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「SHE SAID シー・セッド その名を暴け」(2022)真実は権力より強いと挑む女性記者の熱い戦い!

 

2022年度製作作品。映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を告発した2人の女性記者による回顧録を基に映画化した社会派ドラマ。#MeeToo運動のきっかけになった物語で、18年にジャーナリズムの権威であるピューリッツァー賞受賞の映画化です。WOWOWで鑑賞。

監督:マリア・シュラーダー、原作:ジョディ・カンター ミーガン・トゥーイー、脚本:レベッカ・レンキェビチ、撮影:ナターシャ・ブライエ、編集:ハンスヨルク・バイスブリッヒ、音楽:ニコラス・ブリテル。ブラッド・ピットが製作総指揮、製作はプランBとアンナプルナ。

出演者:「プロミシング・ヤング・ウーマン」のキャリー・マリガン、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」のゾーイ・カザンパトリシア・クラークソンアンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリーサマンサ・モートン、アンジェラ・ヨー、アシュレイ・ジャッド、他。

あらすじ

ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイー(キャリー・マリガン)とジョディ・カンター(ゾーイ・カザン)は、さまざまな名作を手がけ、ハリウッドで“神”と呼ばれた大物映画プロデューサーのワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始めるが、ワインスタインがこれまで何度も記事をもみ消してきたことを知る。

被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や当時のトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。

記者たちの勇気ある追跡で、ワインスタインからの暴行を受け、強い覚悟を持って事実を語る4人の女優が現れ、そのひとりがアシュレイ・ジャッドで自らこの役を演じ、ニューヨーク・タイムズ社を上げてワインスタインと対決し劇的な結末を迎えるというもの。

セクハラ現場が映像でなく被害者女優の証言を記者が聞き取る映像で、同じような証言が続く。この証言が犯罪の深さを示すもので大切なのだが、繰り返されると退屈する。しかし、彼女たちの証言を立証するために記者がワインスタイン側と対決する姿がミステリアスでスリリングに描かれる。

弁明するワインスタインの息根を止めるように追い詰めるラストシーンは圧巻で、映画としての面白さを見せてくれます。


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感想(ねたばれあり)

ワインスタインのセクハラ。彼にはこの噂があったが、あまりにも強い権力者のために見過ごされてきたようです。セクハラ疑念に対するワインスタイン(弁護士を通じて)の反論は「女性への扱いの苦情は認識し改善しようとしている。権力を持つ年配の男たちは“合意の解釈”を変えつつある」というもので、これでは話にならないというものだった。

ワインスタインを追い詰めた主役はミーガンとジョディという女性記者だった

ミーガンはお腹に3か月の子を抱えながら、大統領選の最中にトランプのセクハラ疑惑を追及し、トランプから「お前は嘘つき女でヘドが出る」と直接電話されるほどの顔に似合わない信念のある女性。トランプが大統領になり、権力ですべてが消されたことに挫折感を持っていた。ワインスタイン事件への参加はお腹の子のレントゲン撮影中に電話で伝えられた。(笑)一方のジョディ。ふたりの幼子を持ち、しっかり母親役をこなしながら記者として調査任務に当たっていた。

愛する家族をもち、夫と共稼ぎで、好きな仕事を続ける。夫や子供に癒されながら困難にぶち当たっていく情景が映し出され、理想的な男女同権の女性の生き方を描いた作品でもあると思います。

冒頭、1992年。アイルランドで映画撮影が行われており、これを見た若い女性がアルバイトで働くことになったが、ある日街の中を泣きながら走り去る姿が映し出される。何が何だか分からない映像ですが、この映像の意味が物語の中で明かされ、ワインスタインのセクハラを暴く決定的な証拠になっていきます。

トランプ大統領誕生の5カ月後から物語が始まる

 FOXニュースの名物キャスター、ビル・オライリーニューヨークタイムズ社のセクハラ・スクープで退陣した。これにより社は次のターゲットにハリウッドを選んだ。これには女優のローズ・マッゴーワンがレイプされたとツイートし、相手はワインスタインと言われていたからだった。チーフとしてレベッカパトリシア・クラークソン)、調査記者としてミーガン、ジョディが担当することになった。

ミーガンが職場に戻るまで、ジョディが調査に当たっていた

ローズ・マッゴーワンに会ってレイプの実態を聴取、さらに女性人権家として運動しているアシュレイ・ジャッドから意見を聞いた。ローズは「話したいと思わない。性差別よ!無視されて声をあげても無駄」と言いながら日を改めて、具体的にサンダース映画祭でレイプされた状況を話し「内密にして」という。アシュレイは「90年代にプロデューサーからレイプされた。業界システムや供給の仕組みを調べて!」と言い「被害者を貶め、金で黙らせる!内緒にしておいて」というものだった。

権力をもつ男性による不正行為を訴えた女性は、不名誉なレッテルを貼られ、被害者であるにも関わらず大変な苦労を強いられ、心身に大きな被害を受け、口を閉ざしてしまう

ジョディはミーガンに助言を仰いだ。ミーガンは「皆怯えている!あなたは起きたことは変えられないが力を合わせればあなたの体験は他の人を救う」とコメントした。このコメントはジョディが動く力になっていったが、#MeeToo運動の原点でもある。

ミーガンが職場復帰。“ジョディが優しそうに見える“ということで主として被害者の聞き取りに回った。(笑)ミーガンは警察や弁護士、業界の聞き取りを担当することにした。ふたりの行動をダブらせて描写するので分かりずらい!

会える人もいれば会えない人もいる。会えてもオンレコの証言を断られる

ジョディはベネチア映画祭でセクハラされたという重要な被害者ロヴィーナ・チュ(アンジェラ・ヨー)に会えずがっかりしているところに、ロンドンにセルダ・パーキンス(サマンサ・モートンがいるというので急遽会いに行く。

セルダは「21歳のときにホテルでレイプされ、3年後ヴェネツィア映画祭に参加。ここで女優のレイプあった。会社を辞めたが弁護士から示談の勧めがあり、警察に訴えても受理されなかった。示談に応じたがこちらから特別な条件を付けたが、ワインスタインはそのコピーを渡さない。警察や医者に言わないという条件で金を渡された。問題はワインスタイン以上に性加害者を守る法システムがある」と怒りを露わにしていた。

コーンウオールに住むローラ・マッデン(ジェニファー・イーリー)に会いに行った。彼女こそが冒頭の1992年アイルランドのロケ地でセクハラにあった人物だった。ローラは「1992年アイルランドでエキストラのまとめ役のアルバイト。後に雑用係となり21歳のときワインスタインにレイプされ逃げた。このことで生き方が大きく変わったと言い、癌を患っていた。

ミーガンは元ワイスタインの秘書や最高財務主任・ジョン・シュミット、裁判・警察関係者を尋ねセクハラ情報を収集した。セクハラは示談で解決され示談書に情報保全契約が付けられていることが分かった弁護士の手数料が示談額の40%という世界では裁判にはならない!

インタヴューをしてもオンレコは断られ、示談の公表は賛成があっても秘密保持契約で公に出来ない。これまでの調査でセクハラの現場を描くことは出来るが証拠がない

レベッカは「示談数とその金額」に焦点をあて調査を命じた

ミーガンはワインスタインの弁護士・ラニーに会って8~12件あることを掴んだ。ジョディはワインスタインに反感を持つ経理担当者・アービンから「莫大な金が支払われている。LOCのことか?」と聞き取った。

ロヴィーナ・チュが社を訪ねてきて告白した。オフレコだった。「ベネチアでレイプされ、セルダに話すと彼女が激怒し、ふたりで会社を辞めた。ワインスタインの弁護士に誘われ、香港で働くことにした。孤独で死を考えた」という。

LOCから「2015年当社トップからレイプされた。声を上げるのが怖いが、沈黙はあまりにも苦しい」と文書が届いた。LOCはローレン・オマナーの略で、彼女から文書公開許可を取り付けた。

編集長のディーン・バケットアンドレ・ブラウアー)はワインスタインのセクハラを記事にするよう命じた

ワインスタインが反発してくるがディーンは「反論文を寄こせ!掲載する」とはねつけた。ワインスタインはSNSで女優たちをなじる。が、これが逆効果で、ワインスタインへの非難が強くなっていった。

そのなかでアシュレイ、ローラ、セルダ、アンブラ、ローレン・オコナーからオンレコにしてよいと申し出てきた。レベッカがワインスタインの言い分も入れて文書化し、全員で記事を読み返し、電子版で発行した。

まとめ

ワインスタインの弁明、「過去の行いが苦痛を与えたことに心からお詫びする」という情けないものだった!が、後にこれを撤回している。この種事件がこれでは終わることはない!

女性記者の活躍でワインスタインの罪が暴かれるという、女性でなければ出来ない忍耐のいる仕事だった。しかし、最期の詰め、ワインスタインとの対決では編集長・ディーンのワインスタインを圧倒する強い力が必要だったアンドレ・ブラウアーはこの役にぴったりだった。

トランプとやり合う豪気の持ち主、それでいて赤ちゃんを抱っこしてスマホで情報収集、困ったときには夫の支援を受けながら、調査活動と続けるミーガン。これなら忍耐のいる仕事に堪えられる。キャリー・マリガンが魅力的にこの役を演じてくれました。

そして、ミーガンを追っかけるジョディ。愛嬌があって、人の話を余計なことを言わずしっかり聞く。落ち込むと子供と会話して癒され、強くなっていく。ゾーイ・カザンがうまく演じていました。

的確な指示を下すチーフのレベッカパトリシア・クラークソンの銀髪がよく似合ってよかった!

日本の女性の人権・セクハラ意識はまだまだ遅れている。本作、会話主体の演出にうんざりするところもありますが、世紀のスクープ作品。観ておくべき作品ではないでしょうか。

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