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「キングメーカー 大統領を作った男」(2021)理念か、政権か!ソル・ギョングとイ・ソンギュンの演技に酔う!

第15代韓国大統領・金大中と彼の選挙参謀だった厳昌録を題材にした選挙戦物語。当地では今が初公開、小さな劇場でしたがほぼ満席でした。

韓国の政治情勢に疎いですが、KCIA 南山の部長たち」(2019)を観ていて、これは助かりました田中角栄早坂茂三が活動した時代とダブリ、韓国だけの物語ではないと、とても面白かったです。

監督・脚本:名もなき野良犬の輪舞(ロンド)」のビョン・ソンヒョン撮影:チョ・ヒョンレ、編集:キム・サンボム。

出演者:韓国の名優ソル・ギョング、「パラサイト 半地下の家族」のイ・ソンギュン、ユ・ジェミョン、チョ・ウジン、パク・イナン、イ・ヘヨン、キム・ソンオ、チョン・べス、他。

物語は

1961年。韓国東北部の江原道で小さな薬局を営むソ・チャンデ(イ・ソンギュン)は、世の中を変えたいという思いから野党の新民党に所属するキム・ウンボム(ソル・ギョング)に肩入れし、ウンボムの選挙事務所を訪ねて、選挙に勝つための戦略を提案する。その結果、ウンボムは補欠選挙で初当選を果たし、63年の国会議員選挙では地元で対立候補を破り、新進気鋭の議員として注目を集めるようになる。その後もチャンデは影の参謀として活躍するが、勝利のためには手段を選ばないチャンデに、理想家肌のウンボムは次第に理念の違いを感じるようになり……

史実に基づいて描かれますが、「自分が正しいと考える目的を達成するために、正しくない手段を使うことは正当か?」を視点に、ウンボムとチャンデの人間ドラマが描かれソル・ギョングとイ・ソンギュンの熱演を楽しむことができます。


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あらすじと感想(ねたばれ:注意):

父を無実の罪で殺害した北朝鮮から脱出、今は小さな薬屋で糊口をしのいでいるチャンデ。自由を標榜し4度の選挙に挑戦するも落選、金に窮している政治家ウンボム。チャンデはウンボムの理念に感動し選挙支援をしたいと手紙をしたためていた。そこに近所の男から「卵を盗まれた。村長に申しでても何もしてくれない」と相談され、「鶏に赤に糸を結んで相手の鳥小屋に放り込み、嘘ついて、盗まれたと申し出ろ」とコメントするシーンから始まる。このシーンがラストに繋がるので書き留めておきます。

チャンデはウンボムの演説、罵られ石を投げられても怯むことなく続ける長演説を聞いて、粗末な選挙事務所を訪ね、ここで長い時間待って、やっとウンボムに会うことができた。

チャンデが「金がなくても選挙で勝てる!1票を得るより相手の10票を減らす」と切り出すが、ウンボムに信用してもらえない。「目指すは青瓦台だ!」と叫ぶと「手紙の男か!」と興味を示し、国会議員補欠選挙の正式選挙運動員に加えられた。運動員に「先生のために、自分を犠牲にして働け!」と檄を飛ばし、この成果でウンボムは初当選を果たした。その後3回の選挙でも勝利するが、チャンデのやり方に批判が出て、選挙から遠ざけられた。

1967年の第7代国会議員選挙。ウンボムは木浦から出馬。パク・キス大統領は「5時間も演説するやつだから」と危機感を抱き、官邸が応援に乗りだすことになった。ウンボムの5時間にも及ぶ演説を数秒で見せてくれましたが。(笑)

官邸がまるで木浦に本部を置いて応援、衣類や小麦粉などを配るという金権選挙を始めた。

チャンテが選挙事務所に呼び返された。チャンテはが「真実かどうか(選挙演説文)は問題でない。勝たねば意味がない」と戦い方を明かすと、ウンボムは「世の中から疑問を持たれなくない」と反対しが、チャンテは「私を柿扱いしないでくれ!(使えるときだけ使って捨てる)それ以上にしてくれ!」と要求した。ウンボムは勝つためにこれを認めた。

チャンテは「先生のためではない!共和党を葬る!上品では勝てない!」と運動員を鼓舞。大きな倉庫に選挙事務所を構えた。運動員に芝居で対応を特訓して臨む。共和党員の制服を着て、酔っぱらい、アメリカタバコを吸い、女に悪戯し・・。(笑)不良品だからと共和党の配布品を回収して、新民党の名をつけて再配布。農村をターゲットに挨拶周り。田中角栄の選挙運動を思い出して、大笑いしました。

街頭演説会。相手候補者が「新民党はこんなものを配った!汚いことをする。木浦の恥だ!」と新民党を攻撃してきた。ウニボムは「金を配るのはおかしい、配ったなら私が謝る。金のない私にできるのは、この国の民主化に命を懸けて戦うことだ!」と演説する。これに市民の猛拍手が湧く!この状況をチャンテが見ていた。ここでのル・ギョングの演説演技が素晴らしい。私なら1票を投じます!

選挙に勝利した。が、「汚い手を使う。“影“という名がふさわしい、刑務所に入れたいほどだ」というものが出てくる。

1969、オリンピックに成功したパク・キス大統領の3選出馬がニュースとなる。ウンボムが「大統領選に出馬したい」と言い出す。長年ウンボムを支えてきたパク秘書(キム・ソンオ)が「勝ち目がない」というが、「逃げてはダメだ」とチャンテはこれを受け入れ、田舎の票集めを開始した。

新民党の大統領候補選総裁のインサン(パク・イナン)、若手の党内ナンバー2のヨンホ(ユ・ジェミョン)、それに若手のハンサン(イ・へヨン)、ウンボムが手を挙げた。ヨンホがインサンに「総裁席を約束する」と候補指名の協力を求めた。インサンは「隠居扱いするな!」と怒ったがこれを受け入れた。次にインサンがハンサンに「出馬を取り消したら役職を与える」と伝え、ハンサンはやむなく出馬を取り消した。

この状況に、ウンボムが弱気になり始め、チャンデは「勝てば私の人生は変わる。断れば夢が遠ざかるばかりだ。影の中で生きることはできない」と説得した。

チャンデはエロ雑誌に名刺をはさんでハンサンに「裏切らないでも総裁になれる」と持ち掛けた。

選挙の結果、白票が多く出て、ヨンホとウンボムいずれも過半数に達せず、ふたりの決戦投票になった。ヨンホがハンサンに自分への投票を依頼すると、ハンサンは総裁席の約束文書をくれという。ヨンホが出せるわけがない。(笑)

チャンデは再度ハンサンに「一度裏切ったやつは信用しない、ウンボムに投票して欲しい」と申し入れ、総裁席約束文を渡した。ハンサンは「君には負けた!」と投票を放棄した。

ウンボムが新民党の大統領候補に選ばれた。チャンデはウンボムと抱き合って泣いたが、「光が強くなれば影は益々暗くなる」と思った。

ウンボムはチャンデに室長のポストを与えアメリカに旅することを決めた。

大統領選挙のための公約インタビューがあった。ウンボムは「郷土予備軍の廃止」に触れた。それにKCIA室長が激怒し、チャンデに電話で「公約を撤回せよ」」と抗議してきた。チャンデは「不公平が噴出している!」と引かなかった。

ウンボムの事務所に硫酸が投げ込まれる事件が起こり、皆が戦々恐々とし始めた。ウンボムはチャンデに替えてパク秘書をアメリカに連れていくことにした。ウンボムがアメリカに発った日、ウンボム家に爆弾が投げ込まれるという事件が起きた。

チャンデはKCIAに逮捕され、「側近の陰謀」と報道された。ウンボムが帰国し、党でこの問題が審議され、「チャンテ追放」という意見が強かった。ウンボムは「事実を確認する」と結論を引き取った。

チャンテは「君の共和党に勝つという本読んだ。犯人はウンボムの甥だ」と釈放された。

チャンテはウンボムの自宅を訪ねた。チャンテは「自作自演を何故止めた!どんな取引をした」と切り出した。ウンボムは「君が動くたびに悪いことが起きる。目の上のたんこぶだ!」という。チャンテは「私の力で座につけた。演説だけでは勝てない!」と迫り、ウンボムは「傲慢だ!私は政治目標を大切にする」と返し、「爆発があったとき妻と甥がいた。君がやったのか?」と聞き、チャンデの「やった!」を確認して、チャンデを解雇した

パク・キスとウンボムの大統領選挙戦が始まった

パク・キスは1967年の木浦の敗戦を覚えていた。チャンテを支配下に置き彼の選挙戦術を採用し、さらに金を投入して慶尚道を手中に収めていく。これにウンボム陣営は全羅道を完全掌握にかかった。全羅道慶尚道という地域対立となり、韓国を東西に分けての戦いとなっていった。結果はパク・キスの勝利となったが、ウンボムの善戦が目立った選挙戦だった。

選挙が終わり、チャンテは協和党の選挙参謀ジンピョ室長(チュ・ウジン)に呼ばれた。慰労金が渡され、「役につかないか」と打診されたが、チャンテが断ると「クーデターでも成功すれば革命だ!」と言う。チャンテは「あの爆破事件はそのためか?」と聞き、市民の中に消えていった。二度と選挙の舞台に現れることはなかった。

1978年、ウンボムはびっこをひきながらチャンデの事業所を訪ねた。ウンボムは追放、投獄、拷問など、チャンデと別れた後の経験を話し「決してギブアップしない」と語った。チャンデは涙を浮かべて聞いた。そして「ある男が卵を盗まれ村長に相談すると断られたと相談にきた。貴方が村長ならどう答えるか?」と問うと、「次の日産んだ卵を渡す」と言う。「ウンボムという人はこういう人だった!」とチャンデは泣いた!

1997、ウンボムは民主的な政権交代をした初の大統領となった。しかし、そこにチャンデの姿はなかった(1986年56歳で死去)。

まとめ

前半の選挙運動の現場は「こんなバカな!」と笑えるシーンが一杯だった。笑いではない!本当にあった話。我が国でも同じで、早坂茂三さんの講演で、この種の話を沢山拝聴しました。(笑)

ウンボムが大統領候補になって、チャンデが室長となり政策に関わるようになり「理念を通すか、政権を取るか」と一気にふたりの関係が変化していく。

ウンボム邸の爆破事件はKCIAの陰謀だった。チャンテはこれを逆に利用して自分が犠牲になり、郷土予備軍廃止発言によるウンボムの劣勢をカバーしようとした。しかし、ウンボムはチャンデの自白を信じ込み、決別を決断した。同じ目的を追求してきたが、大統領という地位に就こうとするウンボムの正義には、もはやチャンテのような行動は受け入れられなかった。切ないシーンだった

しかし、時が経ち政治犯として追われ投獄され拷問を受け、「勝てば官軍」というチャンテの考えが分かってくる。これが、1978年のウンボムがチャンテを訪ねてふたりが邂逅したシーンではなかったかと思う。このシーンは監督のテーマに対する結論「政治の闇」を考えさせてくれる最高のシーンだった。

1960年から70年にかけての世情をロケや美術で再現するとともに当時の新聞記事・映像を使っての描写に、当時の世界感に浸り、感情移入できます。

ソル・ギョングとイ・ソンギュンの演技が凄い。さらにふたりの光と影という関係を、物語の進展に合わせ、際立たせていく光の演出がすばらしい。

こんな大きな政治問題を、実話という形で映像で問う韓国映画に、“すごさ”を感じます。カルト宗教と政治が問題となっている今の公開で、殊更にこの作品の意義を感じました。

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