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「対峙」(2021)“罪を憎んで人を憎まず“、この言葉の重さを考えた!

 

高校銃乱射事件の被害者家族と加害者家族による対話を描いたドラマ。このキャッチコピーに、WOWOWで観ることにした。

監督・脚本:「キャビン」などの俳優フラン・クランツ、初監督・初脚本です。

撮影:ライアン・ジャクソン=ヒーリー、編集:ヤン・ホア・フー、音楽:ダーレン・モルゼ。

出演者:「ハウス・オブ・カード 野望の階段」のリード・バーニー、「ヘレディタリー 継承」のアン・ダウド、「ハリー・ポッター」シリーズのジェイソン・アイザックス、「グーニーズ」のマーサ・プリンプトン、他。

物語は、

アメリカの高校で、生徒による銃乱射事件が発生。多くの同級生が殺害され、犯人の少年も校内で自ら命を絶った。事件から6年。息子の死を受け入れられずにいるペリー夫妻は、セラピストの勧めで、加害者の両親と会って話をすることに。教会の奥の小さな個室で立会人もなく顔を合わせた4人はぎこちなく挨拶交わし、対話を始めるが……。(映画COMより)

彼らは何のために集まったのか、いかなる事件があったのかが明かされることなく物語が始まる両夫妻のぎこちない初対面シーンから、対話が続く中で壮烈な事件、被害者と加害者の両親が抱える感情が明かされ、お互いが理解し合えるかという物語、回想シーンは一斉ない、アクションも音楽もない!ただただひたすら会話のみだが、緊張感をもって、脚本のすばらしさとキャストの演技に圧倒され、最後まで観ることができた。こういう作品は初めての体験だった。今だ、理解できているとは言えないと思っています。


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あらすじ&感想

物語は、両者が対峙する教会の部屋の準備状況から始まる。

田舎の小さなカトリック教会。質素な部屋。壁に十字架。簡易な丸いテーブルと椅子。テーブルに花はない。食べ物はコーヒーのみ。それにティッシュペーパーの準備。これをケンドラ・カーター弁護士(ミッシェル・N・カーター)がチェック。聖歌隊の練習を断った。なんでもないシーンだが大きな意味があることがラストで明かされる。

最初に被害者のペリー夫妻(ジェイソン・アイザックス)が到着。妻のゲイル(マーサ・プリンプトン)が「言葉にできないかも」と参加を躊躇するがペリーの「聞くだけでいい」の言葉に励まされて部屋に入った。カーターが「“サインしてください!”すべて整っています」と迎えた。

間を置かず加害者のリチャード夫妻(リード・バーニー)が到着。ふたりはとても柔和な表情で挨拶、妻のリンダ(アン・ダウド)が花をゲイルに渡すが不愛想に受け取る。ゲイルの激しい怒りが垣間見える。

カーターが「この部屋を出るときはいい結果が得られますように!」と挨拶し部屋を去った

対峙は双方が準備していた写真を見せ合うことから始まった

ペリーは亡くしたペリーの写真を見せた。これを見てリンダが突然涙を流した。リンダは不愉快そうに見ていた。リンダが銃殺犯人の息子ヘイデンの写真を見てようとすると、ゲイルが断った。それでもリンダは柔和な表情でヘイデンが小さい頃作ったカタツムリの飼育瓶を見せた。カタツムリが亡くなって、死は嫌だと紙で作ったカタツムリと葉っぱを張り付けた瓶だった。これには殺人犯の息子に対する母の想いが詰まったものだった。リチャードが「彼女は答えを見つけた!」と補足した。しかし、ゲイルは返事しなかった。

リチャード夫妻はペリー夫妻に比べて、苦労したな!という人の寛容さが見えた。

どう話を始めるか、リチャードがペリーの銃規制活動を褒めると「今日会うのはそんな話でない」と話を急ぐ。

ペリーは「問題は銃の問題ではない。心の問題だ」と問題提起したこれにリチャードは「子供が自傷しようとしたら危険の始末だけでなく子供の力になろうとする」と答えた。これがペリー夫妻、特にゲイルが頭にきた。(ゲイルは殺人事件を起こしたヘイデンを援護するリチャードが許せなかった)。

ペリーは「うちの息子を殺したから」とヘイデンの全部を話すことを求めた

リチャードは今更と不快感を持つが、丁寧にペリーの質問に答えた。「ヘイデンは小さい頃から内気な子で他人と遊ぶのが苦手、ゲームに熱中する子だった。変化の切っ掛けは、家庭の都合で7年生時、ここに引っ越して学校で虐めに合い、暴力的になり、医者の診断を受けたが本人が嫌がりやめたパイプ爆弾をつくり警察に補導された経歴を持っていた」と。

ペリーはヘイデンの精神異常にリチャード夫妻の関与は不十分。学校との会話がない。警察に補導されたにも関わらず有効な手を講じなかったと責めた。

ペリーはまるで検事の立場で責めるような問い掛けだった

 リチャード夫妻は精神病についてはヘイデンが医者に会うことを拒否するので夫妻で精一杯やり、かなりの薬品費を使った。学校への通報や警察に逮捕されてからの指導はヘイデンの将来を想い親としては出来なかった。パイプ爆弾は遊びだと思っていた。特にヘイデンの成績がよかったことが判断を邪魔したと説明した。

リンダが「嘘つかれた」と発言したことで、ペリーは「親の責任を放棄している」と激しく責めた。これにリチャードは「公に話できず、答えが見つからなかった。だから防止の会への協力も断った。リンダは母親会参加を禁じられた」と述べた。

ペリーはリチャードの言い分に「答えも、考えもなかった」と切り捨てた。

ペリーは「我々は権利放棄に著名している。悔いる気持ちはあるのか?」と聞く。リチャードは「すべてを悔いている。最悪の結果だ」と答えた。ペリーは「あなたの答えは軽い、我々が訴えないと決めたから出てきた答えだ」と一蹴。

ペリーは「あなたは冷静すぎる、“罰を受ける姿が見たい”」とリチャード夫妻を責める

ペリーは「パイプ爆弾の作成で警察に逮捕されたこと」を「無責任だ!」と責めた。リチャードは「今ならともかく、どうしろと?手造り爆弾ごときで将来を潰したくなかった。ヘイデンは僕だけじゃないと言い、誰もいない森で実験すると言った。しっかり話が出来てヘイデンを信じた。しかし、今なら分かるが、私は騙されていった。」と答えた。

ペリーは「ヘイデンの自殺願望をチェックしなかったこと」を挙げ「あなたは無関心だ!」とチャード夫妻を責めた。リチャードは「ヘイデンへの期待が強かったから負担にならないようそのままにした。結果的にあの子を見放した」そして「批判や責めは嫌というほど受けた。貴方がいうように無関心ではない」と反論した。

ペリーが「事件が起きると予期していたか?」と聞き、「あなた方が全ての人の人生を破滅した」と責めた

リンダは「何が起きたかわからなかった。警官からヘイデンが亡くなったことを知らされた。自分たちはいい親だった思った。今でもそう思う。良い母親と思うことが許せない過ちですか」と聞き直した!

そして「私は人殺しを育てた。喪に服したのか悲しいのかも分からなかった。葬儀も密かに行い、墓地を見つけることに苦労した。経済的になりゆかなくなり、悲しいという感情は消えた。何も知らず息子を止められず、話す言葉がなく何も言わなかった。謝ります!あの子の行為と折り合いをつけるために答えが欲しかった」と話した。

この話に、ペリーとゲイルは衝撃を受けた

ペリーは「理由を知らずとも憎しみは分かる?カトリックの答えはこれか。“理由がいる”と責め始める

ハイデンが特定の生徒を殺すと言った言葉が警察に通報されたことを取りあげ、「ヘイデンの脳、前頭前皮室扁桃体の活動低下が原因でサイコパスだ」と厳しい口調で責めた。何故ペリーがここまで言い出すか?彼はゲイルを救いたいという願いがあったからだ。

リチャードは「ヘイデン共感力と十分な感情を示し、サイコパスではない」と反論した。ペリーは「治療不能だ。原因は学校でも転居でもないハイデン自身だ」と言い切った。リチャードは「サイコパスとは無関係だ」とこれを否定し、リンダも「ハイデンは最初からあんな状態ではなかった」と証言した。ペリーは「異常はないと言うのか?」とリチャードに迫った。リチャードは「私の息子だ。愛しく思う気持ちは消せない。しかし失敗した。息子の本姓が見えなかった」と釈明した。

ゲイルは口を閉ざしこの論議を聞いていた。

ペリーが「ハイデンの攻撃は選択だ」と言ったリチャードは「攻撃は無差別だ」と反論した

ペリーは息子エヴァンがどう殺されたかと、ハイデンの爆弾攻撃が始まり、エヴァンを狙い撃ちし、苦しみで逃げ廻り絶命したエヴァンの6分間の行動を明かした。リンダはこの話に耐えられず泣いた。ゲイルも「止めて!」と声を上げた。

リチャードが静かに亡くなった生徒の死様を明かし、命乞いをしたクリストファーを撃って、息子ハイデンが図書室で皆が見守る中で自殺した状況を明かした。

ペリーは「感情のかけらもない、憎しみだけだ!」と声を上げた。リチャードが「まさに混乱?増悪?怒り?絶望?」とペリーに問うた。「とんでもない無感情だ。無関心、無慈悲、邪悪だ」と言った。リチャードは「言いたいが、私は言わない」と話を止めた。(理由は見つかったか?ハイデンがやったことは君がやっていることと同じだ)

ゲイルが「もういいのよ」と声を上げた

リチャードが犠牲家族のためにと学校を訪れると「ハイデンは犠牲者でない」と言われたという。リチャードは必死に抗議したハイデンの怒り、痕跡、行為の後を見たと話した。これにペリーが驚いた。学校側が人々の怒りを避けるよう秘密にして見せてくれたのだった。世間は10人を、我々は11人に祈った。しかし、11人目は追悼式も名前の読み上げもなかった。このことはよく承知している、しかし、大きな衝撃を受けた。どれほどに息子が苦しんだか、そして苦しみがあの場所に導いたと知った。2番目は望まなかったが生まれてみると心からこの子を愛した。もしかしたら生まれてこない方がよかったと話した。リンダは「ちがう、学校に行くべきでなかった。今も覚えている堪えがたいほどの恐怖。息子がやったことのあまりにも大きな怒り。教場に遺された細長い線であの子のものだと分かった。あの子の体だった」と話した。

ペリーが「あなたたちは生涯孤独と言われる裁きを受けたか?と聞く。

リンダは「孤独だった。息子の行為を思い出しどんな子だったかと記憶を糺す。それが私の務め。あの子の人生は価値がないと信じようとしたが、でも信じる必要が無くなった」と答えた。

ゲイルが「聞くのが辛い!」と言い、「あの子の人生には意味がある、無駄にさせたくない。彼らの人生に価値があって欲しい、何かを変えて欲しい」と、エヴァンが子供の頃フットボールで「上手い選手は泥だらけになる」と懸命に泥だらけになったエヴァンを抱きしめ「あの子の臭い、溢れる命」を感じたと語った。リンダが「それが彼の人生よ」と声を掛けた。ゲイルは「あなたたちが罰を受けて欲しくてここにきた。でも何かが消えた。あなたたちを赦したらあの子を失うと思っていた」と言い、

「私はあなたたちをヘイデンも許します。彼は道に迷っていた。今のままでは苦しみだけだ」と声を上げた。

両夫妻はテーブルから離れ膝を突き合わせ、再会を約束した。ペリー夫妻はリチャード夫妻が去るのを見送った。するとリンダが戻ってきて「私を殴って欲しい、あの子を孤独にしたのは私の責任」と言い出す。ゲイルが優しくリンダを抱擁し励ました。ペリー夫妻はポスター「神は我らと共に」に、そして讃美歌「別れゆくときは哀しみに心沈めど、再び相見るときの喜びやいかに」を聞きながら教会を後にした。

まとめ

息が詰まるような緊迫した話だった。会話劇の凄さを感じた。惨劇な映像を観ることはないが脳の中はこれで一杯になった

事件和解のための協議がテーマだったペリー夫妻は殺された息子エヴァンの記憶を消さないためリチャード夫妻が罰せられることを条件に臨んだ。ペリーは罰を与えようと相手の罪を挙げ責めた。しかし、責めたその先に見えてきたのは、相手には相手の理由があり、責めれば責めるほどに自分たちか殺害者と同じことをしていたこと、さらに殺人者であるヘイデンはしっかりリチャード夫妻の中に生きていることだった。

ペリー夫妻は相手を恨み、苦しむことで何も見えてないことに愕然とし、リチャード夫妻と殺人犯ヘイデンを赦し、苦から脱して息子エヴァンの人生を生かす決心をした

ゲイルがこの結論を得たとき、これまで聞こえなかった音、犬の鳴き声や室外の人の声が聞こえてくる演出にほっとした。

冒頭、ゲイルとリンダの対峙から始まって、最後にふたりが分かり合い抱擁して終わる、女性の対峙で始まって終る物語だった。女性の包容力の凄さに感動した。特に、リンダを演じたアン・ダウドの殺人者である息子に掛ける母親の愛の言葉には感動させられた。すばらしい演技だった。

キリスト教にもすばらしい教えがあるが、我が国にも、孔子お教えだが、“罪を憎んで人を憎まず“がある。改めてこの言葉の重さを考えた

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