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「晩春」(1949)行き遅れた娘へのメッセージだけでなく当時の日本人の生き方を問う?

 

“娘の結婚を巡るホームドラマ”を小津安二郎監督が初めて描いた作品で、その後の小津作品のスタイルとなり、また原節子さんと初めてコンビを組んだ作品で、小津作品の中でも評価の高い作品とのこと。こんなことも知らず、戦後4年目の作品に何が描かれたのかと興味を持ってWOWOWで鑑賞しました。横須賀線の電車、1等車が1両連結されて、他は3等車という映像がありました。1等車は米軍専用だったんでしょう。今の人には分からないですよね!(笑)

行き遅れた娘の結婚を巡る父親と娘の情愛を描いた作品ですが、結婚を嫌がる娘に「結婚で幸せになれ!」と説く父親の愛情に、戦後4年米軍施政下の混沌とした世相の中にあって「日本人はどう生きるべきか」を問うた作品のように受け取り、今、この作品を観る価値があると思い、とても感動しました!

監督:小津安二郎原作:廣津和郎「父と娘」、脚本:野田高梧小津安二郎撮影:厚田雄春編集:浜村義康、音楽:伊藤宣二

出演者:笠智衆原節子月丘夢路杉村春子青木放屁宇佐美淳三宅邦子三島雅夫、他。


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あらすじ

北鎌倉に住む大学教授の曾宮周吉(笠智衆)。妻を亡くし、今は娘の紀子(原節子)と生活を共にしている。

冒頭、茶会のシーンから物語が始まる。この席に紀子は叔母・田口まさ(杉村春子)と参加し、そこには叔母の友人・三輪秋子(三宅邦子)もいた。ここではしっかりと茶の作法が描かれます!

戦後4年目、和服でお茶席などというのは贅沢の極みで大きな批判を浴びたようですが、監督にはこのような日々が早く来ることを望んでいたんだろうと思います。

自宅の1階、書斎では周吉が助手の小野寺(三島雅夫)の手を借りて論文を作成していた。周吉は密かに紀子が三島と一緒になってくれたらという思いがあった。しかしこのことを言い出せなかった。

そこに茶会から帰ってきた紀子は満面の笑顔でふたりにお茶を出して、2階の洋間の自室に!こんな紀子の表情に周吉はほっとしていた。

紀子は父と一緒に、横須賀線で東京に出て、病院に。東京の復興は急速に進んでいた。父の友人・勝義(青木放屁)に誘われて食事。勝義が再婚していることを聞き「叔父さんは不潔だ!」と言ってしまった。勝義は笑っていた。勝義は周吉の元に紀子を送ってきて、ふたりで一杯飲んで、紀子の結婚を勧め、帰っていった。

紀子は小野寺に誘われ、七里ガ浜を自転車で散策。小野寺には婚約者がいることが分かった。

周吉が“まさ“の宅を訪れると、「もう歳だから、紀子に相手はいるの?」と聞かれ、周吉は「服部だといいんだが」と曖昧に答えた。「紀子にはっきり聞きなさい」と”まさ“にせかされた。

周吉は、自宅に戻り紀子に服部のことを持ち出すと、「服部には決まった人がいる」と聞かされ、がっかりした。

離婚して書記の仕事を持つ友人・北川アヤ(月丘夢路)が訪ねてきて、泊まってた。「結婚したくない」と相談すると、アヤは「良い人がいたら再婚する、あなたはいいお嫁さんになれる」と紀子を元気づけてた。

父に勧められて“まさ”の宅を訪ねると「東大出の佐竹さん会ってみない!ゲーリー・クーパーに似ている」と見合い話を言い出された。「私が嫁にいったらお父さんが困る」と見合いを断ると、「三輪秋子さん、父さんにどう?」と紹介された。家に戻って父に口を利かなかった。

周吉は紀子を誘って能舞台を鑑賞。周吉は能を堪能しながら、向こう座席の三輪秋子に目線を送った。これに気付いた紀子が一気に不機嫌になった。この不機嫌が収まらない。帰り路、父と別れてアヤを訪ねて不平を聞いてもらった。アヤは「さっさと嫁に行きな!」と言われ喧嘩別れした。

家に帰っても機嫌の悪い紀子に、周吉は「佐竹さんに会っていたら、会ってみていい人だった。自分のことは考えないでいい、再婚する」と明かした。紀子はこの言葉が信じられなかった。“まさ”が「明後日来てくれ」と連絡があったと伝えた。

紀子は“まさ“の家で佐竹に会った。

見合いは終ったがなかなか紀子が返事をしない。周吉と“まさ”は鶴岡八幡宮にお参りし、いい話が聞けるようにと祈願した。このときまさが財布を拾うという好運を引き当てた。まさは「財布はかならず警察に届ける」と言ったが・・(笑)

紀子がアヤを訪ねて相談していた。アヤは「あなたには恋愛結婚はできない!結婚なんてパッとして、駄目なら別れたらいいんだ」と結婚を勧められた。

家に戻った紀子に、周吉は紀子の返事を聞きたいが聞けない。そこで“まさ”が聞きに2階に上がった。返事は「結婚する!」だった。

周吉は紀子を京都の旅に誘った。度の途中で床について、紀子は「実はお父さんが大嫌いだった!」と呟いたが、周作はすでに寝入っていた。

京都の旅を終えて帰る夜、紀子が「このままお父さんの側にいたい!」と言い出した。周吉は「夫婦で幸せを探せ!」と結婚による幸せを説いた。紀子は「幸せになります」と誓った。

 結婚式の日。紀子は周吉に「お世話になりました!」と丁寧に挨拶して家を出て行った。

結婚式を終え、周吉はアヤと一緒に小料理屋で飲んでいた。アヤが周吉に「再婚をするの?」と尋ねると、「ああでも言わないと紀子は結婚すると言わなかった」と答えた。

家の戻った周吉はひとりリンゴの皮をむいていて、ことりと項垂れた・・

七里ガ浜に新しい波は打ち寄せていた!

感想

ここで描かれる親子関係は古すぎる、男性優位社会での物語、恋愛して結婚!と今の人には受け入れられかもしれない。

しかし、見合いで結婚を受け入れ、父と京都に最後のふたり旅をして、やっぱり結婚は止めるという娘・紀子に「結婚して、当初は苦労するが、ふたりで努力して、自分たちの幸せを作りなさい!」と滾々と説く父・周吉の言葉には、時代を超えて、父親としての愛情が溢れていました。

ここでの父親の言葉はそのまま日本人の生き方に繋がるように感じました。

冒頭、お茶会。鎌倉の寺参り、能の鑑賞、京都旅行での寺巡り、これらは日本文化を代表するもの。監督の映画作法で挿入される風景カットに、銀座風景、横須賀線の通勤風景や電車から見る風景、緑の森、塵ひとつない清潔で整頓された部屋。これらは日本人の心の拠所、勤勉さを表現しているようで、何にもかも西洋を模倣するのではなく、特に能の鑑賞シーンが長く「なぜこれほどに能に拘ったか」と、「日本らしい生き方をしよう」と訴えているように思います。

自宅は1階が日本間、2階が洋間、原節子さんをヒロインに登場させたのも、西洋化の波は留まらないが、その中で伝統的な日本の良いものを残そうという考えではなかったかと。

ストーリーはシンプルで余計なことを描かない。セリフが短く、しっかりと心情を描くという作風。定点観測のようにブレない映像、モノクロール映像の美しさ、これも日本人らしい!

京都旅行の宿で、床に入って父に「私はお父さんが大嫌いだった!」と告白するシーンで、ここで挿入される壺の映像に大きな論争「壺のカット論争」があるそうですが、「父が寝たので“この言葉”、壺にしまっておこう」で、「父のいう幸せな結婚に成し遂げて見せる!」という紀子の決意に繋がるものだと解釈しました。(笑) 父に対する感謝であり、愛だとおもいます。これが日本人!

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