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「三度目の殺人」(2017)

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是枝裕和監督作品で、最近描き続けた家庭というテーマから離れた、社会派ドラマでサスペンスです。そして、役所広司さんが是枝作品に初参加。もう期待一杯です。
わたし自身、作品の主人公のような国選弁護人を介して証人尋問に出廷した経験がありますのでこの作品には特別な関心があります。
 
作品は当時感じた裁判への不信感(問題点)がしっかり描かれていました。

作品の被告は二度目の殺人事件。本人は減刑を期待していたようでしたが、6回の接見を経て、死刑の判決を受けることになります。しかし、この6回の接見のなかで、弁護士は被告の人生を背負うほどに近づけたのではないかと思います。
おそらくこの被告は、裁判の結果を気にしていないでしょう。自分の気持ちを法廷に持ち込んでくれたことに大満足なのではないでしょうか。作品のラストシーンを観て、こんな国選弁護士さんがいてくれたらと涙しました。
 
作品は、接見のシーンが大部で、公判シーンはほんのわずかです。「判決は法廷の外で決まる」がこの作品のテーマでしょうか。
裁判で人はどう裁かれるかということが、沢山の問題があるなかで、弁護士の視点から描いています。公判で、彼の接見で得た弁護資料がどう生かされていくかを描くことで、“誰が犯人か”ということではなく、“だれが犯人だと決めているのか”という問題提起をしています。
 
弁護士が不敵な被告に魅かれていくプロセスが、いろいろな収集情報特に殺害現場に残された十字架の痕跡や被告が飼育するカナリアを使った言葉でない心情表現でサスペンスフルに描かれ、アクリル板越にふたりの想いが重なっていく様子が秀逸で、最期まで目を離せません。
 
被告役の役所さんは、得体の知れない怪物被告人を見事に演じ、接見ごとに異なる表情を見せる演技は凄いのひとことです。(#^.^#) 

弁護士役の福山さんが、接見の回が進むにつれ、これまでの「そして父になる」の福山さんではなく、作品の弁護士さんになっていくところがよかったです。役所さんに引っ張られ、ラストシーンの充血した目の演技が見事でした。
被害者の娘役の広瀬すずさん、これは難役でしたが、裁判とは何かを問いかけるような目の演技がすばらしい、映画「怒り」から一歩前進でしたね。
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物語、
映画の冒頭、夜の川辺で被告三隅(役所広司さん)が、ある男を撲殺しガソリンを撒き火を放つシーンから物語が始まります。次のシーンが重守法律事務所の弁護士重盛朋治(福山雅治さん)、摂津大輔(吉田綱太郎さん)、川島輝(満島真之介さん)の3人が車で三隅の接見に向かうシーンで、冒頭のシーンは車の中で重盛が読んでいる三隅の供述書です。これまで摂津が担当弁護士でしたが、三隅の供述が接見の度に変ることに嫌気がして、重盛が摂津に代わり、その助手に川島がつくことになったのです。

第1回目の接見
3人が接見室に入り待っていると、三隅が「どうもお待たせ、大勢で、雨降らなかってよかったですね」とこの人が殺人を犯す人には見えないし、まるで接見を楽しみにしているように見えます。
しかし、この人は人を殺すような人ですから、この態度は不気味ですね。それだけで、ミステリーです。
「息子さんですか、お父さんにはお世話になりました。私が殺しました」と気安く話しはじめます。重盛の父彰久(橋爪功さん)が三隅の最初の事件の裁判長でした。
聴取したのは、犯罪動機、酒を呑んだ時期、使った凶器、ガソリンの工面要領などだが、酒を飲んだ時期やガソリンの工面などで前回の接見時との食い違いをみせる。
事務所に戻ると、摂津が「やっぱり死刑だよな、でも減刑を要求してるんだよ」と言い、重盛は「電車賃もままならんから止めたい」という。

重盛と川島が殺害現場を調査中、そこで女性に会うが「関係者かな」とふたりは気にも留めない。この女性は被害者の娘山中咲江(広瀬すずさん)だったのです。ふたりはガソリンを使ったこと、遺体の焼け跡に十字架のような痕跡があることを確認する。
 
このあと地検でタクシーの車内撮影ビデオを観て、三隅が財布を盗んだのはガソリンをかけた後だと解り、弁護の戦術方針を強殺より罪の軽い、殺人と窃盗に変更と担当検事の篠原一葵(市川実日子さん)に伝える。
 
ふたりは三隅の謝罪文をもって被害家族の山中家を訪れる。対応にでた妻美津江は素っ気ない対応。娘の咲江は足が不自由で、不安げな目が印象的。
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玄関にある靴に泥が付いていている。

工場従業員に三隅の人柄を聞くと皆が庇う。事務所に戻って、川島は「社員は彼を恨んでない」と記録を残す。
 
重盛には娘服部亜紀子(松岡衣都美さん)がいる。いまは離婚して妻性になっている。会うために娘にちょっとした万引きをさせて、店員に呼び出されて会うという弁護士の肩書を悪用する詐欺父親です。(笑)しかし、娘には特別の感情を持っているようだ。
 
2回目の接見
「社長さんの奥さんに頼まれて保険金目当てで殺した」という週刊誌記事が出たことで急遽接見する。前金50万円で請け負ったこと、メールで依頼されたという記録を確認する。

事務所で、「奥さんの主犯ということでいけるのではないか」と摂津に問うと「三隅の顔ならやってるよ」と言う。(笑)
川島が「わからんです。怨恨なのか、保険金目的なのか、本当はどちらなの?」と疑問を投げかけると、重盛は「法廷戦術は俺たちには関係ない。依頼人の利益になる方に決まっているだろう」という。
重盛にとって「弁護士はビジネスで、正義や真実などはどうでもいい。裁判は勝てばよい」と言う男です。摂津が「俺なら死刑に躊躇するよ」と漏らす。
 
篠原検事との打ち合わせで被害者の妻美津江の喚問を決める。その際、検事から「あなたみたいな弁護士が、罪と向かい合うのを阻止する。真実に目を向けなさい」と言われ「立場が違う」と重盛が笑う。
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重盛は三隅のアパートを見に訪れると、管理人からたまに若い子がきていたことを聞く。足の悪い子だと言う。そして飼っていた鳥が死んで埋められているという。調べると5羽のカナリアが埋められ十字架のような痕跡がある。

3回目の接見
重盛がひとりでやって来てカナリアのことを尋ねる。
「5羽は一度には死なんだろう」
「いまさら放して生きてはいけないから全部やった。一羽だけ逃げた」
「家賃3万8000円の来月分を10日早く払っているが最初から捕まる予定だったんでないの」
「家賃を払うのは楽しいよ。刑務所は家賃いらないから」
手を見せてくれというので手をアクリル板に乗せるとこれに三隅が手を重ね
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「もう少しすると熱が伝わってきて分かるのです。当てましょうか、今何を考えているか? 幾つになりました娘さん?」。
重盛は、三隅が何を考えているのか分からなくなる。
 
重盛は証人として咲江を呼ぶことにして、咲江を調べ始める。つけて見ると北大を目指して受験勉強している。「事件当日は学校から帰って外には出ていない」という。
 
父親彰久から先の裁判での三隅のことを聞く。「殺したかった。楽しいから殺したんだよ。あの時の恩情判断が人を殺した。殺すやつと殺されるやつの間には深い溝がある。産まれたときから決まっているのだ。簡単に人は変わらん」と言う。
 
重盛は三隅がさきに起こした事件地北海道留萌を訪ねる。列車のなかで三隅から父宛ての葉書を読む。
「北海道で、雪のケーキを子供とつくったときのことを思い出しています。手袋がないので、自分の手袋を渡して、冷たくって、温かい思い出です・・」。重盛はこのはがきに自分の想いを重ねる。

三隅は逮捕した元刑事から話を聞く。「怨恨ということで逮捕した。コロコロ変わって、動機は正直わからなかった。当時、炭鉱が無くなって失業者が増え、悪質金貸が溢れていたから、怨恨の方が刑が軽くなると弁護士が考えたのではないか。三隅は“空っぽの器“のようだった」。
飲み屋で三隅の娘のことを聞くと「所在はわからない。あんな人死んでほしい、子供はいつも親の罪を負わせられる」と言っていたという。
 
4回目の接見
三隅に「娘さんを法廷に呼びたい」と切り出すと、「みんな、そんなことするのか」と断る。手紙の話をすると「無理矢理書かされている」という。突然「あんなやつ殺されて当然だ」と言い出す。「どうして」と問うと「生まれて来なくてよい人間がいる」という。
「死刑のことを言っているのか?」と聞くと退席し始める。川島が「そんな人はいない。生れてこなくていい人など」と声を掛けると「終わりました」と告げ去って行く三隅。

飯を喰いながら川島が「今日の三隅は別人でした」と言う。重盛が「生まれてこなくてよい人はいない!、本気か?」と聞き、「俺は、人間の命は選別されている。本人に関係なく生まれた命は奪われている」と胸の内を明かす。

帰宅時、咲江に会い、三隅のアパートに行ったことを聞く。「三隅さんに30年ほど会っていない娘さんがいる。あなたと同じように足が悪い。だからあなたと三隅さんは仲よくなったのか」と聞く。咲江は「聞いていなかった」と応える。

被害者家族の美津江と咲江。美津江が保険金がおりないことを気にして、咲江に「私が愛人なんて(噂)、裁判になったら本当のことを話す。余計なこと言わないで」と言う。
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咲江が「余計なことって何よ」と聞くと「お父さんだけが悪いわけではない」という。

5回目の接見
第1回公判の打ち合わせ。主犯美津江の弁護方針に沿うよう三隅の答弁を確認していると、「その話を信じているのですか。本当は何で殺したと思います?」と聞いてくる。
「教えてください。あの十字痕跡、なんの意味があるのですか。あなたが裁こうとしているのではないですか?」。
「そうではない、私はいつも裁かれるほうだから。カナリアは一羽逃げた、あれ、私が逃がしたんです。人の命を玩んでいる人がいるでしょう。会って言ってやりたい、理不尽だ」と三隅が話す。
「なんで裁判長に葉書だしたの」と聞くと「憧れていたのです。人の命を自由にできる人」という。
 
第1回公判
弁護士側の主張が、美津江の「メールは仕事のこと」という証言で、あっけないほど簡単に否定されてしまう。
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この裁判を傍聴した咲江が重盛事務所を訪ねてきて重大な証言をする。「わたしは父にレイプされていた。このことを三隅に話した。三隅が私の気持ちを知って父を殺した。法廷で話したい」。
この証言から重盛はひとつの犯行シナリオを描く。「咲江は父親をスパナで殴る。父親を三隅が河原で焼く」。
 
第6回目の接見
咲江の証言について確認しようとすると「あの子は嘘を言っている」という。「あなたはあの子を助けるために嘘をつくのか。河原までどうやって連れ出した?」と質問する。具体的な連れ出し方を聞いていると「私は河川敷には行っていない。私は殺していない」とこれまでの証言を全部ひっくり返す。
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「なぜそれを最初に言わなかったか」と責めると「みんなに言いました。弁護士さんにも。摂津さんにも言った。嘘つくなと言われた。今回だけは信じて欲しい」という。重盛は「本当のことを教えてくれ!」と叫びます。

三隅は「事件の日、社長を脅してサイフを盗んだ。金は娘に送った。火傷は前の晩火傷した。あそこには行っていない」と主張し「信じてくれ」という。
重盛は「あなたの意志を尊重するが戦術上・・」と弁護案を持ち出そうとするが「戦術なんどどうでもよい。信じるかどうかだ」という。

事務所に戻りこの案を摂津、川島に話すと「やってないと誰が信じる。裁判官の心象は最悪だぞ」という。「本人の主張がそうなんだから正しい」と重盛。
 
第2回公判
公判開始前に重盛が咲江に「あの証言はしないように」と釘を差します。咲江は法廷で証言しなかった。三隅は「河川敷にいってない。みんながよってたかって認めれば助かるというから乗った。俺のいうことを聞かない、わたしは殺していない」と証言する。
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裁判官、検事、弁護士でこの裁判の取り扱いを協議。篠原検事が「やり直しをするしかない」と主張したが先輩検事に窘められ、継続と決まる。

「初めからやっても結論は変わらない。みんな司法という舟に乗っているのだから」と摂津がいう。
 
「主文、被告人を死刑に処する」とあっけく予定通りの判決が下る。三隅は「ありがとうございました」と礼をして退席する。重盛が「すまない!」と咲江に謝ると、「あの人が言ったとおりでした。ここでは誰も本当のことは言わない。誰が裁くか、誰が決めるかです」と返すのでした。

第7回目の接見
重盛は「あなたが否認した理由は、咲江さんに辛い思いをさせたくなかった?」と聞くと、「あなたがそう考えたから私の否認に乗った?いい話ですね。この話が本当なら誰かの役に立ったということ。僕がそう思いたいだけですが・・」。
「駄目ですよ、僕のような人殺しに期待しては」という三隅に、重盛は「あなたはただの器?」ときくと「器って、なんですか?」と首をかしげる三隅。

重盛は被告人に寄り添える弁護士になりました!「三度目の殺人」、だれなのでしょう。見方で変わるという秀逸な作品です。
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