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「海辺の映画館 キネマの玉手箱」(2020)

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お盆に観ると決めていて、大林宣彦監督の遺作、見逃すことは出来ないとコロナウイルス防護を完全にして、越県しての観賞でした。

前作「花筐/HANAGATAMI」を観ており、作風に驚きはないと思っていましたが、末期ガンでありながら前作以上の発想・演出力に驚かされました。

夢を見ているように楽しかった!声を上げて笑った。テーマ“反戦”が押しつけがましくなく、優しい監督の遺言のようで、映画館を去る時、なにか大きな精神的支柱を失ったような、悲しい気持ちになりました。「映画で僕らの未来を変えてみよう」という言葉を大切にしたいと思います。

脚本・撮影台本:大林義彦、脚本:内藤忠司/小中和哉、撮影:三本木久城、音楽:山下泰介。

出演は幾つもの役を掛け持ちで演じる厚木拓郎、細山田隆人細田善彦、吉田玲、成海璃子山崎紘菜常盤貴子さんたち。これに小林稔侍、高橋幸宏白石加代子さんら多数の小林組の方が参加します。豪勢です!

海辺の映画館の観客である現代の若者3人が、映画と戦争の歴史の中にさ迷い込み、いろんな時代や空気の中で、様々な体験を重ね、人として成長し、彼らが守りたいと願う幼げな少女(吉田玲)と3人のお姉さんたち成海璃子山崎紘菜常盤貴子)たちの物語です。

監督の集大成作として、ミュージカル、時代劇、戦争アクション、ファンタジー、ラブ&ロマンスありの超娯楽作品です。そこで描かれるのは男たちの愚かさ、女たちの悲しさが明かされ、なんでこうなっかかという歴史的精神風土と戦争のバカバカしさが浮かび上がってきます。


大林宣彦監督『海辺の映画館-キネマの玉手箱』予告編

感想(ねたばれ):

冒頭で、文明開化というけれど、野蛮開花だったという詩人中原中也に導かれて日本の歴史を訪ねるという基本的な史観が示されます。

「瀬戸内キネマ」の支配人枡馬映人(小林稔侍)が、2019年の夏、最後のオールナイト上映として「戦争映画大集」を企画。大きな視点から歴史を見るために、宇宙に住んで地球を見てきたファンタ爺(高橋幸広)が「権力の味と破壊を覚えた人類の歴史だ!小さな地球で戦ってはつまらんぞ!」と駆け駆けます。キネマ館を目指して自転車で走る少女・羽原希子(吉田玲)、この子だけモノクロ映像(最後に明かされます)。チケット売り場の老婆(白石加代子)が迎え入れた観客のなかに映画館の馬場毬男(厚木拓郎)、常連でメモ魔の鳥鳳介(細山田隆人)、ヤクザに憧れている団茂(細田喜彦)の三人組がいた。

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映画が始まると希子がステージに上がり、「映画で戦争を勉強しましょう!」と消え、次いで3人組が戦争体験をしたいと、映画の中に入っていく。

2時間59分の長尺映画。途中でインターミッションが入りますが、実はごまかしで(笑)、ここから後段に入ります。(笑) この後段こそが作品の肝です。

前段は江戸幕末の混乱から戊辰戦争西南戦争満州事変、日中戦争、太平洋戦争のエピソードをユーモア一杯に、群像劇で、日本人の戦争に対する精神風土が描かれます。インターミッション以降、この精神風土のなかでの沖縄の悲劇、広島に原爆投下が迫るなか慰問演劇を興行する桜隊を救おうと駆けつける3人組と桜隊の運命が描かれ、最後に監督のメッセージが明かされます。

前段、

いきなり戊辰戦争がトーキー映画で描かれる。ここでの希子は屋敷わらじになっていた。やってきた3人はすざましい殺人劇に腰を抜かす。(笑)

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近藤勇尾美としのり)と土方歳三(大場康正)の新選組クーデターは次々に女たちを悲劇に晒したと言う。坂本龍馬武田鉄矢)と長岡慎太郎柄本時生)が「自由人は抹殺されるぞ!」と登場し、なぜ二人が殺されたかを問い、大久保(稲垣五郎)が鞆の浦で西郷(村田雄浩)と龍馬を偲び「坂本が生きていたら暗殺された」という。西郷が別府晋介(金井浩人)の介錯で城山で自害し、これ以降を、中原中也を引き合いに、「“野卑”になっていった」と総括する。

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ここから満州事変、日中戦争へと跳ぶ。希子は遊女なり、日本軍兵士の姿を追う。水筒には特別な水があって、これで暴れまくる将校たち。官軍と新選組を一緒にしたような男たちだった。(笑)

毬男は「肺病の姉を慰めようと」映画監督になったマヌケ先生(大林監督)の姿を追っていた。

映画には落とし穴があると、川島芳子伊藤歩)が「李香蘭と食事でもしよう」と大言壮語で登場。こいつはアヘンで儲けたやつだ。僕がしっかり映画を撮っていたらこんなアクション映画にはしなかった。(笑) 

酒匂少尉(浅野忠信が希子を救い、戦争を語るところで敵兵に撃たれ、「本物の兵隊と勝負したかった」という。ここで宮本武蔵品川徹)がお通(入江若葉)を伴って登場。(笑) 討たれた武蔵が吐く言葉「老後は平等だ!平和だぞ!剣は努力である」に笑った。この奇想天外なシーンに笑った。(笑)

太平洋戦争の終わりごろ、茂は鳥取で訓練を受ける。死体の浮かぶ海での水泳訓練。兵器のガラクタを集めて、リヤカーを敵戦車に見立てての対戦車訓練。遊郭には行くなと厳命されていた。

この時期、戦意高揚映画の製作が叫ばれる。毬男(大林監督)が山中貞雄監督(犬童一心)はこれを納得して作ったというフィルモグラフィを語る。そして「無念!」と脚本を書く小津安二郎監督手塚眞)を特別な感情で追想します。とても面白い!

後段、

茂は虐められていた遊女(成海璃子)を救ったことで、この遊女に恋仲になった。

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ここでの遊女のベッドシーンはこれまでの監督にはない?ほどの熱のこもった演出で、成海さんはよく監督の求めに応じていました。遊女の女将(根岸季衣)が乗り込んできて諍いになる。そこに兵隊がなだれ込み、女将を犯す。何人もの兵隊が女将に群がり挑むさまが、“万華鏡”のように描かれ、圧巻でした!こんな映像を観ると言葉はいらない、戦争の憎さを感じます。茂は救いに駆けつけた遊女の妹希子(吉田玲)を逃がした。

沖縄の悲劇

日本人は沖縄の人を日本人と思わず、800人以上の沖縄の人を殺している。

加也(山崎紘菜)は伊良波承栄(山田隆人)と、青い海辺で、雨の日に結婚しようと約束していたが、村長さん(大森嘉之)から「おめでたい手紙だ」と赤紙が島に渡され、出征したが人を殺すのが嫌で逃げ帰った。帰ると村長が「お前のために殺された」と首に槍が刺されていた。そこに居た兵隊(笹野高史)が「お前の代わりに!」と加也を連れ出し犯した。

母も日本兵に犯されていた。「私でも役にたった!戦争が終わったら帰っておいで!」と声を掛けてくれた。

桜隊の最期

3人は広島行きの列車に乗り、そこで移動演劇隊“桜隊”に出会った。団長は丸山定夫窪塚俊介)。次の会場は広島で、欠員があるので一緒に白虎隊をやりましょうと隊員園井恵子常盤貴子)に出演を誘われ、茂が参加することになった。

列車のなかで中野武子(成海凛子)が妹優子(吉田玲)の介錯で自害するシーンを予行。戦争になると何故か皆、この芝居をするという。これを見ていた車掌(笹野高史)がにやりと笑った。(笑)

丸山を慕う惠子の希望で特別公演として無法松の一生を演じるとそこに憲兵(内田周作)がやってきて「中止!」を命じた。これを阻止するように廊下を大量の色とりどりの美しいビー玉が流れる!この演出が凄い!

ファンタ爺が「これで10分カットされ、戦後米軍に8分カット計18分カットされても、戦後日本最高の丸山映画だ」という。日本軍の精神構造を問うています。“米百票の話”を持ち出して、負けても先を見る人がいたら国を救えた。山本五十六も戦争を始めたから付和雷同だ、これが日本人の特性だ!」と悔しがる。

3人組は「明日(8月6日)だけはここを出よう」と勧めたが、丸山がここに残ると言い出し、女子全員が一緒にいることになった。

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8時15分大型の飛行機が飛んできた。惠子が「爆音が聞こえる!」と言ったとき、ピカ・・・。

ピカだけの人は即死。ドンまで聞いた人は生き残った。桜隊では5人がピカ、4人がドンまで聞いていた。希子はピカだった。丸山はここで亡くなった。惠子は丸山に脚本を抱かせておくった。「恋に焼き尽くされたかったしょう」と希子を偲んだ。

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過去は変えられないが未来は変えられる。平和を願ってこの作品を作りましたとピアノを弾きながら語る監督の言葉で、映画は終わりではなく一旦「中断」となっています。

大林監督は永遠に平和を語り続けたかったんですね!ご冥福をお祈りいたします。

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