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「モーリタニアン 黒塗りの記録」(2021)9.11事件の容疑者に対する米国の陰謀とこれを吹っ飛ばすモーリタニ人の宗教心!

2001年の11.9事件のテロ実行犯のリクルーターとして逮捕されグアンタナモ収容所(キューバ)に拘置されたモーリタニア人の青年・モハメドゥ・ウルド・スラヒ。米政府が最初に処刑しようとしたが、人権弁護士ナンシー・ホランダーによって救出されたという実話に基づく作品。

グアンタナモ収容所に大量の犯人のリクルーターが収容されているというニュースは知っていたがその後を知らなかったし、モハメドゥの体験が本になっていることも知らなかった。ということで大変な驚きでこの作品をWOWOWで観ました。

原作:ハメドゥ・ウルド・スラヒの著書「グアンタナモ収容所 地獄からの手記」。監督:ラストキング・オブ・スコットランド」のケビン・マクドナルド、脚本:M・B・トレイブン、ローリー・ヘインズ、ソフラブ・ノシルバニ、撮影:アルウィン・H・カックラー、編集:ジャスティン・ライト、音楽:トム・ホッジ。

出演者:ジョディ・フォスター、タハール・ラヒム、ザカリー・リーバイ、サーメル・ウスマニ、シャイリーン・ウッドリー、ベネディクト・カンバーバッチ、他。

あらすじ

2005年11月、弁護士のナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)とテリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)は、モーリタニア人青年モハメドゥ(タハール・ラヒム)の弁護を引き受ける。アメリ同時多発テロ(2001年9月11日)に関与した疑いで逮捕された彼は、裁判すら受けられないまま、拷問と虐待が横行するキューバグアンタナモ米軍基地で地獄の日々を送っていた。

一方、モハメドゥを9.11事件の犯人リクルーターとして起訴することを託されたのが軍法務官のリチャード・カウチ中佐(ネディクト・カンバーバッチ)。

真相を明らかにするべく調査に乗り出すナンシーたちだったが、正義を追求していくうちに、恐るべき陰謀によって隠された真実が浮かび上がる。

ハメドゥが9.11事件の犯人のリクルーターとしてモーリタニアで逮捕され、弁護士ホランダーによって無罪を勝ち取るまでが描かれます。

数度のグアンタナモ刑務所でのホランダーとモハメドゥの面談で、ホランダーの人権弁護士としての手腕、モハメドゥとの人間関係の駆け引きの中で、モハメドゥの告白が政府の陰謀により作られたものであることが明らかになっていく。

ハメドゥが受けた壮絶な暴行等による軍の自白強要実態とこれに堪えるモハメドゥ。一方で陰謀の存在に苦しみ、最後に取ったカワチ中佐の決断

これらが本作の見どころです

単なるドキュメンタリーではなくヒューマンドラマになっていて、2009年12月1日のモハメドゥ側が人権を訴える裁判での冒頭、原告モハメドゥの裁判長への陳述は、ただ冤罪を訴えたのではなく、自由とは何か!人間の尊厳とはなにか!を訴え、国家といえども絶対に侵してはならない個人の権利が描かれ感動的です。このシーンだけでも観て欲しい作品です。


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感想(ねたばれ:注意)

2001年9月、9.11事件の2か月後モーリタニアの海岸の街。久しぶりに帰国したモハメドゥを家族や親しい人たちに祝っているなかで、警察に連行された。このとき車のバックミラーに写った母親の姿が忘れられなかった。連光時、携帯の住所禄を消した。

2005年2月、

人権援護士ホランダーは、モーリタニア弁護士からの相談という形で持ち込まれた「3年間生死不明だったが、数週間前にグアンタナモ収容所にいるらしいので調べて欲しい」という無償奉仕案件を、これは私の仕事と引き受けた。

ホランダーはベトナム戦争以降名が知られている人権派弁護士。テリーは弁護士事務所の書記で数か国語に堪能なため、通訳としてホランダーを補佐することになった。

ふたりは早速航空機でグアンタナモ収容所を訪れた。ここでグアンタナモ収容所全景が観れるのがいい。美しい海岸にこんない醜い収容所があろうとは!

個室での面談。ホランダーはモハメドゥの脚が鎖で拘束されていることに異変を感じた。モハメドゥは穏やかな顔で対応、ここにきて覚えたという英語でしゃべった。面談室の雰囲気はお土産を渡せるし、映像のみで盗聴装置はなく、同席する監視員はおらず、日本の警察面談室より雰囲気は穏やかだ

ホランダーは「被拘禁者の人権保護法によりあなたの拘禁理由を国に糺したい」と書面にサインを求めた。モハメドゥはグアンタナモ収容所に拘禁されるまでの出来事を要領よく喋った。

「3年拘束されているだけだ!家で逮捕され、ヨルダンで5カ月、ついでアフガニスタンの基地、頭巾を被せられここに来た。日に18時間尋問され3年間、毎日だ。ビンラディンの衛星電話から親戚のものが電話してきたので気安く会話したのが逮捕の理由だった。詳しく話せない。ここでは盗聴される」と話しを止めた。ホランダーは「弁護士には秘匿特権があるから心配不要」と文書で続きを書き送ってくれるよう依頼し、文書にサインさせた。このときモハメドゥは「母親に何かいいことを伝えてやって欲しい」と指で電話番号を示した。これには「この弁護士は信頼できるか?」というモハメドゥの想いが隠されていた。

ホランダーは監視兵に「足枷は誰の指示か?」と投げかけ、基地を引き上げた。

カウチ中佐は上司のサルデル大佐から「収容中のモハメドゥを9.11事件の死刑第1号にしたいという政府の方針、起訴を担当してくれ」と依頼された。

カウチ中佐は配下からモハメドゥの履歴情報「1988年ドイツに電気工学の勉強のため留学。2年後にアルカイダに加入。彼と繋がるふたりの義理兄弟アルワルドとアブ・ハラスがいること。1997年ビンラディンの神学指導者に任命されたこと。1997~99年ドイツ情報機関が通話や送金の履歴を追跡し、義理の兄弟とテロ計画首謀者のパイロットに繋がるラムジ・ビンアルシブに資金提供をしたハンブルグ細胞の一人だ。彼らは暗号で繋がっていて他に10人いる。モハメドゥはフォレスト・ガンプであらゆることに絡んでいる」を聞き「俺が死刑に持っていく!」と部下に資料収集を命じた。

ホランダーとデリーはモハメドゥから送られてくる告白資料を、軍の保安施設で読んだ。文章は秘密チームによる確認作業で、キーワードは黒塗りされていた。

送られてきた告白文は2002年8月5日グアンタナモ収容所に収容され、CIAの2人の調査官の尋問は「モハメドゥがビンラディンの衛星電話で話した内容」に関するもので、「事件とは関係ない」と拒否し続けたため、尋問がCIAから、軍の特殊任務部隊に移されたところで終っていた。これに、獄中で知合いになった同罪のマルセイユという匿名の男の存在が記されていた。マルセイユについてフランスに問い合わせるが該当者が見つからない。この告白は真実なのかと疑問が出てきた。ホランダーは政府に情報公開を請求した。

2005年10月6日、政府はモハメドゥの告白記録を公開した。

ホランダーが軍の保安室でこれを閲覧すると全ページ黒塗りされていた。ホランダーはグアンタナモ収容所に訪れ、2度目の面会を行なうことにした。

ホランダーは「政府が根拠を示さない、政府を訴えて!」と話すと、モハメドゥが「あれに根拠はない、今から俺が書く。誰を訴えるんだ?」、ホランダーは「合衆国、国防長官ラムズフェルトジョージ・W・ブッシュ」と答えた。

一方、カウチ中佐は公開された告白記録を読んだが要約だけで、何時誰が尋問したのか記述がなく証拠として不十分であることが分かった。告白記録に名がある親友のニール(ザッカリー・リーヴァイ)に質すと「MFR(Memorandum For Record)=収容所での「尋問の際の記録用覚書き」を確認することだがそれが無理だ。閲覧を許可できるのは尋問責任者のマンデル少将のみだ」という。カウチ中佐もまたグアンタナモ収容所に飛び、マンデル少将に会うことにした。

基地を去るホランダーとやってきたカウチ中佐がここで出会い、美しい海が見える部屋で話し合った。ホランダーが「黒塗りだらけの資料、強制開示を要求するつもりだ」と切り出すと、カウチ中佐は「軍人は法と秩序を叩き込まれているから法の定めると通りの証拠を開示できる」と自信を見せた。

ホランダーは「このままでは負ける!」と活動を“人権で訴える”流れに変更した。

カウチ中佐はマンデル少将に会ったが「組織の問題だ!」とMFRの開示は断られた。モハメドゥには移動したと言われ会えず、元のいた独房を見て拘束の跡を見つけた。

ホランダーは黒塗り文書の公開を裁判所に申請し認められ、「外国人だとなんで裁判までに6年もかかるのか、人権保護についって審議をして欲しい」と訴えた。

開示された資料を読んだ。テリーが「モハメドゥは自分がやったと自白している。ここには空港の爆破計画まで書いてある。協力しても無駄!」という。ホランダーはテリーを役から降ろした。

ホランダーはひとりでモハメドゥに面会にやってきた。「証拠資料を見た。あなたは自供している」と話すと「作り話だ!」という。「本当の話をしなさい!」に「話すことはなにもない。ここで死ぬ!」と答えた。ホランダーは「あなたのような人を助けるのが私の仕事。案件に心血を注いでいる」と話すと「何が案件だ!俺という人間を見ていない!有罪だと思っているだろう。無実を信じないで何故弁護する」と問うてきた。ホランダーは「あなたは弁護される権利がある。真実を書いて!そうするならまた来る」と突き放してここを去った。

カウチ中佐は「自分がいないところで陰謀が動いている。MFRなしでは起訴できない」とサルデル大佐に申し出ると「ハメドゥの死刑は厳命だ!」という答えが戻ってきた。

ハメドゥからの文章が届き、ホランダーは保安施設で読むことになった。
一方、カウチ中佐は「ラムズフェルド国防長官の特殊尋問指示で俺がやった」と告白するニールに案内され、閲覧室でMFRを読んだ。

ふたりはそれぞれの場所で、特殊尋問によるモハメドゥの自白を知ることになった。

「モハメドゥは20時間吊るされ、照明による視覚刺激、殴る蹴るの暴力、水責めでパニックを与え、強制的な性交で屈辱を与え、最後には母をグアンタナモ収容所に呼び男の餌食にするという拷問を70日間続き、2003年9月3日「神に守ってと祈ってコリンズに自白した」。

これを読んだホランダーは涙し、グアンタナモ収容所に赴きモハメドゥに、政府の主張を無効にする根拠にするため、自白を出版することを勧めた。モハメドゥの手を取り、「ひとりにさせない!」と誓った。黒塗りあるn告白本が出版された。

一方、MFRに目を通したカウチ中佐はサルデル大佐に「自分は憲法を守る」と告訴人となることを拒否した。職員から罵倒されながら執務室を後にした。テリーから聞き出したマルセイユの所在情報をホランダーに与え、彼女を応援する立場に立った。

2009年12月1日、モハメドゥの人権裁判が始まった。冒頭、原告人のモハメドゥはグアンタナモ収容所からリモート出廷し、陳述した。

まとめ

米国の国家権力が持つ大きな闇をこれに抗う人権弁護士と権力内の法務官の正義、政府内外からの視点で描き、一方的な見方でないのがいい。

2009年12月1日のモハメドゥ側が冤罪を訴える裁判での冒頭、原告モハメドゥの裁判長への陳述。感想はこれに尽きます。

 「司法を重んじる米国が裁判もなく8年も拘留するとは思わなかった。米国が恐怖で私を支配する国だとは思わなかった。ここにきてず~と有罪であると云われてきた。私が罪を犯したという証拠はどこにもない。単なる疑惑とこじつけだ。問題人物だと判断した米国は赦してくれない!

やってない罪で苦しめられ続けたが“赦そうと思う!”

 赦したい!それは私の神アラーの思し召しだからだから私を苦しめた人たちを憎んだりはしない。

アラビア語では自由と許しは同じ単語です。だから拘束されていても自由になれる。裁判所に呼ばれる日を8年間夢見ていた。そして夢が叶った今、死ぬほど怖いけれど、心に平安を見つけた。この場に導くのは法だと信じる。恐怖ではない!だから、なんであれあなたの判決を受け入れます」。

イスラム教を全く知らない私には、衝撃的なモハメドゥの陳述でした。米国はこの言葉をどうとらえたか。

2010年3月22日、モハメドゥは無罪を勝ち取ったが、オバマ大統領の施政下でも彼の拘置生活は解かれず、6年後の2016年になってやっと故郷モーリタニアに帰還が叶った。米国にとって9.11事件の恐怖が如何に大きなものであったかが伺われる。

ホランダーは、告訴するかしないかの選択をモハメドゥに任せながら、毅然として自らの正義を信じて突き進む芯のある人権弁護士だが、獄中のランダーから投げかけられた「人間を見ろ!」という言葉に心動かされ、モハメドゥの供述に泣くという弁護士。ジョディ・フォスターが被告に寄り添った強くて人情のある弁護士を見事に演じてくれました。またモハメドゥが、ホランダーに懐疑心を持ちながら、ホランダーのやり方に心寄せていく機微な心情を、タハール・ラヒムがうまく演じています。いいドラマになっていました。

原題:The Mauritanianに“黒塗りの記録”を加えた邦題。「MFRが開示されてこそ真実が明かされる」と日本政府に訴えるようなタイトルになっていて、泣かせますね!(笑)

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