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「せかいのおきく」(2023)江戸の糞尿環境、臭い臭いの中での恋物語!やられた!

久々の時代劇!背景は幕末(安政5年~文久元年)、一切斬り合いがない“糞(うんこ)”の話です。これは珍しい作品だと観ることにしました。(笑)

 

監督・脚本:阪本順治本作が30作目にして初のオリジナル作品企画・美術:原田満生、撮影:笠松則通、照明:杉本崇、録音:志満順一、編集:早野亮、音楽:安川午朗

出演者:黒木華寛一郎池松壮亮、眞木蔵人、佐藤浩市石橋蓮司、他。

物語は

江戸時代末期、厳しい現実にくじけそうになりながらも心を通わせることを諦めない若者たちの姿を、墨絵のように美しいモノクロ映像で描き出す

武家育ちである22歳のおきく(黒木華は、現在は寺子屋で子どもたちに読み書きを教えながら、父・松村源兵衛(佐藤浩市と2人で貧乏長屋に暮らしていた。ある雨の日、彼女は厠のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次(寛一郎)と下肥買いの矢亮(池松壮亮と出会う。つらい人生を懸命に生きる3人は次第に心を通わせていくが、おきくはある悲惨な事件に巻き込まれ、喉を切られて声を失ってしまう。(映画COMより)

江戸時代の長屋の人々を描いた作品今の日本人に失われつつある人情が描かれます。

華やかな江戸文化を支えるにはこんな仕事があった。大量に発生する糞尿処理。これを肥料として農業に再利用するバイオエコロジー産業、最下層とみられる汚穢屋汚穢屋で働く若者の生き様を描きながら、この若者と声を失った武家の娘の恋物語モノクロで、余計なものを一切排除した映像の中で、この物語からどんなに美しい風景、人情を感じるかが試される作品です。とにかく見たことのない映像、物語です。(笑)物語は章立ての小さなエピソードを繋いで語られます。


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あらすじ&感想(ねたばれあり:注意)

「江戸のうんこはどこに?」。溜め壺のうんこをかき回す映像から物語が始まる。かき回す音がリアル、これで匂ってきます。(笑)これ絶対にカラーでは無理です。(笑)

安政5年、江戸、晩夏、雨

寺の後ろにある公衆厠。矢亮が肥の汲み取りをしていた。雨宿りに立ち寄った紙屑拾いの中次。そこに厠を使おうとやってきた“おきく”。矢亮と中次は気を利かしてここを立ち去り、ふたりで話す。おきくは「ここは使いません」と武士の娘という気位があったはが、厠を使った。(笑)

矢亮は中次に「金にするならこの仕事!」と勧め、この仕事は嫌だと思っていた中次も矢亮の明るさに惹かれ、この仕事をすることになった。三人はこうして初めて顔を見知った。

矢亮は荷車に肥桶を積んで港に運び、船に積み替え田舎に運んで肥溜め壺に移し替え、農家からお金を貰う仕事に中次を付き合わせて仕事を教えた。肥溜め壺に移す際、もれたウンコを手ですくって壺に入れる。終戦直後の農家ではよく見られた風景で驚きはなかった。今の人はびっくりでしょう。(笑)

江戸木挽町、おきく親子が住む長屋。父源兵衛は武家屋敷を下りて今では屁をこくぐらいしかやることがない。(笑)これを不甲斐ないと責める“おきく”。おきくは父に代わり寺小屋で子供たちに読み書きを教えている、パリパリの江戸っ子。

安政5年、秋。

おきくが暮らす長屋秋の長雨で共同厠の糞壺に水が入り、あふれ出し、道路一杯に広がる!朝になると長屋の住人が厠に駆けつけ、足元が糞だらけ!(笑)「臭え!臭え!」の大合唱。大年寄りの元桶職人の孫七(石橋蓮司)と源兵衛は待ちきれず不平をいう。これを諫める“おきく”。阪神大震災時のトイレ事情を見る思いで、この辛さが伝わります。まさに汚穢屋の大切さが身に染みて分かるというもの。

矢亮と中次がやってきて糞尿を桶に収める。長屋の住人が厠に列を作る。長屋の住人はふたりに感謝しかない!おきくが「私は使わない」と意地を張る。(笑)

矢亮は「長屋は面倒くさい!」とここを中次の持ち場とし、自分は武家屋敷を回ることにした。

厠から出てきた源兵衛にひとりの武士が近づいた。

安政5年、晩冬

中次がおきくの住む長屋の厠の汲み取りにきた。源兵衛が「終るまで待て!」と言い、中次に話しかけてきた。「おきくにががっかりだ!昔はおにぎりを作ってくれたが味噌でも入れろといったとたんに作らなくなった。世界という言葉しっているか?世界に境はない。この国は井戸の中の蛙だ。女ができたら世界で一番好きだと言ってやれ!これ以上の言い回しはない!」と言って厠を出て、三人の武士に囲まれどこかに消えた。中次は肥壺の糞を梳くっていた。

“おきく“が小刀を胸に血相変えて、父を追っていた。中次はこれを見て胸騒ぎがした。

竹林の中で源兵衛は背中を斬られ、息絶えた。おきくは喉を押さえ、ジェージェーと呼吸していた。

夜間になって、中次が孫七を訪ねた。孫七から「自分は桶屋に戻る。おきくは助かる。療養所から戻ったら声を掛けてやってくれ」と頼まれた。

安政6年、晩春

おきくは療養所から戻った。長屋の女たちが心配し食べ物を準備するが出てこない。そこに寺の住職・孝順(眞木蔵人)と小坊主、3人の子が「お師匠さん!」と訪れた。おきくは長屋から出てこない。そこで孝順が「声が出なくてもおきくさんには役割がある。役割とは役を割ることで、声が出ないでも文字が書ける。文字を教えて欲しい。声は別の人が担当すればいい」と話しかけると、おきくは“すいません”という明るい顔で出てきて、この役割を引き受けた。おきくの人格が大きく変わったように見えました!

矢亮は武家屋敷の汲み取りにきていた。家人から「質が違うからもっと良い値で買い取れ!」と殴られ、蹴られる。これに「糞儲けだ!」と堪える矢亮。(笑)

この姿を通り掛かりのおきくが見ていて、ひと目を憚らず近づいて、矢亮の顔をぬぐった。矢亮は「同情するな!」と叱った。“おきく”が手を使って話しかける(当時手話はなかった)が伝わらない。矢亮がおきくの苦労が分かって「すまねえ!迷惑かけた。あんたのことを考えると俺のことは大したことでない」と謝った。弱い者には弱い者の心が読める

矢亮と中次が集めてきた糞尿を船に積む。中次が「値をつり上げられた!もうお仕舞にしよう」と悔しがる。矢亮が「あいつらの糞で飯食っているんだ!辞めたいなら辞めろ!“おきく”さんに失礼なこと言ったので侘びてくれ!」と話した。糞取にも糞取のプライドがある!「人の役に立っている」と愚直にこの仕事をするというのがいい。

おきくが長屋で「ふるさと」と文字を書いていた。そこに中次が半紙を買ってプレゼントに訪れた。中次に矢亮の言葉が響いたようです。おきくが「上がって!」と誘ったが、「また、お元気で」と帰っていった。おきくの頬が赤くなった。

安政6年、葛飾領、初夏

矢亮と中次は荷車が壊れたので、肥桶を天秤棒で担ぎ百姓の元に急いでいた。肥が飛び散る。着いたときには半減していた。「バカ者!」と肥を頭にぶち撒かれた。(笑)ふたりは笑った!中次も立派な汚穢屋になっていた

おきくは部屋で何を書こうかと書物を取り出して見つけた文字「忠義」。これを中次から貰った半紙に書くと「ちゅうじ」となった。おきくは恥かしくなり畳の上を笑いこげた。こんな愛情の表現があるのか?とこのシーン、魅入りました

安政6年、中川、晩夏

矢亮と中次が船で肥を運んでいた。中次が匂いを気にする。矢亮は「彼女でもできたか?おきくさんだな」と気付いた。

船を岸辺の野壺のあるところに止めて肥を下ろしていた。矢亮が野壺に糞をたれこれに水増しする。しっかり目方管理をする。(笑)

矢亮が「武家も花魁もおきくさんも糞をする」「俺たちは何やってもいいんだ!」と話すと、中次が「俺は真っ当に生きる!文字を習う」と言い出した。ふたりは言い合いをしながら、友情を温めていった。「俺たちがいないと江戸は成り立たない!いつか汲み取り様になってやる」と息巻いていた。

万世元年、冬

中次がおきくの住む長屋の汲み取りにやってきた。おきくは中次の仕事っぷりを見た。

おきくはおにぎりを作って中次の長屋を訪ねようと家を出たが、荷車にぶつかっておにぎりが泥だらけになった。これを拾って、中次の長屋を訪ねた。中次が帰るまで、寒い中で待っていた。戻ってきた中次に、ここにくるまでの顛末を身体で表現して、おにぎりを渡した。中次は座り込んで胸を叩き、地面を叩き、源兵衛に教わった「世界で一番好きだ!」と告白した。通じたとき、周囲は雪で真っ白になっていた。ふたりは抱き合った!

文久元年、晩春

おきくは寺子屋「せかい」の文字を教えていた。中次も姿もあった。

おきく、矢亮、中次の三人が森の中を歩いていた。おきくが走りだした。中次が「どこに行く?」と聞く。矢亮が「青春だ!」と声をあげた。彼らは自分たちの世界の中にいた。文久元年11月、和宮が江戸に到着した年だった!

まとめ

社会の底辺だが、なくてはならない糞尿の汲み取り作業。矢亮と中次が「人のために」と社会の動乱に巻き込まれず、“愚直に自分の仕事に邁進する姿”が清々しい。仕事に取り汲む姿勢は学ぶべきものがあります。

武士の娘“おきく”が声を失って、自分のなすべき役割を見つけ生きる力を持つにいたる経緯、これも感動的でした。そして身分という垣根を越えて、中次とおきくの愛。社会の底辺で生きているから分かり合える“愛“”これ以下はない、なんでもできる自由“、この時代にあって愛とは何かを教えてくれました。

役者ぞろいのキャストですから、楽しめました黒木華さんの凛々しい演技から、声を失って優しくなり、「ちゅうじ」の文字に、想いを寄せる中次を思い出して畳の上を笑いこげる可愛らしさ!すばらしい演技でした。

中次の寛一郎さん。映画の中で中次のように役者として育っていきました。この作品は彼の代表作になるでしょう。お父様によく似た声で、時代劇には欠かせない存在になると思いました。

モノカラー作品。全く気にならない!うつくしい映像でした。音響がとてもよかったと思います。

テーマとして江戸時代の循環型経済システムを描き、現代の自然環境を見直してみようという試みもよかったと思います。

とんでもない時代劇、アイデア勝負の作品、すばらしかった

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