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「ドリーム」(2016)

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冒頭、1960年代アメリカンドリームの象徴「シボレー・ベルエア」がエンスト、三人の女性黒人に警察が尋問。「身分証明者みせろ」「NASA」「君らのような者が?」「赤より早く宇宙にゆけ。早く直せ!先導してやる」。いとも簡単にドライバー1本でスパークを飛ばし修理完了のシーン。宇宙開発競争でソ蓮に敗れた米国の威信失墜を救った、名もない黒人女性の天才数学者とその仲間の物語を象徴するシーンです。イメージ 2
原題はHIDDEN FIGURES、米国の宇宙開発史の裏面史であるとともに隠された偏見・差別を克服した女性たちの物語。もうひとつ、見事な数式です。
この偉業は、彼女たちの過酷な偏見・差別のなかで育った努力と勇気で、決して相手を非難するのではなく実力を見せつけて納得させてゆく生き方が恰好よく、ユーモアを持って描かれ、観ていてとても気持ちのよい作品です。
 
アカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演女優賞にノミネートされましたが、「ムーンライト」が作品賞。黒人問題を取り扱った作品という視点から日本人の目で見ると、夢や勇気を追う姿に感動し、こちらの方が受け入れられる作品だと思います。
 
監督:セオドア・メルフィ、脚本;アリソン・シュローダー。NASAの頭脳として尽力した女性たち、天才数学者:キャサリンをタラジ・P・ヘンソン、計算室リーダー:ドロシーをオクタヴィア・スペンサー、エンジニア:メアリーをジャネール・モネイが演じます。さらに宇宙特別研究本部部長:ハリソンにケビンコスナー、キャサリンの恋人;ジム中佐を「ムーンライト」のマハーシャラ・アリが共演。とても重厚な布陣です!
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米ソの宇宙開発戦争は1950年後半から激化。1957104日、ソ連は人類最初の人工衛星スプートニック1号を次いで11月には犬を乗せたスプートニク2号の打ち上げ成功で、米国はうちのめされます。米国は195810月に人類初の有人宇宙飛行(「マーキュリー計画」)を目指しNASAアメリカ航空宇宙局)を設立します。冒頭に出て来る三人の女性は、NASAラングレー研究所の西計算所グループで働いています。
NASAは、マーキュリー計画を強力に進めるため研究所内に宇宙特別本部を設け、数学者の採用とIBM(計算機)の導入を決めます。この決定により、グループ長ミッチェル(キルステイン・ダンスト)の指示で、キャサリンは特別本部研究員、ドロシーはこのままで、メアリーはカプセルテスト室で働くことになります。
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キャサリンは、移動にあたってミッチェルから「服装はひざ下のスカートにパンプス、パールのネックレス」と指示される。
特別本部室に来てもだれも注目する人はいない。いきなり「点検しろ」と次から次と書類を机に積み重ねる。「読めるところだけで良い」とバカにして数字が消されているものもある。コーヒーを飲もうにもカップがない。
我慢出来ないのは、トイレがないこと。西計算所まで800m、書類を抱えて雨の中を走るキャサリン、トイレのなかで書類を点検。それでも耐える。この耐える姿がユーモラスで樹木希林さんのキャラに似ていて面白い。() タラジ・P・ヘンソンの熱演です!
ハリソン部長はひとり、ボードで計算式を検討している。「秀才だと評判の先任研究員のスタッフォード(ジム・パーソンズ)のデーターも古すぎる、未知の数式を編み出すやつが欲しい」と言いながらキャサリンの能力(履歴書)を知ろうとせず、キャサリンが“帰ります“といえば「イエス」と顔も見ないで返事。女、黒人には見向きもしない。しかし、彼女は必ず自分に出番があるとチャンスを伺っている。
 
メアリーは、早速カプセルの風洞実験に参加することになる。マッハ1の風洞テストだというが実際は水をぶっかけてのテスト。ミッチェルから指示された服装では風洞内の行動ができない。この時代、こんなでかい物体のテストにマッハ1の風洞は作れない。
カプセル表面の耐熱パネルが剥がれてしまう。ボスからどうするかと改善策を問われ、返事のしようがない。あたりまえです。上司の「管制所に行くか」に、「技術者としての夢を追う」と決め、工学の学位を取得する受験を考え始める。
 
ドロシーは前任者が辞めて1年だと管理職への昇進を希望するが、上司ミッチェルに「黒人グループには管理職を置かない、NASAはそういうところ」と却下される。しかし、IBMが設置されると計算所に人が不要になることを聞いてコンピューター言語FORTRANを学習しようと決意する。
 
三人は、それぞれ家庭をもち。キャサリンは3人の女の子の母親、夫を亡くしている。帰宅するのはいつも夜、子どもたちの話を聞いて寝かせます。学校ではロシアがロケットで攻めてくると避難訓練をしているという()北朝鮮のロケットに恐れる今日の日本の姿です。子供たちの描いたロケット発射の絵に慰められ、明日の糧にします。
ドロシーにも二人の子供がいます。子供を連れて黒人専用バスで図書館に行きFORTRAN入門書を借りようとするが、黒人には貸し出せないと断られる。「税金を返してもらう」と失敬することにする()
メアリーも結婚していて、進学のことを夫に話すと応援するとシャープペンが贈られる。このようにして、それぞれが家庭を持ち母・妻としての仕事をこなし、自分の前にある壁を自分の力でこじ開け、国家の威信をかけたNASAマーキュリー計画に貢献しようと奮闘します。ここがいわゆる黒人問題を取り上げる作品とは異なっています。
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マーキュリー計画に従い、7人の宇宙飛行士が選抜され、研究所にやってきます。その中にジョン・グレン(グレン・パウエル)がいて、とてもナイスガイで3人の前にやってきて激励します。これが縁となり物語の終盤でキャサリンが大活躍することになります。
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キャサリンは次第に研究所の生活に慣れ、部長が苦しんでいる問題を理解し、男性たちが不在の時、黒板にロケットの速度と重量の初期値を3ケース取り上げ、アトラスロケット(地球周遊飛行用)の軌道計算式と図表を黒板に書き残します。タラジ・P・ヘンソンがさらりと黒板に書いて見せるのがすごい。彼女は数学教授に私塾し学んだようです。「データーが秘密なのになぜ解けたか。スパイではないか」とスタッフォードが攻撃してくる。実際は彼らの嫌がらせ。「透かして見た」とキャサリン。男の嫉妬も困りものです!
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部長は「インクの濃いデーターを渡せ!」と指示します。やっとキャサリンの能力に気付いたようです。
 
1961412日のソ蓮が打ち上げた有人宇宙船ボストーク1号。パイロットのガガーリンが「地球は青かった!」と伝えたことで、NASAの雰囲気が一変する。「ガガーリンショック」で、またも米国がソ連に敗れる。
ハリソン部長が研究員にはっぱをかけるが、キャサリンのトイレ事情は一向に改善されない。
雨の日、トイレから帰ると部長が「どこにいたか」と問い詰める。遂にキレたキャサリンは「私にはトイレがない、800m先の非白人用トイレに使ってる。自転車もない、徒歩でもスカート丈は膝下で走れない。でも、黒人の給料では買えない。私のコーヒーポットにはお湯がない」と怒りを露わにする。これを聞いたハリソン部長は非白人も白人もあるか!と非白人トイレの標識を取り外し、「好きな方を使え!NASAでは小便の色は同じだ」と、キャサリンに便宜を与え、遂にCOLORの壁を突破します。次は宇宙への壁に挑戦です!
 
196156日、米国は、アラン・シェパードが乗り込んだフリーダム7号宇宙船で初の有人弾道飛行を成功させる。これにはキャサリンの計算も絡んでいた。この成功により、ケネデイ大統領が同年525日「1960年代が終わるまでに人間を月に送る」と発表。
このためNASAはすみやかに地球周回飛行(フレンドシップ7号計画)に移行することが求められる。キャサリンはフレンドシップの軌道を、円軌道から楕円軌道に移行する方程式を見つけるが、彼女の名は消されスタッフォードの名で提示される。キャサリンは再突入点を選ぶ必要があると、ペンタゴンにある秘密データー(アトラスICBM資料)を要求。部長がこれを認め、キャサリンはにやりと萌えます。
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一方ドロシーはFORTRANを学習し、IBMを使いこなしており、男どもに「ドロシー・ヴォーン」というプログラムだと偽り、フレンドシップ7号の打ち上げデーターを計算してみる。
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計画で最も重要な再突入、着水のため実行性を検討する会議に、キャサリンの計算案がたたき台でありながら、案がスタッフォード名になっており、参加を拒否される。しかし、部長がスタッフォードを退け「口を利くな」という条件でキャサリを加える。議論が伯仲し行き詰まる。と、部長がキャサリンにチョークを投げて説明を促します。キャサリンは黒板一杯に方程式を展開し自信を持って52平方マイル内に着水させると説明、これで計画が実行に移されることになります。
キャサリンは、楕円軌道の数値計算を、原始的だという意見もあったが、とにかく数値が必要とオイラー法で解を求めことにする。
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ドロシーが特別研究本部のIBM室に多くの西計算室の女性を連れて、ドラマ「ショムニ」よろしく移動してきます。ドロシーは化粧室でかっての上司ミッチェルに会い「IBMがフル作動に入ったね。偏見を持っていて申し訳なかった」と謝られます。やっと白人ボスの偏見が溶けた一瞬です。オクタヴィア・スペンサーの肝っ玉ボスの演技がとてもいいです!
 
皮肉なことに、ドロシーによりIBMが計算を始めることで、キャサリンの手計算は不要になり、特別研究本部から追われ西計算センターに戻されることになる。
 
メアリーはバージニア州法で黒人の入学が認められない白人専用校に入学するため、裁判所に提訴します。証言台で「なぜ黒人が白人の学校に行けないのか。肌の色を変えることができないので私が前例を作るしかないのです。初めて宇宙に行ったシェパードは黒人です。だからわたしが前例になるのです。100年後の例になりたいのです」と訴えます。これに裁判長は理解を示し夜間部への入校を許可します。ここで習得した技術は後にNASAで生かされます。可愛いジャネール・モネイがどこにこの力があるのかと思える、とてもしっかりと主張するところが見事です。
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1962220日、宇宙飛行士ジョン・グレンがフレンドシップ7号に搭乗しアメリカ最初の有人地球周回飛行に挑む日がやってきます。打ち上げシークエンスに入るがIBMの計算値が安定しない。
5000万人が見守るなかでの発射。グレンが「キャサリンの計算値なら飛ぶ」という。計算依頼されたキャサリンはコンピューターと競争だと計算を始め、発射に間に合わせる。
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”リフトオッフ“順調に飛行し地球周回軌道に入るが3回目の周回で対熱板が剥離するという事故が発生。グレンは手動でキャサリンが計算したとおりの再突入軌道に入る。大気圏に入り「熱い!」の声を最後に電波が途絶える。「バハマで遊ぶのが夢だった」というグレンの声!

 
宇宙への夢を支え続けた3人の黒人女性の物語、邦題「ドリーム」には違和感がありますね!
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