監督は「6才のボクが、大人になるまで。」のリチャード・リンクレイター。この作品が面白くて、監督作を見ようと選びました。今週、皆さんが観る作品は「スオミの話をしよう」だろうからというのが本音。(笑)
雑誌に掲載された実在のスゴ腕潜入捜査官ゲイリー・ジョンソン(1947~2022)の記事にインスピレーションを得て作られた作品。作品の冒頭と最後に監督から謝意が表せられています。
「6才のボクが、大人になるまで。」は12年間かけて同じキャストで撮影した作品ということで話題になった作品。6才のボクがいろいろな葛藤の末に自分のアイデンティティを見つけていく話でした。
本作も離婚した男が本当の自分を見つける話でした。
12年間という時間でなく、ニーチェやカントの学理「自分は変えられる」を実在の潜入捜査官の体験で検証したもの。このアイデアが凄い。ミステリー仕立てで、ユーモアとセクシーでスリリングな作品でした。
監督:リチャード・リンクレイター、原作:スキップ・ホランズワース、脚本:リチャード・リンクレイターとグレン・パウエル。グレン・パウエルにとって初めての脚本の仕事だったようですが、このせいで彼の役が面白く演じられています。撮影:シェーン・F・ケリー、美術:ブルース・カーティス、衣装:ジュリアナ・ホフパワー、編集:サンドラ・エイデアー、音楽:グレアム・レイノルズ。
出演者:グレン・パウエル、アドリア・アルホナ、オースティン・アメリオ、レタ、モリー・バーナード、エバン・ホルツマン、他。
物語は、
ニューオーリンズで2匹の猫と静かに暮らすゲイリー・ジョンソン(グレン・パウエル)は大学で心理学と哲学を教える一方、地元警察に技術スタッフとして協力していた。ある日、おとり捜査で殺し屋役となるはずの警官ジャスパー(オースティン・アメリオ)が職務停止となり、ゲイリーが急きょ代わりを務めることに。さまざまな姿や人格になりきる才能を思いがけず発揮したゲイリーは、その後も偽の殺し屋を演じて警察の捜査に協力する。そんなある時、マディソン(アドリア・アルホナ)という女性が夫の殺害を依頼してくるが、支配的な夫との生活に傷つき、追い詰められた様子の彼女に、ゲイリーは思わず手を差し伸べる。この出会いで2人は恋に落ちるが、後日、マディソンの夫が何者かに殺害されたが、……。(映画COMより)
あらすじ&感想(ねたばれあり:注意):
ゲイリーはー大学心理学&哲学を教える学者だった。
学生たちにニーチェの「人生を危険に晒せ!」いう言葉について意見を聴く、一方で彼は妻と子と別居、2匹の猫イド(ID)とエゴ(EGO)と過ごし野鳥観測が趣味という男だった。(笑)
デイリーは電子技術と拳銃の腕前を生かして警察の鑑識のアルバイトで稼いでいた。ところがおとり捜査の殺し屋を演じる刑事・ジャスパーが職務停止となり、チーム長のクローデット刑事(レタ)のご指名で、ビリー名でおとりの殺し屋をやることになった。
ゲイリーはジャスパーに会っておとりの殺し屋のコツを聴くと「大事なのは、信じ込ませることだ。相手が望む殺し屋になれ」と話してくれた。
最初の依頼人は配管業のグレイだった。
配管業の服装で、カフェでグレイに会い要望を聞いた。「葬儀はどうする」と聞くとグレイは「うまくゆけば行く」という。(笑)
これをパトカーで傍聴していたクローデット刑事は「これは駄目だ!」と思ったが、死体の処理の話になった。「事前協議はここまでだ、契約しよう」と云うと、グレイが金をビリーに渡した。グレイはカフェを出たところでパトカーに囲まれ「証言は法廷で云え!」と逮捕された。クローデット刑事は「死体の処理法まで提示したのがよかった」とゲイリーのおとり殺し屋を褒めた。
ゲイリーは「人間関係のもつれに関われるこの稼業、自分には向いているかも知れない」と思い始めた。
ゲイリーにはいろいろな依頼人がくるようになった。
依頼人には白人黒人、金のあるやつないやつ、少年までやってくる。殺しの対象は親、パートナー、仕事仲間と多彩だった。
ゲイリーがいろいろなファッションと喋りで依頼人と交渉するシーンをグレン・パウエルが生き生きと演じてくれます。(笑)
法廷に出廷して証言台に立つ。一方で大学の教壇にも立つ。(笑)
学生たちに今期のテーマは「人格と意識」と「自分とは?」を示した。
元妻のアリシア(モリー・バーナード)に会い「人は変えられるか」と聴く。
アリシアは「人は変えられるという論文がある。性格には5の要素がある。外交性、協調性、誠実性、情緒不安定、解放性、これらは変えられる」と説明した。ゲイリーが「俺は10年も変わってない」というと「貴方はいかれているの!でもいかれた人が好きな人もいる。貴方は半分警察で技術サポート」と言い返された。(笑)ゲイリーは「大学は辞めない、驚くような人に会う。愛情が変化する人に会う」と応えた。アリシアは「人を殺すには情熱がいりそうね!」と皮肉った。(笑)
ミスコンのマンディソンから夫・レイの殺人依頼がきた。
ゲイリーはカフェでマディソンに会った。マンディソンが「パイは?」と聞く。ゲイリーは「ロンだ」と返事した。ふたりは動物好きということでいい関係が築かれた。
マンディソンの夫殺しの依頼理由は「夫が何もさせてくれない。結婚してもつまらない、望む仕事がしたい」というものだった。レイからスマホにメールが入る。常時監視されているようだった。ロンは殺人の契約をせず「未来のためにホームに帰れ!」と忠告した。
その後、ゲイリーは裁判所に呼ばれたり、クレー射場で依頼人と「法令はバカだ」と射撃しながら人間関係を作っていた。(笑)
ロンとマディソンは偶然、公園で行われる犬の慈善事業で再会した。
マディソンが「本当の貴方?」と聴く。(笑)「そうだ」と応えると「安心した、怖いのよ」という。(笑)ロンはマディソンのホームに招かれた。
ホームに入るや否や、ロンは頭より身体が動く男だった。「俺は恋人を殺せる」とセックスした。(笑)その後、「恋人と結婚するとこの仕事は続けられない」と「お互い個人の話はしない、詮索しない」を条件に「会いたいときに会う」ことに契約した。
ロンがマディソンを訪ねると、彼女がアテンダントの服装で「ベルトを開けて!」と迎える。(笑)一緒に風呂に入ると、マンディソンが「何故あなたは捕まらないの?」と聴く。
「賢く綿密にやる。カオスな場所に遺体を移す」と答えた。(笑)そこにクレー射撃の依頼人から「男が出来た、あの女を殺してくれ!」と依頼がきた。(笑)この依頼人の裁判に証人として参加した。(笑)
ロンがマンディソンに会うと拳銃を隠し持っていた。マンディソンがそろそろ契約を変更して欲しいと訴えた。
ロンはマンディソンをクラブ“乙女座”に誘った。
良い雰囲気でクラブを出たところでレイ(エバン・ホルツマン)とその仲間に出会った。レイが「しけた女め!」と襲いかかる。ロンが銃を構えた。レイは「随分出世したな!」と去って行った。
このあと、ロンとマンディソンはカッフェで話した。
マンディソンは「最高のデートだ」と言い「早く契約を変更して欲しい」という。
そこにジャスパーがやってきた。ゲイリーが「ジャスパーだ」と紹介すると「どこかで会ったことがある」という。この伏線が最後に利いてきます!
レイから殺人依頼がきた。(笑)
ゲイリーが変装してカフェに出掛け、「振り向くな!」と背合わせでとレイと話した。レイは「あのあばずれに耐えられない、あの女と男も一緒にやってくれ!」と依頼し、「支払いは二分割だ」という。ゲイリーは「タダで殺してやる」というとレイは「もう頼まない」と帰っていった。(笑)
ゲイリーはジャスパーに「マンディソンと会っていることを警察には言わないでくれ」と頼んだ。ジャスパーは「俺は何人もやっている、心配ない」と云った。(笑)
レイの遺体が発見された。
クローデット刑事が「麻薬の取引でトラブルを抱えていた」という。
ロンがホームに戻り、マディソンに「レイが死んだ、何故だ?」と聞いている途中で、クローデット刑事から連絡が来た。ロンは「警察は知っている」とマディソンを問い詰めると「薬が見つかって怖かった。レイは私を殺しにきた。だから私が殺した」という。ロンは「貴方はレイが薬を扱うことを知っただけだ!すぐ戻ってくる!」と警察署に戻った。
警察署では「マディソンが第一容疑者でレイの保険金が増えている」と注目していた。
ゲイリーは「犯人は彼女ではない」と報告し。ジャスパーの同意をとった。
ゲイリーとジャスパーがマディソンの尋問に向った。
ゲイリーが録音マイクを付けてホームに入り「刑事だ!」と声を上げ、スマホで「ロンだ、無実を話せ!」とマンディソンに指示し、尋問を始めた。マディソンの答えは全てドンが考えたものだった。とてもハラハラドキドキの面白いシーンだった。
クローデット刑事は尋問を聞いて「いろいろ仕掛けたが黒だ」という。ジャスパーが「マディソンはやってない!」と強く主張した。クローデット刑事は「今日は信用する」ということになった。(笑)
ロンはマンディソンの元に戻り「うまく行った!乾杯だ」と云ったところにジャスパーが訪ねてきた。
ジャスパーが「熱演だった。マジしびれた、見直した」と言い「保険金はこの女のものになる。俺は女を殺人罪にし、お前はそのほう助罪だ」と言い出したが、床に倒れ込んだ。マディソンが「コーヒーに睡眠薬を入れていた」という。ロンは「トドメだ!」とビニール袋をジャスパーの頭に被せた。そしてマディソンに契約変更を告げた。(笑)
大学の教場で、ゲイリーは「ここが大切だ」と自分の体験を語った。
「人間は自分次第だ。絶対はない。人生を強く生きるにはよりよい人間関係を!人生には想像しないことが起きる。複雑な世界を進み、自分を作れ!」と学生に語った。
まとめ:
冒頭のゲイリーは2匹の猫を飼い野鳥観察が趣味で、大学で心理学&哲学を教える学者だったが、ラストシーンではふたりの娘と再婚したマディソンと暮らす姿に代っていた。
冴えないゲイリーが殺し屋を演じることで人間関係に深く関わるようになり殺人依頼者マディソンを愛するようになりなった。支配的な夫との生活に追い詰められた暗いマディソンもゲイリーとつい合うことで変わっていった。
人間は何が自分のアイデンティティか分からないもの。「最大の成果や喜びを得る秘訣は人生を危険に晒すこと」というニーチェの学説を実行したデイリーの結論だった。しかし殺人を犯してまでもというのはひどすぐますね。(笑)
ゲイリーは望ましい殺し屋になるため依頼者の希望に沿うよう変装、喋り方を変える。色々なタイプの殺し屋を「トップガン・マーヴェリック」(2022)でルースター役を演じたグレン・パウエルが甘い顔で怖いいかれたおっさん役まで演じる。そして「モービウス」で妖艶なマルティーヌを演じたアドリア・アルホナがマディソン役を演じ、ふたりが惹かれ合うプロセスを濃厚なラブ演技でみせてくれます。(笑)前作とは全く違う手法でアイデンティを見つける作品でした。
クローデット刑事役のレタ、この人がいるだけで楽しい。キャリアが凄い、フアンになりました。(笑)
前作に比べると軽い感じがするのは否めない。
ゲイリーがなりすましの刑事として殺人犯とされたマディソンを救い、同僚刑事ジャスパーを殺害するシーンは本作最大の見せどころ。笑いと奇抜さで圧巻でした!
今、悩んでいる人には朗報です。「自分は変われる」と挑戦してみてください。いずれにせよ人生、前向きに明るく生きたいものだと思いました。
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