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「羅生門」(1950)「デジタル完全版」

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NHKBSプレミアムで撮り貯めていた作品。このコロナ騒動で取り出しての観賞でした。随分昔に観ていますが、記憶は曖昧!

戦後5年、ユニセフからミルクの寄贈を受けて学校給食にミルクが出るようになり、朝鮮戦争が始まったのがこの年。まだまだお腹が空いて、映画など観る人はそう多くはなかったでしょう。生きることに精一杯で、きっと泥棒などの犯罪は日常茶飯事だったでしょう。この時代を取り込んだ作品だと思います。

こんな時代に公開された本作がベネチア国際映画祭でグランプリを受賞。「禁じられた遊び」(‘52)、イタリアの「鉄道員」(‘56)に並び称される作品、この受賞は凄いことですが、どのくらいの人が観たのでしょうか?

ローマの休日」が‘54 年で、あたりから映画ブームが起きたように思います。

監督は黒澤明さん。脚本は芥川龍之介の短編小説 「藪の中」と「羅生門」を原作に、橋本忍さんと黒澤さんが担当です。撮影は宮川一夫さん、音楽は早坂文雄さんです。

平安時代の乱世で、ある変死事件の目撃者や関係者がそれぞれ食い違った証言をする姿をそれぞれの視点から描き、人間のエゴイズムを追及した作品だという。

出演者は三船敏郎京マチ子森雅之志村喬千秋実・上田吉二郎・本間文子加東大介さんです。


羅生門 予告篇

あらすじ:
雨が降りしきる羅生門。雨宿りの杣売り(志村喬)と旅法師 (千秋実)、「分からぬ!」「分からぬ!」とつぶやいている。そこに駆け込んできた下人(上田吉二郎)が「何をぶつぶつ?」と問う。変死体を発見し検非違使届け、その後関係者の取り調べを聞き、実は事件の一部始終を目撃していたが、あまりにも見たものと違い「彼らは嘘をついている」という。

調べを受けたのは、犯人と思われる盗賊の多襄丸、亡くなった侍・金沢武弘(森雅之)の妻・真砂(京マチ子)、巫女(本間文子)で、その証言は自分が現場で見たものとは違うと言い、「太刀と小刀を見たか」と問われ、「見なかった」と証言したという。

旅法師はこれらの証言を聞いて見栄のための虚偽で情けないと世を儚む。

そのとき、綿布に巻かれ置き去りにされた赤子の鳴き声を聞き上げ下人が拾い上げてその綿布を剥ぎ去って逃げようとする。杣売りがそれを責めると「小刀を盗ったのはお前だろう!お前に非難する資格はない」と侮り大雨の中に消えていった。

法師が赤子を抱き上げていると杣売りが赤子に手を出す。法師は瞬間それを制するが、杣売りの「自分には7人の子がいるから一緒に育てたい」というのを聞いて、「失礼をした」と謝り赤子を杣売りに託します。杣売りが赤子を抱え雨の中に出て行くと、その時、大雨が次第に止んでいく・・。

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色々な解釈のある作品。難しいことは分かりませんが、世の中が乱れ人が信じられない。そんな中で、人を信じる力・優しさや慈悲の心を説いたところに意味があるように思います。

会話は現代語、巫女の踊りは西洋舞踊のようで、音楽はボレロ調。赤ちゃんの衣類はどう見ても平安時代のものには見えない。(笑) 昭和50年当時の国民へのメッセージだったのだろうと思います。

冒頭の羅生門と大雨。作品のテーマを表すにふさわしい描写で、羅生門は今風に解釈すると日本と解釈してもいいのではないでしょうか。

今日、全編ワンカットに見せる驚異の編集、長回し撮影などと話題になりますが、杣売りが薪を取りに山に分け行って歩くシーン、文章なら一行ですが、数分にわたりほぼワンカットで飽きることなく観れるというのが凄い。殺陣シーンもほぼワンカットでリアル感があり、巫女の踊りに至っては幻想的な世界に引き込まれます。うまい撮り方だと感じます。

そして三船さんと京マチ子さんが自分の都合のいい証言と杣売りの証言に合わせて演じてくれます。これは楽しい!

88分という尺のなかで、ズバッと人としてあるべき本質を説くという、いつの時代にも求められる骨太な作品でした。
沢山の風評が起こっているコロナ風邪騒動のなかで観て、とても考えさせられる作品でした。
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