「ハブと拳骨」(2006)が「小さな沖縄映画祭」として都下喜多見で上映されると聞いて、今の時期に合っている作品だと思います。
ベトナム戦争で活気づく、沖縄の歓楽街コザ。銀(虎牙光揮)と良(尚玄)は血の繋がらない兄弟。良の母・カミィ(石田えり)が、戦争孤児になった銀と妹の杏を引き取り、良と分け隔てなく育ててきた。やがて、銀と良は米軍基地に忍び込んで盗んだ物資を横流しして小遣い稼ぎするようになる。一方、カミィと杏は2人でソーキソバ屋を営んでいた。そんなある日、カミィが米軍のトラックに轢かれ重傷を負ってしまう。そして、良と銀は治療費を工面しようとして本土のヤクザとトラブルを起こしてしまうというもの。<allcinemaより>
ベトナム戦争当時の返還前の沖縄を舞台に、トラブルに巻き込まれた一つの家族の運命を描くドラマですが、改めて当時の沖縄の世相を見る思いがします。米軍の沖縄人の人権を無視した行為、米軍基地を生活の糧にしなければ生きて行けなかった世相が描かれ、仕事がない実態ややくざによる暴力など暗い世相が読み取れます。しかし、低予算で作られた作品だけに、特に米軍の描き方が不十分でリアルさに欠け、惜しまれる作品です。
こんな世相の中で、戦争孤児を引き取った母親とその子たちの絆は、沖縄戦のあとに生まれたものだけに、熱く、美しい。が、結末はさびしい。戦争さえなかったらと思わざるをえません!
良は、米兵士と仲良くなり、彼の手引きで米軍キャンプから糧食を持ち出し闇ルートでさばき稼いでいる。一方兄の銀は地元の親分に世話になり米軍相手のクラブの用心棒を
していて、女性に乱暴を働く米兵を執拗に殴りつける。自分たちで立ち向かうほかに手段がない、さらに米兵への嫌悪感があるようだ。
ふたりは小さいときから行動は一緒で、教会からマリア像を盗み出したことで母から叱られるという仲のよいまるで血の繋がったような兄弟として育った。成人になっても、仕事の少ない沖縄では、特に母子家庭では、このような仕事にしか就けなかったのでし
ょう。
銀は、刑務所を出所したばかりで、母に合わせる顔がないと会うのを避けるが、良と杏が仲立ちしカミイがこれを受け入れるという、とてもお互いを庇い会う親子です。肝っ玉の大きな母親役は、石田えりさんにぴったりです!
ここでの宮崎あおいさんは血の繋がりのない家族のなかで皆を結びつけるという重要な役。この妹のためと思わせるほどに明るく可愛い、本当に魅力的です。この年頃、すんなりと美しき伸びた姿がスクリーに映え、素晴らしいです。一見の価値ありです!(#^.^#)
ある日、母が食材買い出し途中で米軍車両にひき逃げされ、足に大傷を追う。警察は事件に触ることができない、我慢するしかないという。泣き寝入りです。賠償金も入らない。
治療費を稼ぎたいと良は、仲良くしている米兵に拳銃を持ち出すことを掛け合うが断られる。
本土のヤクザが沖縄に乗り込み、沖縄人を使って米軍から拳銃を手に入れ稼いでいた。当時、ベトナム戦のさ中、ピストルが外部に持ち出されても米軍は問題にしなかったでしょう。ずさんな米軍の管理です。
そこで、良はこの拳銃を手に入れようとヤクザの倉庫から盗み出すが見つかり、激しいリンチに遭う。銀は1週間内に2000ドルを払う約束で良をヤクザから救い出し、この金をかっての親分や仲間らから集める。
しかし、銀は集めた金をヤクザに収めるのを止めて、この金で沖縄の人との別れの宴を設け、母・良・杏をヤマトに逃がしそこでソーキソバ店を開業させることにする。
そして、ヤクザに自らの身体を差し出し償おうとする。銀は厳しいチンチに会うが、沖縄のヤクザとして決して武器を使わず耐え、意地を通す。自分を拾ってくれた母カミィ
を思い出しながら・・・・。一家3人は、銀が望んだように、ヤマトでソーキそば屋を営むという結末。
米軍に支配され、本土のヤクサに痛めつけられ、どこにもはけ口のない弱い立場のなかで沖縄の人たちの悲しさと意地が伝わります。海辺で歌い踊り、苦しみに耐え、家族が助け合い生きて行こうところに感動します。後世に残しておきたい一本です!
****