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「閉鎖病棟―それぞれの朝―」(2019) 優しさが人を生かす!!

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原作は帚木蓬生さんの同名小説。未読ですが、他作品で帚木作品には親しみを持っており、さらに小松菜奈さん出演ということで楽しみにしていました。
監督は「愛を乞うひと」「エヴェレスト 神々の山嶺」の平山秀幸さんです。本作が初脚本作だとのこと。

人の優しさに泣けます!そして、小松菜奈さんのこれまでの作品にない演技に触れて満足しましたが、なにかひとつピンとこない。

主演は笑福亭鶴瓶さん。共演に綾野剛小松菜奈・坂東龍太・平山紙・森下能幸・駒木野隆介・大窪人衛・北村早樹子・大方緋紗子・村木仁/片岡礼子山中崇・根岸季代・ベンガル高橋和也木野花・渋川清彦・小林聡美さんらです。

あらすじ:
長野県のとある精神病院。死刑執行が失敗し生きながらえた秀丸鶴瓶さん)。幻聴に悩まされるチュウさん(綾野さん)。DVが原因で入院する由紀(小松さん)。三人は家族や世間から遠ざけられながらも心を通いあわせる。
彼らの日常に影を落とす衝撃的な事件はなぜ起きたのか。それでも「今」を生きていく理由とはなにか。法廷で明かされる真実が、壊れそうな人生を夜明けへと導く・・・。(チラシから引用)

***(ねたばれ)
衝撃的な事件。由紀が収容患者で誰からも厄介者扱いされているヤクザの重宗(渋川さん)に強姦される。由紀はそのまま病院を去ってしまうが、これを知った秀丸が重宗を刺殺し、警察に逮捕される。
秀丸の裁判は厳しいものとなるが、そこに由紀が現れ証言台に立ち、病院内であった真実を証言する。

この展開は泣けます。秀丸が自分を犠牲にして由紀を救おうとする行為に。また、自分を救ってくれ、看護師見習として自立できていることに感謝し、決して語ることではない自分の過去を裁判の場で明かし、秀丸の命を救おうとする由紀の勇気に泣けます。小松さんが法廷で苦しみに耐えながら証言するシーンは涙ものです。
また、法廷を去る秀丸にチュウさんが「俺は退院した!」と伝え、秀丸が事件で病院を去ったことで自立できる決意ができたと感謝の意を伝え、ここから三人がそれぞれの人生を踏み出すという感動物語。しかし、なにかものたりない。

前半では秀丸、チュウさん、由紀の出会いと閉鎖病棟での日常のなかで、三人がかけがえのない関係になっていく様が描かれます。

冒頭、秀丸が絞首刑に失敗し、脊髄に損傷を負い、事故ということで、この精神病院・六王寺病院預かりとなり、車椅子生活でありながら、陶器工房で働いている。病院では、患者の諍いがあればこれを制し、陶芸を教え、人望があるようです。

秀丸は間男と妻を包丁で刺殺し、寝たきりの母親を介護できないと絞殺した罪で死刑。これで死罪?さらに刑執行に失敗ということにも驚きました。

チュウさんがいつここに入院したかは描かれていませんが、秀丸がチョウさんの激しい発作を気遣って水を与えるシーンから、ふたりの親密な関係が伺われます。
そこに、母親に付き添われ、由紀が入院してくる。そして三人が親密な関係になっていくさまが、他の患者のエピソードを交えながら描かれる。

由紀は入院の面接時、妊娠していることが発覚。看護師長・井波(小林さん)が問いただそうとすると逃げて、屋上から投身自殺を図るが未遂におわる。以降、病院側がこれに触れることはなかった。これは不自然です!

由紀は逃走時陶器を壊した弁償にと秀丸の工房を訪ね、陶器つくりを教わる。由紀にはこれまでにない暖かい気持ちに触れた瞬間だった。事件を知ったチュウは、集会所で彼女に近づき優しい言葉を掛けた。 

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由紀の症状が落ち着くと家族が引き取りにやってくる。病院側はいとも簡単にこれに応じる。家に戻った由紀は父親の誘いを拒否して、再び、この病院に救いを求めにやってくる。ここで、病院側が由紀の父親(山中崇)の行動(玄関でのトラブル)に問題はないのかと疑わないことが気になる。

再入院により、秀丸、チュウさんとの仲は、プレゼントを交すほどに深くなっていく。

チュウさんは、幻聴で暴れるためこの病院に入院させられた。患者の親・兄弟がここを訪ねることはないが、チュウさんの妹とその夫が家を処分し母親を施設に入れる話のためにやってくる。この話が出ると幻聴が現れる。チュウさんは母親のことを心配している。

チュウさんは、外出が許され、患者たちの要望を聞いて買物をする。患者たちの絆の支柱になっている。チュウさんの姿を見た市民は、「あれは山の人?」と心配する。この心配を解くのが原作の狙いではなかったのかと。

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患者たちのカラオケ大会。楽しい場に重宗が乱入して暴れ、秀丸の過去が暴露される。これは十分に予測できたはずで、病院側のミスではないかと気になる。落ち込む秀丸をチュウさんが支える。

サナエ(木野さん)は、泊まるところがないのに外泊が許される。サナエさんは海辺で、パンを食べながら「星より密に」を歌い、3日後に公園で発見されるという悲劇が起こる。患者皆が泣いて送った。孤独が死に繋がることが彼らによく伝わったと思いますが、外出・外泊を認める要件はなんだったのかと気になる。

チュウさんの発意で、秀丸、由紀に昭八の三人が町に買物に出かける。買物をし、弁当を食べ、写真を撮った4人。秀丸にとっては初めての外出だと言い、彼らの楽しそうな表情には涙がでます。このことで彼らの絆は一層強くなったと思われ、チュウさんの役割は大きい。チュウさんの一連の行動こそ「閉鎖病棟」のテーマのように思えます。原作の主役がチュウさんであったということを聞くと、やはりと納得です。

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秀丸の事件後、チュウさんは母親の面倒を見ようと看護師長に「退院して大丈夫?」と相談し、「大丈夫よ!」の言葉に押され退院。看護師長は患者たちによく「大丈夫!」と励まし、患を前向きに押している。この言葉の裏に「閉鎖病棟」の深いメセージが隠されているように思え、これが明かされないことが「なにかものたりない」の原因のようです!「エヴェレスト 神々の山嶺」を思い出します。主役が変わると、原作のバックグランドが失われる!

チョウさんは退院後、造園会社で働き社長さんの期待も大きく、うまく自立していくでしょう。しかし、由紀が心配です。姿を傍聴席に露呈したままで証言していますが、彼女のこれからを考えると裁判所の“やさしさ”が足らないように感じます。


患者を演じることは“へた”をするととんでもないことになりかねない。みなさん、難しい役をしかり演じていました!

居場所をなくした者たちが、ここで出会い、痛みを共有しているが故に小さな優しさを積み上げ、さらに大きな愛へと、優しさが人を生かすことがよく伝わり、彼らに温かく接することの大切さを教えてくれる作品でした。
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『閉鎖病棟―それぞれの朝―』予告編