映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

宮崎駿監督に密着…NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(2023)“君生き”大伯父のモデルは誰れ?

 

宮崎駿はいかにして新作「君たちはどう生きるか」を作り上げたのか。創作の舞台裏で繰り広げられていた物語。書生として通うことを条件に取材を許されたディレクター(記者)が見つめた、2399日にわたる記録。

とても難解だった本作の舞台裏が明かされると観ました。

 

matusima745.hatenablog.com

 

概要:

宮﨑駿が引退撤回、絵コンテを描き始めたという。記者は「引退撤回、それでも書きたいもの、数々の栄誉を受けながら何故書き続けなければならないのか」と鈴木Pと宮崎駿に聞く。

鈴木P「終わらせない!と祟られているんだ。乙事主だ!何が楽しくて生きてるのよ!」と笑う。

宮﨑:人生なんて楽しいものはない。奥に秘めたドロドロしたものを引張り出さねばならない。狂気のなかで見たもの。それが生きるということ。俺は死に憑りつかれている。生きるとはどういうことか分かってない。なんで俺だけ生きているんだ。

宮﨑駿は何に祟られ、生きるために何が書きたいのか?これがドキュメントの目的です

2017年5月、引退撤回後の製作作品名の発表

鈴木P:へそ曲がりでカメラ嫌いで映画だけで生きている男が描いている。(笑)絵コンテが半分進んでいる。

2016年3月に引退撤回、7月に企画書を作成。2019年で完成というもの

宮﨑は少年と不気味な鳥のスケッチをしていた

宮﨑:人生のわなを描く。忘れるから描く。少年は自分。鳥のモデルは鈴木Pだ。(笑)

鈴木P:引退と嘘つくのも才能だ!(笑)

2018年1月、宮崎77歳の誕生日

鈴木Pが宮崎の年齢を考慮し「つまらんものを作らせてはならん」と気遣い庵野さんのところから本田雄を借用し宮崎につけた(刺客を送った)。

宮﨑は追い詰められ、足をバタつかせて、絵コンテを急ぐ(笑)

20184月、高畑勲の死去

宮﨑は「ぽんぽこは死んでない!」と嘆き、「俺に憑りついている」と泣いた。

鈴木p:高畑勲宮崎が唯一恐れた監督だった。このときはじめて宮崎が高畑を批判した。高畑を恐れたのは彼の理想とそれを具現化する力だ。公開が遅れてもたじろがない。妥協は一斉ない。ところが宮崎は「やめたらいい」という。「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994)はふたりの青春物語だ。庄吉は高畑でゴンタが宮崎。ゴンタはず~と泣いている。(笑)

2018年5月、高畑勲のお別れ会

宮崎は「高畑さんは全てを教えてくれた。55年前の雨上がり、バス停で声を掛けてくれたことを忘れない」と涙ながら挨拶をした。しかし、鈴木Pは「宮崎には悲しいだけでない、残酷な勝利感がある」という。

このことが映画「君たちはいかにいきるか」のラストシーンを描くことに大きな影響を及ぼしてくる。

このあと宮崎は「高畑さんは重い、死んでいると思えない」と1カ月間通夜が続き、絵コンテは全く書けなかった。

2018年6月、「大伯父は高畑さん」と決まった

宮﨑:大伯父は死んでない、主人公に立ち向かうんだ。映画が現実で現実が虚構だ。

これには驚いた!ほとんどの人は「大伯父=高畑」を外したのではないでしょうか。(笑)

そして夏休みになり山小屋で描くことになるが、全く描けない。散歩に出て高畑を捜す。雷に遭遇し「高畑さんは雷神になった。映画を作らなくてすむと言うんだ。俺は高畑さんから逃げ出したかった」という。(笑)

鈴木p:宮﨑は高畑と出会う前は別の人だった。眞人のように死の臭いのする人だった。母親が不治の病で宮崎は「トトロ」のサツキのようだった。鬱状態だった。

高畑は東映で5つ宮崎の先輩だった。宮崎には無茶な要求を出す、宮崎は高畑にくっつくために変わっていった。そして恐れた。敬愛の念が募りに募った。「アルプスの少女」では全カット設定をひとりでやらされ、ふたりの関係がきしんできた。アイデアを出しても認めてくれない。

宮崎は反発し監督になり高畑が出来なかったことを描きまくった。しかし、絵コンテが描けなくなって、助けたのが高畑だった。このことで宮崎のこれまでの作品の世界感が広がった。赤毛のアン」から一緒にやるようになったが、高畑が近藤喜文耳をすませば」(1995)に重きを置いたことに、宮崎は激しく嫉妬していった。そこに現れたのが鈴木Pだった

鈴木Pの登場で映画がポンポン売れた。宮崎が「高畑さんをプロデューサーにして、15年間の青春を返してもらってないから、仇をとる」と言ったという。(笑)

高畑は宮崎に厳しかった。風の谷のナウシカ」(1984)では、高畑は宮崎の180ページの原稿を破いて「30点!」と言った。高畑は「みんなが100点といから満足するなと30点にした」と笑う。しかし、宮崎は高畑に褒めてもらうために作り続けた。ここから宮崎作品の名作は数多く産まれている。

鈴木P:ふたりの作品には「旅立ちから始まる」共通点がある。一緒に作った。引退も撤回も高畑さんだ。宮崎はいつも高畑が目標だと言っていた。これを超えるために再び旅にでる。眞人として、ジプリの塔に、そこに高畑がいる。高畑に導かれ、弱気を脱し去って、ここから最後の旅に出る

映画「君たちはどう生きるか」の骨子は出来上がった!

 2018年10月、構想から2年経った。スタジオに活気が戻ってきた。しかし一向に大伯父があらわれない。宮崎は社員旅行に一緒した。いつもならそこに高畑がいるのだがいない。「俺は長生きした、高畑さんに頼っていた」という。

ところが家に戻ると麦焼酎があるという不思議に、ある領域に入る予兆を感じた。領域に入ると気を失うことがある。「脳みその蓋が開いて、脳みそから出てくるものを描く」と散歩に出て行く。しかし、大伯父が出てこない。

2018年11月Eパートはやり直し。大伯父は後回しに決めた。

冒頭の絵コンテを合同で観た。眞人に感情がない

鈴木P:どう生きるかを自分がその範を示さなければいけない。宮崎さんの居場所は映画の中しかない。高畑さんの世界の中にある。

宮﨑:死ぬ瞬間は怖いものではないんじゃないか?分からなくなった。あっちの世界が楽しい?そんなことはない。

2018年大晦日、宮崎が「見てはいけないものをみた。高畑さんと会う時がきた」と怯えていた。

鈴木P:物語は引っ越しから始まる。これは高畑がはじめた。高畑は「引っ越しは冒険だ」と考えていたから。これを使わしてもらうと言えばいいのにそれが言えない。つきまとう高畑の影。その支配から逃れられない

2019年1月、誕生日。宮崎は絵コンテを描くことに没頭していた。「生きることは辛い。人を呪い、それでも生きたい」と考えていた。

高畑の死から3年、絵コンテは完成した。「これ高畑さんに見えるだろう!」と雷神姿の大伯父像を見せた。

眞人が大伯父を尋ねるクライマックスシーン

大伯父は空中に巨大な岩が浮いている草原に連れ出し、「私の力は全てこの石がもたらした。後を継ぐ者を求めている。君なら出来る。積み木の石は全部で13個、3日に1個積みなさい。美しい世界を作りたまえ!」と言った。眞人は拒み「この世界に留まるより、夏子、叔母、アオサギの世界に戻ります」と答えた。

大伯父は「出来ないというが友達を見つけたか、とにかくこの石を積め!私の塔を与える」と話すと、そこにインコ大王が現れ「閣下はこの国の運命をこの者に預けるのか」と石をひとつ積み、倒した。海が割れ・・・。

高畑の王国は崩壊し、宮崎がさよならした。宮崎は高畑と完全に決別した

鈴木P:しかし、失った代償は少なくなかった。宮崎は糸が切れたようだった。画コンテが終ればアニメーターの絵を直すことだが、鉛筆が動かない。高畑の呪縛が解けたが宮崎の魔法も消えたかもしれない。宮崎は「死は解放だよ」と言った。

思いがけないことが起こった。ラッシュで観て、宮崎が「俺にないシーンがある」と言い出す。鈴木Pの「あなたは映画の中から戻っていない」という言葉で収まった。宮崎は「狂気の境界に立たないと映画は面白くない。若い時、仕事し過ぎて気がふれるのは誉だと思っていたが、なってみたら面白くも何にもない」という。(笑)

宮﨑は何度も高畑と話しをする。高畑が「面白くない、頑張れ!」と云う。(笑)

「今までと同じことをするには年を取り過ぎている。やり方を変えないと。それを身につけないとダメだ。やってくれる人だと思っているよ」の声が聞こえるという。宮崎は「大丈夫だ!高畑さん」と答えていた。

宮﨑が筆を離さなかったのは高畑が居たからだ

2022年12月、音楽、セリフ撮りが終って、宮崎は「めんどくさい!まだやらなきゃ、高畑さんと話したい」と大伯父の最後の言葉「時の扉に行け!もとに戻れ!自分の世界に戻れ!」を追加した。

このような宮崎を見て、本田雄さんは「退屈が死ぬほど嫌だから。次やらないって言ってるけど、やるんじゃないですかね?」と笑った。

番組のラストシーンは、宮崎が「この世に戻ってくるの、めんどくさいな」とつぶやきながら描いていたのは、肩に鳥を乗せた青い服の少女が、年老いた巨大生物の上に乗っている絵だった。次の作品構想なのかなと。 

まとめ

君たちはどう生きるか」の感想に、「登場人物を監督が関わってきた人物に置き換え、監督自身の物語としてみると、監督の生き様が浮かび上がり興味深いい」と書いた。まさか大伯父のモデルが高畑勲であったとは、驚きだった

宮﨑駿の人生は高畑勲に主従し、高畑を超えたが、高畑の厳しい指導の呪縛に苦しんだという人生。知らなかった

君たちはどう生きるか」は宮崎駿にとっての高畑勲の呪縛からの開放であり、再び高畑勲に寄せる愛の物語狂気の中で死と向き合いながら描いた作品だった。

高畑と出会い、高畑に憧れたが、高畑の強引さに耐えられず別れた。しかし、絵コンテが描けなくなっていた。それを助けてくれたのが高畑で、ここからの宮崎は自分の作品を褒めてもらうのが製作目標になっていた。一度は引退したが高畑の言葉「先に進んだ君の作品を観たい!」がまとわりつき、再登場となった。

引退を撤回し、「君たちはどう生きるか」を作ったのも高畑勲が原因だった

君たちはどう生きるか」は自分の記録(生き方)を書こうとし、自分を投影した眞人と旅先人のサギ(モデルは鈴木P)て絵コンテを描き始めたがなかなか進まない。そこに高畑が亡くなるという事態に遭遇し、高畑を大伯父にしてジプリの塔に会いにゆく案が浮かび上がった。しかし、高畑と宮崎のドロドロの関係をどう描くか。苦悩に苦悩を重ね“呪縛から解かれる”という結論を見出す。

作画監督本田雄さんは「まだまだ撮る」と笑う。そして最後に見せられる映像はもののけ姫?が老いた巨大生物のような物体の上に乗っている絵になっている。これが最後の作品ではなさそうだ。

             ****