最終章は“The Final”と“The Beginning”の2編からなり、すでに“The Final”は鑑賞済み。“The Final”は亡き妻・巴の弟縁の剣心に対する仇討ち劇で、剣劇をエモーショナルなものにするためには仇討ちの動機がしっかり語られなければならない。が、この部分の大部を“The Beginning”で委ねられ、私的には不満でした。それだけにThe Beginning”を剣心と巴の愛の物語と予想、動乱の中で育んだ愛が戦の絶えない今の世界にどんなメッセージをくれるかと“The Beginning”を早く観たいと期待していました。
公開初日、2回目で観ました。なんと早朝にもかかわらず、このコロナ禍のなかで、大変な入りでした。女性が多いことにも驚きました!
幕末の動乱期、すべての人々が平和に暮らせる新時代を創るためになぜ剣心は最強の刺殺者として恐れられていたが、ある夜見回り組の若い侍を斬ったが頬に傷を負った。その侍の妻となるはずだった女性・巴と出会い、ともに過ごす時間の中で、殺人者・剣心にはなかった人としての幸せを知る。そんなある日、剣心が幕府の暗殺集団に襲われるが巴によって救われる。その時に剣心の頬に傷が・・。剣心の十字傷の謎が解き明かされ「不殺の誓い」の謎に迫るという物語。
原作は和月伸宏さんの人気コミックス「るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―」の「追憶編」、未読です。
監督・脚本:督大友啓史、アクション監督:谷垣健治、撮影監督:督石坂拓郎、美術:橋本創、編集:今井剛、音楽:佐藤直紀、主題歌:ONE OK ROCK「Broken Hearts of Gold」、他。
出演者:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、安藤政信、北村一輝、江口洋介、他。
鑑賞所見は今までの“るろ剣”シリーズとは作り方が全く違っていて、歴史的背景をしっかり踏まえ、剣心の正義が明確に位置付けられ、動乱の中でしか描かれない切ないラブスリーリーで、ふたりの手で剣心の頬に傷をつけるシーンにふたりの想い、平和への願いが込められ、“るろ剣“シリーズ全作を貫くテーマを見せつけてくれ、すばらしい作品でした。時代劇における金字塔とも言える作品だと思います。
あらすじ(ねたばれ):
物語は1864年(元治元年)、黒船来航から11年、1月16日、剣心(佐藤健)は捕らわれ対馬藩邸で手を縛られて尋問されていた。これは邸内侵入の奇策、頃合いを見て相手を蹴とばし落とした刀を口に加えて縄を解き大暴れ、ひとり残さず斬り捨てた。
現場を視察にきた新選組の斎藤一(江口洋介)、たぶんタバコをくわえていた(笑)、と沖田総司(村上虹郎)。沖田が「人斬り抜刀斎」と見抜き、斎藤は初めて抜刀斎の力を知った。
4月5日、雨の夜。剣心は見回り組のふたりを斬った。斬った後、新奸状を残して去ろうとすると一人の侍(清里明良:窪田正孝)が「俺には大事な人がいる」と立ち上がって何度も斬りかかり剣心の左頬に傷をつけた。最期の止めを刺して宿に戻ったが、これまでにない感情が胸に残った!
長州藩士の隠れ宿“小萩屋”に戻って、血を洗い落としていると「なんでお前が!」と受けた傷が話題になる。これまでに100人を斬っており幕府から目をつけられそろそろ危ないと思うが、桂小五郎(高橋一生)が「まだまだ期待しているぞ!注意しろ」と。
桂と剣心の関係。1963年奇兵隊の旗揚げに「安心する新時代を作るなら」と参加し、そこで高杉晋作(安藤政信)に剣術の腕を見込まれ、桂のために血まみれになる男として桂の側近に加えられた。桂は「あんなに人を殺めても穢れがない。人殺しとして迷いのない男だ」と評価されるほどに、桂のために斬りまくった。
ある夜、居酒屋“なぐら”でひとり酒を飲んでいると、ひとりの清々しいいで立ちの女性が入ってきて酒を注文する。それを見た男たちが冷やかす。剣心が男たちを恫喝して外に出ると、闇の男・村上(奥野瑛太)が鎖鎌で突然襲ってきた。口をふさいで斬り裂くと血が吹っ飛び、その血を剣心に礼をしようと出てきた女が受け「あなたは本当に血の雨を降らせる」と呟いて気絶した。(笑)剣心は女を小萩屋に連れ戻った。気絶は女の騙しだった!(笑)
女は雪代巴と名乗り行先がないと“小萩屋”の女中となり甲斐甲斐しく働き、女将(渡辺真紀子)のお気に入りとなっていく。そして剣心の身近につねにいる。仲間から「剣心に女が出来た!」と噂される。(笑) 巴が「何故人を斬るか?」と問うから「刀で新しい時代をつくる」と言うと「刀を持たない人でも斬るの?」と聞いてくる謎めいた女だった。藩では「待伏せ被害がでている、隠密がいるのではないか?」と片貝(池内万作)らが言い出す。
剣心が人斬りで帰って来ると、巴が待っていて「人を殺し続けるんですか」と手ぬぐいを渡す。そのうちに部屋に花を活けるようになった。しかし人前ではよそよそしい態度だった。
刀鍛冶の新井赤空(中村達也)が“人間らしくなった”という剣心のために「新時代に変える魂のこもったものだ」と巴のところに刀を届けて来た。剣心は桂から「吉田松陰先生の言う“狂いたまえ”の先鋒を緋村が務めよ!」と指示され、この刀を手入れしているところに巴がやってきてつき合ってくれという。
祇園祭りの夜、ふたりで見物に出て、巴が山車の稚児を指して「あの子たちを見守る親たちがいるんです。平和の戦いが本当にあるのですか? 高い志や大きな目的のためなら小さな犠牲は許されるのですか。もし勝たなければあなたも犠牲者?」と問うてきた。剣心は「時代を進めるために誰かがやらねばならぬ!」と答えて宿に戻った。しかし「俺の剣は人を幸せにするか」とこの言葉が“どしん”と胸に刺さった。
「帝を長州に移す」という情報が新選組に漏れ、志士が集まっていた池田屋を襲う(池田屋事件)。飯塚(大西信満)から桂が危ない危ないと聞かされ剣心は池田屋に奔った。池田屋には近藤勇(藤本隆宏)、土方歳三(和田聰宏)、沖田、斎藤らが斬り込んだ。剣心が池田屋に着いた時、沖田は逃げる志士を追っていた。剣心と沖田が激しく戦ったが決着がつかない。そのとき沖田が血を吐き、剣心は斬ることを諦めた。そこに土方、斎藤が駆けつけてきて、桂は難を逃れたことを知りその場を引いた。
7月19日の禁門の変に敗れ、小萩屋が新選組に襲われ、剣心は「あなたは絶対に斬らない、守る」と巴を伴って逃げた。桂に会い「隠れるには都合がいいから、巴と形だけの夫婦になって京を外れた田舎で暮らす」よう指示された。剣心は「できれば形だけでなく」と巴の同意を得た。こうして京の外れの隠れ家での生活が始まった。
ふたりで田を耕し、山菜を収穫し、台所に立ち、景色を眺め、お茶を飲みむという生活の中で、ふたりの心は寄り添っていった。巴は清里のことを思い出して、辛い思いのなかで誠実な剣心に惹かれていった。剣心は「多くの人の幸せのために剣を振るったが幸せが何かが分かってなかった」と笑顔が戻ってきた。
桂と剣心の連絡に当たっている飯塚が訪ねてきて「まるで夫婦だ!状況はよくない、待つだけだ!薬屋になって暮らすのが安全」と言って帰って行った。帰る途中で飯塚が幕府直属の暗殺集団“闇之武”のアジトにより「やるなら今だ」と伝えた。そんなことを剣心たちは何も知らなかった。
ある日、巴の弟・縁(荒木飛羽)が「姉さんとの連絡係をしている」とやってきた。そこに商売から帰った剣心が縁を認めたが、去って行った。
その夜、巴は“闇之武”の手が回っていると知り、これまでの身の上を剣心に語った。「生まれは江戸で父は御家人。許嫁は京の見回り組に志願し、祝言も前に亡くなった。あのとき止めておけば!」と泣いた。剣心は優しく巴を抱いた!
そして「あなたが平和の戦いがあるかと問うたが、新しい時代がくるまで斬る。その時が来たら人を斬るのではなく人を守る道を探す。この世界を守り、罪を償い、一度失った希望を守り抜いてみせる」と巴に誓った!
雪が降り積もった日、巴は日記を残し、白装束で小刀を持って“闇之武”のアジトに向かった。
剣心が目覚めて巴がいないことに気付いた。そこに飯塚が「巴は隠密だ!証拠があるか調べてろ!」と駆け込んできた。剣心は日記を見つけ、読んで「必ず守ってやる」と飯塚のいう“闇之武”のアジトに向かった。
剣心は“闇之武”の罠に嵌った。準備された仕掛けに引っかかり、闇の団員から矢を受け、爆破で耳や目をやられながらアジトに急いだ。
一方、巴は“闇之武”のリーダー・辰巳(北村一輝)に「剣心の見張に落ち度があったか?」と問うた。辰巳は「もう終わりだ。男が惚れれば本来の力は発揮できん!清里は命を賭けてお前を幸せにしたかった。家を村を徳川家を守り個々の幸せなどない。徳川に反抗するいかなる小さな芽でも潰す。命を賭けて!俺が止めを刺す」いう。巴が「殺してはならぬ」と辰巳の脚に絡み着いたが蹴とばされ動けなくなった。
目・耳の感覚を失いながら近づいてくる剣心。剣を振り回すが辰巳に剣に翻弄される。上段の構えから剣心を斬ろうとするところに、巴がこれを防ごうと駆け寄ったその瞬間、剣心は横一文字に剣を振った!ふたりを斬り倒していた。
剣心が倒れている巴に抱き起こすと「ごめん!」と小刀を頬に当てて来た。剣心は巴のその手に自分の手を添えて頬を斬った。
剣心は巴の遺体を小屋に運び、日記を読んだ。そこには「この男は人を斬るが斬った人より多くの人を助ける。決して殺してはならない!私が命を賭けて守る」とあった。剣心は巴に不殺の誓いをして小屋を焼き払い、動乱の世に出て行った。
1868年鳥羽伏見の戦。剣心はこの戦に参加し、斬って斬りまくった。錦の旗を見て「新しい時代がやってきた」と剣心は刀を捨てた。斎藤がタバコを吸いながら「これで終わりだと思うなよ!おかしなやつだ」と声を投げ掛けた。
感想:
十文字の傷の謎が解き明かされる展開が見事で、大満足でした。剣心が倒れている巴に抱き起こし巴が差しだす小刀に手を添え自分の頬を斬ったシーン。剣心の巴への贖罪、感謝、愛、そして「不殺の誓い」への印だった。巴は愛の記録を残したかった。
ストーリーが過去作に比して断トツに良い。背景の幕末歴史がしっかり描かれて、長州の桂を登場させて緋村剣心の“精神的支柱”を明確にし、新選組や幕府直属の暗殺集団「闇之武」と対決する構図は時代劇としてリアリティを与え、これまでのシリーズ作品と異なって、まるで緋村が歴史の中で“生きていた”と思えるところがよかった。特に桂や高杉、辰巳が吐くセリフ、決して多くはないが、活きていた。大河「龍馬伝」の監督が作った作品だと思いました!
アクションもこれまでのシリーズ作品とは違って、回転、壁走り、ロープ使用などのエンタメチャンバラではなく、正真正銘の剣術アクション。佐藤健さんは最強の殺人鬼たる剣心の姿をまざまざと見せてくれました!シリーズ最後にふさわしい出来でした。また、どこか寂しそうで堅固な意思力を偲ばせた殺人鬼から、巴に出会い、「すこしずつ心が溶かされていく表情の変化がとてもよかった。
剣心を作ったのは巴、巴の作品でもあるわけで、有村架純さんの存在が大きかったと思います。許嫁を失い今にも消えてしまいそうな儚さと、凛とした佇まいで剣心に近づく巴。剣心への憎しみと愛情の狭間に苦しみながら、「新しい時代がくる」という剣心を穏やかに包み込んでいく巴。強い決意で“闇之武”のリーダーに立ち向かう姿など、有村さんならではの演技でした。
このシリーズで忘れてならないのがロケ地と音楽。時代を感じる壮大な物語にふさわしいものでした。
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