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「ディア・ハンター」(1978)

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久しぶりに本作、アカデミー賞受賞式に合わせて放映されたWOWOWシネマで、観賞しました。ベトナム戦争で心身に深い傷を負った男たちの苦悩と友情、そして戦争の狂気を描き、第51回アカデミー賞で作品賞、監督賞、助演男優賞など5部門を制した戦争ドラマです。

ロシアンルーレットの話しか覚えてないと言う状態でしたが、戦争の悲惨さ、友情や家族の絆や戦争のない日常がこんなに愛しく感じられる作品はないと改めて感じました。

ベトナム戦争の末期。米軍がサイゴンに追い込まれ段階。こんな時期でありながらほとんどベトナム戦の苦戦を知らない若者が徴兵で戦場に駆り出されて、そこで体験した戦闘。その大半は捕虜としての体験とその後の苦闘。

戦争映画と言われますが、無残な戦争シーンは瞬間的でしたが、他のベトナム戦を描いた作品に劣らぬ戦争の惨さが読み取れ、それだけにこの戦争がアメリカ社会に与えた影響の大きさが分かります。

監督:マイケル・チミノ、脚本:デリック・ウォッシュバーン原案:マイケル・チミノデリック・ウォッシュバーン、ルイス・ガーフィンクル、クイン・K・レデカー。音楽:スタンリー・マイヤーズ、撮影:ヴィルモス・スィグモンド、編集:ピーター・ツィンナー。

出演者:ロバート・デ・ニーロクリストファー・ウォーケンジョン・カザールジョン・サヴェージメリル・ストリープ、他

当時デビュー間もないメリル・ストリープが出演、アカデミー助演女優賞にノミネートされました。

あらすじ(ねたばれ):

ベトナム戦の終末期。ペンシルベニア州ロシア系移民の町クレアトン。この町にベトナム戦の惨状など届いておらず、平凡な毎日が続いていた。製鉄所で働くマイケル(ロバート・デ・ニーロ)、ニック(クリストファー・ウォーケン)、スティーブン(ジョン・サヴェージ)に徴兵状が届いた。この日、スティーブンはジュリアン(ピエール・セグイ)と結婚式を挙げる日だった。スティーブンの母親は「私に嫁を預けて戦場に!」と子の結婚には反対。しかしジュリアンは妊娠しているからスティーブンは出征まえに結婚しておきたかった。結婚式にはリンダ(メリル・ストリープ)が新婦の介添え役として参加することになっていた。彼女は閉じこもりの父親の面倒を見ており、ときに暴行を受けていた。

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ロシア教会での結婚式。コミュニティー挙げての静粛な式だった。ホールでの結婚披露パーティー。飲んで、歌って、踊ってのとても楽しいパーティーだった。マイケルはもっぱらの飲役で “ホモか?”と言われるほどに女性には淡泊。孤高的な性格で「鹿を1発で仕留める」を狩の鉄則にしていたがニックを狩の本当の友だ!」と思っていた。

ニックが陽気にパーティーを盛り上げる。女癖の悪い(笑)スタンリー(ジョン・カザール)が「ジュリアンには男がいた!」とつまらんことを言い出す。ニックが「気にするな!」と忠告すると「関係ない!」とスティーブン。ニックは気配りの出来る男だった。

パーティーの終わりにニックが「兵役が終わったら結婚したい!」とリンダに求婚した。リンダは嬉しそうにこれを受けた。実はマイケルもリンダに好意を持っていた。

ベトナム帰りのグリーンベレーに会うが、彼は何も語らない。ベトナム戦場に異変があることに彼らは気づかなかった。しかし、披露パーティーが終わって、静かになるとマイケルが「帰れるか?」と不安を漏らす。ニックは「何かあったら必ずこの町に連れて帰ってくれ!」と。

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新婚夫婦を送り出し、夜明けにマイケルとニックがコンミュニティの若い連中スタンリー、ジョン、アクセルと一緒に鹿狩に出掛けた。鹿狩ではマイケルの独壇場、みごと1発で鹿を射止めた。町に戻って、バーでいつものように皆で歌って翌朝出征した。

ベトナム戦場。空爆支援を得て村のベトコンを一層して休憩中のマイケル。そこに生き残りのベトコン兵が近付き、防空壕に避難している住民を擲弾で襲う。そこに救援ヘリでニックとスティーブンが送り込まれてきた。大量の爆撃で村を焼き尽くすという「ソンミ事件」を絵に描いたような戦闘シーンだった。

3人はベトコンの捕虜となり収容所?(泥水の水牢)に収容された。

ここではロシアンルーレット賭博という方法で処刑される。6発入り回転弾倉付拳銃に1発の弾を込め、弾倉を回転して渡された拳銃を頭につけ引き金を引くというもの。引き金が弾けない場合は銃殺される。ティーブンは恐怖で半狂乱。マイケルが「意地を見せてやれ!」と励まし引き金を引かせたが、恐怖のあまり手がぶれて弾が外れ、水牢に戻された。

マイケルはこの牢から脱出するためにニックと敵を欺くことにした。「ふたりが勝負する場を作る。敵に賭率がより高い弾倉に3発込める案を提案し、その銃でマイケルが頭を撃つ振りをして敵を撃つ。その瞬間にニックが敵の自動銃を奪い射殺するというもの。

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3発弾込めした拳銃が“ニック”に渡された。ニックは恐怖で引き金を引けなかった。マイケルが励ますなかでやっと引いた。“空撃ち”だった。次はマイケルの番。マイケルが番兵を撃った。ニックが番兵から軽機関銃を奪い撃った。ふたりは水牢からスティーブンを救い出し、枯れ木にすがって河を下った。

破壊された吊り橋に辿りつき米軍ヘリにロープで救出される際、ニックが救出されたが、敵に攻撃されマイケルとスティーブンはヘリの脚にすがったままの状態で飛び立ち、ティーブンは力尽きて河に落下。マイケルがこれを追って河に落ちて行った。ニックはこれを機内から見ていた!

マイケルとスティーブンは河を下り、河岸に辿り着いた。ティーブンは左足を怪我して歩行不能だった。マイケルが背負い、サイゴンへ避難する民衆の群れに辿り着き、護衛の米軍部隊にスティーブンを預け、自らは歩いて基地に辿り着いた。

ニックは病院に収容されていた。精神的なダメージで母親の誕生日を思い出せない。休暇で街に出てマイケルを探したが見つからなかった。そのとき偶然出会った男にロシアンルーレット賭博に誘われ、賭場に顔を出した。勝負を目の当たりにしていきなり拳銃を頭に突き付けて引き金を引いた。“空撃ち”だった。男にこの勇気を買われ、男とともに去って行った。そこにマイケルがいて「ニック!」と声を掛け追ったがニックは気づかず闇の世界に去って行った

マイケルは帰還した。友人たちにより歓迎幕が張られ歓迎準備がなされていたが、そこには顔を出すことは出来なかった。こっそりリンダが住む部屋に戻った。ニックから知らせのないリンダは悲しいが、それでもマイケルの帰還を喜んでくれた。一緒にリンダの勤めているスーパーに顔を出し、仲間に会い、「功績を挙げたな!」などと言葉をかけてくれるが、そんな気分にはなれなかった。町は昔のとおりで何も変わったところはないが、マイケルの心は空虚、戦場にいるままだった。

リンダの誘いで彼女を抱いたがそんな気持ちにはなれなかった。アクセル(チャック・アスペグレン)から「ティーブンが帰還している」と聞かされたが、ジュリアンが居場所を明かさないという。ジュリアンを訪ねると病んで寝ていた。スティーブンの居場所の電話番号を教えてもらったが、戦場を思い出すので電話する気分になれなかった。

マイケルはリンダや友人たちの仲間と一緒に遊んでも昔のように遊ぶ気はなれなかった。そんなとき、これなら昔を取り戻せると仲間たちを誘って鹿狩りに出かけた。しかし鹿を撃つことが出来なかった。その夜、拳銃を弄ぶスタンリーを見てジョン(ジョージ・ズンザ)が“弱虫!”と冷やかすとジョンに銃口を向けた。これを見たマイケルは銃を取り上げ1発、弾を込めて引き金を引いた。“空撃ち”だった。マイケルが動揺しその銃を山に捨てた。これでやっと昔の自分に戻った。町に戻りリンダを抱いた。そしてスティーブンと会うことにした。

マイケルは復員軍人病院にいるスティーブンを訪ねた。下半身を失っていて、家には戻らないという。彼が「毎月サイゴンから現金が届いている」という。マイケルはスティーブンを家に連れ戻し、「ニックが生きている」と再びベチナムに飛んだ。

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マイケルは男に大枚を叩いて、ロシアンルーレットの店に案内させた。そこにニックがいた。マイケルが話しても何も分からない状態。大枚を叩いて死を覚悟してニックとの勝負に挑んだ。最初はマイケルの番だった。躊躇なく頭に拳銃を向け撃った!“空撃ち”だった。次はニックの番、「山を覚えているか」と聞くと笑って「1発か」と叫びすばやく拳銃を持って頭を撃った!マイケルはニックの頭を抱えて泣いた!ニックの記憶には戦場の記憶しか残っていなかった!

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マイケルは約束どおりニックをクレアトンの町に連れて戻り、結婚式を挙げるはずだった教会で葬儀、埋葬を終え、ジョンの店で仲間とゴッド・ブレス・アメリカ(神よ!アメリカに祝福を我が愛する祖国に・・マイスィートホームに)唄っでニックの冥福を祈った!リンダに少しの笑みが戻った!

感想:

1978制作の作品。ベトナム戦争を描いた作品としては初期のもの。戦争が終わり、戦争の評価そのものが少ない時期のもので、アメリカ政府を攻撃するような描写が全くない

前段の派手に飲んで踊り歌ったダンスパーティーが、ラストではジョンの店で「ゴッド・ブレス・アメリカ」を静かに唄うシーンになる。この落差が戦争の虚しさが強烈に伝はえてくれます。何ひとつ国に不平を言わないで“ゴッドブレッス”を唄う、これに泣けます。この結末があまりにも悲しい!

製鉄会社での過酷な労働、終ってバーで飲むビールの美味、ボーリングや玉突きでの癒し、大自然をバックに憑かれる狩り、友人の結婚式、こんな幸せな平凡な日々が一杯描かれるが故に、惨めな戦場にあってニックの行方不明、スティーブンの負傷、マイケルの悲しい帰還に戦争の悲しみがこみ上げてきます。

なんでニックはアメリカに帰って来なかったか!

友を見捨てたという思い。これが許せなかった?この戦場で自分は何を成し得たか?マイケルとスティーブンを失っては帰れない!彼は死に場所を求めていた。マイケルが迎えにきたことが分かってほっとしたのではないでしょうか! とても悲しい!

戦場の描き方。戦闘は米軍が爆撃で村落を襲撃しその反撃を喰らワンシーンのみ、大部はロシアンルーレットベトナム戦場における恐怖心理のメタファー)で恐怖に苦しむ兵士だが、これが強烈で、戦場の悲惨さを伝えるには十分だった。

俳優たちの演技、その繊細な感情表現がすばらしかった。ロバート・デ・ニーロクリストファー・ウォーケンジョン・サヴェージの三人によるロシアンルーレットに悲鳴を上げるシーン。そして、ニックの葬儀からジョンのバーでのニック追悼に見せるデ・ニーロとメリル・ストリープの表情の変化、硬い表情が次第に崩れていくシーン、すばらしかった!

友情は人生の宝物。戦場で友人を失って、その悲しさのなかで生命の大切さを知り一層友情を深めていくところに感動しました。

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