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映画「イチケイのカラス」(2023)セリフで語る裁判劇、真の法律家はどうあるべきかを問う作品

 

TVドラマは観ないのでどうしようかなと思ったのですが、背景が岡山ということで観ることにしました。ところがどっこい!セリフがすばらしい。今でも雨に濡れ置きざりにされた赤い自転車が忘れられない!

講談社「モーニング」で連載された浅見理都さんの同名コミックを原作に、2021年4月期にフジテレビ系列月曜9時枠にて放送された連続ドラマ「イチケイのカラス」のその後を描いたもの。原作未読で、ドラマも未観です!

連続ドラマの面白さが凝縮されたものになっていたのではないでしょうか?そんな感じがしました。

監督:「コンフィデンスマンJP」シリーズの田中亮、脚本:プラチナデータ」「絶対零度」シリーズの浜田秀哉、撮影:ドライブ・マイ・カー (2021)の四宮秀俊、編集:河村信二、音楽:服部隆之主題歌:Superfly。

出演者:竹野内豊黒木華をはじめ、小日向文世、山崎育三郎、桜井ユキ水谷果穂らがTVから続投するほか、斎藤工向井理柄本時生西野七瀬らが出演。豪華キャストが集結しています。

物語は

入間みちお(竹野内豊が東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称・イチケイ)を去ってから2年が過ぎた。岡山県瀬戸内の長閑な町・日尾美町に異動した彼は、史上最年少の防衛大臣・鵜城(向井理に対する傷害事件を担当することに。

みちおは事件の背後にイージス艦の衝突事故が関係していることに気づくが、航海内容は全て国家機密のため調査は難航する。

一方、イチケイでみちおと共に数々の事件を裁いた坂間千鶴(黒木華は、裁判官の他職経験制度により、弁護士として働き始める。偶然にもみちおの隣町に配属された坂間は、人権派弁護士の月本信吾(斎藤工と組んで小さな事件にも全力で取り組んでいく。そんなある日、町を支える地元大企業シキハマに、ある疑惑が持ち上がる。

全くTVドラマを知らなくてよいと思います。前段でキャラクターの面白さが手際よく描かれ、この作品特有のコミカルな雰囲気に入れ、後半に進み、ミステリアスで上手く伏線が繋がるクライム映画を観るようで、その中で法律とは何であるか、裁判官と弁護士はどうあるべきかを、上手く見せてくれます恋物語も準備されていて、ちょっと泣けます!

予告編がよく作られていて、しっかりこれを観ておくと、騙されたという結末に驚かされます。(笑)

TVドラマの映画化ということで、セリフで語る映画になっていて、「めんどくさい」というところがあります。また、ふざけた演技と笑はTVドラマ用であまり関心したものではないが、私は二度裁判沙汰を経験していて、そのセリフに、現実はもっと酷いぞと、云い得て妙と笑えます。

背景が岡山なのに岡山弁が一切出てこない。風景もちょっとおかしい!(笑)コロナ禍で苦労して作った作品であることが伺われますが、ラストの法廷シーン、こんな裁判長見たことないという、見ごたえのあるシーンでした。


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あらすじ&感想(ねたばれ:注意)

冒頭、入間は窓から降る雨の中に想い出の赤い自転車を見て、法衣を羽織り法廷に向かった。健康被害裁判の結審日だった。

赤い自転車は健康被害を調査していて殺害された弁護士が使ったもの。この裁判を象徴されるもので、このシーンは秀逸なものでした。思い出して、ぐっとくるものがあります。

坂間は裁判官となって10年間のうちに2年間別の仕事を経験することが義務つけられていて、キャリアー8年目に、ここ日尾美町にやってきて法律事務所を開いた。熱血弁護士として活躍、すっかり町の人の中に溶け込んでいた。今は大桃コロリン事件の弁護を引き受けていた。大桃コロリン事件とはトラックの積み荷、桃を形作ったモニュメントが転げ落ちて、これを避けた後続車が事故ったというもの。

相手は後続車の運転手・トメ婆ちゃんは避けられたと主張するが、トメさんは全く責任はないと頑張り、弁護士を月本に変えるという。(笑)坂間が月本に会ってみると、環境汚染を扱う人権弁護士で「弁護士と裁判官の違いを知っているか」と問うてくる。「走りまわって働くのが弁護士、暖かい部屋で働くのが裁判官!」と言われ、この言葉に惹かれて月本の活動につき合うようになった。

第1回傷害事件裁判

被告・島谷加奈子の「夫は事故に巻き込まれた」という主張に、井出検察官(山崎育三郎)が「海難事故調査によればGPSが破損していた、被告の言い分は認められない」と発言。入間裁判長は「傷害事件には関係ない!」とにやりと笑い、職権発動した。そして被告に「真実を知れば罪にお付き合いしますね」と念押しをした。

入間の職権発動は裁判官仲間では有名らしい。(笑)が、入間裁判長を補佐する土井(柄本時生)や赤城(西野七瀬)は「できるの?」と不安がる。

月本と坂間は、大手のシキハマ工場の環境汚染を調べ始めた。社員の退職、入院患者が増えているが、工場長(木島昌宏)はこれを否定する。

月本は坂間を見張り立てて、工場の立入禁止地域に潜り込み工場排水を採取した。監視員に発見され、坂間が法律違反だというが(笑えない)、赤い自転車を盗んで、ふたり乗りで、逃げた。このとき後ろに乗っていた坂間は月本の背中にもたれ暖かいものを感じていた!

入間は釣りのため日尾美漁港に出向いた。ここで鵜城防衛大臣が視察に来ていた。入間は「航海記録をなぜ公表しない」と聞くと、「それを説明していたら防衛はできない!」と言う。「大臣として何のために、何をなすか、人生の分岐点ですよ」と言葉を返した。これが理由で入間はこの傷害裁判から外された。入間の釣りは職権発動の一環で、ある情報を収集のためだった

月本と坂間はシキハマ工場に、排水が基準値以上に汚染されていると抗議にやってきた。抗議が終ると会社の顧問弁護士・三田村(尾上菊之助)が「適正である」と会社に調査結果を発表。従業員はこれを支持した。これに坂間は激しく抗議したが、月本は抗議しない。坂間は月本の行動に違和感を持った。

ある日、坂間は月本が会社から金を受け取る現場を目撃した。坂間が「弁護士の名に恥じる」と激しく抗議した。月本は「お前、俺に惚れているだろう。貰っておけ!」と金を差し出した。このことでふたりは袂を分かつことになり、坂間は月本の本心を見抜くことができなかった。淡い恋が終った!

坂間はひとりでこの難問に取り組むと決心したところに、町民の松原さんから汚染水で苦しむ息子の健康被害訴訟の弁護を依頼された。

健康被害裁判が始まった。この裁判の担当裁判長は入間だった。入間とはかって共に仕事をした仲だがこれまでとは違った立場で、法廷で対峙することになった。

坂間はシキハマ顧問弁護士・三田村(尾上菊五郎)と激しく対立した。入間は「民事だから職権発動しない」と言い、“真実”を明らかにするため土壌汚染の調査を提案した。

坂間は工場の隣接地の土壌を採取作業中、釣りに出かける入間に出会った。入間は密かに坂間のことを心配していた。さらに、傷害事件のことを考えていた。

彼は釣りで漁船に乗り漁師に接して衝突事件を目撃した話を聞く。さらに付近の無人島を調べることだった。

松原さんが「裁判が怖くなった」と言い出し、坂間の大家でありシキハマの産業医である小早川悦子(吉田羊)から「シキハマには逆らえないと」と注意された。

夜、坂間が帰宅すると坂間の住むアパートが燃えていた。情聴取で警察署にいるとそこで月本に会った。月本から「お前のやっていることは自己満足だ。危ないから手を引け!法律は不完全だ。結果でどうにでも変えられる」と注意された。寝るところもないだろうから俺のところに泊まれと誘われたが「真実を見ないで、それで怖くなるの」と断った。

入間のところに泊めてもらい「自分の正義を押し付け過ぎているのかな、よく分からなくなった」といつもの坂間に似合わない弱音を吐いた。入間は「悩め!悩め!悩め抜く!それしか答えようがない」と示唆した。

月本が裁判所に入間を訪ねてきた。月本は「坂間がひとりで苦しんでいる。早く裁判で結果を出すように」と裁判の再開を促すものだった。この際、月本はシキハマの従業員と町民が楽しそうに映っている数枚の写真を入間に渡した。そこに、健康被害なしという記事が出ることが伝えられた。

入間は月本が何故この写真を渡したのかと考え始めた。坂間は土壌採取を続けていた。

雨の降る夜、月本が何者かに刺され、亡くなった

入間と坂間は月本の遺体安置所を訪ね、彼の死を悼んだ。坂間は泣いて悔やんだ。入間はあの写真のことがやたらと想い出された。

無人島を調査して帰った入間に、坂間が「汚染した土を搬出していた」と報告すると「そういうことか」と、こともなげに言った。

入間と坂間は漁港の車庫内の車に汚染土壌が付着していないか調べていた。採取した土壌を分析班に任せることにした。

入間は鵜城大臣にまたまた出会った。(笑)入間は「傷害事件の裁判官を降ろされた、何か隠したいことがあるのですか。島が汚染されたと目撃証言ですよ」と話した。

坂間が親しくしていた和菓子屋の息子・植木(八木勇征)が月本殺害容疑で逮捕された。

第4回健康被害が再開された

入間は参考人で招致した島谷加奈子に「真実を知ったらあなたは罪を認めるか」と糺し、無人島のカメラで撮った衝突時の映像を見せ、「運搬船が汚染水を運んでいて、その容器が破損して漏れた気体を、夫である秀彰が吸って意識不明で操縦不能だった。原因は環境汚染だ」と伝えた。佳菜子は「夫はここの出身なのに何でそんなことして!」と泣いた。

坂間が「被害者が町から出ている。シキハマからの圧力ではないでしょうか」と問うた。

入間はもうひとりの参考人産業医の小早川悦子に、「工場に汚染水で苦しむ人は居ないか」と聞いた。悦子は無言を貫こうとしたが、「フッ化ガスの使用が禁止され、シキハマが倒産に追い込まれる状況で、この町はシキハマなしでは生きていけないと、有害ガスの使用を認め、これを隠蔽してきた。法律は規制するが、私たちを守ってくれない」と証言した。

入間は裁判長席から町民のいる傍聴席の前に立ち「この事件は首謀者なき犯罪だ」「法律は万王ではない、しかし、あるから自分を守ることができます。町は病んでいる。どんなに苦しくてもこれを受け入れることです。壊れたところからやるしかない」と説き、「被害者に1000万円の賠償と汚染水の撤去」を勧告した。聴衆の町民は泣いた!

裁判が終わって、入間は「法律は教えだ、これが無いと生きて行けない。真実を知っても何も解決しない」と坂間に語った!

入間は鵜城大臣に会い「何を守ろうとしたのですか」と問うた。大臣は「艦艇には開発中の対韓ミサイルが搭載されていた。これが公になると開発が遅れ、防衛戦力に大きな問題が出る。国防上、公開できなかった」と役目がそうさせたと答え、地元出身の国会議員として「地元に尽くす」と大臣を辞職した。

 入間は坂間に月本が真実を掴み悦子に自首を勧めていたこと、悦子が汚染水で病んでいること、トメばあちゃんも松原さんも月本が紹介した裁判案件だったこと、さらに月本の最期の言葉は「赤い自転車は返した!」だと伝えた。坂間は泣いた!

そして「法律は社会の約束だが、全ては守れない。こぼれる人が生まれる。これが出た時、彼らのために真摯に向かい会えるかが真の法律家だ」と説いた。

まとめ

坂間が弁護する健康被害裁判と入間が裁く傷害事件裁判が、月本の綿密な調査や入間の職権発動、坂間の熱血弁護で、両裁判に環境汚染物質が関わっていたことで解決するという、いろいろなエピソードが上手く繋がった裁判劇でした

なかでも月本が最期まで粘り強く産業医の悦子を説いて、住民自らで解決させたかった努力。そして坂間を最後まで守りたかった想いに泣けます。詳しくは描かれないが、余韻があって、泣けるドラマになっていました。脚本が上手い!

傷害事件の結審で入間が町民に説くシーン。法律の限界を示し、町民の生き方を示す入間裁判長、竹野内さんの説得力ある話し方が圧巻でした。これに傍聴者の上手い演技で印象に残るシーンでした。

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