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「枯れ葉」(2023)悲しい話だと思ったら、芽吹く準備の話だった!

 

監督がフィンランドの名匠アキ・カウリスマキということで観ることにしました。申し訳ないがアキ・カウリスマキ作品をひとつとして観ていない。(笑)

観終わって感想を書く段階で悩みました。数ページに及ぶ絶賛の感想文の嵐、過去作を観ていないから私には理解できないことばかり。

しかし、本作に出てくるアメリカ映画「デッド・ドント・ダイ」(2019)を観て「名画だ、プレッソンの“田舎司祭の日記だ”」「ゴタールの“はなればなれ”だ」と評価する客に、一介のバーで働くウエイトレスは「警察は勝てるわけがない、今までで一番笑った映画だった」と評価した。このウエイトレスの言葉がもっとも分かりやすい映画評になっていると思い、彼女にあやかり書いてみようと思いました。(笑)

凄く偉い監督のようですが、ご本人は「こんな気分で観てくれ」を言っているのではないでしょうか。人の感想を読んでいたら、とても怖くて書けない作品です。(笑)

監督・脚本アキ・カウリスマキ撮影:ティモ・サルミネン、美術:ビレ・グロンルース、衣装:ティーナ・カウカネン、編集:サム・ヘイッキラ、音楽:マウステテュトット

出演者:アルマ・ポウスティ、ユッシ・バタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイブ

物語は、

孤独を抱えながら生きる男女が、かけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたラブストーリー

フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したアンサ(アルマ・ポウスティ)と、酒に溺れながらも工事現場で働くホラッパ(ユッシ・バタネン)は、カラオケバーで出会い、互いの名前も知らないままひかれ合う。しかし不運な偶然と過酷な現実が、2人をささやかな幸福から遠ざけてしまう。(映画COMから)


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あらすじ&感想

アンサは衛生管理士の資格を持ってスーパー店員として働いている。商品棚の整理をしていると目つきの悪い男が睨みを利かしている。(笑)

仕事が終わりアパートに戻り、レトルト食をチンして食べ、旧式のラシオでニュースを聞く。ロシアの攻撃によるウクライナの惨状が延々と放送される。ロシアと長い国境で繋がるフィンランドではロシアに攻撃されるかもしれないと危機感を覆っているのでしょう。途中で番組を音楽に変えると、古いフィンランドの演歌曲が流れる。

一方、オラッパは町工場で防じん服を着けて廃品の清掃作業を行っている。仲間のフータリが「タバコは命とりになる」と注意しても「先に塵埃にやられる」と気に留めず禁煙場所でタバコを喫う。(笑)

オラッパも会社の片隅でロシアのウクライナ侵攻のニュースを聞いていた。フータリが「カラオケバーに行こう。今なら最終タクシーに間に合う」と誘った。オラッパは渋々受け入れた。

カラオケバー

ステージで持ち歌を披露するタイプのカラオケバー。フータリは自分は上手いと曲「ナナカマドの秋」を唄う。ひどい唄だと思ったが、本人は上機嫌だった。カラオケとはそういうものだ。隣の女性、アンサをカラオケバーに誘ったリーサが「上手いね!50歳にしては声がいい」と声を掛けた。フータリは当たり前だという顔をしていた。(笑)

次にモーツアルトのセレナードを歌った男は上手いと思った。オラッパは席を外してタバコを喫っていた。これをアンサは見ていた。オラッパも気づいていた。

アンサがスーパー店で賞味期限を過ぎたものは破棄していた

ホームレスが欲しがればくれてやる。アンナが賞味期限切れの乳製品の持ちかえっているところを目つきの悪い男が上司に訴え検査されて、「捨てることになっている」と叱責された。同僚の女性店員リーサも「私も持ち帰っているよ」と応援してくれた。アンサは目つきの悪い男に「あんたは出世する」と言葉を投げた。(笑)夜、アパートに文書で首を通告してきた。(笑)

アンサは次の働場所カルフォルニア・パブを見つけた

カフェのパソコン借用料は30分10ユーロのところ、アンサは8ドルしか持ち合わせがなかったが店主が気を利かしてくれたお陰で見つかった。

カリフォルニア・パブでは皿洗いだった。古いミュージックボックスからマンボ・イタリアノがガンガン流れる店で、愛想の悪い店主だった。こんな店にも人が溢れていた。アンサは店主が麻薬取引する現場を見たが黙っていた。

アンサは仕事を終えての帰り、ベンチで酔い潰れているオラッパを見つけ「大丈夫?」と声を掛けたが、そこに最終の電車が来たので飛び乗った

次の日、アンサが出勤すると店主から「1-2週間休みだ、有給だ」と言われるが、店主は薬の密売で警察に連行されていくところだった。(笑)居合わせたオラッパに「コーヒーでも飲むか?」と誘われた。「お金がない!」と答えると「おごる」という。

ここまで観たとき、アキ・カウリスマキ監督がどんな偉い監督か知らないから、「この作品、何が言いたい、バカ作品か!」と思った。しかし、可笑しさがこみ上げてくる(笑)

カフェで向き合ったふたり。オラッパの「腹減ったろう、パンでもどうだ」の言葉でアンサがパンを取に席を立った隙に、オラッパは酒を自分のコーヒーにたっぷり入れた。オラッパが「映画でも観るか?」と聞くとアンサは「選んで」という。

ふたりでアメリカ映画「デッド・ドント・ダイ」(2019)を見た

この作品は私も観ている。客が「プレッソンだのゴタールの作品に似ている」という感想を漏らすが私にはこの感想は理解できなかった。しかし、アンサの「警察は勝てるわけがない。面白かった」という感想はよく分かった。ふたりは高尚な映画鑑賞眼はないかもしれないが、ゾンビに自分たちの運命を重ね合わせる人間性をもっていた。

ここらあたりから、私のこの作品に対する見方が変ってきた

 アンサは「また会いたい、近くに住んでいる」と電話番号をノート紙に書いて渡し、キスして別れた。オラッパは酔っ払っているからポケットに入れたつもりだったが、ノート紙は風に吹かれて飛んで行った。

 オラッパは宿舎としている廃車の貨物車で目を覚ましノート紙を失ったことに気付いた。ラシオからウクライナの惨状を伝えるニュースが流れていた。一方、アンサはオラッパから電話が掛かってこないことにいら立って、ウクライナの惨状ニュースを音楽番組に変えると、甘ったるい歌で「愛に疎いあなた・・」と囁かれる。(笑)

オラッパは映画館に行けばアンサに会えると映画館で待つが彼女は現れない。山のようなタバコの吸い殻を残してその場を去った。アンサも同じように映画館に行けば会えるとやってきてタバコの吸い殻の山を見た。

オラッパは飲酒で事故を起こし会社を首になった

建設現場で働くことにした。ここでもアンサを思い出し酒を呑む。

アンサは鉄工所で働くことにした

雨の日、アパートの窓から外を見ながらオラッパは何故電話を寄こさないかと思い悩むシーンは秀逸だった。

ある日、ふたりは映画館の前で会うことが出来た

ふたりは再会を喜んだ。アンサが「家にご飯に来て!」と誘った。オラッパがメモを落とさないよう身分証明書を渡した。

アンサがスーパーで彼のために皿やフォークやナイフ、アペリティフの小瓶を買い料理を作って彼を待った。ホラッパは小さな花束を買い、アンサのアパートを訪ねた。オラッパは彼女の料理を味わい、彼女が注いでくれるアペリティフを飲むが、酒乱の彼には量が足りない。自分が持参した酒を呑んだ。アンサの「自分の父も兄お酒で死んだ。母は嘆いた。アル中を止めて!」と要求した。オラッパは「指図するな!」と怒って帰っていった。

オラッパはバーに立ち寄り酒を呑んだ。そして仕事中注意されても酒を呑んだ。しかし、彼に中のアンサが消えることがない。

アンサも鉄工所で働き、帰宅する電車の中でオラッパを思い出していた。

ある日、アンサはパブでリーサと飲んでいた

リーサがアンサの話を聞き「男なんか同じよ、鋳型よ。男はブタ」と気勢をあげる。アンサは「ブタはやさしいよ」と答えた。

アンサは夜よく眠れない。そこで殺処分するという犬を貰い受け、共に過ごすことにした。やっと笑顔が戻ってきた。

アンサはリーサと共にカラオケクラブで若い女性メンバーが唄うロックを聴く

ここでのロックの歌詞は「私は囚人、永遠に世の中にひとりぼっち、深く埋めて・・」という仰天ものだった。(笑)オラッパとフータリも聞いていた。

オラッパはアンサに会わず、外に出てホステルに泊まり、酒断ち決心をした

枯れ葉が舞う秋、空が透き通るほどに青く、湖の色も青く美しい。

オラッパはアンサに「酒止めた!」と電話した。アンサが「何故?」と聞くと「君だ!」と答えた。アンサは「すぐ来て!」と答えて彼がくるのを待った。

オラッパは上司に「服を貸して欲しい」を頼むと、「持って行け」と上着をくれた。喜び勇んで飛び出したが・・。アンサは又騙されたと思った。

フータリからアンサに「交通事故だ」と電話が入った

アンサは病院に駆けつけるがオラッパの真苗が分からない。「宗教上の妹です」と言うと受付の看護師が「分かりました」と病室に案内された。(笑)「脳は生きているから話しかけて」と言われ、待合室の雑誌を持ち込んで読んだ。「バラバラの死体は冷凍されて発見された」「修士、恋人の肉を食べる」。一向に反応がなかった。(笑)。次の日はサッカーの試合の話、次はクイズ。血液型を聞いても反応がない。(笑)

アンサは帰り電車の中で「目が覚めた」の連絡を受けた。犬を一緒に病院を尋ねた。オラッパが「俺死んだか?」と聴く、「その逆」と答えた。「待っていた、結婚届を出すところだった」と言った。

退院してアパートに戻るとき、看護師が「亡くなった夫のもの」と洋服一色を準備してくれた。(笑)「お世話になりました」と病室を出てくるオラッパに目で合図を送った。

オラッパが「犬の名は?」と聴く。「チャップリンよ」と答えた

まとめ:

労働者階層のほぼ最下位のアンサとオラッパ、カラオクバーでひとめ惚れして、公私にわたりいろいろあったがひとめ惚れを通して一緒になり「まあ、世の中、なんとかなるよ」という話だった。(笑)

あまりにもそぎ落とした物語で、大丈夫かと危惧しましたが、会話の面白さに嵌り、ラストシーンでは思わず快哉を叫びました。達人が作る作品とはこういうものだと思いました。

物語のバックに流れるウクライナの惨状、TVは登場しないが今の話、古い演歌から今流のロック、服装が原色であること、映画の広告など映像の中に沢山の情報があると思うが分からない。

「一人口は食えぬが二人口は食える」「捨てる神あれば拾う神あり」と人間関係の不思議を描いたもの。人生ってそんなに悪くない、孤独になるな!と説いたものだろうと大いに笑った。

ラストシーンのオラッパの「犬の名は?」にアンサが「チャップリン!」と応えると犬が「ワン」と答えた。(笑)チャップリンの映画「モダン・タイムス」のラストシーン「チャーリーとゴダードの旅立ち」だと思った。今の世界も世界大恐慌の時代と同じだ。そのなかで生き抜く映画「モダン・タイムス」になぞらえた物語、「山の彼方に希望はある」と人生賛歌を描いた作品だと思った。今の時代に描かねばならない理由があった

この映画に出てくる「男は誰も同じ、鋳型でブタよ」、ブタの感想ですいませんでした。(笑)

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