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「あゝ、荒野 前編」(2017)

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菅田将暉さんが「あさイチ プレミアムトーク」に出演中、この作品は僕の「共喰い」「そこのみにて光輝く」に次ぐ菅田三部作と言われていると紹介したのが観るきっかけ。感想は、あっという間に2時間37分が過ぎてしまうという面白さ、そして菅田さんの野獣のように猛々しい演技に圧倒されました。
同類のボクシング映画「100円の恋」(2014)に比較して、圧倒的にこちらが面白い。今年の邦画のなかで、トップクラスの作品ではないでしょうか。
 
原作が寺山修司さんの同名小説、前後編2部としての映画化、R15指定作品です。監督は「二重生活」の岸善幸さん、監督2作目の作品です。小説は未読ですが、寺山さんのものであればきっと面白いと思っていました。二作目にしてこの作品、岸監督が凄すぎます。(#^.^#)
原作は1960年代後半の新宿を舞台に、少年院あがりの新宿新次と、きつ音と赤面対人恐怖症に悩むバリカン健二がボクシングで出会い、そこでの友情を描いたものですが、本作では年代を東京オリンピック後の2021年に変更して描かれます。新次役を菅田将暉さん、健二役をヤン・インチュンさんが演じます。
 
荒野とは新宿。ここでは、家出、介護問題と自殺者の増加、震災難民やテロ活動など、自衛隊の問題を絡め、原作の当時よりも時を進めた起こりうるかもしれない荒野のような新宿。ここで、どう生きていくかと己のアイデンティティを探すという、ボクシングで人間を、人生を語る物語です。
 
ボクサーとしての成長を核に、これに関わる人々や社会のエピソードが、原作の小説作法のように張りまくられ、単なるボクシング映画ではない、テーマ性のある作品です。
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作品には、暴力やSEXとエロ・グロシーンも結構でてきますが、いずれも新宿を描くには必要なもので、物語の情感を高めるよう節度をもって描かれていて違和感はない。
 
前編はふたりがこの町に辿り着き、ボクシングを始める動機そして孤独なふたりが友情を交わし切磋琢磨してプロ選手としてレビューするまでが描かれます。
ここに辿り着く事情が、とてもリアリテイがあり涙がでます。そしてボクシングを始め、ふたりが兄弟のよう触れ合っていくさまに感動します。
 
ボクシングの試合は、試合ストーリーによって描かれますが、とてもリアルで迫力があります。菅田さんとインチュンさんが、半年間のトレーニングと体つくりをしたと言われ、みごとなプロ選手になっています。「一ばん多く憎んだものにチャンピオンという称号が与えられる」と、憎んで憎んで殴り合う試合は怖くなります!後編の対裕二戦、バリカン健二戦(予告編にあり)、どうなるかと目が離せません!

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物語は、新次が3年間の少年院の生活を終えて新宿に戻り、元の仲間に会うシーンから始まる。
彼は幼少のころ元自衛官の父の自殺で、母京子(木村多江)にネグレクトされ教会の施設で育ち、ここでいじめに会い、暴力的ですぐ切れる男になった。
 
新宿に出て、オレオレ詐欺で年寄りから金を巻き上げて暮らすようになるが、仲間割れでおさな友達劉輝は障害者にされ、自分は少年院送りとなる。相手は裕二(山田裕貴)。
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彼が少年院を出て新宿に戻るが、昔の組織はなく、居場所がない。裕二に復讐と訪ねると彼はプロボクサーになっていて、逆に殴り倒される。このくやしさに、裕二を殺してやると、元ボクサーの堀口(ユースケ・サンタマリア)が運営する海洋(オーシャン)拳闘クラブを訪れる。そこで健二に出会う。
 
健二は、朝鮮人の母と日本人の父健夫(モロ師岡)と韓国で暮らしていたが母の死で父とともに新宿にやってきて理髪店で働いている。父は元陸上自衛官2等陸尉。父親はかってアフリカ勤務時の部下2人が死亡したことを苦に、仕事を辞め酒浸りで、健二に暴力を振う。それが原因で吃音になり、赤面対人恐怖症で友達を持たない。父から逃れたい、強くなりたいと海洋(オーシャン)拳闘クラブを訪ねていた。
バリカンで丁寧に仕事をこなすが、吃音でおどおどして人見知りするインチュンさんの演技が涙を誘います。
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新次が町で買った女が芳子(木下あかり)。芳子は東北出身。東北大震災で父を失い足イメージ 1
に障害をもつ母がいる。生活のため母が仮設住宅で男を引き入れるのを見て嫌になり新宿に家出。ラーメン店で働きながら、男をホテルに誘い金を盗むという荒業をやっている。
新次は何度も芳子に挑み、疲れて寝ている間に金をもって逃げられる。()野獣のように襲い掛かる新次、これを受け入れる房子。演じる木下あかりさんは、舞台女優で長編映画作品出演はこれが初めてとのこと。ベッドシーンを含めて、とても気風のいい演技を見せてくれ、これを契機にスクリーンへの出演が増えるでしょう。
 
ふたりを預かることになった堀口。辞めて18年の元ボクサーで片目、弟子はこのふたり。彼はホストをしてトレーナーを雇う金を稼いでいる。
このクラブのオーナーは老人ケア・ハウスの社長宮本(高橋和也)その秘書(愛人)が新次の母親京子(木村多江)。この人間関係がこの物語の面白さです!

堀口は新次をいきなりリングにあげて殴り合い、片目で叩きのめす。これでプロの力を見せつけ、みずからが伴走して走らせ、縄跳びで基礎体力を養い、ボクシングの基礎や栄養管理を教え、プロテストを受けさせる。
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ふたりが自発的に練習し始め、栄養管理ができるようになるのを見て、この師弟関係がとても羨ましく見える。
黒メガネをつけドスの利いた顔のユースケ・サンタマリアさんの、顔とは違った、とても暖かい愛情演技がいい。

ここでの新次と健二。
新次は健二のやさしさに兄貴と慕い、健二は新次の明るさや強さに憧れるようになり、ふたりは兄弟のように仲良く練習をする。飯も寝るのも一緒、ふたりだから練習できるという感じ。健二は赤面対人恐怖症で相手の目を見ない癖がある。夜中、これで悩む健二を起こし、「相手が攻撃するときに隙ができている、反撃のチャンス」と隙を作って、口から血を吐きながら練習台になって、目を開けて攻めろ!」と、健二に攻めさせる。

新次が「借りがなくても借りがある。絵描きでなくても絵を描く(健二のこと)。チンポが長いのに女がいない」と歌って、「お前歌え」と健二に促すと「あなたに会いたくて、会いたくて、眠れない夜は、あなたの温もりを・・」と歌えないはずの健二が歌いだす。ふたりの仲に、涙がでます。
新次は宮本の経営するケア・ハウスで老人介護のアルバイトをする。(この時点では宮本と母親のことを知らない)食べ物を投げ出す老人、風呂に入れる老女にも、何一つ文句を言わず仕事を成し遂げる。我慢、忍耐力がついてきている。
 
プロテストに合格すると、試合戦術を教えるために、トレーナーとして馬場(でんでんさん)を招聘する。
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おそらくジャイアント馬場がモチーフで、ばしばし鍛えるところが気持ちがいい。この環境のなかで、ふたりは初めてのプロ戦を迎えることになる。新次と健二のリンク名が、新宿新次、バリカン健二と決まる。
芳子と再会するが、もはや以前の新次ではない。芳子に「デートしてくれ!自分を安売りするな!」と優しい言葉を投げかける。
 
新次たちと同じように新宿で暮らす大学生川崎敬三(前原滉さん)と七尾マコト(荻原利久さん)は「自殺者だらけのこの国を救う」と自殺抑止研究会を立ち上げ活動中。
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新宿西駅まえでアンケートを取り、自殺したい人を収容して「死ぬ悩みがどこにあるのか」を調査をしている。その中に、健二の父健夫、東部電力で原発事故対応にあたっていた福島(山中崇さん)がいる。
 
プロ初対戦
バリカン健二は韓国人と対戦。相手の顔が見れない。最初、彼のもつ強烈なパンチで相手を窮地に追い込むが、これに突込めず、ノックアウトされる。ドクターの検診で「ふりをしているだけ!」と判定される。()

新次は、リングに上がる際、スタンドにいる宮本と母京子を見つける。母に対する激しい憎しみを吐き出すように、1ラウンド12秒で相手をノックダウン。物も言わず試合場を後にする。

自殺研究会が「西北大学自殺防止フェスティバル」をネット配信で開催する。大規模な野外ステージでのショーを楽しんだあと、4名の自殺希望者を壇上にあげ、首に綱を掛け本人の最後の意思を確認して、首を吊るというもの。
だれも自殺を希望せず、健夫の自殺理由にはブーイングが起きる。たまりかねた責任者敬三が「自殺は人間が一番あとにかかる病気なんだ。見せてやる!美しい死を」とドローンを利用して空中からノドを撃たせ、血が飛び散るという壮烈な自殺テロを見せる。ネット配信で1万人が観たという。
 
新次のプロ2回戦
対戦相手は裕二のジムに所属する相手。新次は猛烈な闘志を見せる。当初、相手がサウスポーで調子がつかめず苦戦する。
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新次もサウスポーに変え、相手を挑発する。相手に差し込まれ猛烈なパンチを喰う。これに新次は萌え、殺してやると襲い掛かる。ゴングが鳴るが、止めない。レフリーやセコンドが入りややっと止む。スタンドにいる裕二に向かい「おい、裕二。やったぞ!さあ、お前を殺してやる」と雄叫びを上げる。
 
後編では、予告編によると、対裕二戦、兄弟のように睦まじかった2人が袂を分かち、対決する様子が描かれています。なぜ離れなくてはならなかったのか。対決する必要性があったのか。どのような結末を迎えるのかを見届けなければなりません。
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