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「海辺の生と死」(2017)

イメージ 2島尾敏雄さんの小説「島の果て」と敏雄さんの妻・島尾ミホさんの小説「海辺の生と死」の2つの作品をベースにした映画。監督越川道夫さん、主演満島ひかりさん、永山 絢斗さんです。原作未読で、満島さん目当てに観ることにしました。
2次世界大戦の末期、奄美群島内にある加計呂間島を舞台に、女性教師のトエ(満島さん)と、海軍特攻艇隊長・朔(永山さん)が死を前提に恋に没入していく物語です。
死という恐怖があるから、今という時に燃焼し尽くそうとするトエの激しい生き様に感動します。原作を読まず観ましたが、私小説ですから、180名ほどの兵士と艇40艇を装備する部隊長朔中尉(27才)の苦悩やトエの生い立ち、学歴などを知っていると作品を深く味わえると思います。

満島さんは、作品ごとに進化しており、この作品では特に「夏の終わり」(2013)の影響を強く受けるなどこれまでの演技の集大成で、島唄を歌いフルヌードも見せる情念の女の演技は“女優としての覚悟”を決めたように思います。イメージ 1

作品は、沖縄が陥落し、広島に原爆が投下され、ついに朔が出撃する日がやってきて、死装束に短刀を胸に抱き朔を追って家を飛び出すシーンが圧巻で、これにいたるふたりの恋愛感情が、加計呂間島の野生と景観や島唄で描き出され、よく伝わります。戦況が厳しくなるにつれて二人の感情が変化してくるところも見どころでしょう。
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物語は、海軍特攻艇部隊が島にやってきて、子供たちの通学路を通行禁止にするところから始まります。通学路でトエが初めて見る白い海軍将校服の朔中尉は美しかったです。子供たちは、「この道路が使えないと学校に来れない」とトエに訴えますが、朔中尉は、この道路を自ら歩いて安全性を確かめ、子供たちと仲良くなり元気づけるといういわゆる海軍将校では気付かないほどの愛情深い人です。
朔は本を借りたいと部下大坪兵曹(井之脇海さん)をトエの養父(津嘉山正種さん)のところに寄こしますが、養父は本の選定をトエに任せます。トエは「古事記」を選び、薔薇の花を添えて渡します。古事記には“防人の歌”は沢山ありますから、トエは朔の心を慰めようとしたのでしょう。
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本のお礼に朔がトエの家を訪ね、養父とお酒を飲みながら語り合います。トエは席外で話を聞いています。朔は「自分は弱虫だ。九大で学び同人誌を出すという文学生だった。ろくな訓練も受けずに特攻の隊長に選ばれた」と語ります。養父は「京都で新島先生に学んだ。島に帰っては失敗ばかり。いまは何もしていない。しかし、懸命に働く人の心に喜びを感じる」と話します。この養父のことばは、朔の軍務に対する気持ちに少なからず影響を与えます。

これを機会に、朔中尉の部隊のためにトエの家で演芸会が開かれます。部下は軍歌「同期の桜」を唄うなかで朔はケコちゃん(泰瀬生良ちゃん)が歌う「八月おどりのうた」を覚えたいとトエに伝えます。「恋人が忍んで来た夜は、少しだけ雲に隠れていて欲しいのです。つづみを打てば、一里も先まで、その音が届いていきます・・・」というもの。トエは微笑みを漏らします。
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数日後、朔はトエに「今夜九時ごろ塩焼小屋にきてください」と文を届けます。その晩、トエは覚悟して、人に見られないように岩をつたい海の中に身を浸しながら塩焼小屋に着きますが朔の姿がない。ハンカチを取り出し松の枝に結んで帰り、次の日やってくると朔に会います。その喜び・・、その後、ふたりは小屋で逢瀬を重ねます。ついにトエが熱をだしてしまいます。

やがて、この島にも空襲警報がでるようになり、トエは養父にお願いして避難せず自宅に残ることにします。夜は寂しく、朔を偲んで朝名節を唄って過ごします。この歌を満島さんが聞かせてくれます。「他の島の人と縁 結んではいけないよ。他の島の人と縁、結んでしまえば 落とすはずのない涙 落とすことになるよ・・」。
するとここに朔が「小屋で会えないのでここにいると思って」とやってきます。朔も会わずにはいられない想いを伝えます。
イメージ 6ふたりは夕食事を楽しみながら、トエが「10才離れた婚約者がいたが戦死。出征するとき、いい人ができたら一緒になってもいい」と言われた話しをします。この話に朔はトエの手を取り、「八月のおどり」が聞きたいと所望します。「隊長様と一緒に内地の秋祭りを見たい」というと「八月まで生きておれば・・」という朔の言葉に、トエは耐えられず朔の胸にすがります。
翌朝、朔が部隊に帰るのを見送って、うれしそうに小躍りします。ここでは、ベッドシーンがあるはずで、これがないとしっかりした情感が伝わりません。
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朔は、雨のために特攻艇に雨水が入りエンジンの故障が出始める。攻撃が遅れることでのストレスが溜り小隊長と衝突し、「逢瀬を繰り返している」と嘲笑される。一方、トエは学校で子供たちと楽しそうにとても元気に振る舞います。
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戦況が悪化するなかで、訪ねてくる朔は「ボクは間もなく死ぬだろう。僕の任務は君たちを守ることではない」「特攻で出撃する自分にはあなたはふさわしくない」と言い始めますが、トエの耳には入らない。むしろ逆に朔への想いを強くしていきます。こんなときトエはよく千鳥浜「千鳥浜 千鳥よ、何故お前は 泣くの、愛しい人の 面影が、浮かび立ち 泣くの、・・」を歌います。
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広島に原爆が落ちた直後の暑い日、ついにその日がやって来ます。トエの家に大坪が「隊長が行かれます」と伝えにやってきます。トエは「私が参ります」と言い「ついていけないでしょうか。お目にかからせてください。決してとりみだしたりなどいたしません」と書いた文を持たせます。
トエは庭に行き、着ていたものを脱ぎ、水瓶から何度も水を被り、身を清め、覚悟が決まったと微笑みます。部屋に戻って母の遺品の喪服を取り出し、口紅をさし、短刀を胸に無我夢中でいつもの塩焼小屋に向かいます。このときラジオでは「いよいよ最期の時が来ました。家族そろって集まってください」と自決のための集合指示が流れます。集団自決についてトエはいつどの程度知っていたのか分からないので描いて欲しいところです。
朔は特攻服に着替え艇に自決用手りゅう弾が積まれたことを確認しているところに大坪が「トエ先生が塩焼小屋で待っている」と伝えます。このことに朔は腹を立てます。彼はすでに死ぬ準備が終わっていたのです。

朔に会ったトエは泣き崩れます。朔は「演習をしているんだ。帰りなさい」と説得します。「私は戦争が嫌!」と叫び朔の言葉を聞き入れません。「朝までいろ」という朔の言葉に「朝までいます。みとどけます」とトエは朔にすがり離れようとしません。朔の去ったあと、トエが泣き崩れ砂浜で夜を過ごします。(トエは朔を見送り、短刀で首を突き、海に身を投げるつもりでした)

朝、鳥が鳴いています。トエは目覚め、「戻れ、戻れ」と自宅に駆け戻ります。そのとき子供たちの声を聴き、皆が死んでいないことを知ります。生まれたばかりの赤子を抱かせてもらい生を実感します。
いつものように養父と朝ごはん。トエの新しい生活が始まります。朔は終戦勅語を聞き、海辺で特攻服を脱ぎます。
縫物をしているトエのもとに朔から「元気です!」とだけ書かれた手紙が届きます。この後については小説「死の棘」(島尾敏雄)に繋がります。
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