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「ファーザー」!(2020)認知症で記憶力が低下する不安と恐怖を体感できる!

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本年のアカデミー賞で6部門にノミネートされ主演男優賞、脚色賞を獲得した作品。コロナ禍の真っただ中で公開されました。

認知症が進行していく父親と、その介護で疲弊していく娘の姿を認知症の側の視点から描き、観る者に記憶力の低下によって直面する父親の不安と恐怖を体感させる表現スタイルの作品だという。原作はすでに世界30カ国で上演され大絶賛された舞台劇だとのこと。

認知症の母を介護して見送りましたので、ことのほか「認知症側からの目線」ということに興味を持って観ました。

ロンドンで一人暮らしをしている81歳のアンソニー。ある日、介護人とトラブルを起こし、娘のアンが駆けつける。アンソニーには認知症の傾向が見え始め、それは日に日に悪化しているようだった。そんな中、アンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられショックを受けるアンソニー現実と幻想お境界が譲れていくアンソニー、アンソニーを思いながらも新たな人生を踏み出したいアン。この親子がたどり着いた答えは・・・

監督・脚本は舞台のオリジナル戯曲を手掛けたロリアン・ゼレール、初映画作品への挑戦です。脚本はクリストファー・ハンプトンとの共同執筆。撮影:ベン・シミサード、美術:ピーター・フランシス、編集:ヨルゴス・ランプリノス。

出演者:アンソニー・ホピキンス、オリヴィア・コールマン、マーク・ゲイティス、ルーファス・シーウエル、モージェン・プーツ、オリヴィア・ウイリアムズ。

作品のアンソニーも私の母もほぼ同じ痴呆状態で、母はこの作品の結末と同じように「お母さん!」と呟いて逝きました。時に見せた母の“怒り”を理解してやれなかったことを悔やみます。この作品は「死生観」や「親の介護で自分の人生をどう生きるか」と悩んでいる人には、考える良い機会になると思います。私のアカデミー作品賞は「これだ!」とお勧めしたいと思います!😊

記憶を無くすることの恐ろしさ!を感じるとともにその先の世界に任せようという気にさせてくれました。

シリアスな作品ですが先の読めない認知症者が主役で、ミステリアスで大混乱をきたすが、可笑しみもあってラストまで画面に惹きつけられます!圧巻のアンソニー・ホピキンスとオリヴィア・コールマンの演技を楽しむことができます。

あらすじ(ねたばれ):

認知症者の視点で描かれているのでよくわからないところが出てきますが、ご了承の程を!(笑)

アン(オリヴィア・コールマン)は介護人が辞めたいと申し出たことで、すでに何人も辞めたので、父親アンソニー(アンソニー・ホピキンス)の認知症の度合いを気にして、父のアパートにやってきた。ドアーを開け「お父さん私よ!」と呼んでも声がない。大音響のビゼーのアリア”が聞こえてくる。

「何があったの?」と聞くと「誰の助けもいらん!」と威高に応える。介護人が辞めたのは父が時計を盗んだと嫌疑をかけたことによるものだった。寝る前に時計を外してベッドの下の小物入れにいれ、それが分からなくなっていた。

アンがこれまで何度も話していた「恋人とパリに引っ越す」話をすると顔色を変えて「俺を捨てる気か!」と怒った。(アンソニーはアンのことを考えないエゴまる出しで、かなり痴呆が進んでいる)アンは週末には会いにくるからと帰っていった。アンソニーは窓から去っていくアンを見ていた。

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アンが帰って、キチンで紅茶を入れていると“物音!がする”「アン、アン!」と叫んだ。居間に行くと男(マーク・ゲイティス)が「ここは自分の家だ!」という。「そんなバカなこれは俺のフラットだ!」と言い張るが、男が「アンの恋人で10年になる」と言う。「アンはパリに行くぞ!」と言えば電話で確認し「すぐ帰って来る」という。急に腹が立ってきて「なぜパリだ!俺をホームに入れるのか?ここを離れん」と怒鳴った。

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そこにアンだという女(オリヴィア・ウイリアムズ)が買い物から帰ってきて「何があったかと」聞く。男が来たことを話すと「ジェームスとは5年前に別れた」という。アンソニーが部屋を探すが男が見つからない。「少し前からおかしなことばかりだ!」と怒り「ここは俺のフラットだ!」と声を上げた。

いつ、どこだ!こいつらは誰だ!頭が混乱してくる!

アンが頼んでいた介護人ローラ(モージェン・プーツ)が訪ねてきた。「介護が難しい人だから」と話しているところにアンソニーが出てきて、アンのことなどそっちらかしで、「妹ルーシーに似て魅力的な人だ」と言い一緒にウイスキーを飲んだ。

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そして「ダンサーだった!」と陽気にタップダンスを踊って見せた。アンは「エンジニアだった」という。(笑)ローラが笑うと「妹のルーシーの若いころにそっくりだ。愚かに笑うところがだ!」と怒り出す。ローラは真っ青になった。(気分にムラがある!)アンソニー・ホピキンスが怒ると羊たちの沈黙」(’91)を思い出して怖い!(笑) そして「ここを離れる気はないぞ!娘の財産を俺が相続してやる」と叫び自室に引き篭った。アンは父のこの状態に、コーヒーカップを落とすほどに落胆し泣いた!

夜、父の寝室を訪ね眠っている父の首を絞めてみた。(殺意なんかはないが、こんな気持ちになるほどに落ち込むことはあります!)

アンが恋人ポール(ルーファス・シーウエル)に「私のことが分からない、他人の目だった」と話すと「心配ない」という。居間にポールがいるとアンソニーが「時計がない」とやってきて、ポールの時計を疑って見た。(笑)ポールが「あなたのことが心配だ!」と話してもアンソニーの関心は時計にしかない。緊張の一瞬だった。時計はベッドの小物入れにあった。(笑)

アンソニーは窓から遊んでる女の子を見て「いつかは会いに来てくれる!抱いてやりたいんだ!」とルーシーの話をした。アンソニーにとってアンには悪意しかない!ポールは「いつまで我々をイラつかせるんだ!」とアンを抱いた。

アンはアンソニーを伴ってサライ医師を訪ねた。アンソニーは年齢を聞かれても答えられず「フランスに行くんだ」と言い、アンは「ロンドンよ」と揉めた。(笑) サライ医師は「様子が急に変わるが心配はいいません」と言い、これにアンソニーは大満足。帰りのタクシーの中で「お父さん!」と話しかけても返事しない。(笑)

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アンが買い物をしていて、ポールから「お父さんが変だ!」と電話が入る。帰るとアンソニーはセーターが着れないと癇癪を起していた。手伝ってやると「ありがとう!」と礼を言う。このことがアンにはことのほかうれしかった!

夕飯の支度中のアンにポールが「いつホームにやる。お父さんは病気だ!」と話しかける。これをアンソニーが聴いていて「さっき聞いた!」と言い出す。怖わ! (こういうことがある、意識が正常な時があるんです!)

3人で夕食。アンソニーは「美味い!」とチキンを食べながら「この女性一日中家にいたのか?」と言い始め、ポールの一触即発状態に。アンが席を外した。ポールが「連れて行くところを決めた!ホームだ!」と声を荒げた。アンは「何故今言うの!」と注意すると「計画したイタリア旅行にも行けなかったじゃないか」と苛立つ。アンソニーはこれを聞いて、自分の寝室に逃げ込んだ。アンソニーは“ビゼーのアリア”を聞いていた。

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朝、アンソニーを起こすと「ルーシーの絵がない」と探す。ローラに任せてアンは外出した。ローラが薬を渡すと「君は修道女か!青い薬を渡して不愉快だ。あの椅子に誰が座る?」と聞く。「娘さんです」と答えると「この前は済まなかった」と謝り「君はルーシーによく似ている」と言う。(記憶が斑のようだ。)「サーカスにいたことがあるのでマジックを見せたいが、パジャマじゃ無理だ」と喋っているところに、ポールが「アンソニーどうかしたか?」と現れ、「正直に言え!いったいいつまでイラつかせる」と殴ってきたあの男になって「僕にも見せない!身勝手だ」と殴ってきた。

そのときアンが戻って来て、泣きじゃくるアンソニーを慰めた。ガウンに着替えさせて寝させたが心配だった。

夜、「お父さん眠っている!」という声が聞こえて、「ルーシーか?」とアンソニーが起き出して廊下を歩いて探す。青っぽい部屋だった!トビラを開けて入ると寝ている女が「お父さん!」と言った。アンソニーの徘徊が始まった!(こうなってくると始末に負えなくなりますね)。

朝、アンソニーが洗面を終えて、食事のテーブルに。アンが「ローラの来る前に!」と着替えさせ「隠し芸が楽しかったと言っていた」と話しているところに女が入ってきた!慌てるアンソニー、「誰だ?」と聞いて部屋に逃げ込んだ。アンが「この部屋いいでしょう、公園が見える。ここの方がずっと楽に暮せる。家より安心よ!」と言い、「パリに行く」と伝えた。「俺はどうなるんだ」というアンソニーに「ロンドンよ」と話すと「たまらん、悲しいよ」と泣きだす。アンは、泣きながらアンソニーの涙を拭いてホームを出た。タクシーに乗っても涙が止まらなかった。

質素な部屋。朝、起きて、アンソニーは時計がないとアンを呼ぶ。すると女がやってきた。「介護人か?ルーシーに似た人は?」と尋ねると女が笑って「覚えていますパリ?」と絵葉書を渡した。「ポールとパリで暮らしています」とあった。

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女と公園を散歩していて男に出会った。「フラットでの知り合いだ、君は誰だ」と女に聞くと「キャサリンです。あの男は介護人のビルよ」という。「俺は一体誰なんだ?」と聞くと「アンソニーよ」と。

アンソニーが「できればママに会いに来て欲しい。ここを出たい、ママを呼んでくれ!」と泣き出す!女が「何故?」と聞くと「全てが葉っぱのようで落ちていく!何が何だかわからん」と。(完全に記憶がなくなった)。「着替えて公園を行きましょう、そして昼寝。気分が落ち着きます」と女の声。窓の外に爽やかな木々の葉が揺れていた!

感想:

認知症者の視点で描かれることで、現実なのか幻想なのか、何時なのか?場所は?と大混乱。登場人物を6人に絞り、同じ人物が役を重複し、さらに部屋や調度品が変化することで、アンソニー精神の混濁を表現するという上手い脚本・演出でした。

これがこの作品の観どころで、記憶を無くすることの恐怖に追い込まれ、ラストで明かされる真実に涙が止まらなかった。

アンソニー・ホピキンスの狂っているのか正常なのかまったく分からないセリフ回しと、時に見せる狂気にぞっとさせられながら、沢山涙を見せてくれ、ラストの表情には涙でした。

一方のオリヴィア・コールマン、娘であることを忘れられた悲しみを目で演じ、パリに帰っていくシーンは涙なしでは見られません。アンの唯一の救いはアンソニーが時に漏らす「ありがとう」という言葉だと思います。

年取ったら「ありがとう」の言葉しかいらない!そう感じさせられた作品でした。

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