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「空に住む」(2020)空っぽを埋めて、そらに住む話!

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EUREKA ユリイカ青山真治監督、7年ぶりに長編作品。見落としていて、WOWOW初公開で鑑賞しました。

作品は、

作詞家・小竹正人の同名小説と、原作とともに誕生した「三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE」の楽曲「空に住む Living in your sky」の世界観を基に、現実と夢の間で葛藤しながら新たな人生を見いだしていく女性たちを描くというもの。

監督:青山真治脚本:青山真治 池田千尋撮影:中島美緒、編集:田巻源太。

出演者:多部未華子岸井ゆきの美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾岩下尚史高橋洋大森南朋永瀬正敏、他。

郊外の小さな出版社に勤める直実(多部未華子)は、両親の急死を受け止めきれないまま、叔父夫婦の計らいでタワーマンションの高層階で暮らし始める。長年の相棒である黒猫ハルや、気心の知れた職場の仲間に囲まれながらも、喪失感を抱え浮遊するように生きる毎日。そんなある日、彼女は同じマンションに住む人気俳優・時戸森則(岩田剛典)と出会う。彼との夢のような逢瀬に溺れていく直実は、仕事と人生、そして愛の狭間で揺れ動き、葛藤の末にある決断を下す。(はしがき)

空っぽな直美が、まわりの人たちとの関りの中で、心を埋めて、人として成長していく話です。

タイトルの“空“。空にそそり立つタワーマンション。そのマンションに住む、父母を失って間もない直美の心象”空っぽ“。タワーマンションと直美の心象が上手く繋がるという“絶妙なタイトルです!

タワーマンションに住む人、夢と現実の中でふわふわしている編集者、俳優、専業主婦。子を宿しながら別の男との結婚を夢見る空っぽ女性。それにネコ。際立ったキャラクターが上手く絡まるストーリー展開がすばらしいです。

美しい映像と皆さんの上質な演技を楽しむことができます。

あらすじ

直美は幼いころに母を亡くし、1週間前に父を亡くし、納骨を終えて、叔父小早川雅博・明日子夫妻の住むタワーマンションの39階の部屋に、ハルを連れて引っ越してきた。

夫妻の案内で入った部屋。窓際に設けられた仏壇に父母の位牌を治め、ここから東京の街を見下ろした。ふわふあと空を飛んでいるみたいで、今の自分の心と同じだと思った。ひどく空虚だった。

伯父夫婦はとても仲睦ましく、おしゃれで、やさしく接してくれるが、どこか現実離れした、ふわふわしていて、空のなかに住んでいるような雰囲気がある。夫婦の軽さは子供がいないことだった。

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直美は田舎にある日本家屋を改修した小さな出版社“書籍弧林”の編集者。1週間ぶりに出勤すると担当の小説家・吉田理(大森南朋)が「連載を続けながら、描きおろしをしたい」と言い出し、どうするかと編集長の柏木(高橋洋)が悩んでいた。吉田の編集者は木下愛子(岸井ゆきの)だったが、出産を控えているので、直美が引き受けていた。

吉田の意見を聞くと「どうしてもやりたい」という。直美は「自分が面倒見るから」と吉田の言うとおりにしてもらったが、柏木から「儲かるものを見つけて欲しい」と言われる。

昼、愛子は吉田と蕎麦を食べながら吉田に「産むのか?」と問われ「産みます!」と返事していた。このことを直美は知らなかったが、愛子は吉田とは別の男性と結婚することにしていた。空っぽな女の子だった。

直美は吉田の原稿をマンションに持ち帰り、筆を入れることになった。

マンションに帰ると専業主婦の叔母・明日子(美村里江)が訪ねてきて、一緒にワインを飲んで、取り留めのない話をして帰っていく。叔母には予備鍵を預けているのでしょっちゅう訪ねてきて遊んでいくが、猫のハルはこの叔母に懐かなかった。

ある朝、出勤時のエレベーターでラフな服装の男と一緒になって、この男が隣ビルの広告塔のモデル・時戸森典だと知った。会社で「時戸、知ってる?」と聞くと浮気ものだとかイケメンとかの声が返ってきた。気になる男ではあった!

帰宅すると花束を持った時戸に会った。「この花を君の花お仲間に入れて」と部屋に入って来て、「アムレツ作れる?」と聞く。作った「美味しい!」と食べ、携帯の番号を聞いて帰っていった。なんとも空っぽな男だった。

伯父夫婦が「いい人はいないか?」とお節介な心配をしてくれる。明日子が「このマンションにいる時戸なんかどう!」と言い出す。

夜、時戸から「サクランボ貰ったから食べないか?」と電話があり、訪ねてきて、ワインを飲みながら話しているうちに「嫌ではないだろう!」とキスを迫り、直美も曖昧な返事をして抱かれるという、“空っぽ”な関係が続くようになった。

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ある夜、時戸がやってきて「俺は空っぽ?」と言い始めた。「芝居は嘘の中にいかに本当を造ることだが、直美はその逆だ!本当のことが分かって嘘をやっているみたいだ」という。時戸は哲学的なことを口走ることに気付いた。直美は「一緒に本を作らない!」と勧めた。時戸は「今のふたりの関係は愛とか恋とかでなく心の隙間を埋めるためのものだ」と言う。この夜はちょっと燃えた。

愛子がマンションに遊びにやってきて、「付き合っている人には、子供はあなたの子と騙して結婚する。喋らければいいだけのこと」と話す。(笑)、この生き方に驚き、「愛子の味方になる」と答えた。

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愛子を見送りにエレベーターに乗ろうとして、花束を持つ時戸に出会って、愛子はふたりの関係に気付いたようだった。

部屋に戻ると時戸が廊下に座り込み花びらを食べている。部屋に入って愛子のことを話していると、叔母の明日子がやってきた。が、居留守を使った。「何か食べるものはないか?」と聞くので「オムライスは?」と言うと、「嫌いなものは卵だ!」と怒って帰った。直美は呆然とした。何でこんな人たちに振り回されるのか思ったか!

夜、叔母・明日子と夕食をとった。時戸の話を持ち出すと「次から次と女の子を変えているから気を付けて」と、勧めてみたり腐したりと、まあいい加減?

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猫のハルの状態がおかしいので医院に連れていくと、ストレスが原因の悪性リンパ腫と診断された。マンションに引っ越して心労を与えたなと心が痛んだ。

ハルの治療を待つ間に、「時戸が映画の宣伝で出演し週刊誌で熱愛が報じられ「飲み友達です」と応じているTVを観た。こういうことかと現実を知った。

3か月間居たマンション管理人の転勤を知り、もっと親しくしておけばよかったと、タワーマンションの中に人の暖かさがあることに気付いた。

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愛子の婚礼衣装の試着につき合った。その帰りに吉田の幸せそうな家族に出会った。愛子の大きな気持ちに気付いた

その夜、明日子叔母が部屋にやってきて、ハルのことを聞く。「叔母には関係ない」というと「ハルのために泣いた?」という。叔母には帰ってもらって、自分が小さいころ父母に構ってもらえず悲しかったこと、ハルと出会った元気になったことを思い出し、その夜はハルの横で寝た。側にいる大切なものに気付かなかったことを悔いた!

ここからねたばれ(要注意)

吉田理が小説「深愛」で芥川賞を受賞した。直美のところにも送られてきた。

マンションにやってきた時戸が「暴露本か!」と小説「深愛」を手にした。直美はこれを時戸にプレゼントし、「これが済んだら別れる」と時戸との出会いを本にするためのインタビューを行なった。「女性感は」「生き方は」・・と時戸に質問。「最後の質問、あなたの夢は?」に時戸は「俺はまだ地面に立っていない地面に足をつけて立つことだ」と答えた。最後の夜を過ごして、彼を送り出した。

ペット葬儀屋(永瀬正敏)にお願いして、ハルを火葬した。煙も出ず消えていってしまった。葬儀屋さんは「消えるのは距離と時間の問題。私たちが並行線として生き、この地べたでは決して交わらないが、宇宙を通じて交わる」と教えてくれた。

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直美は柏木編集長に企画書を提出した。編集長に「時戸さんのスキャンダルを救うことになるなら人は読む」と言われ「彼はノホホンと生きているので、彼というより私の仕事。ドキュメンタリーとして吉田さんに再構成してもらう」と答えた。「会社の為か、あなたの為か?」と聞かれ「猫の為!」と答えた。

マンションを訪ねてくる途中の愛子から「来て!」と電話があり、駆けつけると破水して苦しんでいた。病院に行こう!と勧めると「まだ産まない!彼には連絡しないで!」と言う。「現実を見なさい!」と叱りつけて、病院に運んだ。女の子を出産し、何事もなかったように慈しんでいた。

「愛子が違うと思ってもこの子はお母さんに一生付いてくる。これからは覚悟ある人生よ」と声を掛けると「直美ちゃんは強い。ふわふわしていて、どんどん進んでいく。無敵だ!」と微笑んだ。

ラストシーン。時戸の好きなオムレツを作って写真に撮り、自分で食べ、時戸との思い出を断ち切った。お節介な叔父夫婦の来訪を無視して、大きく空に背伸びし、ひとりでこのタワービルに生きる決意をした。仏壇の中央に猫の遺骨が安置され、タワーマンションこの部屋が人が住む空気に包まれてくる

感想:

沢山のエピソードをだらだらと連ねているようで、ひとつひとつのエピソードに空っぽの虚しさや現実の人間関係の複雑さがある。これらが繋がって、ラストシーンで直美が自立に目覚めるという結末。

身近にいた猫・ハルの、不倫の子ではあるが愛子が出産したという現実。そこに不条理な人間関係を超えた愛を見つけた直美。「空っぽを埋めるには、自分が地面にしっかり立つこと」と自覚していく結末がなんともすがすがしい。

直美としての多部さん空っぽな直美が日常の中で少しづつ現実を見つけ出して泣けるようになる、覚悟のある女性に変化していく演技。これまでの多部さんにはない難役を見事に演じました。多部さんの女優としての転換点となる役ではなかったかと。

直実の後輩・愛子としての岸井ゆきさん。柏木の子を宿しながら別の男と結婚するという空っぽの中で過ごし、何の蟠りもなく、生まれた子の母親となるという太っ腹母さん。映画「愛がなんだ」に次いで、こんな空っぽな女性を見事に演じました。

直実の叔母・明日子としての美村里江さん。専業主婦として夫をうまく操縦し、空っぽのままで夢の中で生きるという、しなやかで強い女性をうまく演じました。

 いずれの女性も、これまでに青山監督が描いてきた女性像のように思います。

時戸としての岩田さん。夢の中なのか現実なのかという不思議な生き方。そこかでてくる哲学的な人間関係の見方。雰囲気のある演技でした。空港に急ぐ車の中で、直美から渡された小説「深愛」をどうとらえたのでしょうか。

タワーマンションと田舎の小さな出版社。これが空っぽと現実を暗示しているようで、電車がこれをうまく繋ぐという上手い設定でした。これがとても美しく撮られていました。なかでもタワーマンションに住む直美と雅博・明日子夫妻のシーンごとにファッションが替り、ワインを飲むという、なんとも空っぽな世界“空に住む”という雰囲気を楽しませてくれました。

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