変な名のタイトルだとは思ったが、まさかヤクザにカラケを教える中学生の話だとは知らなかった。(笑)
監督は山下敦弘さん、よく観ている監督さんです。オフビートな作風から日本のオキ・カウリスマキと言われている人(ウィキペディアより)。(笑)くしくも、同監督作「枯れ葉」(2023)と本作のテーマ“カラオケ”で重なるという運命的な出会いの作品だった。
おふたりが描くカラオケ物語、いずれも愛の物語というのは偶然か?
本作はYOSHIKIさんの作詞作曲「紅」で出会った“ふたりの出会い”が、生涯の想い出になる狂おしい愛の物語になるという話だった。
原作:和山やまの同名コミック。未読です。
監督:「天然コケッコー」の山下敦弘、脚本:「ラストマイル」の野木亜紀子、撮影:柳島克己、編集:佐藤崇、音楽:世武裕子、主題歌:Little Glee Monster。
あらすじ&感想:
雨の降る日、中学合唱部の部長・岡聡実(齋藤潤)は全国中学合奏コンクール大阪府大会を3位で終えたばかりだった。
合唱部副顧問代理・森本もも(芳根京子)が受賞トロフィーを持ち帰るのを忘れ、聡美がそれを取に戻っての帰り、祭林組の若頭・成田狂児(綾野剛)に会場の玄関で拉致された。合唱部のものがこれに気付いたどうかは定かでない。なんともおおらかな合唱部の出来事だった。
連れていかれたところは「カラオケ天国」。
成田は名刺を出し「合奏部の歌よかった。一番や、だからカラオケを教えてくれ!」と言い出す。成田は冴えない人だが優しそうな人だった。「ヤクザ?」と聴くと「裏企業だ」と言う。習う理由は「組長がカラケ狂いで誕生日に行われるカラオケ大会に負けると入れ墨を彫られる。それがクソで嫌だ」というものだった。(笑)
聡美は断ったが「1曲だけでいい」と曲「紅」を歌った。英語で歌い出し、突然シャウテイングで大声を張り上げ、まあまあの形で歌い上げた。聡美は出された焼き飯を食べながら聞いていた。「どうや?」と聴くから「気持ちが悪い、しいて言えば手を挙げない方がいい」と注意した。その日はこれで終った。
次の日。成田は聡美が忘れた蝙蝠傘を返しに学校にやってきた。
女生徒からこのことを告げられた聡美は傘を受け取り「帰ってくれ!」と言うと成田が「合奏を見たい」と言い出す。聡美は“歌い方パンフレット”を渡して帰ってもらった。
教室に戻ると、もも先生が「今月から月、水、金の練習に戻ります」と言うが、2年生の和田(後聖人)が「これでは部は終わりだ!コンクール3位の反省がない」と言い出す。もも先生が「ほんの少し愛が足りなかったかな!」と反省を言った。聡美はこの意味が分からなかった。
聡美は母親に新しい傘を買ってもらった。しかし、これも父親の趣味でおかしな模様があるものだった。(笑)
聡美は映画をみる会に顔を出し「マフィア」を観た。
部長の栗山(井澤徹)が「ヤクザはみなみ銀座にもいるよ、殺し屋だ」という。
聡美がみなみ銀座を尋ねた。
「このあたりか?」と歩いていると「来たか!」と成田が現れた。成田がパンフレッドを示し「手のことはどこにも書いてない」と言う。パンフレットをしっかり読んだようだった。ふたりで「カラオケ天国」に行き、成田がシャウトしながら「紅」を歌って見せた。聡美が「手を上げても高い声を出せない。音は振動です」と音叉を出して説明した。成田が「騙された」と悔しがった。
聡美は「なんでこの曲なのか?難易度が高すぎる」と問い質した。
すると成田が「今までずっと勝負してきた曲だ。兄貴の命日の日、それっきり兄貴は消えた、その時天使の歌声に出会った」という。聡美はチャーハンを食べながら聞いていた。
車で家に送ってもらう途中で「あの歌は変えた方がいい」と薦めたが成田は「あの歌はカズ子の想いだが詰まっている」と言い、変えることを認めなかった。家の近くに来ると車から聡美を降ろし「家についたら連絡しろ」という。聡美がラインで連絡するとすごく喜んだ。成田はすごく純粋な人だった。
聡美は映画を観る会で恋愛映画を観た。
栗山が「愛というのは与えるものだ」という。聡美は「何を与える?」と聞いた。(笑)
夕ご飯。聡美は父母と一緒に食べた。
母が食べていたシャケの皮を父の茶碗に移した。(笑)聡美は「これが愛か!」とびっくりした。(笑)このあたりは「天然コケコッコー」の世界だった!
翌日、合唱部活の時間。
合唱を終えると、もも先生が「今日はここまで」と練習を切り上げ、聡美がもも先生に「ありがとうござました」と挨拶して練習は終る。この日は少し違っていた。2年生の部員・和田が「部長は声を出していない。これではお終いや」と怒って帰って行く。本当に失礼なやつだ!
合唱部コーチの松原(岡部ひろき)がもも先生に「聡美は声変わりなんだ」と伝えた。もも先生は「そうなの」と驚いた。
聡美は家に戻り喉を押さえて悩んだ!
次の日。もも先生は新しい楽譜を部長の聡美と副部長の中川(八木美樹)に渡し、「次の合唱祭はこれでいく」と示し和田は聡美の補欠とした。もも先生の思い切った指導だった。
聡美は成田に呼び出されカラオケ天国にやってきた。
聡美の指導を受ける為にヤクザ一同が集まっていた。
次々と歌うヤクザに聡美がコメントをつけるというもの。「リズムに乗れていない、音をよく聴いてください」「声が続かない、よく続けてください」「ピッチが不安定です」「ビブラートの癖が強すぎる」「声が汚い」「うるさいです」「ガスです」。聡美は容赦なくコメントを付けた。最後の「ガスです」にはさすがにヤクザが爆発した。(笑)これをうまく成田が取りなしてくれた。
聡美は土下座して「申し訳ありませんでした」と侘びた。するとヤクザは「簡単に頭を下げるな!」という。聡美は「自分の声をよく聴いてください。繰り返し自分の声を聴いてください。僕に頼らなくても上達します」と挨拶した。「ありがとうございます」と全員が声を返してきた。
成田が送ってくれる車のダッシュボードに切り落とした指が入っていた。聡美は「これ以上つきあえません」と申し出ると、成田は「怖い目をさせた」と謝った。聡美は「狂児は本当の名ですか?」と聞いた。すると成田は運転免許書を見せ、「親父が京二を狂児と間違って出生届した」と笑った。(笑)「まじめに過ぎて高校生いなりここでアルバイトして辿りついたのがこの道だ。君は大丈夫だ!」と笑った。
聡美は合唱部には顔を出さず、映画を観る会に入り浸った。
栗山に「どちらに行くんだ!」と聞かれ、聡美は「怖いけど狂児さんだけなら続けてもいい」とカラオケ天国に走った。
カラオケ天国で成田が唄い、聡美が聴き、成田がカラオケ大会で唄う曲を練った。
「“紅”より良い、これで勝負しましょう」と聡美が選んだ歌を「組長が唄う歌はまずいよ」と言い「君、何か歌えよ!」という。遂に3曲にまで絞った。「よく見つけてくれたありがとう」と成田は喜んだ。どの歌にも途中でシャウトが入る。(笑)
聡美が成田に「何が不満なんですか」と聴くと、「間に挟まないと唄えない」と言う。(笑)
聡美は“紅”の詩を写し取り、英語部分を訳し、音叉に目盛りを着けて、「大事な人が去って心が紅に染まる。こんな詩です。狂児さんが愛したカズ子さんどこかに去ってしまた、だから怒鳴るの?」と聞いた。「バカ、カズ子は母の名だ。ぴんぴんしている。カズ子の名は気休めに使っている」と笑った。(笑)
聡美が映画を観て「大人は好きだ嫌いだといい加減で汚い」と思っていた。
そこに「何やっているんですか」と和田が駆け込んできた。栗山が「聡美はこの部で認められている。かけもちが6人いる、余計なこと言うな!」と叱った。和田は怒ってフィルムを巻き戻してしまった。ビデオデッキが壊れているのも知らず。
和田が音楽教室で「ビデオデッキが壊れて映画を観れなくした。廃部になったらどないしよ」と後悔していた。(笑)中川が「そやなあ」と聞いてやる。合唱部の練習が進まない。(笑)
聡美はみなみ銀座でビデオデッキを捜していた。
聡美がやっと店を見つけたと思ったらヤクザに捕まり殴られそうになった。そこに成田が現れ男を殴り倒した。ビルの屋上に上がって「聡美君は才能がある。車の小指はあいつのだ。こんなところ2度ときたら駄目だ。来週“スナックカズ子”に集まってカラオケ大会だ」と云った。聡美は「その日は合唱祭で出れない。ソプラノが出ないから歌えない」と話した。成田は「きれいなものかダメだったらこの町が全滅だ」という。聡美は「組長さんの彫り物は嫌いだ!嫌いだ!と好きなもの云った方が良い。好きなもの入れ墨してもらえる」とコメントした。成田は「そらいいな!」と笑った。
食事の時、母が「もも先生からメールがあった」という。父がお守りをくれた。
聡美は自室から成田に「次に会うときはよろしく」とラインを送った。音楽教室で聡美は中川に「合唱祭に出る」と謝った。和田が「聡美先輩が出るなら出ない」と怒って帰った。聡美は和田を追っかけ謝った。すると和田が「ふたり庇い合って出来ているんですか、いやらしい」と皮肉る。中川が「すぐ退部しなさい!」と和田を叱った。そして「うちら出来ている」と聡美の腕を組んだ。(笑)
そこに成田が車で迎えにきた。
成田が「ラインで元気くれるというから逢いに来た」と言う。聡美は「3年間もまじめにやってきた。くだらないカラオケ大会とちがう。三角関係とかカラオケとか下らん。狂児のど阿呆!」と父からもらったお守りを成田に投げた。
聡美は成田からラインで連絡があっても出なかった。
合唱祭の日。聡美はカラオケ天国の前をバスで通ていて、成田の車が大破し、キャスターの上で成田が亡くなっている?を見た。
聡美は音楽部に「歌えません」と断り、ヤクザのカラオケ大会場所“スナックカズ子”に駆けつけた。
スナックはヤクザで一杯だった。聡美は組長(北村一輝)に「狂児さんはどうしたんですか?」と聞いた。組長は「あいつは地獄に行った。罰あたりだ。鎮魂歌だ!歌え」と云った。
聡美はシャウトして、声変わりした声で精いっぱい“紅”を歌った。感情がしっかり入ったすばらしい歌だった。
聡美は“紅”の歌が亡き人を忍ぶ歌だということを実感した。
するとそこに成田が「これが守ってくれた」とお守りを持って現れた。(笑)
合唱祭は聡美の代わりに和田が唄い、無事終わった。
後日、聡美は後輩に部の未来を託し、部員一同の写真に納まり、部を去って行った。
声変わりで唄えなかった聡美に残されたものは何であっただろうか。出会いは幻だったか?そんなことはない、生きた歌、愛の歌を唄ったピカピカの記憶だった。成田にとってもこの町で出会った生涯忘れられない歌、生きる歌だった。歌の力を知る作品だった。20年後、成田は“聡美命“と入れ墨を彫っていた。
まとめ:
思春期のほんの1ページ。声変わりで声が出なくなった中学生合唱部の聡美がヤクザ男の成田と知合い、聡美は成田の純粋さに惹かれながらも、どこか成田がヤクザであることに引っかかる。そんな悩みの中で、人を愛するとは何かを知る物語だった。
成田が死んだと知り、合唱祭を取りやめ成田のために捧げた歌。これが“紅“だった。この歌がなければ聡美は愛することは何かを知らずに中学生を終えていた。歌が聡美の人生を救った。そして歌にヤクザという差別はないということ。すばらしい歌の世界を見つけたのではないでしょうか。
日本のオキ・カウリスマキと言われる山下敦弘監督、ご本家「枯れ葉」同様に、愛に満ちたおもしろい作品だった。聡美がすばらしいが、芳根京子さんが演じるもも先生他、合唱部の面々のおおらかがよかった。ヤクザの成田、綾野剛さんの柔らかい演技が微笑ましい。とても歌の上手い方がこう歌うかと楽しませてくれました。
この作品のすばらしいところは齋藤潤君の輝く瞳と最後の済んだ歌声だった。ここにヤクザとそうでない人の差など感じさせないYOSIKIさんの“紅”のすばらしさだった。
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