初めての鑑賞です。WOWOWの「戦火に生きた人たち特集」で本作と続編を鑑賞しました。本作は原爆投下直後の惨状、続編は3年後の厳しい生活(被爆者)を軸に描いたものです。原爆の惨状という視点では本作で十分だと思いますので、これを紹介します。
本作は原作者・中沢啓治さん6歳の記憶を基に描いたもの。当時、私は岡山空襲(1945年6月)を体験しており、当時の状況を思いだします。作品に出てくる“空襲警報!”を聴けば今でも恐怖を感じ、“お腹減った”の言葉を聴けば当時兄弟でも争って食べたことを思い出します。原爆を除けばほとんど中沢さんと同じ体験をしました。中沢さんの記憶、間違いないと思います。
広島市の平和教育副教材から漫画「はだしのゲン」が削除されたことが話題(2023)になっていますが(NHK「はだしのゲン」はなぜ “消えた”?)、漫画を読んでいないのでこの処置は理解できないですが、アニメは思想的に中立的で、誰にでも一度は観て欲しい、世界の人に観て欲しい作品だと思いました。
監督:真崎守、原作:中沢啓治 「はだしのゲン」、脚本:中沢啓治、作画監督:富沢和雄、撮影監督:石川欽一、美術監督:男鹿和雄、音楽:羽田健太郎。
声優:宮崎一成、甲田将樹、中野聖子、井上孝雄、島村佳江、青野武、他。
物語は、
1945年4月の広島。国民学校(戦時中の小学校)2年生の中岡ゲンは、父親の大吉が戦争を批判したことから非国民の子といわれていた。だが苦渋の生活に耐える一家の前で8月6日、広島にピカ(原子爆弾)が投下。ゲンは父、姉、弟を一瞬のうちに失った。このショックで早産した母・君江と、生まれた赤ん坊の妹・友子の面倒を見ながら、他の被災者とともに必死に生きるゲン。彼は死んだ弟・進次にそっくりな戦災孤児・近藤隆太を家族に加え、そして原爆のため全身に大火傷を負った画学生の青年・吉田政二の看病をしながら戦後の世を生きていく。(allcinemaより)
あらすじ&感想:
1940年初夏、日本各地に米国の空襲を受け、広島にも空襲警報が鳴り響く、そんな中で出征兵士を見送る隊列に出会う。
中岡一家は下駄の上塗りを生業にしている。ゲンと弟の進次は腹がペコペコ。子供らの関心は食べることだけ。今日もお腹に赤ちゃんがいる母のためのサツマイモを巡って喧嘩が始まる。
母が栄養失調で倒れた。
母の病には鯉料理がいいと聞いたゲンと進次はお金持ちの家の庭で飼っている鯉を盗むことにした。うまく忍び込み鯉を捕まえたが、家主に見つかった。母の窮状を訴えたところ家主が許してくれた。家主がわざわざ「孝行な息子だ」と父母に話にきてくれたことで、父母から怒られずに済んだ
父は「戦争が終れば食べられる、日本は戦争に負ける、人を殺し合う戦争をしてはならない」と言い、「非国民と言われていることを誇りにしている」という。
アニメでの戦争批判はこの程度の表現です。
8月6日朝、大量の蟻が家に入り込んできた。不吉な予感がした。ゲンは学校に出発。空にB‐29が単騎飛んできたが空襲警報は出なかった。
8:15分、原爆が破裂!
ビルや城が粉々に崩れる。爆風でものがとぶ。電車が横転。人は衣類が吹っ飛び、首が飛び、目が飛び出し、鬼の形相になっている。
ゲンは建物の下敷きになったが、這い出すとあたりは一変していた。
そこら中が遺体だった。生きている人の服装はボロボロで正気なくまるでお化けだった。
ゲンは家に急いだ。そこで見たのは壊れた家の下敷きになった父、姉、弟の進次だった。
母が必死に救い出そうとするが無理だった。火災が迫って来る。父が「逃げろ!母さんと赤ちゃんを守れ!」と指示した。母親が「みんな燃える!」と発狂した。近所の朴さんに誘導されて現場を離れた。途中、川に飛び込む人たちを見た。
急に母親が産気づいた。
医者は期待できない。母が「水を準備しなさい、そしてハサミと糸を持ってきて」と指示した。ゲンが介添えして出産した。女の子だった。
雨が降り出した。
真っ黒な雨だった。核の第2の恐怖だという、人を何十年も苦しめる放射能汚染だった。
水を欲しがる者。飲ませると直ぐに死んでしまう。
生まれたばかりの赤ちゃんが泣く、でも母のオッパイに乳はない。
ゲンは母のために食べ物を捜す。陸軍が食べ物を配っているというので陸軍のトラックに近づくと、トラックは遺体で一杯だった。遺体を運搬中に引きちぎれる。惨い映像だった。水溜まりに浸かった遺体、蛆虫を取り出す負傷者。死んだ母親のオッパイを捜す赤ちゃん。
「赤ちゃんは殺した方がいい」と迫る女性。母から赤ちゃんを取り上げ乳を与える。自分の赤ちゃんを失った母親の狂気だった。血から血を流し吐血する兵隊。
ゲンは兵隊を野戦病院に運んだ。
医者が兵隊を看て、「死んでいる、白血症だ」と言う。ゲンはピカの性だと思った。
ゲンは市場の焼け跡にいた。焼けた米を見つけた。深く掘ると米が見つかった。母のところに米を持って戻ってきた。
そこらじゅうに、亡くなった人を焼く火を見る。
赤ちゃんに友子という名をつけた。ゲンの頭に禿がある。髪が抜ける。ゲンは兵隊を思い出し「死にたくない」と恐怖に駆られた。母に「大丈夫だ」と慰められた。
ゲンは母を助け、焼け跡に小屋を作った。
ご飯を食べていると男の子が腹をすかして入ってきた。弟の進次に似ていたので弟にすることにした。名は隆太という。
友子が栄養失調。お金を稼ぐために仕事を捜した。
1日10円を払うという仕事が見つかった。依頼人は大金持ちの人だった。大邸宅の中に入ると蝿は飛び交っていた。「これを払え!」という。匂いもきつかった。そこには足を怪我した絵描の男・政二がいた。家人たちは「ピカがうつる」と近づかない。そればかりか、「早く死ね」というありさま。足に蛆虫はびっしり張り付いている。政二が「これをとれ!」と言う。あまりの言い方にゲンが政二を殴ると「俺を殴ったやつないない。よく殴ってくれた」と喜び、生きる力を得た政二は口に絵筆を咥えて絵を描く。
ゲンは100円を貰った。
ゲンと隆太は闇市場でミルクを買い家に戻ると友子は亡くなっていた。
母が{遅かった!」と嘆き、ゲンは泣いた!
隆太が雪に下に麦の芽を見つけた。
ゲンは父親がよく言った「麦は寒さに耐えて芽を出す。麦のように強くなれ!」を思い出し「生きて、生きて、生きてやる」と決心するのだった。
まとめ:
実写では描けない!原爆惨状の映像に迫力があり、鬼気迫るものがある。
中沢さんが母を火葬した際に放射能のため母の骨がすべて灰となり、遺骨がひとかけらも残らなかったという体験をもとに、被爆シーンは実写での描写表現が困難だと、自ら描いたからだと思う。
映画「オッペンハイマー」には描かれてない映像です。
核禁止運動で、この惨状を世界に訴えることこそ日本使命だと思う。どうその使命を果たすか?
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