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「チョコレートドーナツ」(2012)原題:Any Day Now

母親に捨てられたダウン症の子を引き取ったゲイ夫婦が、そこに立ちはだかる大きな偏見の壁にぶち当たり、必死にそれを乗り越えようとする”家族”の物語。

内容を調べもせず、「タイトルが詰まらない!」と観なかった作品。とても評判が良いのでWOWOWで観ることにしました。(笑)

アメリカで高い評価を受けた作品だったが、日本での上映は当初1館のみだった。コメンテーターのLiLiCoさんがTV番組で泣きながら紹介したことで、その翌週から上映館が140館に増え、日本でも広く知られるようになった作品とのこと。この話も感動的です!

鑑賞した感想はたいへん感動的な物語でした!LGBTにネグレクトさらにダウン症という大きな社会問題にエンタメ作品として挑戦したことにその意義があると思います。

監督:トラビス・ファイン、脚本:トラビス・ファイン ジョージ・アーサー・ブルーム、撮影:レイチェル・モリソン編集:トム・クロス、音楽:ジョーイ・ニューマン、音楽監修:PJ・ブルーム。

出演者:アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイバ、フランシス・フィッシャーグレッグ・ヘンリー、クリス・マルケイ、ドン・フランクリン、ケリー・ウィリアムズ、ジェイミー・アン・オールマン、他。

「1970年代のニューヨークのブルックリンでゲイの男性が育児放棄された障害児を育てた」という実話に着想を得て製作された作品ということで、今の時代に合わないところがあるが、この問題は依然として根強く残っている。そのためか原題は「Any Day Now(いつの日か)」となっている。邦題とはえらい違いです。(笑)偏見に対する普遍的な作品として観ることができ、とても意義があり、エンタメとして面白い感動作品になっています。

その面白さは、ゲイを演じるアラン・カミングの演技と歌。これにアイザック・レイバの本物のダウン症の笑顔。ふたりのラストシーンは決して忘れられない!見どころです。


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あらすじ

ダウン症のマルコ(アイザック・レイバ)が人形を持って街を徘徊していた。そのころルディ(アラン・カミング)はゲイバーの舞台で歌っていた。そこにいつもやってきて見つめる男ポール(ギャレット・ディラハント)いた。舞台が引けて、彼の車の中で結ばれ、名刺を貰って、アパートに送ってもらった。ここでのルディは化粧がきついが歌がうまい。どこにポールが惚れたか? (笑)これはあとで分かります。(笑)

ルディがアパートに入ると、人形が落ちていた。拾って届ようと大音響の音楽が聞こえる部屋を開けると女性が出てきて「オカマ」と叫んで人形を受け取りドアを閉めた。(笑)

翌朝、隣の部屋の大音響が止り、女性が男と出ていったのを確認したルディがその部屋に入ると、ダウン症の子・マルコがいた。「こんな子を置いて出て行った?」とマルコを連れて、検察局を訪ねて、ポールに会った。ルディの話を聞いたポールは「母親の釈放金が必要なのか?」と聞いてきた。ルディは「このバカが!」と怒ってアパートに帰った。ルディの母性がそうさせた!

アパートに帰ると警官と家庭局の保護官がやってきて、マルコを連れて去った。

夜、ルディがゲイバーで歌っているとポールがやってきた。ポールはマルコのことを謝り、「法律を学んで世界を変える!罪のない人を救いたいんだ!」と言い「愛している」と告白した。ルディはこれを受け入れた。そのとき、施設から出て彷徨しているマルコに出会った。「そっちは道が違う」とルディが自分のアパートに連れ帰った。

朝、マルコは起きていた。「何が食べたい」と聞くと「ドーナツ」と言う。この満面の微笑みが可愛い!最高だった!「マルコとここに居ると家庭局が連れ戻しに来る、なんとかしなければ!」とポールに電話した。

その時、ポールは上司の州検察官・ウィルソン(クリス・マルケイ)からホームパーティーに誘われているところだった。ルディが「管理人に見つかった」と伝えると「俺のアパートに来い!」とポールが返答した。

ポールのアパートは最高だった。マルコが喜んでチョコを食べた!ベッドに寝かせ、作り話を聞かせた。ルディはもうすっかり母親気取りで「引き取りたい!」とポールに話すと「簡単じゃないぞ!:と言いながら、ルディの気持ちに押されて、「法的に引き取る」ことにした。ふたりで、麻薬取引で懲役3年の刑を受け収監されているマルコの母親・マリアンナ(ジェイミー・アン・オールマン)に会って、「収監中は、マルコの面倒を見る」という「暫定的緊急保護者」を認める書類にサインさせた。

ポールは「法的条件を満たすためには俺のアパートに住め!」とルディに勧め、マルコの部屋も作った。マルコが大喜びだった。実質、ふたりは結婚した。(笑)そして法的根拠の総仕上げとして裁判所に暫定的保護者としての書類を提出し、認められた。

部屋に戻ったマルコは「自分の部屋だ!」と泣いた。そんなマルコをルディが抱いてやった。マルコを医者に診せた。「難しい病だが、このままだ!」と言われた。学園に通わせることにした。夜、ポールが勉強を教えた。

ポールはルディがバーで歌うのではなく、もっと良い環境で歌うためにデモテープを作って売り込むことにした。スタジオでテープを作成時、ポールとマルコが見る中で歌った。

この曲に会わせて写し出されるのは、ポールとルディ、マルコの3人が毎日を愉快に過ごし、誕生日を祝ったり、海岸で散歩したりして、家族として生活する姿だった。

ポールとルディがキスする姿をみるマルコには「キスは小さな幸せのおまじないだ」と教えていた。ゲイの知識のないマルコに対して、ふたりは十分に配慮していた

学園祭にはポールとルディふたりが夫婦として参加しマルコの活動を見守った。

マルコは大きな声で楽しそうに歌い、父兄の拍手に満面の笑顔だった。

先生のミス・フレミング (ケリー・ウィリアムズ)がマルコが描いた絵を見せて「これはふたりのパパだと言うんです。おふたりはどんな関係なんですか?私はかまわないが他の人の耳に入るとおふたりが窮地に陥るかもしれない」と心配してくれた。

ポールの上司、州検察官のウィルソンが、ポールにはいい仕事をやってもらいたいと、ホームパーティーに誘った。ポールはルディとマルコを伴って参加した。「ルディとは従弟同士だ」とウイルソンには偽っていた。

ウイルソンの妻はとてもやさしく対応してくれたが、マルコは不機嫌だった。やはり女性は彼にはトラウマらしい。しかし、ビスケットにチョコレートをつけて食べると一変、皆の中に入ってディスコダンス!皆が大笑い!

ルディはポールが秘書のモニカ(ミラクル・ローリー)と親しげに話をしているのが気にいらない。ルディが席を外してベランダにいることろにポールがやってきた。これをウイルソンが見てふたりの関係に疑念を抱いた。

ウイルソンがふたりの関係を公にした。家庭局保護官と警官がやってきて、マルコは連れ出され、ルディは逮捕され留置場に入れられた。ポールは検察官を解雇された。

ポールの手配でルディは出所した。これを機に、ルディは「いつわりの人生を捨てて、本当の自分になるチャンスだ!」とポールにカミングアウトすることを勧めた。

ルディがゲイバーで歌うことを辞め、裁判でマルコを取り戻すことにした。

マイヤーソン判事(フランシス・フィッシャ)がポールとマルコに面談し事実関係を調べた。ポールには「ルディとゲイ関係にあること」、マルコには「身体に触れられたことがあるか?ふたりと過ごしたいか?」を聞いた。マルコは「触れられたことはない、ふたりと過ごしたい」と答えた。

ルディとポールにマルコの暫定的緊急保護者資格を問う裁判が始まった。ポールはルディにネクタイ詩型で出廷させた。

マリアンナの国選弁護士・ランバートグレッグ・ヘンリー)が「世間ではふたりは変態だ!」とふたりの保護者資格を否定した。

これに対して学園の先生・ミス・フレミングは「私たちは性的な生物で、児童の両親が性をどう謳歌しようと興味ない!マルコは居心地がよく愛を感じていました」とふたりに保護資格があると証言した。ルディのゲイバー仲間たちも「ルディとの関係はない」とゲイ関係を否定したが、マルコを連れてゲイバーにくることがあると話した。これを弁護士が問題化し、さらにマルコが人形を抱いて歩くのは母親欲しさだと主張した。

ポールがたまりかねて、「ゲイだの人形だのと、本題でないことばかりが論議されている。マルコはこのままでは一生施設から出れない。養子になるしかない。私たちが愛している、大切に育てる」と発言した。判事は「考慮します」と結んで審議を終えた。ルディは勝訴とみて施設のマルコに「すぐ出してやる!約束だ!」と電話した。マルコは人形を持ってアパートに戻る準備を始めた。

判決は否だった。理由は「同性愛を隠さない生き方を子供が普通だと考え混乱をきたす恐れがある」というものだった。ルディもマルコもこの判決に泣いた。

ルディがテープに吹き込んだ歌がハリウッドのクラブオーナーに認められ、クラブで歌うことになった。

ルディとポールは名のある黒人弁護士・ロイ・ワシントン(ドン・フランクリン)に助けを求め再審を願い出た。

再審の判事・レズニック(アラン・レイチンス)が再審願いを受け取り、再審前30分間のマルコとの面会が認められた。ルディがマルコに何を聞いても返事しなくなっていた。面会を終えて、ルディは泣いた!

いよいよ再審開始。ロイ弁護士が「薬物乱用のDV歴があっても養子縁組を認める憲法がある」と主張し、ポールが「市民の特権に制限はない。個人に対し法の平等保護を否定してはならない憲法がある」と陳述していると、州検察官のウィルソンがやってきてレズニック判事に耳打ちした。すると判事が「再審を棄却する!」と宣告した。

このころマルコは「家に帰る」と車に乗せられ移動中だった。

マルコの母親・マリアンナが法廷に現れ、判事が「マリアンナが監護復権の申し出をした」と言い、これにマリアンナが同意した。そして判事から「両氏のマルコへの接近禁止命令」が請求され、裁判長がこれを認めた。

ロイが「地方検察局が仲立ちしてマリアンナが早期釈放された。母親には勝てない!諦めろ!成人になったら会いに来るかもしれん!」とこの訴訟を打ち切った。

マルコは母親のところに戻ったが、麻薬に溺れ男と戯れる母親に人形を渡され、外に出て彷徨していた。このころ、ルディはクラブで歌っていた。

ルディは新聞に載った小さなマルコの死亡事故記事を裁判官、検事ら司法当局者に送った。「知的障害者マルコという少年が3日間家を探して歩いた末に、橋の下でひとり死んだそうです。皆さんはマルコと面識がないからご存じないでしょうから、少しだけお伝えします」と。

ルディはクラブでマルコの死を悼んでボブ・ディランの「I shll be released」を歌った。

感想

あんなに可愛い、無垢なマルコを死に追いやったのは誰だ?と大きな悲しみの余韻が残る作品だった。

ルディとポールのマルコを守る最後の願いは憲法に保障される「市民の特権に制限はない。個人に対し法の平等保護を否定してはならない憲法がある」であったが、検察の企みでマルコの母親マリアンナが刑期を切り上げ出所したことで、その望みを絶たれた。マリアンナは麻薬取引で薬漬け、男漁りに走り、マルコは町を彷徨して3日後になくなるという結末。これが読めなかった検察!

裁判官や検察官、母親・マリアンナの弁護士が「マルコの幸せとは何か?」を考えず、ゲイに子供は育てられないという偏見で下した判決の結果だった。彼らはマルコに会ったこともないし、ルディとポールと一緒に暮らすときのマルコの笑顔を知らない!法律の文体と世間体でマルコの処遇が決まった。「こんなバカな!」と思うが、いまだにこれが現実で、ホント腹立ちます!ルディの悔しさが分かります。「なんでこんなあたりまえのことが裁判所では通用しない!」と。法律の中で事件が起きるのではない!

ポールがラストで歌う「I shll be released」で、二度とこんなことがあってはならないと願わずにはおれない。これが原題の意味です!

 ルディとポールはダウン症のマルコに関わることで、ゲイの関係が問題視されるが、それによってふたりは強く結ばれていく。特にルディ演じるアラン・カミングいい母親になるために洗練されていくところが素晴らしい。ラストで歌うシーンのルディの姿は、どうみても最初にゲイバーで歌っていたルディには見えない!こんなルディの姿を裁判官も弁護士も想像できなかった。推察力が足りない!

マルコが沢山チョコレートドーナッツを頬張って、満面の笑顔でデイスコを踊るシーン。ここから笑顔がなくなって、ラストの死の知らせ。この作品ではこれで終らなければ、その使命は果たせないが、あまりにも切なかった。思いやりのある世界がきますようにと祈りたい。

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