映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「ルース・エドガー」(2019)

f:id:matusima745:20200607112033p:plain

人種差別に抗議する同時多発的デモが連日のように続くアメリカ。この闇を観てみようと本作を選びませた!
人種差別を正面から取り上げた作品ではありませんが、その奥にはこれが透けて見えるという、アメリカとはどんな国か?アメリカのアイデンティティを問う作品で、まさに今のアメリカが描かれているという優れものでした!

アフリカの戦場で生まれ、7歳で白人の父母と養子縁組でアメリカにやってきた少年が、高校生となり、課題レポートに尊敬する人物に北アフリカ戦線で活躍した革命家の名を上げたことで、担任の黒人教師、育ての父母、学校当局、学友を巻き込んでの大騒動をサスペンスフルに描いた物語です。

この若者は何者か。アメリカ人か、黒人か。たんなる悪ガキか、それとも革命家か?彼に翻弄される父母、先生、学校(校長)がまさに現在のアメリカです。

監督は「クローバーフィールドパラドックス」のジュリアス・オナー、未見です。脚本はJC・リーの戯曲。撮影:ラーキン・セイブル。

出演はケルビン・ハリソン・Jr.オクタビア・スペンサー、ティム・ロスナオミ・ワッツ、ノーバート・レオ・バッツ、アンドレイ・バング、マーシャ・ステファニー・ブレイクら。

ケルビン・アリソンのオバマ元大統領風のエリート演技から、不気味な謎の少年の演技。そして一見リベラル思想とアメリカの善意を代表する白人夫婦のティム・ロスナオミ・ワッツが少年の行動に狼狽える素晴らしい演技で見せてくれます。さらに差別されないよう規範的な行動をとる、いままでの作品とは全く異なる、黒人教師をオクタビア・スペンサーが演じてくれます。

そして、マーシャ・ステファニー・ブレイクの怪演に声を上げることになります!


6/5(金)公開『ルース・エドガー』予告篇!

あらすじ(ねたばれ):
オープニング。バージニア州アーリントンの高校。登校した学生が個人ロッカーに花火の入った袋を投げ入れる。ここから物語が始まります。この作品の大きな伏線です。

この日は、全校学生が集まっての「学校を讃える」学生総会。父兄も参加。学生総代としてアフリカから養子でアメリカにやって来たルース・エドガー(ケルビン・ハリソン・Jr)が教師と家族を讃える歯が浮くような立派な演説をする。(笑)これに担任教師のハリエット・ウイルソン(オクタビア・スペンサー)が渋い顔で聞いています。

帰校時の車のなかでルースが「ハリエット先生が厳しい!」と養父母のピーター・エドガ(ティム・ロス)とエイミー(ナオミ・ワッツ)に訴えるが、ふたりは気にもしなかった。エイミーは「よく出来たスピーチだが、自分を喋って欲しい」と訴えた。

ルースは勉強もできるが陸上選手としてもダントツで、学校では絶対的な信頼がおかれていて、養父母にとっての自慢の子です。

翌日登校してロッカーを見る。黒人の同級生デショーンが「俺が入れた袋がなくなっている」と話しかける。先生か?と雑談をしながら教室に。

教室ではハリエット先生が黒人としてアメリカの規範に真剣に取り組みなさいというようなレクチャーをするが、ルースが窓の外で電柱に上り仕事をする男を見ていた。

エイミーは婦人科の医師。夫ピーターの要望で、次の養子?として新生児に会う約束をしていた。そこにハリエットから会いたいと電話が入る。

エイミーが会うと、「ルースは歴史レポートに尊敬する人物としてアルジェリア独立運動フランツ・ファノンを挙げた。彼は植民地支配下の置かれた人々の真の解放は革命だと主張した人物。危険人物を尊敬している。あなたはしっかりセラピーをやりましたか?」と責めて、花火の入った袋とレポートを渡した。狼狽えるエイミー。

勤務を終えて家に戻ったエイミーがこのことを夫ピーターに相談。エドガ家の食事の仕方は、まさに今のコロナ感染下の蜜を避けたようで面白い。料理はテイクアウト。食事は立ったままで、あと始末は各自で行う。

f:id:matusima745:20200607112218p:plain

ピーターは心配ないと受けつけないが、エイミーは不安を隠せず、レポートと紙袋を台所の収納棚に隠した。

そこに戻ってきたルースは、父母に「ハリエット先生に黒人だから頑張れと言われるのが嫌だ」と話すと、ピーターが不快感を示した。
違和感を持ったルースは、ふたりが去った後、食事の片付けをしていて、ノートと紙袋を見つけた!
パソコンでハリエット先生のOB情報を洗った。妹ローズマリー(マーシャ・ステファニー・ブレイク)がリハビリセンターにいて、先生が送迎をしていることを掴んだ!

ルースのハリエット先生に対する憎しみの気持ちが収まらなくなった!

翌日朝の弁論部の練習で恋人(父母は知らない)ステファニー・キム(アンドレイ・バング)にレポートと紙袋を預けた?
そこに現れたハリエット先生に「プライバシーについてどう考えるか!」と激しく迫った。
ルースが「母に何を言いましたか?」と激しい口調で聞くと「あなたの考え方に疑念を持っている」というので「怖かったら謝ります」と言い、「アメリカの記念日で何が好きですか」と問うた。

ルースは「独立記念日が好き。それは自由、強さ、個性を大切にする、そして花火です!」といって去った。これが大きな伏線です!

f:id:matusima745:20200607112309p:plain

ハリエットはこの一部始終をピーターに報告した。帰校したルースは厳しくピーターから「先生を脅したか?」と問われた。「脅す気持ちはない。袋のことはは、ロッカーを友人と共有しているので自分がやったのではない」と主張。母エイミーはほっとしたようだが、父ピーターの疑念は晴れなかった。

このあとルースは夜の駆け足に出掛け、夜の校舎を見て、親友デショーンのところに立寄った。タバコを吸って、同じ黒人なのに先生に責められる不満を喋った。デショーンは「お前はルースだぞ!」と取り合わない。

不安なエイミーはルースの部屋を探して、ステファニーという女の子がいることを知る。これはルースの策略か!
早速ステファニーをカフェに呼び出し、ふたりの関係を聞く。するとパーティで会って、薬を喫って、大勢の学友に回されたがルースは親切にしてくれた。ハリエット先生は薬のことしか知らない。薬で先生からスポーツ奨学生資格を剥奪された友がいると喋った。
エイミーは、「大変だったね」と労わったが、「ルースは大丈夫」と親バカ丸出し。しかし、これを聞いた夫ピートは「望通りの子ではなかったか!くそったれだったんだ!」とエイミーを責め、ふたりの関係が危険なものになりかけた。

ルースはハリエットとその妹ローズマリーがスーパーに買い物に出掛けたのを知り、追っかけてローズマリーに偶然会ったふりをしてアフリカの食物を勧めた。彼女は大喜びだった。
ローズマリーはこれを一杯食べて(ルースが買い与えた?)過食症に陥り、ハリエットは心では泣きながら、ローズマリーを施設に預けることにした。ローズマリーは姉を恨んで泣いた!

f:id:matusima745:20200607112514p:plain

ハリエットが授業中に「先生来て!」の呼び出しで学校玄関に出ると、ローズマリーが真っ裸で「私が邪魔なんだろう!」と抗議している。全校生が見る中で警官に引かれていった。
ハリエットが家に戻り「ニガー」と大きな赤文字の落書きを見た。そこにステファニーが訪ねて来て性暴行を訴えた。

ローズマリーのTVニュースを見たピーターは「お前を疑って悪かった!」とルースに謝ったが、エイミーにはまだ不安があった。エイミーが一連の出来事についてルースに真意を糺した。ルースは「誰も俺を信じない!期待に沿うよう努力してきたが、もう窒息しそうだ!」と訴えた。

ハリエットは白人のダン校長(ノーバート・レオ・バッツ)に落書きはルースの仕業で性暴行の主犯だと訴えた。校長がことが事だけに、エドガ一家を呼び、ハリエットも加わり、面談で状況確認することにした。

ルースはハリエットに無礼を謝り、暴行については携帯で薬を喫っている映像を見せ、ハリエットの言い分を封じてしまった。このときステファニーがハリエットの証人になると彼女の部屋に待機していたが、いつのまにかドロンです。何しに来たか?(笑) 校長はハリエットの話しを聞くことなく、面談を終えてしまった!

この夜、ハリエットの部屋で花火が破裂して火事になった!ハリエットは校長に呼ばれ即免職を言い渡された!

ルースは花を持ってハリエットの家を訪ね、花を受け取ってもらえなかったが、部屋に押し入り、「デショーンの奨学生却下はあんたのせいだ!」と詰め寄った。すると「私やあんたの問題ではない。アメリカのせいだ」という。これがテーマです。「じゃ落書きと花火は誰のせいだ!」と問うと「あんたがやった、出て行ってちょうだい!」とルースを追い返した。これでは問題は解決しない!

ルースを迎えにきたエイミーはルースが森の中に入るのを見て、つけた。小屋のなかでステファニーとセックスしているところを見て愕然とする。ルースは家に戻ってエイミーに「やり直す、お母さん!」と“魚の入った”瓶をプレゼントした。これ最大の嫌味でしょう! エイミーは「あなたのは未来がある」と応えた。

そして、いつものように夜の駆け足。どんどんスピードアップして泣いた!!

感想:
ルースはアメリカにやってきて両親や、先生・学校が求める、型にはまった理想的な学生を懸命に演じるほどに辛くなり、自分のアイデンティティを探し始めた。その捌け口がこのレポート。ルースが書いたレポートが白人であれば騒ぎにはならなかった!

アフリカ系黒人でエトリア戦場の少年兵であったということで、疑念を持たれる。一方、これを押し付ける同じアフリカ系黒人の教師ハリエットは黒人が差別されることにならないようにと、不幸な妹を持ったことを隠してまでも、規範的な行動を押し付けてくる。アメリカは自由だろうがと、ルースにはこれが嫌で嫌でたまらない。

両親はリベラルな思想の持主と言いながら、女性や花火の問題が絡んでくると、理想と現実は別で、その理想は崩れてしまう。米国社会を革命するような男に育てという大きな夢が持てない。まるで我が子の教育を慈善事業と考えているようにみえる。そして、17歳の男の子を持つ親としてはお粗末です。

校長に至っては、学校がうまくいくことしか考えていない。

同級生は白人の養子ということでルースを一枚上の人物とみなし、逆にルースはその環境に甘え、ハリエットに挑んだともいえる。

ルースの周りに起こったことは、現にアメリカで起こっている騒動に関係づけられます。オバマ元大統領は在任間、ハリウッドから「それでも夜は明ける」(2014)で黒人政策を問われましたが何か動きがあったでしょうか。今般の騒動で声明を出しましたが、黒人にとっては“ハリエットの言葉”としか受取らないかもしれません。とても考えさせられる作品でした。

 

****