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「生きる LIVING」(2023)美しく気品がある、こういう人生を生きたい!

 

ノーベル賞作家ズオ・イシグロ脚本による黒澤明監督の名作「生きる」のリメイク作品。どう黒澤作品を料理したかと観ることにしました(WOWOW)。

黒澤作品をより噛み砕いて自分の人生を生きる意味を問う作品になっていて、黒澤作品が時代や国に関わらず受け入れられる優れた作品であるかが分かる。

監督:オリバー・ハーマナス、原作:黒澤明 橋本忍 小国英雄撮影:ジェイミー・D・ラムジー編集:クリス・ワイアット、音楽:エミリー・レビネイズ=ファルーシュ。

出演者:ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ、トム・バーク、他。


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あらすじ:

1953年、第2次世界大戦後のロンドン。市役所の新入職員ピーター・ウエイクリング(アレックス・シャープ)が帽子を被ってスーツできめた英国紳士スタイルで列車ホームに立ち通勤列車を待つシーンから物語が始まる。役所の序列に沿ったように席にすわり、途中駅で市民課の課長・ウイリアムズ(ビル・ナイ)が元気のない表情で乗り込んで、いつもの席に座る。

黒澤作品では、主人公の胃がんのレントゲン写真から始まるが、ここでは紳士姿で列車通勤するシーンからはじまる。毎日決まったような生活の中で、いつしが自分を失ってしまう。

紳士のスタイルだが、中身は紳士でないことを暗示しているようだ。

 列車の走る風景が美しく、端正な紳士たちの姿に、同時代でありながら黒澤作品では感じられない恰好いい作品になっている。(笑)

市民課の部屋。ピーターは女性職員のマーガレット・ハリス(エイミー・ルー・ウッド)に「一番高い書類の山を引き継いでよかったね、仕事が忙しい振りができる」と声を掛けられた。(笑)

そこに3人のご婦人たちが「公園課、下水課・・と盥回しにされた」と公園設置の陳情書を持って訪ねてきた。ウイリアムズ課長は、ミドルトン次長(エイドリアン・ローリンズ)に担当を命じ、新人のピーターを補助につけて各課を再度周り交渉させた。いつの間にかこの仕事はピーターの仕事になっていて(笑)、どこの課からも断られ、市民課に持ち帰り課長に報告。課長は預かることにして、ご婦人たちに帰ってもらった。

本作では黒澤作品ほどに役所の仕事ぶりを批判しない。(笑)

 イリアムズは早退して病院に。そこで検診結果を聞いた。胃がんだった。

イリアムズは帰宅し、ひとり悩み、息子夫婦が帰宅するのを待った。戻ってきた息子・マイケル(バーニー・フィッシュウィック)は嫁にべったりで父親の話を聞く雰囲気が全くない。

イリアムズは海辺のリゾート地にやってきて薬を飲み自殺を試みたが出来なかった。小さな食堂で出会った小説家サザーランド(トム・バーク)に「この町で楽しみたい」と金を預け案内を頼んだ。

クラブ、ギャンブルホールなど遊び場を渡り歩き、バーで「ナナカマドの木」(スコットランド民謡)をリクエスして、ピアノの合わせ子供の頃を思い出しながら歌った。

ストリップ小屋を最後に、こんなことしても心は満たされないとロンドンに戻った。

ウオータールー駅付近で帽子店を捜していて、ハリスに出会った。

 彼女は「役所を辞めてカフェ店の副支店長になるので退職願いにサインが欲しい」という。ウイリアムズは「君は役所には向いていなかったかな」と告げ、レストランに誘い話をした。

ハリスが「課長さんの綽名はゾンビだ」という

「死体だけどいろんなことが出来る、死んでいるようで生きていると言う。ウイリアムズは「ぴったりだ!」と思った。

黒澤作品では課長の綽名はミイラだったが、本作ではゾンビ。こちらの方がわかり易いと思った。

イリアムズは家に戻って息子のマイケルに癌であることを告げようと思ったが「若い娘とデートして」と言い出され、話せなかった。ハリスが働く店を尋ねた。彼女はウエイトレスだが、その内支店長になると明るく働いていた。デートに誘い映画を観て、夜の繁華街を散歩した。ゲーム機で玩具のウサギを手に入れて喜ぶ。

レストランでハリスに「君には自分がある。人生を楽しくする。つまらん職場でも楽しくする」と話すと「私は普通です。明るくしているだけ!」と言う。

イリアムは「自分がなりたかったのは、帽子にスーで列車に待つ男たち、紳士だった。しかし、生きる意欲を失いゾンビになった。日が暮れ、公園で遊ぶ子を母親が呼びに来ると嫌がる子がいる。これが普通だ。すんなり帰る子よりいい。じっとしていてもいい。私はそうなっているか?それだけは避けたい。生きるとはそういうことだ。私は仕事に復帰する」とハリスに告げた。

「生きるとは何か」、「自分の意志で生きる」と具体例を持って描き、分かりやすい。ここが黒澤作品と大きく異なる。

出勤したウイリアムは威厳を持って「ついてこい!」と部下を連れ、雨の中、公園予定地を視察し、水浸しの現場を見た。婦人たちがこれを驚きの目で迎えた。

教会でのウイリアムズの葬儀

 イリアムズを知る多くの人々が駆けつけた。市役所のトップ、ジェームズ卿(マイケル・コクラン)は「まるでウイリアムズ課長ひとりで公園を作ったように思っている」と怒って帰った。息子マイケルはハリスから父親が癌であったことを聞いて「雪の中で死なせたくなかった」と悔やんだ。

職場からの帰りの列車の中課長補佐のミドルトンをはじめとする課のメンバー4人が故ウイリアムズ課長の功績について論議していた

公園課を説得するために部屋にすわり続け職員を味方につけていったこと、何度尋ねても返事しないジェームズ卿を辛抱強く説得したこと、雨の中での現場作業を督励し続けたこと、息子さんに癌であることを明かさなかったことなどを話し合った。

ジェームズ卿、各課長も協力したが、ウイリアムズ課長がいなかったら実現しなかったという結論に達した。

ミドルトンは「市民課の長としてウイリアムズ前課長の意志を継ぐ」と誓った

機関車が蒸気を上げながら走る中でのこの決意、機関車の蒸気音に励まされているようだった。

ピーターとハリスがデートする姿を見られるようになった。市民課に新しい陳情があったが、ミドルトン課長は「陳情を預かっておけ」と仕事振りは旧態依然としていた。(笑)

ピーター「が課長・・」と言ったが聞いてもらえない。そこで亡きウイリアムズ課長が残してくれた手紙を読んだ。そこには、

「あの公園はそう遠くないうちに誰も気に留めなくなる。建て替えられるかもしれない。我々は後世のためにと作ったわけではない。もし君が働く目的を見失うことがあったら、単調な毎日に心が麻痺してしまったら、その時、あの公園を思い出して欲しい。あの場所が完成したときの小さな満足感を」と書いてあった。

イリアムズはピーターの記憶の中に生きている

 ピーターが公園を見ているとそこに警官はやってきて、「感謝している。皆に慕われていた。役所の人なら聞いて欲しい。署長は嫌がるが(笑)」。

雪の降る中、ブランコで「ナナカマドの木」の唄を歌っていた

「家に帰れと言いたかったが、幸せそうだったのでそのままにしておいた」と残念がる。ピーターは「癌だったんだ!心配しなくてよい」と慰めた。ブランコには大勢の子供が群がり楽しんでいた。

感想

紳士の国の作品。格好いい、美しい映像作品になっていた

黒澤作品とほぼ同じプロットで黒澤監督に対する敬意が十分にくみ取れる。黒澤作品のユーモアと駄洒落ともとれる部分を取り去り、「生きるとは」の説明が丁寧にされ、40分短縮され、“わかり易い!”と思った。こういう人生を生きたいと思える作品だった。

ラストでピーターが課長の手紙を読み、促がされるように公園を尋ねるとそこで課長の最期の幸せそうな姿を目にした警官に出会うという結末、雪降る中で幸せそうに、ブランコで「ナナカマドの木」の唄を歌っていたという映像、この映像がラストになるので収まりがいい

イリアムズ課長を演じたビル・ナイの冒頭の死んだような表情から生きると決めて紳士としての立ち振る舞い、雨の中部下を引き連れ視察に出て行くくだり、自然で気品はあって、見事な演技でした。

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