映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「空母いぶき」(2019)

イメージ 7
原作は「沈黙の艦隊」などで知られる“かわぐちかいじ”さんの同名コミック。どの作品も未読です。かわぐちさんがNKK「ニュースウォッチ9」(510日)で、この作品の意図を、「アメリカと中国の覇権主義みたいなものに対して、日本はどういう立ち位置でいたらいいのかを模索したいなと。みんなで考えていけば、たぶん道が見つかる。具体的に怖いものを観ないでは答えは出ない」と語っていました。このコメントで本作を観ることにしました。
 
冒頭、「そう遠くない未来。東アジア海域における領土争いは激化していた。東亜連邦と名乗る国家共同体が、過激な民族主義を燃え上がらせ、領土回復を主張して公海上に軍事力を展開。日本近海でも軍事衝突の危機が高まりつつあった。」という想定が示される。
この想定そのものに対する疑念は当然あるでしょうが、かわぐちさんが言うように論議を深めるために認めてよいと思います。
論議の焦点は「何を守るのか、防衛行動における自衛隊の任務・行動は、政治家に課せられるものは何かとシビリアンコントロールの骨幹である部隊行動基準にまで立ち入り、自衛隊の編成・装備はどうあるべきか、さらに憲法改正はと観る人の意見を問うてきます。
 
この想定で、クリスマスイヴ前夜、突然漁船を装って初島に上陸したらしいという情報で、海上自衛隊5護衛群(「空母いぶき」、護衛艦3隻、潜水艦1隻で編成)が海上警備行動として出動、敵の出方で警備行動が防衛出動に格上げされ、防衛行動下で自衛隊がいかに戦争に拡大しないように戦うかが描かれ、国連平和維持軍の介入で戦が終焉するというもの。
 
自衛隊の任務が、「シン・ゴジラ」(2016)で災害派遣任務として取り上げられましたが、防衛作戦が真正面から現実的な問題として取り上げられたのは初めてではないでしょうか。それだけに喧々諤々の意見がでるのは当然。ぼろくそに叩かれているようですが、これで良いと思います。でも、総理を演じた佐藤浩市さんが叩かれるのはおかしいです。“見事な演技”でした。この優柔不断な行動も考えられるので、平時、何を準備していなければならないかが問われます。
イメージ 5
監督は「ホワイトアウト(00)沈まぬ太陽(09)「柘榴坂の仇討」(14)の若松節朗さん。
主演は西島秀俊さん、佐々木蔵之介さんです。共演に本田翼・小倉久寛吉田栄作中井貴一さんら若松組のみなさん多数の出演です。
イメージ 1
物語が、第5護衛艦隊の空母「いぶき」の艦長(途中で群長負傷で、群長兼務)秋津竜太(西島秀俊)と「いぶき」副長・新波歳哉(佐々木蔵之介)が、戦況に応じ採るべき案を論議しながら事態を収めていくことで、自衛隊の行動が観る人に分かり易く、さらに彼らの人間性が見られ、人情味あふれるドラマになっています。
秋津は航空自衛隊のエースパイロットから、初代「いぶき」艦長に抜擢され、副艦長の新波は海上自衛隊の生え抜きで、ふたりは防衛大学同期でトップを争った仲だという。空と海という勤務環境の違いがその思考に出て、新波は「戦争する力を持っているが絶対にやらない」言い、秋津は「戦わねば守れないものがある」と主張する。西島さんの切れる艦長ぷりに惚れ惚れしました」!
 
アジア大洋州局長沢崎を演じる吉田栄作さん。出番は少ないですが、外交を重視した作品つくりになっていて、吉田さんのメイク・演技が光っていました。
 
そして、番組つくりのためにたまたま乗艦していたネットニュース社の記者本田役本田翼さん。何もしらないおバカ記者が、「いぶき」の実戦を見て成長していく過程が、観客視点に立ち、丁寧に描かれ、熱演でした。( ^)o(^ )
イメージ 2
この作品での兵器と戦闘シーンは、ある意味で本作の主役ですが、自衛隊の協力を得ることなく、CGVFXで描かれました。よく出来ていたと思いますが、火薬の匂いのしない、あまりにもミサイルの精度が高い、戦の痛さを感じないものになっていたのが不満でした。
イメージ 3
***
作品のなかで10個ほどの事態エピソードが取り上げられています。
当初、警備行動として初島に接近中に敵潜水艦に接触。敵潜水艦が魚雷発射口を開く音を確認。この場合、正当防衛でしか対応できない。直進するか迂回するかの判断を求められ、「敵に舐められてはいかん」と対空バリアーと対潜デコイを張って、操艦技術に掛け、「直進する」を選択するが、このあたりの官邸と現場の戦況認識の難しさが描かれました。
 
次いで航空自衛隊偵察機が追撃され、パイロットの死が伝えられる。情勢分析のなかで総理が苦渋の決断「防衛出動」を選択する。
総理の「防衛出動を発した初めての総理か」、そして隊員たちは「自衛隊の心得」(法で定められている)「ことにあたっては生命を顧みず、任務を遂行する」を確認し、「戦と戦争の境目は民間人に死者がでないこと。そのために自分が犠牲になるのはかまわない」という秋津。
 
5機の敵機の接近に対空ミサイルで対応するが1機が低空で母艦に突っ込んくる。秋津はこの近距離では撃てないという射撃幹部に射撃を命じ、撃墜する。
このとき、秋津は「この実感を覚えておけ!」と隊員の気持ちを引き締める。
何十年という訓練射撃しかしらなかった自衛隊員たちが、自分の練度に自信を持った一瞬でした。一方、新波は全力を挙げて、敵パイロットの救出にあたる。彼は人道主義こそが戦を止められるという信奉者。
 
再び現れた敵潜水艦。120名の乗艦者の命の重みを考え、潜水艦“はやしお“
艦長が取った戦法は驚くものでした。こうして戦況を拡大しない、戦争状態にしない戦法がいくつか描かれます。
イメージ 4
敵の放った魚雷が、「いぶき」に当たらないようにと楯になった護衛艦“はつゆき”が炎上。これが本多記者によって発信され、大騒動になる。首相は記者発表を余儀なくされ、記者から「防衛出動なら交戦権をフルに使える」と責められる。しかし、首相はあくまでも専守防衛であることを強調する。
 
敵の護衛艦2隻が出現した場合は、ミサイルで攻撃すれば600人の命が失われると、ミサイル攻撃でなく、護衛艦いそかぜ”の主砲で対応する。
 
敵空母から発進した10機の戦闘機には、「いぶき」搭載のF-35B5機をもって対応する。この際「向こうから撃つまで撃つな!迷ったら撃て!」と指示して発進させる。こうして、戦が戦争に拡大しない制限された武力行使(戦闘行動基準)を厳守して戦う。
敵のミサイルに追われ、国民の血税によるF-35Bを失うことをよしとせず、自分の命を投げ出し、超低空飛行に挑むパイロットの姿も描かれました。
 
この間、沢崎外務省アジア大洋州局局長(吉田栄作)が国連の安保理の根回しを続けていた。
イメージ 6
敵空母から24機の戦闘機が発進、「いぶき」は全F35の発進準備、全艦艇に対空戦闘態勢、そして「あしたか“にアスロックの射撃を指示。
F-35B、1機を除きの発艦不能の報告。秋津はこれに「空母に穴を開ける!」と空母攻撃を命じた。
対空射撃の実施、“あしたか“がアスロックを全弾射撃したところで、敵、我に5本の魚雷が接近し、艦艇近くで自爆。国連旗を掲げた潜水艦5隻が浮上。やられたなと思いましたね。このラストは、御愛嬌でしょう。()
 
このシナリオの50%~60%はすでに起こっている事案ではないでしょうか。我々は何もしらないうちに、国の安全が保たれていることに感謝しなければなりません。そして、隊員がひとりも命を失うことのないよう願っています。
***