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「KCIA 南山の部長たち」(2019)キム部長の決起に至る心情以上に「軍事政権による政治腐敗と民主主義」を問うた作品!

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1979年朴正煕大統領が中央情報部部長金載圭に暗殺された実話を基に映画化した実録サスペンス。

事件があったということぐらいで、その詳細をほとんど知らない。とても評判のよい作品ということで、WOWOWシネマで鑑賞しました。

結論を先に述べますと、“すばらしい”のひとことに尽きます。軍事政権による政治の一旦を伺うような作品で、民主主義にとってとても大切な作品だと認識しました。関係者が旧日本陸軍で育った人たちで、その悪弊が色濃く残った事件であるように思え、無関係ではいられません。

原作:金忠植(キム・チュンシク)によるノンフィクション「実録KCIA『南山と呼ばれた男たち』」、監督:「インサイダーズ 内部者たち」のウ・ミンホ、脚本:ウ・ミンホ イ・ジミン、撮影:コ・ラクソン、美術:チョ・ファソン、音楽:チョ・ヨンウク。

出演者:イ・ビョンホン、イ・ソンミン、クァク・ドウォン、イ・ヒジュン、キム・ソジン、他。

1979年10月26日、大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称KCIA)部長キム・ギュピョン(イ・ビョンホン)が大統領(イ・ソンミン)を射殺した。事件発生の40日前、KCIA元部長パク・ヨンガク(クァク・ドウォン)は亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で、韓国大統領の腐敗を告発した。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長はアメリカへ渡り、かつての友人でもあるヨンガクに接触を図るが……。(はしがき)

物語は冒頭で暗殺の事実を伝え、なぜ暗殺に及んだかを、40日前から克明に描き、その後、事件の顛末とキム部長の証言で締めくくられます。事件に及んだ要因はいろいろあるようですが、この作品で描かれるキム部長と実録のキム部長の証言を比較し、観る人に「何を感じたか」を突き付け、キム部長の決起に至る心情以上に「軍事政権の政治腐敗と民主主義」を問うた作品だと思いました。

あらすじ:

1961年5月16日、軍事クーデターでパク政権が樹立。KCIAは強力な権限を武器にパク統領を支えてきた。南山にあったKCIAはその存在自体が恐怖の対象であった。大統領に次ぐ権力を持ちKCIAの歴代部長を南山の部長と呼びます。

今でいうパク政権の末期、韓国は民主化要求の大波に揺れていた。元KCIA部長のパク・ヨンガク(クァク・ドウォン)が米国に亡命し、「パク政権は人権や民主主義を蹂躙している」とロビー活動、議会証言をしており、これがパク大統領には大きな喉骨だった。

パク暗殺事件発生40日前から物語が始ります。

恒例の朝ミーテイング(大統領、KCIA部長、大統領警護室長、大統領秘書室長)でヨンガクが話題になった。クァク・サンチョン警護室長(イ・ヒジュン)が「キム部長、なにやっているか、俺ならすぐ殺す」と言葉を投げ掛ける。

キムは大統領と話合って「彼の回顧録を入手し、穏便に収める」と大統領に進言した。大統領は「君も俺の退任を望むか?そろそろ引き際だ!」と吐くが「私が守る」とこれを諫めた。キムは心底大統領に仕えるという気概があった。それは革命を起こしたときのふたりの関係。パクが師団長でその参謀長がキムだった。革命軍として漢江を渡るとき、“びびる”パクに「新しい韓国のために!」と推したのはキムだった。この関係は今でも崩れてないとキムは思っていた。

クァクは当時中佐(大隊長クラス)だったから、キムは鼻にもかけない。しかしクァクは米国エストポイント士官学校卒業生空挺部隊の創設者、生粋の軍人というプライドがあった?ふたりは犬猿の仲だった。

ここからねたばれ(要注意!)

9月18日。キムはワシントンを訪れ、ヨンガクに会い、「拒否したら殺されるぞ!」と回顧録を要求した。ヨンガクが回顧録を渡し「気えつけろよ!KCIAに勝る力を持つやつ“イアーゴ”がいて、資金洗浄を行っている。米国がパク大統領を放っておくと思うか?」と不気味な言葉を吐いた。イアーゴとは誰か?

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ロビー活動家のデボラ・シム女史(キム・ソジン)にヨンガクを焚きつけるな!と忠告して帰国した。

920日、キムは帰国し、宮井洞説宴所で大統領に回顧録「革命の裏切り者」を見せ「深く反省しているので許してやって欲しい」と進言した。「イアーゴ」を知っているかと聞いたが返事はなかった。大統領は師団長時代を懐かしみ、君の作るマッサを緒みたいと、ふたりで杯を交わした。

9月21日青瓦台に出勤すると「米国が大統領の机に盗聴器を設置していた」と大騒ぎになっていた。クァクが「キム部長、お前なにをやっている」と激しく抗議し、大統領も「土下座いろ!」と激怒。キムは土下座して謝った。

キムは米国大使館に抗議に出向いた。大使は「知らなかった」と言う。強く抗議すると「パク大統領の秘密口座をばらす!」と逆に脅してくる。さらに「18年間の政権にいて、そろそろ目を覚ませ!」と忠告してきた。

帰りの車の中で、配下のカン・チャンスから「クァク室長が青瓦台に呼んだ客の中に大学教授がいた」と明かされ、直ちに捜査を命じた。さらに青瓦台に戻ると、(議員に圧力をかけるため)戦車は配備されていた。キムはクァクを呼び出し、殴り、拳銃を突き付けて「お前は中佐だった、この虫けら!」と揉み合った。

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9月22日、大統領の音声盗聴テープとともにヨンガクの回顧録が日本のサンデー毎日に掲載された。

朝ミーデイングでキム・ヨンサム総裁が受けたNYタイムスインタビューが話題なっているところに、秘書官が「アンデー毎日」記事を大統領に渡した。大統領は激怒し席を立った。クァクと秘書室長がこれを退出。キム部長はひとり部屋に残り黙考していた。

米国ではヨンガクとデボラがこの記事を読んでいた。「漏れたのはキム部長筋だが、彼にはなんも得にもならん、犯人は誰だ!」「次の大統領はキムが有望だったが、このままでは危ない」と心配する。デボラは「次期大統領は警護室長よりキム部長がマシ」と言うが、ヨンガクは「大統領は2番手を生かしておかん」とこれを否定した。ヨンガクは大統領の頼みでやった野党党首の拉致・拷問で辞めさせられた。

9月26日盗聴に絡んだ教授が逮捕された。保安部に所属しクァク室長に頼まれてやったと白状した。彼を保安部に引張入れたのは部下のユ・ドンフンで今はパリにいる。ドンフンは空挺部隊でクァクの部下だった。キムはドンフンの監視にハム・デヨンをパリに派遣した。

デヨンが「ドンフンがフランス駐在大使に接触している」と報告してきた。

クァクが大統領に“ヨンガク殺害”を進言した。キムはこれを知って大統領に会おうとするが会わせてもらえなかった。

10月1日、「パリ大使館にヨンガクを呼び出した」とドンフンがクァクに報告した。クァクは「予定通り進めろ!と大使に伝えろ」と指示した。

パリを舞台にキム部長とクァク室長の闘いがミステリアスに描かれ、並みのスパイものよりも面白く、迫力があります。

10月2日ジョンソ米下院議員訪韓歓迎パーテイにキム部長は参加した。そこにはクァク室長も参加していて、親しくジョンソンに挨拶していた。デボラがジョンソンに付き添って来韓し、「青瓦台の主人を早く座から降ろすのが本人のためよ!ここにいる全員がそう思っている」と話し、クァクに親し気にサインを送っていた。キムは終始、状況を眺めて、何が起こっているのかと考えていた。

デヨンから「大使がヨンガクとファン元国務総理も招待した」と報告してきた。キム部長は「ドンフンと大使が何を企んでいるか監視せよ!」と指示した。

10月4日ヨンガクがパリに到着。ドンフンが出迎え「閣下に持ち出した金を返せ!そうすればファン元国務総理が上手く閣下にとりなしてくれ帰国できる」と話した。ヨンガクは指定されたホテルに宿泊しファン待つことになった。

デヨンから青瓦台執務室のキムに「ドンフンが銃を手にいれた。ヨンガクを殺すつもりだ。どうします!」と報告してきた。この報告を受けているところに大統領が入ってきた。大統領は「俺は永遠には生きれれない。後をお前やるか?」と聞く。キムは「私が閣下を守ります!」と答えると「ヨンガクをどうする」と聞いてきた。キムは「閣下のお望みのように!」。大統領は「お前の側には俺が付いている、好きなようにやれ!」と話して出て行った。こもやり方はヨンガクを陥れたと同じ手口だったが、キム部長がそれを知る由もなかった。

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キムはデヨンに「やれ!」と指示した。デヨンはアルジェリア人の殺し屋を雇った。そして米国のデボラをパリに呼び、ホテルからヨンガクを呼び出し殺し屋の車に乗せる役を与えることにした。

10月7日デボラがパリに到着。デヨンが出迎え計画を指示した。デボラは渋ったが帰国出来るという言葉で引き受けた。

大統領はソウル芸術劇場に児童舞踊団17回記念特別公演にキム、クァクを伴って出席していた。クァクから大統領に何かが耳打ちされた。キムはこれを無視するように舞台を観ていた。

パリではデヨンのヨンガク暗殺が計画どおりに進んでいたが、ヨンガクが車内で暴れ、逃げ出した。クァクにはドンフンから“ヨンガクに逃げられた”と報告された。キムにはデヨンから「自分が処分した」と報告がなされた。

10月18日、釜山の暴動対処会議が開かれた。キムは「ヨンサム総裁の除名を撤回して、野党と話し合うべきだ」と主張したが、クァクは「市民でなく暴徒、戦車の投入だ」と主張した。参謀長は黙示したままだった。大統領は「戒厳令を発令準備」と指示した。

キムは大統領室に呼ばれ「ヨンガクはパリで消えたか?」と聞かれた。「見つからないでしょう!」と答え、「私がヨンサム総裁と会うので戒厳令を止めて欲しい」と進言すると「ヨンガクの生死はどうでもいい。彼が持ち出した金はどうなった?」と聞いてきた。キム部長には答えがなかった。怒りに震え泣いた!

米大使がヨンサムがパリで消えたことに「本当のことを言え!」と責めてきた。「答えないなら、米軍を引き上げるぞ!次を準備しろ!」と脅しをかけてきた。

大統領はクァクを呼び釜山の視察にヘリで飛んだ!キムは釜山騒動対処から完全に外された。その夜、大統領とクァクが宮井洞で会食をすることを知って、キムは密かに潜入して会話を盗み聞きした。大統領が「釜山はどうやる?」と聞くと「キムは弱気だ!終わりですか?」とクァクが聞く。これを聞いたキムは無念で一杯だった。

10月26日、宮井洞の宴席にキムとクァクが呼ばれた。ここから大統領、クァクを殺害するまでのシーンは、ぜひ観て欲しいです!

ふたりを殺害したあとキム部長はKICAの戻って政権を立ち上げるか、陸軍本部へ出頭すべきかを考え、陸軍本部に出頭し、軍法会議で絞首刑となった。

全斗換(劇中人物:ウ・ドンフン)による調査結果は「大統領がクァクに目をかけ、自身が信用されないことに不満をつのらせ、特に民主主義抗争を巡って不安に駆られ、ふたりを暗殺したものだ」というものだった。

金載圭(劇中人物:キム・ギュピョン)は最終陳述で、「10月26日革命を起こした目的は民主主義を回復し、国民が犠牲になるのを防ぐためだった。決して大統領になるためではありません。私は軍人で革命家です。命乞いをするつもりはありません」というものだった。

感想:

キム部長が大統領に最後に突き付けた言葉「暴徒を戦車でひき殺していいのですか?目を覚ましてください!」、そして実録の金載圭の最終申述。全斗換の事件調査結果。事実は闇の中でしょうが、ドラマの結末を大切にしたいとおもいます。

大統領執が暗殺された後、大統領務室の金庫が開けて、スイス銀行口座取引明細書を見る男、何者でしょうか?

韓国、ワシントン、パリを背景に繰り広げるキム部長と大統領、クァク室長の駆け引き。最終結果は分かっていて、知り得なかったエピソードが、まさに情報機関の物語というように、サスペンスフルでした。

ヨンガクがパリで暗殺されるシーンやキム部長が宮井洞で大統領とクァク室長を暗殺するシーンは、カメラワークがすばらしく、秀逸です。また、この時代を写し出すような暗い深い色彩映像が印象的でした。

名優イ・ビョンホンの演技に魅せられ、その場のキム部長の苦しみが伝わり、こうなるだろうなという結末に、自分でもこうすると涙しました。

またまた韓国映画の凄さを見せつけられた作品でした。

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