映画って人生!

宮﨑あおいさんを応援します

「蜜のあわれ」(2016)

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二階堂ふみさん主演作品、彼女にとっては異色の作品だけに楽しみにしておりましたが、今になってやっと観ることができました。
小さな劇場ですがほぼ満席。作家の室生犀星が晩年に発表した同名小説の映画化。作者自身を想起させる老作家(大杉漣さん)と少女・赤子の姿に変貌した金魚(二階堂ふみとの無邪気かつ妖艶な触れ合いを描いたものです。

男は幾つになってもスケベで止むことがない。この想いを美しい金魚によせる妄想で性への妄執を、同時に老いることの悲しみや恐れ、孤独が描かれ深みのあるエロティック・エンタテイメントになっています。物語はシンプルでファンタジー、艶っぽいセリフやダンスに笑いがあり、楽しめます。
監督は石井岳龍さんです。

二階堂さんの演技は、この作品には欠かせない、幼さから大人へ変化していく妖艶さがすばらしい。「この国の空」に続いて大きく進化しているように見受けます。大杉蓮さん、元カノ役で幽霊の真木よう子さん、芥川龍之介役の高良健吾さん、みなさん作品の雰囲気に合うすばらしい演技です。
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物語
「きんぎょ、きんぎょ」と金魚売り(永瀬正敏さん)の声、老作家・先生(大杉さん)がペンを走らせ「人を好きになるということは愉しいことでございます」と妄想の世界へ。
薄い赤のコスチュームの金魚(二階堂さん)がソファーに寝そべっていて、叔父様と品をつくる金魚、若くってピチピチしていてとてもコケティッシュで可愛い二階堂さんです。
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「つまらない!、叔父様、これからお出掛け」と丸いお尻を見せての着替え。()  先生は「昼のあかりの筋と夕方のあかりの筋で迷うから5時までには帰っておいで」と金魚に注意。金魚は「犀」と名入りの水筒もってお出掛けです。

第1章 わたしの初夜
金魚、お出掛けで猫に追っかけられ尾びれに傷を負う。帰って先生に手当をお願いする。これが艶ろっぽい、「あのねおじさま、接いでくださいな、うまく唾を塗って、ぬめぬめにしてね」。()
先生、金魚におしりを見て「7080でも性欲がある」と呟く。金魚がなんともなやましい肢体を見せながら踊り始める。影絵のようで美しい。

次の日の先生の講演。「30代で書くことがなくなって作家として滅ぶのではないかと・・(犀星に不安?)」の話を聞きに出向いた金魚は白い和装の女性(真木さん)に出会う。
彼女は「貴方は先生の身内の人、先生に可愛がってもらっている、一緒に寝ることもあるの」などと男女の関係を聞きたがる。これがまた艶ろっぽい。() 女性は15年ほど前に先生に書きものを見てもらったことがあると言い、田村ゆり子と名乗る。
先生に紹介しようとするが姿が見えず、先生にさきほどの話をすると「彼女は12年前に自宅の離れで心臓麻痺で死んでいた。左手の痣は腕時計の痕で、誰かに抜き取られたものだ」と言う。

帰りにバーに寄って、水槽の金魚が弱っているのを見つけた“金魚“は「ちょっと塩が欲しいのよ」と与える。そこに突然、ゆり子が現れこちらの様子を見ている。金魚と先生はゆり子を追っかけ路地を走る。この路地がとてもうつくしい。先生は途中でダウン、金魚が追着くと彼女は一礼して池に消える。”ゆうれい“だったんだ、ゆり子さんは先生にやさしくしてもらっていたのでは?と金魚。

家に帰って金魚はあやとりをしながら、「“あたい”を恋人にしてちょうだい。いいこと? 先生のひと月があたいにとっての一日なの。短い人生、楽しいことでいっぱいにしたいの」とせがみ、先生は「僕もとうとう、金魚と寝ることになったか」と嬉しそう。
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先生は金魚に「赤い井のなかの赤子で、赤井赤子」と名付ける。赤子は「金魚はいつも燃えてるの。身体の中まで真っ赤なの」「今夜はあたいの初夜だから、大事にしてちょうだいね」と言いふたりは床入り。夜なか、先生は口の中にうろこが入っているのを見つける。

赤子は起きだして二階に上がって化粧をしようと鏡を見ると、そこにはたくさんの女たちの顔が。このことを先生に問うと「怖かったろう。妻は19年もそこで寝ていたんだ」と言う。
先生は芥川龍之介(高良さん)が自殺する3年前に女たちを連れてやってきたときの夢を見る。「死んで彼のような人はいない、純粋に文学的な死であった。金魚とこうなったことを知ったら笑うかな」と芥川へのジェラシーに自笑する。

第2章 金魚のそら似
赤子が神社詣にでるとゆり子が尾行している。途中で金魚屋に「うまくやったな!三歳っこが、随分えらくなったな」と言われる。
ゆり子は「なんだこの子金魚か」と思っていると、赤子に「あなたゆうれいでしょう」と言われる。赤子が「私は300円の金魚」と言えば、「あなたの先祖はフナ」と笑い「わたしは嫉妬のおばけ、勝手に出てくるのよ」とゆり子。

そのとき花を買って急ぐ先生を見つけあとをつけると囲ってる愛人のところに(これは現実)。これを目にした赤子は不安に陥り、これをみたゆり子は自分の世界に赤子を誘う。ゆり子の机には「ロマンスの行方」という小説が置いてあり、これを見て赤子が驚き逆立ちする。() 
赤子が「恋人にならなければよかった。一日中男のことを考えている」と言うと、ゆり子が「私がゆうれいとして帰ってきたのは2か月前、先生に何があったのかと。私も貴方と同じ気持ち」と。

次の日先生が出かけるので「連れて行って」というが無視される。赤子は金魚屋やってきて金魚に戻してもらう。愛人は金魚をみて「尻がぷりっとしていてブリジッドバルドーだ」と赤子の入った金魚鉢を買って机に置き先生を迎える。

先生は不思議そうに眺める。二人は抱き合ってもみ合ううちに、赤子のいたずらで香水瓶が先生の頭に落ち、「何だ!最後の機会だったのに。この金魚がいると気が散る」と怒って帰ってしまう。() 金魚は赤子に戻りゆり子とふたりで唖然とする。ゆり子が「私に時計をくれた人もこうして行ってしまった」と言うと赤子が「その傷は私が治してあげる」とベロベロなめる。これがまた艶めかしい!!
こんなことから二人はお友達、レズの関係に。こんなことを犀星が考えていたことに驚きです。ふたりは踊り出す。この踊りが金魚踊り? 
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第3章 死と税金
赤子、帰ってくると先生が遅いとというので頭にきて、先生を池に突き落として先生の書き物を分投げる。言いたいことを言い合って喧嘩。二階堂さんのセリフ、べらべらとよくでてくる。() 「生まれ変わったらクジラになって先生を背にのせ沖にでて殺してやる」。
しばらくして赤子があやとりを始め、先生も相手になり、喧嘩は収まり抱き合う。

先生は病院でレントゲン検査の結果、肺の病で「仕事をしないこと、貴方は震災も戦争も乗り越えてきた。あとはおまけ」と言われる。
先生は家に帰り芥川龍之介のことを考えていると、赤子がお茶を運んで来て「子供が欲しい」と言う。「計画にない」と断ると「女衒の金魚屋に頼んで交尾してもらう」と金魚屋に行ってしまう。先生は原稿を書いていて“交尾”と書いて気になり、二階に上がってみるとそこに全裸の赤子が知らない男に抱かれている。二階堂さんの全裸の交尾シーン、とてもうつくしく撮られています。

ここで先ほど考えていた芥川と対決することに
芥川は女を連れて広間で酒を飲んでいて、酒を飲めと勧めるが(まだそちらには行けないと)断る。
「朔太郎(荻原)も死んだ。一度会ったが元気で死人とは思えない。彼が君のことを昔の君の方がいいと言っていた」と芥川。「君は僕を軽蔑していた。僕は君が死んだあとも君の高さに行かねばと書いてきた。それが光だった。感謝している」と先生。
すると芥川は「君にできるのは足掻くことだけだ」という。「足掻いてやる。やぶれかぶれは昔から」と返すと「死と税金はからは逃げられない」と芥川。生きながらえて書いて芥川龍之介と戦うとする犀星の執念が伝わってくる。

第4章 命あるところ
先生がそろそろ病院行った方がいいと言うが赤子はあ、あ、と生返事。田村のおばさんが現れてくれないかと待っていると、ゆり子がやってきて身ごもっていることにびっくりする。

赤子はゆり子に先生に会うことを勧めると「会うので口紅を貸して」と言う。「貴方、“あたい”と言わなくなったね」と赤子の変化に気付く。「だってお母さんになるんですもの」と赤子。ここでの二階堂さんはこれまでのちゃらちゃした赤子ではなく立派な大人に成長してしています。この変化がすばらしい。

先生にゆき子を紹介しようとすると「そんな女は存在しない。君は僕の原稿をどこかで読んで中村ゆり子の物語を作り上げたんだ。人間は頭の中で作り上げた女と連れ合っていることがある。特に作家は」と会うことを拒否する。
ゆり子は逃げながら「先生は私をこの世に戻してくれたんだと思っていた、会いたいと思っていたが儚い夢だった」と川舟に乗って「元気なあかちゃん産んで」と去っていく。
赤子は別れを惜しんだのち、先生に「出て行く決心」を伝える。
「勝手な真似はさせん」と先生が赤子の尻にかぶりつき「私がよくなかった」と詫びるが「私は生きる。叔父様の人形ではない。私の気持ちが分かってない」と赤子。「分からんから書いている。」と先生。「どこに生きがいがあるんですか、生きがいがあるならいます」と赤子。「儚なすぎる。君を見ていると命のあわれを感じる。どんなに書いてもあの世へは持っていけない」と先生が号泣。」
赤子が出かけると「君は僕が居ないと生きて行けない。もう長くない、一緒に生きてくれ。ボロボロなんだ、一人にしないでくれ」と追おうとする。
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赤子が出て行くと金魚屋が一匹の金魚を持って来て「ガキが転がしていたので。三歳っこではないかと気づいて池に放したが、猫に捕まって橋のところに持って来られたようだ。どうします」と先生に伺うと「懇ろに弔います」と。
「不思議なものを見ました。こちらに来る途中で燃える石が飛んでいるのを、三歳っこの魂ですね」に手を合わせる先生。手のひらに三歳っこを乗せ、慟哭。

一人になった先生、病院に行く時間になり立ち上がろうとして倒れ、赤く燃える石を見る。
あちらの世界にやってきた先生に、赤子は「ひとを好きになるということは、愉しいものでございます」と誘いふたりで踊ります!!
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文学好きの二階堂さんでなければできない作品。どこまでこの才能が生かされていくのか楽しみです。
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