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宮﨑あおいさんを応援します

「グレース・オブ・ゴッド告発の時」(2019)戦うことで強くなり“生きる希望”を見出し 宗教と対峙していく!


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神父による児童への性的虐待という衝撃的な事件(「プレナ神父事件」)を描いた作品。第69回ベルリン国際映画祭銀熊賞審査員グランプリ)を獲得した作品。WOWOWシネマで観賞しました。

聖職者による性的虐待を描いたものに、アカデニー賞作品賞・脚本賞を受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」(2015)があります。この作品は大きな力に抗しながら、個々の神父を糾弾するのではなく教会という組織による隠蔽システムを暴く新聞記者たちの苦悩が描かれています。

本作はひとりの被害者が告訴に動いたことが他の被害者たち立ち上がる勇気を与え、次第にその輪が大きくなって、犯罪聖職者の処分や教会の姿勢を問う運動になっていく。彼らは沈黙を破った代償として社会や家族との軋轢とも戦うこととなるが、戦うことで強くなり“生きる希望”を見出していく様が描かれています。主役が被害者たちで、彼らが苦悩し“宗教と対峙”するところが生々しい!この闘いはまだ決着がついてない!

この作品は性被害で苦しむ人たちへのメッセージにもなっていると思います。

監督・脚本:フランソワ・オゾン、撮影:マニュエル・ダコッセ、美術:エマニュエル・デュプレ、編集:ロール・ガルデット、音楽:エフゲニー&サーシャ・ガルペリン。

出演者:メルヴィル・プポー、ドゥニ・メノーシェ、スワン・アルロー、エリック・カラバカ、フランソワ・マルトゥーレ、ベルナール・ベルレー、ジョジアーヌ・バラスコ、エレーヌ・バンサン、マルティーヌ・エレル、他。

あらすじ(ねたばれ):

冒頭の枢機卿による祈り、「主イエス・キリスト、あなたはこの神秘を受難の記念に定められた。我らが主の体と血による“神秘なる秘跡を尊び、救いの実にあずかれるよう導きたまえ。誉れと栄光は世々に至るまで!アーメン リョンの街に恵を!」から物語が始まります。秘跡性的虐待がどう結びつくか?

2014年、リョン。銀行員のアレクサンドル・ゲラン(メルビル・プポー)は妻マリー(オレリア・プティ)が教員をしているラザリスト会の学校に5人の子供たちを通わせているが、ブレナ神父(ベルナール・ベルレー)がリョンに戻っていることが気になる。彼は6歳(1983)から12歳までの間プレナ神父から性的虐待を受けていた。少年にとって神父は憧れだった。キャンプで神父から特別の声を掛けられれば名誉、“これも秘跡と疑うことなく従う。これがプレナの性癖に火を点けていた!

アレクサンドルは子供たちが自分と同じ道に陥らないよう教会にプレナが小児性愛者であることを伝えた。

協会側は神父不祥事係(この係が存在することに疑念!)レジーヌ・メール夫人(マルティーヌ・エレル)が対応することになり、“教会の災い”が癒されますようにと返信があった。アレクサンドルは直接メール夫人に会い、受けた虐待の実態を話し、その苦しみは今でも続いていると涙で訴えた。帰宅して、事実を妻と子供たちに伝え、子供たちに注意した。

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アレクサンドルはメール夫人からフィリップ・バレバラン枢機卿(フランソワ・マルトゥーレ)の指示で、プレナに会うことになった。プレナに会うことは恐怖だったが妻に背中を押された!

リョン司教館でプレナに会った。プレナは「やったことを覚えている。私の汚点だ、昔からそうなんだ!子供の惹かれる、苦痛なんだ!病気なんだ!」としゃしゃと言い謝罪はない。公にすることを親たちに襲われるのが怖いからと逃げる。聖職を去る考えなどない。立会したメール夫人は「罪が許されますように!」と神の言葉で解決したような態度をとる。そして「あなたの傷がいやさせますように」とメールを送ってくる。妻マリーが「これは教会の懐柔策だ!」とバルバラ枢機卿に会うことを勧めた。

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教会から会うが息子たちの聖信式を行いたいと知らせてきた。ノートルダム大聖堂バルバランにより執り行われた。大聖堂での華やかな式典でアレクサンドルの言い分を締め付けてくる感じ! 両親が「30年以上経ていることだから争うのを止めたら!」と諭すが「プレナの聖職剥奪を求める」と諦めなかった。

このあとバルバランは子供たちを招いて「小児性の祭司など容認しがた」と伝え、自著「神は時代遅れか?」にサインして持たせた。

アレクサンドルは「もはやプレナだけの謝罪で終わる問題でない。許したら囚われの身になる!」と強く面会を求め、実施が決まった。

バルバランは「司祭は子供とふたりになるなと教区に通達した。聖書を教える場合は第3者を立ち会わせる」と回答。「これがおかしい、なんで祭司全員がこうならねばならない!と「教会が小児性愛者を糾弾し聖職を剥奪する」ことを求めた。

こののちプレナが子供たちに聖書の教育をしている現場、さらに別の神父お監視下でプレナがミサを行っているのを見て抗議すると「教区から離任させた」と伝えてきた。

アレクサンドルは教皇に手紙を書くために教区の元秘書ジュザンヌ・クレメールに会い、プレナの小児性愛の存在、バルバランとプレナの特別な関係、前任の枢機卿が衝撃を受けたことを掌握した。

教会に「教会で解決すべき問題として教皇に訴える」と伝えた。すると教会弁護士から呼び出され「我々は犯罪者と認めない。あなたに言い分は時効だ。聖職剥奪の予定はない」と告げられた。机を叩いて帰った!(笑)

そこにクレメールから姪のディディエ(33歳)がプレナの被害者だと連絡が入った。しかし彼は頑なに証言となることを拒んだ。

アレクサンドルは告訴に踏み切り、リョン地方検察局に告訴状を提出した。

クルトー警部がフランソワ・ドゥボール宅を訪ねてきた。フランソワ(ドゥニ・メノーシェ)は彼の立ち上げたIT会社にいて不在で、父母がこれに対応した。父母はふたりの子供がプレナの犠牲にされたことを悔やんでいて、証拠資料を渡した。警部は時効前だから証言してくれと帰っていった。妻アリーヌ(ジュリー・デュクロ)もこの事を知った。

フランソワが帰宅し父母から聞かされたが、自分は無神論者だと証言者になることを断ったが、忌まわしい記憶が戻ってくる。それにアリーヌが子供たちの心配をし出す。フランソワがアレクサンドルのところに走った!

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フランソワが新聞社に訴えようと提案したが、アレクサンドルがこれを断った。彼は警察に駆け込みプレナだけでなくバルバランも絡んでいると教会を新聞社に訴えたい主張したが、警察の捜査が困難になると断られた。フランソワは陽気な男で単純なところがあり、彼の性格が作品を明るくしてくれます。

バルバランからフランソワに接触してきた。フランソワがマスコミで小児性愛者を糾弾する声明を出そうと提案すると一方的に電話を切られた。ところがバルバランが単独で記者会見して「教会は当該職から牧師を外して子供たちを守る」と声明を出した。フランソワはこれで目的は果たせたと安堵したところに、ニュースが「プレナは修道院に移され、20人の被害者がいる」と報じた。

フランソワはTV出演し「もう隠れない!」と被害者としての顔を晒した。これを観た医者のジル・ペレ(エリック・カラバカ)が9歳のとき犯されたとフランソワの協力者になった。

これにはジルの妻ドミニク(ジャンヌ・ロザ)がセラピストで「人に喋って聞いてもらえば心の平静を取り戻す」というアドバイした。

「活動を全国規模でやろう」と、最初に告訴したアレクサンドルに声を掛けたが公になることを拒む。ジルが「信者はみんな小児性愛者には反対なんだ」と説得し、3人で入会金10ユーロの「被害者の会」を立ち上げ、ファイスブックで呼びかけた。しかしフランソワの兄が激しい怒りを示した。兄弟にはプレナ神父を巡る確執があった。家族の中に我々には気付かない大きな葛藤があった!

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2016年1月、被害者の会立ち上げの記者会見を行い、「バルバラ枢機卿はいつプレナが小児性愛者だと知ったか?多くの訴えがありながら教会裁判所で裁かなかったか?バチカンはいつプレナが小児性愛者だと知ったか?全世界が答えを待っている」とメッセージを送った。

これを見たエマニエル・トリスタン(スワン・アルロー)の母が、彼に新聞記事を見せた。母親はこの日がくるのを待っていた。新聞を見て気絶するほどにエマニエルはまだ苦しんでいた。ファイスブックにアクセスしたが話せなかった。

エマニエルがフランソワを訪ね「IQ140以上なのにプレナの暴力で人生を棒に振った!TV局で働いたことがあるので協力したい」と申し出てた。

エマニエルは妻に警察に告白することを話すが、いい返事をしない。彼はクルトー警部にプレナーの性愛で性器が変形していることを訴え、プレナと面会した。プレナが「あんなことして悪かった」と謝罪したが、「聖職の尊さをぶち壊した!」と許さなかった。エマニエルは記者に「私のセクシュアリティに影響を与えた。性的能力や性自認ではなく愛が分からなくなった。IQが髙かったがその恩恵にはあずかれなかった。教会や法律一般を刷新し、時効をなくすことだ!」と喋った。マニュエルが弁護士の勧めで医者の診断受けたが、「ベロニー症」と診断され彼の言い分は認められなかった。弁護士はこの結果に驚いたようだった。

エマニエルは「被害者の会」に出席した。そこでは教会をどう説得するかでフランソワが「大聖堂の上に航空機で性器を描く」という案も出されたが、皆の反対で却下された。(笑)

会が終わってエマニエルはアレクサンドルの家を訪ね、アレクサンドルの妻マリーに「貴方は何故強い?」と尋ねると「私も近所の男にレイプされた。これは私の戦いよ!」と。エマニエルは妻とは別れることにした。

いよいよ裁判が始まった。

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2016年のクリスマス。「被害者の会」のメンバーが集まった。そこでエマニエルが挨拶した。「プレナを裁き有罪に持っていける。教会のバルバランも。心から感謝したい!皆さんの努力で俺の人生が変わった。生きる意味を見つけた。苦しんだ過去が報いられた」と。

ジルが「夫婦の時間が欲しい」と言い出し、マリーも「私も人生が変わった、距離を置きたい!」と。ジルが「ここからは弁護士や裁判官の仕事だ」と脱会を示唆した。メンバーそれぞれがこれからの教会との関りを述べた。アレクサンドルは「娘には秘跡を受けさせたくない!大事なのは礼節と信仰だ」。フランソワは「信仰を撤回する」、エマニエルは「カトリック信仰を破棄する」という想いを語り、それぞれが信仰との関りを模索することになった。

感想:

「汝姦淫するなかれ!」と説く牧師さんがこれを犯す。これを訴えると、逆に「そんなことするな」と責められる。そんなバカなことはない、神父は神ではない。犯す人もいる。だから辞めさせればいいのだ。しかし、それをすればカトリック教に疑いがもたれる。組織疲労

プレナ神父が訴えられ、のうのうと罪を認める。「神(教会)が助けてくれる」と確信を持っているから。教会がこの悪弊を断ち切るため小児性愛罪の絶滅を図る必要がある。しかし未だに問題は解決されていない

ラストシーンでアレクサンドルは息子に「お父さんは神を信じますか?」と聞かれ、その答えは観る人に任されたが、「神を信じるが、改革が必要だ!」。

アレクサンドルが「あくまでも教会の中で解決する問題だ」と教会側と交渉するが受け入れられず告訴。その告訴がフランソワに引き継がれ「社会に訴えるべきだ」と活動が広がり、エマニエルが参加し「活動に参加することで生きる意味を見つけた」と活動を総括するという3人を繋いで紡いだ物語、とてもうまい脚本でした!

性被害を告白し、同じ傷をもつ者たちが繋がって、大きな輪となって、大きな力と対立する。「戦うことで自らが救われる」ところに感動的でした。

この物語は小さな訴えが輪になって広がっていくMeTooの流れ。勇気をもって訴えることであなたが救われる、新しい希望を見出せると訴えています。

難しい問題提起の作品でしたが、夫婦や家族の心情表現が細やかで感情移入しやすい。これがすばらしかった!

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