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「こんにちは、母さん」(2023)山田洋次監督らしい、庶民の心に染み入る物語だった!

 

山田洋次監督が吉永小百合を主演に迎え、現代の東京・下町に生きる家族が織りなす人間模様を描いた人情ドラマ

山田洋次監督と吉永小百合さんの作品はしばらく見送っていましたが、「WOWOW座からの招待状」に登場ということで、観ました。(笑)

観てとてもよかった!

倦怠期に入った夫婦。妻がわざわざ旦那の母親を尋ねそれとなく感謝を述べて別れるところ。この妻の行動に感動しました(足元しか描かれないが)。脚本が人の心の機微をしっかり捉えている。ドラマは母と息子の新たな出発を暖かく見つめる物語で、たいしたドラマではないが、安らぎを覚える名人がつくる作品とはこういうもの、余計なものがない、簡潔にして、人の心を捕えてくる

山田監督、91歳の作品。「寅さん」への原点帰りと言われるのもむべなるかな。さらに小津監督作品をオマージュしていて、これが安らぎになっていると思った。

原作:劇作家・永井愛の同名戯曲、監督:山田洋次脚本:山田洋次 朝原雄三、撮影:近森眞史、編集:杉本博史、音楽千住明

出演者:吉永小百合大泉洋永野芽郁宮藤官九郎田中泯寺尾聰、他。

物語は

大会社の人事部長である神崎昭夫(大泉洋は、職場では常に神経をすり減らし、家では妻との離婚問題や大学生の娘・舞(永野芽郁との関係に頭を抱える日々を送っていた。そんなある日、母・福江(吉永小百合が暮らす下町の実家を久々に訪れた彼は、母の様子が変化していることに気づく。いつも割烹着を着ていた母は艶やかなファッションに身を包み、恋愛までしている様子。実家にも自分の居場所がなく戸惑う昭夫だったが、下町の住民たちの温かさや今までとは違う母との出会いを通し、自分が見失っていたものに気づいていく。(映画COMより)


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あらすじ&感想

昭夫が勤めるオフィス街の空撮映像から物語が始まる

昭夫のオフィスルームに同じ大学で同期入社の販売課長・木部(宮藤勘九郎)が「大学の同期生会をやるから手伝ってくれ」とやってきた。実は早期退職勧奨名簿に自分の名がないかをこっそり昭夫から聞きたかったらしい。

昭夫は妻トモコとは別居中で、別に借りたアパートの戻るとトモコから「舞はそちら、お母さんのところ?」と聞いてきた。トモコは昭夫のラーメンをすする音で電話を切った。(笑)

昭夫は母の店・足袋屋“かんざき”を尋ねた

店はホームレス支援ボランティア活動の本部になっていて福江は大忙しだった

舞が「大学を休むと母からいい成績でパパの会社に入るか勤めている男を掴めと言われるのが嫌でここにいる」と言う。舞は将来について悩みを抱えていた。福江は舞から聞いたと「半年も別居しているのはおかしい」と言い出す。昭夫はこの夜、ここに泊まった。

次の朝、木部が“かんざき”を訪ねてきた。

「早期退職勧告を受けた。何故その前に知らせなかった」という。昭夫は「会社にいても窓際族で何の仕事もない。辞めたほうがいい」と薦めるが、「絶対に辞めない」と昭夫に掴みかかる。(笑)福江やボランティア仲間の琴子(YOU)、百惠(枝元萌人)が仲に入って止めた。

木部が帰った後、昭夫は「こんな仕事には就きたくない」とそっと泣いた。福江は「反対の方がいい」と昭夫に同情した。

夜、福江は牧師の萩生(寺尾聰)とホームレスへの給食支援をしていた

福江がテント住まいのホームレスの男・イノさん(田中泯)に弁当を渡し「歳だから生活保護を申請して!」と薦めると「意地がある、役所に世話になら」と断られた。(笑)

昭夫は舞から母に牧師さんという恋人ができたことを聞いた

昭夫は木部の早期勧奨退職問題、夫婦の離婚問題に母親の老いらくの恋について悩むことになった。(笑)

木部が傷害事件を起こすという事件が起きた

本部長が販売会議を開いているところに木部が「自分が中心でやってきた事案」と顔を出し、本部長が部屋を出ようとドアに手をかけたとき木部がドアを閉め本部長の腕が挟まったというもの。木部は「なんで俺が悪い?」と言う。

福江は萩生とのデートを楽しんでいた

福江は教会で萩生の説教を聞き、教会の椅子の修理を手伝い、買い物につき合うことにした。教会を出たところでイノさんに出会った。自転車で大量の空缶を運んでいた。倒れたイノさんをハンケチで汗をぬぐって介抱する福江。イノさんがそんな福江に「焼きもち焼くぞ!」と冷やかす。そんなイノさんの言葉にまんざらでもない福江だった。

昭夫が福江に木部の負傷事件を話す

昭夫が「木部が懲戒処分になりそうなんだ。仕方ない!会社はホームレスにパンを配るのとはわけが違う」と話す。福江が「バカ言わないで!」と怒りだす。「社会の競争を終えた人たちと全く違い嫌になる」と答えた。昭夫は木部の件で追い詰められていた。福江の提案で三人ですき焼きを食べることにした。

夜、福江が萩生のために足袋を縫っていた

舞がお爺ちゃんのことを聞くと「無口な人だった。あんたのお父さんとは違うという。(笑)福江は「丁寧な仕事をする人に妬かれた。しかし両親には反対された」と夫との馴れ初めを語った。そして、萩生のことは「今まで会ったことのない人で人間や社会のことを教えてくれ、先生といると幸せを感じる」と言う。「好きと言わないの」と聞くと「好きと言ってくれるのを待つ!」と言う。吉永さんが喋るから絵になります。(笑)

そこに昭夫が「風呂で牧師さんに会った」と帰ってきた。舞から「お婆ちゃん牧師さんを愛している。結婚するかもしれない」と聞き動転した。(笑)

昭夫は会社を休み墨田川辺でビールを飲んでいた。そこでイノさんに出会った、イノさんから「真昼間からビール飲んでいい身分だな!」と声を掛けられた。「悩みがある!」と応えると「仕事か女か。やっかいだぞ、女は。昔は居て苦労、今は居ないで苦労している」と言う。(笑)

昭夫が“かんざき”に戻ると、福江が萩生と一緒にいた

福江が足袋を萩生にプレゼントしたところだった。舞がいない。福江が「ボランティアで知り合った木村さんとスカイツリーにいった」と言う。萩生が「木村は私がいた大学生だ。大学でフランス語を教えていた」と紹介した。昭夫は「何で辞めて牧師になった」と聞くと「大学は教授になれるかと周り人の顔ばかり気にするところで自分には合わなかった」と答えた。昭夫は「今は派遣社員が出来ていつでも首にできる。でも嫌になった、俺、牧師になりたい」と応じた。(笑)萩生は「お勧めできない」と笑った。

萩生は帰り際、玄関で福江に「昭夫さんは大分悩んでいる。まだ若い、やり直せる。肩の力を抜いて生きた方が良い」と話して帰っていった。この話を昭夫は耳にしていた。

福江が「嫁のトモエさんが突然家にきた」と言い出した

「トモエさんがお母さんの顔を見にきたと訪れ、昭夫の幼い頃からのアルバムを見てふたりで笑った。おしゃれなハイヒールを履いていて「さようなら」と言って帰りかけ、「やり直せない?」と聞くとしばらく黙っていたが「お母さんごめん」と言って大きな涙を流して帰って行った。好きな人が出来ていると思った」と福江が話した。昭夫は「夫婦の問題だ!」と激怒し、自分のアパートに戻ることにした。

昭夫が橋の上で隅田川に飛び込もうとするイノさんに会った。

イノさんが「B―29が1700トンの焼夷弾を投下し人間を紙屑のように燃やし、大勢のものが熱い熱いと川に飛び込んだ」と川に飛び込もうとしていた。お巡りさん「が東京空襲を思い出して隅田川に飛び込もうとする」と言う。このシーンを入れなければ収まらない山田監督の気持ちを察します。(笑)

福江は萩生に誘われ和服に白い足袋で、墨田ホールで開かれたピアノリサイタルに出向いた

この後、福江の希望で隅田川の遊覧船に乗った。そして帰宅した。萩生は居間に上がらず玄関で「実は大事な話であなたに真っ先にお知らせする」と言い、北海道別海の知床教会に転勤することを伝えた。「晩年は故郷で神の言葉を伝えたいと決めていた」とその訳を話した。「今日誘ってくれたのはそのため」と福江は泣いた。

舞が戻ってくると福江はテーブルに伏せっていた。「少し疲れただけ!コンサートはショパンノクターンがよかった」と言う。

舞は全てを悟って、昭夫に「お婆ちゃんが失恋した」と伝えた。これを受け取った昭夫は安堵するとともに舞の成長を喜んだ!

昭夫は本部長に呼ばれ「木部に早期奨励退職金がつくのはおかしい」と問われた

昭夫は「木部の功績を考えれば当然。ただの事故で懲罰に値しない。私は人事部長には向いていない」と退職を申し出た。木部から「再就職のお礼だ」とバーに誘われた。

福江は萩生を送り出す際、「私も連れていて!」と言ったがすぐに取り消した。(笑)

萩生を車で送る百恵が「あれは本音、こんな堅物牧師なんか好きになって!」と泣いた。(笑)

昭夫が木部からの土産を持って“かんざき”に帰ってきた。

すると福江がお酒を呑んでいた。木部の土産“のり”をさかなに二人で飲みながらこれからのことを話す。

福江は「立ち直ろうとしている。死ぬのが怖いのでなく、いつか歩けなくなり寝込み誰かの世話になる。大丈夫と希望を繋いでいるがそれが消えるときが怖い」と泣く。

昭夫は「離婚の印鑑を押した。退職もした。二つが同時にやってきた。マンションを処分するので当分ここに住みたい」と申し出た。福江は「母さんの出番だ。悲しんではいられない」と喜び、ふたりで乾杯した。

7月29日、昭夫の誕生日だった。隅田川の花火を楽しんだ。舞は彼氏と言問橋で花火見物らしい。

まとめ

母と息子の新たな出発の物語

昭夫にとって離婚は母の福江を悲しませるものだったが、嫁のトモエさんがうまく取り計らって、昭夫にとって悔いはなかった。そして、母の福江と生活するという選択、最大の親孝行で、うまい結末だと思った

停年前の昭夫、老いて行く福江、大学卒業前の舞、さらに木部、萩生、イノさんも含めて、それぞれがこれから先、どう生きるかという物語でもあった。向島の人情を背景に、苦悩しながら自らの人生を見つけていく様が、暖かくユーモアを持って描かれていました。ほっとする物語だった。

大泉さんの昭夫役、吉永さんとの母子関係で違和感なく、よく合っていたと思いました。吉永さんの福江役、適役だったのでは。(笑) 永野芽郁さんの大学生役、これは大変だったかも。舞台挨拶で喋っているようにお臍丸出しでしっかり演じていました。(笑)

イノさん役の田中泯さん、絶品でした。(笑)宮藤さん、寺尾さん、それぞれ味のある演技でした。忘れてならないのが福江のボランティア仲間役のYOUさん、枝元萌さん。自然な演技で作品を明るくしてくれます。久しぶりに見た昭夫付き秘書の加藤ローサさんもなかなか良かった。

最後にドラマの大部は足袋屋“かんざき”の居間と二階、玄関で繰り広げられる。東京のビル群と隅田川の風物がドラマに花を添えてくれました

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