「さがす」「岬の兄妹」の片山慎三が監督・脚本を手がけ、漫画家・つげ義春の同名短編を独創性あふれるラブストーリーとして映画化。ほぼ全編台湾でロケを敢行し、2人の男と1人の女の切なくも激しい性愛と情愛を描き出す。
片山慎三監督作品は見逃せない。タイトル、案内から監督が描くロマンティックオポルノ?そんなことないだろうと観ることにしました。
現実、回想、夢が重なったプロットをどう読み解くか、難解な作品。ウィキペディア活用して漫画家つげ義春の生き様、作家性を掴み、片山監督の作風から推測した結末。
たっぷりと性愛と情愛が描かれていましたが、狙いはそこにはない。醜い支配と搾取、人を見れば犯し殺す戦場に駆り出された兵士が慰安の女性に一目ぼれ、激しい戦闘で受けた心の傷を癒すように、激しいセックスの妄想に生を見出す物語で、戦争は人間を破壊するという反戦がテーマの作品でした。戦争の悲惨・残酷さを描いた片山慎三監督らしい骨太の性愛作品でした。
監督・脚本:片山慎三、撮影:池田直矢、編集:片岡葉寿紀、音楽:高位妃楊子。
物語は、
貧しい北町に住む売れない漫画家の義男(成田凌)は、アパート経営のほかに怪しい商売をしている大家の尾弥次(竹中直人)から、自称小説家の伊守(森田剛)とともに引っ越しの手伝いに駆り出される。そこで離婚したばかりの福子(中村映里子)と出会った義男は艶めかしい魅力をたたえた彼女にひかれるが、彼女にはすでに恋人がいる様子。伊守は自作の小説を掲載するため、裕福な南町で流行っているPR誌を真似て北町のPR誌を企画し、義男がその広告営業を手伝うことに。やがて福子と伊守が義男の家に転がり込んできて、3人の奇妙な共同生活が始まる。(映画COMより)
あらすじ&感想:
冒頭、雷が鳴る雨の中で義男がバス停留所で出会った女性を被雷しないためにと全裸にして、田圃の中に誘いだして犯す。その後、滝の水で身体をきれいにしてふたりが微笑む夢のシーン。このシーンはつげ義春の短編「「雨の中の慾情」そのものとのこと。
義男の妄想がここから始まる
〇義男と福子の出会い。
夢の中でふたりの出会いが描かれるが、どこまでが夢でどこが現実なのははっきりしない。
出会ったのが架空の台湾。当時南北に分れていた。義男は北地区に住んでいた。大家の尾弥次に頼まれ、尾弥次の知人で小説家の伊守と旦那と別れた女・福子の引っ越しを手伝ったときだった。
このとき福子は素っ裸で寝ていて、義男は強く惹かれ絵にした。義男は福子が勤めている喫茶“ランボウ”に出向きこの絵に「雨の中の欲情」と名をつけて福子に送った。伊守と福子はここで知り合ったらしい。別れた旦那というのが伊守だった。(笑)
義男は伊守から南で上手くいっている町のPR紙を北の町で作る事業に協力を求められた。しかし、北の町では全く受け入れられず事業に失敗した伊守は福子と一緒に義男のアパートに引っ越してきた。
夜、伊守と福子がベッドでことを始める。(笑)
義男は覗き見するが、その激しさに耐えられず、屋台に出掛け飲んでいた。そこで風呂帰りの女性を見つけ追うと相手も気づいたらしく逃げる。女性が車に跳ねられ田圃の中に落ちた。義男は女性の安否確認にと女性に近づき下着に触っているとライトが点滅する。義男は逃げ出した。
伊守は軍服に着替え、福子に内緒にして南の大豪邸に住む妻の元に帰っていった。
義男は福子から「昨夜、ひき逃げ事件があった。警察が警察犬で足跡を追っている」と聞かされ、義男は「まずい」と靴屋で靴を買い変えた。アパートに戻ると犬の鳴き声がする。逃げようとすると北の町衆が駆けつけ、捕らえられ、袋叩きにあった。福子も「男はどこにいる」と問い詰められた。尾弥次は鉄砲で町衆を脅し、救出してくれた。義男は福子に伊守の居場所を教えた。福子は泣いた!
尾弥次はその代償に子供の脳を刺激して注射器で取りだす脳液“つむじ風”の密輸に協力を求めた。
ここまでの話は夢ではなく、実際に台湾で行った日本の植民地統治を別の形で見せたのではないかと思った。
尾弥次は義男の運転で福子を伴って、“つむじ風“を南北の国境線を越えて南の海岸に運び、ロシア語の密輸業者と取引した。取引は大成功。その帰りに、福子を伊守に会わせることにした。
伊守は宮殿のような豪邸に住んでいた。
妻は中国人でふたりの娘がいた。娘が通訳して福子と話した。「どなたですか?」と聞かれ福子は「尻の穴まで舐める女だ」と答えた。(笑)そこに伊守が現れ、福子は簪で伊守の左腕を刺した。
その帰りの車で、尾弥次が福子の体に触る。義男が注意すると、福子が義男に接近
してきて・・・・ここからの野原で、水辺にベッドを置いての激しいセックスシーンが続き(笑)、ふたりは家庭を持ち子供がいた。福子に「料理が出来たので呼んできて!」と言われ、義男が外に出て探すが見つからない。振り向いて部屋を見ると福子がおらず、軍人がいて大声をあげた。
〇義男は野戦病院で目覚めた。
伊守上等兵の「義男、大丈夫か?」の声で目が覚めた。義男は負傷しベッドに横たわっていた。目覚めて「華僑の村で撃たれた」と悔しがった。そして「不思議な夢を見ていた!」と声を出した。服装は泥だらけだった。
う
これまでの話は夢となるが、全部が夢ではない。どこまでが夢なのかはっきりしない。
伊守は「来週、小隊に戻るようになる。お前とはここでさよならとなるかも知れない」と言い「あっちの方は?」と聞く。義男は「駄目です、触ってみてください」と男根を見せた。(笑)担当医は尾弥次で「お前が持っていた」と守り袋を渡した。義男が「福子の陰毛だ」と説明した。(笑)伊守が「あのピーヤンのか?」と聞くと、「そうだ」と答えた。義男が「福子は日本に連れて帰る」と言うと「福子はこんなことになっているのを知っているのか?」と聞く。「今度会って、なんというか?」と答えた。伊守が「会いに行ってみるか?」と聞くので、ふたりで福子のいるバーを訪ねた。
そこには日本兵が溢れていた。ゆう子という女性が出て来て「何も言わず福子は亡くなった」と簪を差し出した。
義男は野戦病院のベッドに簪を供え、福子を供養した。
義男は福子との別れとその後に起こった事件の夢を見ていた。
義男はバー“ランボウ”で福子から口移しに氷を含ませられて踊り、その後、セックスをした。「ちょっと調子が悪いだけだ」と慰められた。(笑)
野外に設けた風呂に入り、「将来、マンガ家として売れることを考えたことがあるか」と聞かれ、「どうなんだろう?」と答えた。すると福子が「月並みな仕事があったらいい、静かに家庭を作りたい」と答えたことを思い出した。
次の日、バー“ランボウ”を覗くと福子は伊守とダンスをしていた。会わずにアパートに戻った。
義男がアパートの部屋でベッドに横たわっていると福子が戻ってきて、「これは出版社のリスト!娯楽マンガなら読んでくれる」とメモを渡した。そして「これからの生活どう考えている?私は普通のこと普通にしたい」と聞く。義男は「それが出来ない人がいる」と答えると、福子は裸になって背中を見せた。背中に引っ掻き傷があった。義男は「そうか、伊守さんに会っていたのかそうか、誰でもよかったのか?」と言うと福子が義男を殴った!
義男は部屋を出た。兵隊と女たちが嬌声を挙げていた。女たちが義男を追って来た。部屋に戻ると、福子は消えていた。
義男はアパートを出て、福子を探していた。
女性に「ここの近くでひき逃げにあったでしょう」と聞くと、女性が「あっ!」と声を上げた。
そこに銃を持った日本兵隊がやってきた。兵隊たちは町の人たちを追う。捕らえて殺人、婦女を弄ぶ。遺体を焼き払う。義男が家具に隠れていた女が追っていて背後から別の女に撃たれた。義男は守り袋を握っていた。伊守が義男を救護した。
〇義男はベッドで目が覚めた。
伊守が「そろそろ行くよ!特別にこれをやる」と雑誌に1ページを渡した。そこには「満州国皇帝の御令嬢、芙美様・・・」と書かれ、「俺の恋人だ!別れというのはその人を殺してしまうことだ、さよならだ、元気でな!」と去っていった。
義男は野戦病院でマンガを描いた。
沢山書いた。そこに尾弥次が「つむじ風につきあってくれ」と訪ねてきた。
義男は尾弥次と児童園を訪れ、つむじ風を採取した。そこで福子に会った。福子が「帰ってこれたんですね、約束覚えていた」と話しかけた。義男は「覚えている。一緒に帰ろうと約束した」と返事した。福子は「私は普通の生活がいたい。温泉に行きた」と言う。義男は「温泉に行こう、家族を作って普通の生活をしよう。マンガを沢山描く」と答えた。福子は喜んで義男にすがりついた。義男は「明日、迎えにくる」と約束した。
しかし、約束した海辺を訪ねたが、福子は来なかった。夢だった!
〇義男は書いたマンガを出版社に届けるために町に出た。
警察官が町衆たちとやってきて尾弥次を「児童誘拐の疑い」で逮捕しようとした。これを見た義男は逃げた。そこに徹子さんが現れた。
徹子さんを追った。すると徹子さんは車に跳ねられ、田圃に落ちた。義男は田んぼに入り、徹子さんを抱いた。徹子さんが目を開け「義男さん」と笑った。気がつくと徹子さんは消えていた。義男は空を見上げた、左腕が動かない、左足を失っており田圃の中に倒れ込んだ。蝗は一斉に飛び立った。
〇義男は負傷し建物の中で倒れていた。
戦友が駆けつけ「義男!義男」と起こされた。泥だらけだった。義男は夢を見ていた。しっかりお守りを握っていた。戦友によって口を塞がれた。
義男と福子は激しいセックスを終えた。福子が壁の絵に「前にお客が描いてくれたもの」という。義男は「うまいな」と褒めた。すると「マンガ家になりたい人なの」と言う。「この絵を持って行くか」と聞くと「どうしようかな」と答えながらブラをつけていた。
まとめ:
戦時下の仮想台湾で結ばれた、陸軍の兵士・義男とバーのホステス福子の恋。
ラストシーンで明かされる、たった一度の出会いで義男は福子の体の魅力に憑りつかれた。義男は見たくもない戦場風景、蒙った身体障害を癒すように、福子はとっくに死んでいるにもかかわらず、妄想の中で福子と何度もセックスをする。そして生きたという希望を福子の中に探す。義男は完全に狂ってしまう。なんとも悲しい、空しい性愛と情愛の物語だった。
戦争は物を破壊するだけでなく、人間を破壊する。
現実か、夢か、回想かと目まぐるしく変化するストーリー展開。
夢をそのまま漫画化し、夢のシュールで漠然とした風景を描くために、パースをわざと狂わせた絵を意図的に描くという漫画家・つげ義春さんの小説作法をそのまま具現したような脚本、さすが「ドライブ・マイ・カー」の脚本を書いた大江崇允さんの脚本でした。とても面白かった。ラストシーンから冒頭シーンにつながるプロットはまるで映画「メメント」(2000)だった。
2人の男と1人の女の切なくも激しい性愛と情愛か?
義男と福子の関係は、春男のひとり相撲だが、性愛と情愛の関係だった。伊守と福子の関係は客と女の関係だけ。若い義男だからこそ、伊守と福子の関係が気になったということで、ふたりの関係は義男の妄想。成田凌さんの福子に憑りつかれ、どこか自分を失った妄想ぶり演技がよかった。義男はマンガ家ではなかった。ラストシーンから分るように彼の妄想。
そして福子を演じた中村映里子の熱演。特筆すべきでしょう。性愛シーンもカメラアングルを変え、荒井晴彦監督作のロマンポルノ「花腐し」(2023)の負けないリアルでエロっぽい作品でした。
食べるのにも困ったつげ義春がエロ漫画で喰い繋いで、夢を短編に描き続け、これらが纏まってひとつの作品になったと聞く。この手法を使いながら、片山監督はつけ春男さんの短編集を頭に、仮想の国・台湾を舞台に起こった日中戦争の傷の痛さを男女の性愛で描いて見せてくれました。
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