に引き込まれる。
真木さんが一見して精神的に病んでいる姿で登場、何があったのと聞きたくなる!浴槽掃除しているかなえが考え込み、水中に沈み藻掻く姿に代る。こんな不思議な真木さんの姿を見たことない。夫の失踪、失踪は死と違い残された者に大きな精神的負担を強いる。
堀が「大森さんの紹介で」と尋ねてきた。泊まり込みで仕事をしたいと言い出す。その日からかなえと一緒に黙々と働く。堀はいろんな資格を持っているのに何故木材で焚く“月に湯”で働きたいのか、不気味さがある。井浦さんが見事に堀役を演じてくれます。
ふたりの仲はいい関係になっていく。かなえは「あなたは死にたくなったことはない?」とこれまた気持ちの悪いことを聞く。
こうしてミステリアスに物語が進む。
かなえは久しぶりに大学の同級生・菅野(江口のりこ)に出会った。「悟君との結婚、どう?」と聞かれる。かなえは「失踪した」と言い「彼にとって私は本当の気持ちを話せる相手ではなかった」という。
菅野の紹介で探偵・山崎に会う。山崎は一見ちゃら男で、物腰は柔らかいが何を考えているのか分からない男。リリー・フランキーさんにはうってつけの役。実は豊田徹也さんは山崎にフランキーさんをあてがきしていたそうです。(笑)
山崎は調査依頼書を見て、「ご主人は本当の自分を見せないアリバイ工作をしている男にしか見えない」という。かなえが「まさか!」というと、「ご主人のこと全部分かりますか?」と言い、「人を分かるとはどういうことですか?」と問うてくる。
この言葉に「妻のことを全部知っているか?」とどきりとさせられた。
調査期間は3カ月、2週ごとに中間報告することに決まった。
山崎がカラオケボックスにかなえを呼び出し調査結果の中間報告。「戸籍も子供の頃両親が亡くなったという話も嘘だった。聞き合わせでは“やさしい人だった”ばっかりだ。「ご主人は嘘ついたか、隠さざるを得ない理由があった」と言い、ダウンタウンブギウギの「裏切り者の旅」をそれみたかと言わんばかりに歌う。(笑)かなえは悔しさで泣いた。(笑)
かなえは山崎が運転する軽トラックで、まきの窯を重油の窯に変えようと廃業した銭湯の下見に出かけた。先方の店が火災事故でこの話はダメになった。その帰り、かなえは「私はよくみる夢がある。誰かは分からないがその人がゆっくりやさしく首を絞め、水に沈める。私は怖いのか安らいでいるのか分からない。山崎さんこんな私が好き?」と聞いた。山崎は聞こえないふりをした。
窯の更新を勧めてくれた内海さんが訪ねてきて、「山崎はここで働きたい!」と自分で言い出したんだという。かなえは山崎が何を考えているのか分からなくなった。
山崎から最終報告を遊園地でするといってきた。(笑)かなえが遊園地についても山崎は顔を見せないで。あっちだこっちだとスマホで伝えてくる。(笑)そして観覧車に乗って「悟君の銀行口座の出し入れはない!知人との接触もない。会社で横領事件を起こした女性を庇って辞めたという話があった。悟君はあなたに重要なことを言わない、内に秘める人だった」「生きていると思う」と報告した。かなえは「人を分かるってどういうことか?」と考えていた。
月の湯の前で誘拐事件が起きた。かなえはショックで寝込んだ。堀が介護についた。かなえは堀に「幼いころ仲良しのサナエちゃんと遊んでいて、サナエちゃんがレイプされるのを見たが、犯人に「誰にも言うな!」と脅迫されサナエちゃんのお母さんにも話さなかった。サナエちゃんには仲のよいお兄ちゃんがいた。私が死ねばよかった」と“うわ言”のように話した。これがかなえのアンダーカレントだった。
この後、かなえと堀の関係は一歩前に進みだしたようだった。
そこに、山崎から悟が見つかったという電話が入った。かなえは海辺で待つ悟に会いにいった。堀はいい潮時とここを去ることにして、月の湯を出たところで、たばこ屋のおやじさんことサブ爺(康すおん)に橋の上で出会った。
かなえと悟。
悟は月の湯を出た理由を、「嘘をつく方が楽に生きれる、真実より嘘のほうが好きだ。本当のことなど誰も知りたくない。しかし、嘘が重なり身動きが出来なくなった。今は正直な気分が分からなくなっている」と説明した。かなえは「嘘つくことはある。お互いのことが分かっていなかった」と別れることにした。さばえは「殴らせて!」と言って、マフラーを悟りの首にまいて「さようなら!」と別れた。かなえは悟を愛していた、このシーンは泣けます!
「嘘をつく方が楽に生きれる」、これにどきりとさせられた。澤井香織さんが書くセリフがすごくいい。
堀とサブ爺。
サブ爺は堀がサナエの兄であることに気付いていた。堀が「さなえさんは妹のことは忘れているのかと思ったらそうではなかった。これ以上居たら傷つけるから出ていく」と話すと、サブ爺が「自分のままでいいんだ、人は人に頼り迷惑をかけて生きているんだよ。どうしても出ていくか?」とタバコを渡して去って行った。
ここで悟が見つけることが出来なかった答えを見せるという演出、見事でした。
康すおんさんは大好きな俳優さんで、いい役を貰ったなと感嘆しました。
かなえが月の湯に戻ると、休み日なのに堀が薪割りをしていた。夕食時、堀はサナエの兄であることを告白した。次の日の散歩、かなえは犬を連れて散歩、その後を堀が追っていた。(笑)
まとめ:
「嘘で生きるか、辛いことがあっても真実で生きるか」という恋物語。今泉力也監督の魔術にはまった。「人を分かるとはどういうことですか?」と聞かれ、改めて自分を見つめ直す物語でした。
人生に嘘は一杯ある。嘘で生きるほうか楽だと思えることがある。しかしこの繰り返しはどこかで破綻する。これをリアルに感じ、反省することしきでした。
ドラマ「最高の離婚」(2013)以来の瑛大さんと真木さんの共演、ラストシーンで瑛大が吐く別れの長セリフが良かったが、ここでのセリフもいい。かなえが「殴るよ!」と言いながらマフラーを悟の首にかけ、「もう嘘はやめて!」と愛していた記憶を残すシーンは泣けます。
何気ないセリフ、どこにでもある川辺の道を散歩する映像が何度も出てくるがふたりの関係で違って見えてくる。ラストシーンで見せるふたりの関係、こういう関係がいいんです。今泉監督のマジックで心温まる。人生を楽にしてくれる作品でした。
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